REALTOKYO CINEMA

リアルトウキョウシネマです。映画に関するインタビュー、レポート、作品レビュー等をお届けします。

Review 50『ブックセラーズ』

本のラビリンスへ迷い込む悦楽の時間

文・福嶋真砂代

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(C)Copyright 2019 Blackletter Films LLC All Rights Reserved

ニューヨーク(NY)最大のブックフェアを入り口に、稀少本(レアブック)のラビリンスへいざなうドキュメンタリー映画『ブックセラーズ』が公開になった。ぎっしり情報の詰まったこの映画を一言で表現するのはなかなか難しいが、「この映画自体が珍しい本であり、真の宝物だ!」という映画評(THE FILM EXPERIENCE)の言葉がしっくりくる。いつも側(ソバ)に置いて何度も読み返したい類の本、ひとつひとつの言葉がまるで宝石のように煌めく本だ。決して難解な世界ではないが迷路のように奥深い。この膨大な情報量は、プロデューサーのダン・ウェクスラー(実際にブックセラーであり多くの稀少本オーナー)の熱量、さらに監督・編集のD・W・ヤングの探究心の現れだ。軽快なジャズのグルーブにのって、起承転結のメリハリよく、時代の変遷に伴いながら「物質」としての本がたどる生命のうねりを感じさせてくれる。いざ魅惑の本の深海へ。

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レジェンドから若手まで、個性的なブックセラーたちほか、多くの文化人、知識人たちが熱く本の魅力を語る。フラン・レボヴィッツゲイ・タリーズなどNYの大物ご意見番の言葉にも出会う。とりわけレボヴィッツの歯にきぬ着せぬコメント、たとえば本への愛ゆえに「(フェアなどで)本の上に濡れたグラスを置く人を死刑にしたい」と漏らす本音や、エンドロール映像に「絶対に人に本を貸さない」と思うに至った実はうらやましいエピソードも最高だ。ほかにも「本で生きるものは、本で死ぬ」、「図書館は永遠、宇宙だ」、「本は読むだけのものじゃない」「SFは森のよう」、「本が死ぬは間違いだ」などなど、名言のシャワーを浴び続け、まんじりともできない。その速度はまさにニューヨーカーが歩くスピード感。旅行がままならない昨今、マンハッタンやロンドンのバーチャルな老舗書店めぐりができるまたとない体験になりそう。

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個人的に圧巻のシーンは、「ウォーカー人類想像史図書館」という不思議空間に迷い込んだかのような美しい図書館。しかしそんな「宝物」を守る彼らに忍び寄る数々の難題がある。すなわち、ブックセラーの高齢化や後継者の問題、さらに業界の男女格差(少しずつ変化しているようだが)、またデジタル化による紙文化の危機など現代的な重要課題が山積している。アメリカ版「お宝探偵団」番組の人気MCでブックセラーのレベッカロムニーのマシンガントークな解説に耳を傾ける。さらに現在ビル・ゲイツが所有するレオナルド・ダ・ビンチの「レスター手稿」または「ハマー手稿」、また「不思議の国のアリス」の手稿の話など、世界に存在する貴重な知的財産にお目にかかれる。

さらに興味をそそるのは「エフェメラ*1と呼ばれる、手紙や写真、はがき、ポスター、チケット、パンフレット、チラシ、マッチ箱など、つい捨ててしまいそうな、しかし時代を越えて価値が生まれるものの「生命力」の話。あのチラシやあのポスター、自宅の捨てるに捨てられないガラクタのあれこれが目に浮かぶ。ところで映画の中にこんな言葉がある「世の中はコレクターと、非コレクターがいる」と。どっちが良いというのではなく、何かしら生来の気質のようなものかもしれない。さて、あなたはどちらだろうか……。

Information:
監督:D.W.ヤング
プロデューサー:ダン・ウェクスラー
製作総指揮&ナレーション:パーカー・ポージー 

原題:THE BOOKSELLERS/アメリカ映画/2019年/99分
配給・宣伝:ムヴィオラミモザフィルムズ

2021423日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、UPLINK吉祥寺ほか全国順次公開

*1:

書籍のような長期に使われたり保存されることを意図した印刷物と異なり、一時的な筆記物および印刷物を指す(プレス資料より)

