衛星『だいち』が捉えた地表(東北地方)、何を語る?
文:福嶋真砂代
2018年2月17日、せんがわ劇場にて「めぐりあいJAXA 2018 -かぐやとだいちとわたしたち」の観望会(調布映画祭)」が行われ、会場は宇宙ファンと地元のみなさんで満員になりました。昨年に続いて2回目となります。今回は、第1部「『かぐや』が捉えた月面(テクノロジーお月見:山あり谷あり穴あり!)」と第2部「衛星『だいち』が捉えた地表(東北地方(だいち最後の仕事 311を観測する)」の2部構成でした。
この「『めぐりあいJAXA』の観望会」は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の人工衛星から送られた膨大なデータから、テーマに沿ったセレクション画像を動画に変換、新たな「映像」という形にして、地球のみんなで”ただひたすら”眺めようというシンプル極まる趣旨のイベント。キュレーターの澤隆志さんを中心に集まった宇宙愛好有志でサポートしています。映像作家の五島一浩さんが映像を制作、ゲスト解説者には、JAXAの度會英教さん、RESTEC(一般財団法人リモート・センシング技術センター)の向井田明さん&山本彩さんを迎えました。また今回初の試みの幕間サウンド、ゲストDJのJUN(80KIDZ)さんが創るクールなせんがわ的宇宙空間演出も堪能しました。衛星映像には音も音楽もなく、まるで真空状態の宇宙空間を疑似体験するかのように、サイレントな空間に遊び、目の前の大スクリーンには地球や月の映像が流れていく。どこが映されているかという解説もなく、テロップもない。ただただ眺めることに集中する、そんな観望会です。
第1部「『かぐや』が捉えた月面 [テクノロジーお月見:山あり谷あり穴あり!] では、まず度會さんナビゲートによる月周回衛星「かぐや」のあらましと仕事についてのわかりやすい解説に耳を傾けた後、鉱物研究のバックグラウンドを持つ山本さんから「かぐや」のミッションやトリビア、穴の話、また月の誕生について鉱物的なアプローチに心ときめかせるひととき。なんと月と地球は「恋人関係」に近いかもしれない説、「アポロ11号は本当に行ったの?」と挑発的な突っ込みを入れる澤さんにドキドキしながら(着陸エビデンスがあるのだそう)、月への思いが深まった頃、かぐやが捉えた月面の表裏まるごと、あの有名になった「地球の出」も、そしてかぐやの”最期”の瞬間まで、約30分間の完全なる静寂の中での「お月見」は荘厳でした。
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第2部「衛星『だいち』が捉えた地表(東北地方)[だいち最後の仕事 311を観測する]」では、2011年3月11日東日本大震災前後のデータにフォーカス。関係機関各方面からの要請に応じてデータの提供に東奔西走していた向井田さんが、リモートセンシングの緊迫の現場でどんな仕事をしていたのか、また震災の前と後の「だいち」から送られた画像の差異について、リモートセンシングプロ視点による画像の見方を明かしてくれました。地球にどんなことが起ころうとも、ひたすら地球観測を続け、データを送り続ける「だいち」とリモートセンシングの仕事の重要性をあらためて感じつつ、震災当時撮影された画像を含む約30分間の地球(東北)を見つめました。
“めぐりあいJAXA”とめぐりあう
ところで唐突ですが、私とこのプロジェクトとの関わりを紹介するため、ちょっと時間をさかのぼります。JAXA(当時NASDA)のALOS(「だいち」陸域観測技術衛星 2006年1月24日打ち上げ-2011年4月22日ミッション終了)プロジェクトチームのウェブ担当者としてRESTECに在籍したのは打ち上げ前の短い期間でしたが、そこで、H-IIAロケットに乗って打ち上げられ、地球を周回してデータを送り続ける、3つの目(パンクロマチック立体視センサ(PRISM)、高性能可視近赤外放射計2型(AVNIR-2)、フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ(PALSAR))を持つ人工衛星「だいち」にめぐりあいました。人間の役割は、地球上でデータを受けとり、解析データを様々な研究(地震や津波、台風などの災害状況の観測や防災分野のほか、森林監視や自然環境の保全、農業分野での活用、2万5千分1地形図の作成に利用されるなど、幅広い分野で「だいち」の観測データが活用されてきました。5年間で全世界を約650万シーンも撮影しました。2011年に発生した東日本大震災では、被災地を400シーンを撮影、各関係機関に情報を提供し続けました。ーだいちHPより)に活用することと知りました。率直な感想を言えば、観測活動そのものにはひとかけらの派手さもない、地味な仕事の繰り返しであること。しかしデータが一旦「画像」という形に変換されたとき、その美しさに圧倒されずにはいられない。それら膨大な素材が、もし一般の人の目に触れる機会が少なく、どこかに眠っているとしたら惜しい、そんな思いをふと持ちました。
その膨大なデータとともに、科学者たちの職人技とも言える解析と、たゆまぬ研究努力、とりわけ地球観測という現場において働く人々のことを書いてみたいと、以前コラム(『ご近所のOLさんは、先端に腰掛けていた。』)を連載していた『ほぼ日(ほぼ日刊イトイ新聞)』の糸井重里編集長に相談したところ、「それ、やりましょう。ぼくも宇宙は好きだし、ロケット打ち上げも見たいね」ということで『お隣が宇宙、同僚がロケット』というコラムをスタートさせてくれました。しかし仕事とコラムの両立は難航し、ささやかな情熱は宇宙の彼方のデブリになってしまったかのようでした。その後も向井田さんと共に企みと挫折を繰り返し、いろいろ諦めかけていた2016年の秋、突然、澤さんから「調布映画祭のイベントで「だいち」のコンテンツを観せることができないかな」と相談を受けました。(あれは東京フィルメックスの合間のカフェでしたね。)すぐに浮かんだのは、やっぱりRESTEC元同僚の向井田さんの顔。過密スケジュールの合間をぬって、澤さんと向井田さんの運命の「めぐりあい」が実現(偶然にもふたりとも自転車乗りで、何かがハマるカ”チャリ”という音が聴こえたような、聴こえないような......)、現在に至ります。
大盛況だった筑波宇宙センター特別公開日(2017年9月30日)の観望会を入れると3回目の上映会となった今回、向井田さんのリモセン魂と、度會さんの日本の宇宙事業を網羅するやわらかな解説、山本さんのエッジの効いた鉱物トークがぐっと彩りを添え、さらに澤さんの「突っ込みMC」はますますドライブがかかってきました。今後も、興味深いテーマを追いかけ、「だいち」と一緒にまわるめぐりあいの旅、 観望ツアーはまだまだ続きます。
参考サイト
realtokyocinema.hatenadiary.com