 

Info 『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』作品評掲載

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(C)2020「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」フィルムプロジェクト(VIPO、カルチュア・エンタテインメントビターズ・エンド)

池田暁監督の『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』は昨日(3/26)公開。鼎談「前原滉×きたろう×池田暁監督」と共に拙作品評「未来の選択肢は 自分の手のなかに」がキネマ旬報4月上旬号に掲載になりました。池田作品の魅力と「おっとりのなかの恐怖。蝶が何かを告げに来た?」などを書いています。ぜひご一読下さい。

***

「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」
鼎談 前原滉×きたろう×池田暁[監督] ■長野辰次
作品評 ■福嶋真砂代

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www.kinejunshop.com

www.bitters.co.jp

Review 49『春江水暖~しゅんこうすいだん』

古典と現代が溶けあう、壮大な人生の絵巻物

文・福嶋真砂代

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©2019 Factory Gate Films All Rights Reserved

■春江の魚のスズキと、市井の人々

話題の『春江水暖~しゅんこうすいだん』がいよいよ日本公開に。中国の新鋭、グー・シャオガン監督の長編デビュー作にして、カンヌ国際映画祭(2019)批評家週間のクロージングを飾った作品。第20回東京フィルメックス(2019)のジャパンプレミアでは、ため息がでるほどの映像美と、カメラが横移動する比類のない長回し(「横スクロール」とグー監督命名)、とりわけ富春江で泳ぐシーンに驚嘆した(映画祭Q&Aレポート)。またほとんどの登場人物がグー監督の親類や近所の人たちであると明かしたときの会場のどよめきも忘れられない。それほどリアルで味のあるキャラクターが息づいていた。グーは「レストラン(シーン)で春江の魚のスズキが出てくるように、市井の人々をリアルに描きたい」という狙いがあるキャスティングなのだとQ&Aで語った。

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©2019 Factory Gate Films All Rights Reserved

杭州市の富陽(フーヤン)を舞台に、夏から秋、そして冬から春へと移り変わる富陽の景色のなかで、祖母を中心とするひとつの大家族を描く。3時間の長尺もまったく飽きさせない風光明媚なロケーション、絵巻物のような、ダイナミックな横移動のロングテイクに加えてロングショットも存分に生かされる。富陽の名画「富春山居図」に着想を得たという山水画の世界と、中国の人気ミュージシャンのドゥ・ウェイによるアンビエント音楽が化学変化を起こし、過去と現在が交差する瞬間がときにストップモーションに感じるような時間感覚がある。グーは「古典を現代に融合させる試みががいちばん苦心したところ」と述べている。

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©2019 Factory Gate Films All Rights Reserved

物語のはじまりは、家長である祖母の誕生日に家族が一堂に集うにぎやかな宴会の席。いかにも中国らしい大家族の円卓風景をよくみると、三世代にわたる「家族構成」が興味深く浮きでてくる。祖母の息子たちの四兄弟がいて、それぞれに家族があり、それぞれ悩ましい“事情”を抱えている。祖母ユーフォン(ドゥー・ホンジュン:プロの女優)はじめ、長男ヨウフ(チェン・ヨウファー:監督の叔父)、次男ヨウルー(ジャン・レンリアン:知り合いの漁師)、三男ヨウジン(スン・ジャンジエン:監督の伯父)とその息子カンカン、四男ヨウホン/ラオシャオ(スン・ジャンウェイ:監督の伯父)、その妻たち、そして長男の娘のグーシー(ボン・ルーチー:舞台女優)と恋人ジャン(ジュアン・イー:グーシーと実際のカップル)らが主要人物となる(祖母とグーシーにプロの俳優をキャスティングしたところもニクイ限りだ)。

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©2019 Factory Gate Films All Rights Reserved

長男夫婦が経営するレストランで誕生日を祝った直後に脳卒中で倒れた祖母を、誰がひきとって面倒をみるかという問題が起こる。しかし兄弟たちはそんなに簡単にはひきとれないという複雑な空気が漂う……。老後、借金、新旧の価値観、そして恋愛と結婚。中国の現代的テーマを具体的なエピソードに落とし込み、中国の大きな変化を象徴する「再開発」という現実を巧みに「絵巻物」の背景に織り込んでいく。グーがインスピレーションを得たというジャ・ジャンクー監督『山河ノスタルジア』(2015)や、未公開だがロウ・イエ監督『シャドウ・プレイ』(2018)のように、「この中国の変化を撮らずにはいられない」衝動に突き動かされ、本作は絵巻物の中の様々なレイヤーが立体的に浮き出てくるような、じつにユニークな形態で「変化」の様を記憶に刻もうとしている。

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©2019 Factory Gate Films All Rights Reserved

■中国の第8世代

エドワード・ヤンホウ・シャオシェンという台湾の名監督たちに影響を受けたという映画の佇まいはすでにベテラン感を感じさせるが、グーは現在33歳。『ロングデイズ・ジャーニー この世の果てへ』や『凱里ブルース』のビー・ガン監督の活躍をみてもすでに中国は第8世代が(ピエール・リシェントのコラム「中国の第8世代」によると)"産声をあげ”ている。ところでビー・ガン作品とグーの作風はまったく異なるのだが、驚異の長回し、アマチュアのキャスティング、そして故郷がロケ地、という3点で共通している。理由としてコスト面のメリットももちろんあるが、この手法は「等身大の自己回帰」という点で世代の特徴が色濃いように思う。

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©2019 Factory Gate Films All Rights Reserved

さて、カンヌ上映の前から映画の存在を監督から知らされていた市山尚三氏(東京フィルメックスディレクター)は、本作の上映を即決したとフィルメックスで語っていた。海外映画祭でよく見かける市山さんに、親しみをこめて「野菜買いおじさん」という愛称をつけていたというエピソードを披露したグーの、独特の観察力やユーモアセンス、さらに日本愛好家(アニメ好き)であることをオープンにする親しみやすい人柄のすべてが、この作品の品格、そして温かみを物語る。「巻一完」となるエンディングに、早くも「巻二」を待望するワクワクが止まらない(三部作の予定があるという)。

Information:

監督・脚本 : グー・シャオガン
音楽 :ドウ・ウェイ
出演:チエン・ヨウファー、ワン・フォンジュエン
字幕:市山尚三、武井みゆき/字幕監修:新田理恵
配給:ムヴィオラ
中国映画 / 2019 年 /150 分

211日(木・祝)Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開

参考サイト:

www.reallylikefilms.com

新しい時代をつくる映画を見逃すな!『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』 | Numero TOKYO

2020年 わたしの10大イベント「CINEMA10」

新年恒例のREALTOKYO CINEMA (RTC)の「CINEMA10」(シネマテン)は5回目になりました。おなじみのメンバー7名(澤隆志、石井大吾、松丸亜希子、前田圭蔵、白坂由里、フジカワPAPA-Q、福嶋真砂代:原稿到着順)が、2020年に観た映画からそれぞれ選ぶ推しの10本。あえて鑑賞形態、公開年、ジャンルにもこだわることなく幅広くセレクトしました。たとえパンデミックな世界でも、「映画」という共通言語でつながれることの喜びを強めに確認しつつ、今年も全力で「多様な視点」重視の個性滲みでるバラバラ感「OK!」(今年のメインビジュアル/ナウシカ)でお届けします。お楽しみ下さい。ということで、2021年もRTCをよろしくお願いいたします。

<2020 RTC CINEMA10>

★澤 隆志の2020 CINEMA10

コメント:covid-19が収まらないのに年末気分になれる? と思いウィズコロナ真っ只中の10本というセレクト。思い出し順。配信リンク(→)があるものは併記したので2021に再見可。世界が同時に止まる経験は後にも先にもないだろう。経済が止まる。と、デスマーチも止まるわけで、落ち着いて自己を省みる時間ができた人も多かったように感じる。世論が動いたり集団提訴が起こったりアクションできなくて鬱になったり。個人と社会の薄くて厚い壁を描いた作品が強く心に残った。仕掛けの豊富な「Sai no Kawara」はドキュメンタリー映画として最も沁みた作品!

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  1. 『Sai no Kawara』https://www.youtube.com/watch?v=rmeI_Qk1rrk
  2. 『その手に触れるまで』http://bitters.co.jp/sonoteni/
    https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B08QGW2CGN/
  3. 『フェアウェル』http://farewell-movie.com/
  4. 『ミークス・カットオフ』https://gucchis-free-school.com/event/kelly01/
  5.  『山の焚火』https://gnome15.com/mountain/
    https://tsutaya.tsite.jp/item/movie/PTA00008C454
  6. 『妊娠した木とトッケビhttp://www.imageforumfestival.com/2020/program-f
  7. 『A Day to Remember』A Day to Remember on Vimeo
  8. 『ポップスター』https://gaga.ne.jp/popstar/
    https://www.amazon.co.jp/dp/B08LDJKH3H
  9. レ・ミゼラブルhttp://lesmiserables-movie.com/
    https://www.amazon.co.jp/dp/B08P9VKR33/
  10. 『音楽』http://on-gaku.info/https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B08KVRQQH9/
 
★石井大吾の2020年 CINEMA10

コメント:見逃した映画の多い1年でした。あの映画を観ていたら、このリストが入れ替わっているかもしれないと思う映画が何本もあります。しかし、振り返ってみると、こんな状況でも素晴らしい映画はたくさんあるし、映画館があることのありがたさを思います。1本目は『風の谷のナウシカ』をついに劇場で。繰り返されるテレビ放送で、慣れた風景のようでもあるし、本質はコミックの方という気持もありました。それでも1番目に書かざるをえないほど改めて強い印象が残りました。今までいろんな形でこの物語と接してきたからこそ、映画館で映画を観るということの価値が浮かび上がったと言えるかもしれません。夜中、シアターには一人でしたが、マスクを着用して全身で映画に浸りました。あとは、青春映画(と言えばいいのでしょうか)も多いですね…。はたしていつまでキュンとなりながら映画を観ていいものか、観ることができるのでしょうか…。

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© 1984 Studio Ghibli・H
  1. 風の谷のナウシカhttps://www.youtube.com/watch?v=KJgPuDwygXA
  2. 『行き止まりの世界に生まれて』http://bitters.co.jp/ikidomari/
  3. 『さよならテレビ』https://sayonara-tv.jp/
  4. 『佐々木、イン、マイマイン』https://sasaki-in-my-mind.com/
  5. 『なぜ君は総理大臣になれないのか』http://www.nazekimi.com/
  6. 『アルプススタンドのはしの方』https://alpsnohashi.com/
  7. 『セメントの記憶』https://www.sunny-film.com/cementkioku
  8. 『ようこそ映画音響の世界へ』http://eigaonkyo.com/
  9. 『ハニーランド 永遠の谷』http://honeyland.onlyhearts.co.jp/
  10. 『ヴァニタス』https://www.youtube.com/watch?v=dVtdAf1beG8
 
★松丸亜希子の2020 CINEMA10

コメント:新潟県長岡市に移住して7年目、県内から一歩も出なかった2020年。コロナ旋風が吹き荒れる直前に骨折を初めて経験し、全身麻酔での手術を経て車椅子・松葉杖生活、リハビリに追われた上半期でした。入院中もステイホーム中もネット配信の映画やドラマを観まくりましたが、このラインナップは劇場に足を運んで観た作品を観賞順に並べたもの。11・12月は諸事情でまたもや外出がままならず、各種ハードルがあった中で秀逸な作品群に出合えたことに感謝です。

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『MOTHER マザー』(c)2020「MOTHER」製作委員会
  1. 『パラサイト 半地下の家族』http://www.parasite-mv.jp
  2. 『ミッドサマー』https://www.phantom-film.com/midsommar/
  3. 『デッド・ドント・ダイ』https://longride.jp/the-dead-dont-die/
  4. MOTHER マザー』https://mother2020.jp
  5. 『宇宙でいちばんあかるい屋根』https://uchu-ichi.jp
  6. 『はちどり』https://animoproduce.co.jp/hachidori/
  7. 『行き止まりの世界に生まれて』http://bitters.co.jp/ikidomari/
  8. 『星の子』https://hoshi-no-ko.jp
  9. 『スパイの妻 劇場版』https://wos.bitters.co.jp
  10. 『朝が来る』http://asagakuru-movie.jp
 
★前田圭蔵の2020 CINEMA10

コメント:コロナ禍が世界中を覆った2020年。流行語大賞にもなった「三密」回避とソーシャル・ディスタンスの確保が求められ、映画や舞台、音楽にとっても苦しい状況がまだまだ続く。ステイ・ホームの時間が増えはしたが、脚光を浴びることになった配信動画を見る機会は意外と増えなかった。むしろ、少しでも外界と繋がっていたいという欲求がふつふつと湧き上がり、散歩をしたり、自転車で徘徊したりする時にこそ大きな喜びを感じる。2020年の僕のベスト・フィルムは、キム・ボラ監督作「はちどり」。物語も、登場人物も、カメラワークも刺さりまくった。フィルム作品では無いが、大好きなNHKTV番組「ドキュメント72時間」の「としまえん 日本最古の回転木馬の前で」も泣けました。そして、東京フィルメックス特別企画として上映されたマノエル・ド・オリヴェイラ監督『繻子の靴』を見逃したので、映画館での上映希望です!(リストは順不同)

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(C)2018 EPIPHANY FILMS. All Rights Reserved.
  1. 『はちどり』https://animoproduce.co.jp/hachidori/
  2. 『白い暴動』http://whiteriot-movie.com/
  3. 『ペイン・アンド・グローリー』https://pain-and-glory.jp/
  4. 真夏の夜のジャズ 4K』http://cinemakadokawa.jp/jazz4k/
  5. 『衝動ー世界で唯一のダンサオーラ』https://impulso-film.com/
  6. 『ラスト・ブラックマン・イン・サンフランシスコ』http://phantom-film.com/lastblackman-movie/
  7. 『音響ハウス Melody Go Roundhttps://onkiohaus-movie.jp/
  8. BOLThttp://g-film.net/bolt/
  9. 『イヴォ・ヴァン・ホーヴェ演出作品 上映会』東京芸術祭2020』https://tokyo-festival.jp/2020/Ivo_Van_Hove
  10. 『セノーテ』http://aragane-film.info/cenote/
 
★白坂由里の2020 cinema10

コメント:雲間から光。厄災後の寓話のような『ホモ・サピエンスの涙』には、神を信じられなくなって精神科に通う神父が登場する。「神様が考えてくれないなら、こっちで考えるしかないでしょ」とは『海街diary』の加瀬亮のセリフだが、10本ともそういう映画です(笑)。1)ロイ・アンダーソン、2)中尾広道、3)岩井澤健治の止むに止まれぬ手の仕事に胸熱。規格化への抵抗のよう。5)は仲間のスケートビデオを撮った12年がラストベルトを映す鏡に。『mid90s ミッド・ナインティーズ』とセットで。6)と7)は「声」に耳を傾け、自分で言葉を探す映画。8)は家族への優しい嘘のために履き慣れぬ靴で走るオークワフィナに涙。10)のジョー、そしてグレタ・ガーウィグシアーシャ・ローナンのコンビに晴れ晴れとした気分に。全体的に、芸術と家族と経済、家族と自分と時間の関係について考えることが多かったです。(リストは順不同)

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(C)Studio 24
  1. ホモ・サピエンスの涙』http://www.bitters.co.jp/homosapi/
  2. 『おばけ』https://wubarosier.tumblr.com/
  3. 『音楽』http://on-gaku.info/
  4. 『詩人の恋』https://shijin.espace-sarou.com/
  5. 『行き止まりの世界に生まれて』http://www.bitters.co.jp/ikidomari/
  6. 『空に聞く』https://www.soranikiku.com/
  7. 『春を告げる町』https://hirono-movie.com/
  8. 『フェアウェル』http://farewell-movie.com/
  9. 『凱里ブルース』https://www.reallylikefilms.com/kailiblues
  10. 『ストーリー・オブ・マイライフ 若草物語https://bd-dvd.sonypictures.jp/storyofmylife/
 
 ★フジカワPAPA-Qの2020 cinema10

コメント:音楽関連映画。1:ロビー・ロバートソンの自伝を元にした彼等の歴史。2:生演奏もある岩手県一関市の世界的ジャズ喫茶に集うジャズ人。3:ハチャメチャSFコメディ。キアヌ・リーヴステルミンを演奏する。4:グレース・ジョーンズ素敵。「リベルタンゴ」が何度も流れる。5:昭和歌謡を歌う、のんが最高!6:マイルス・デイヴィスの真実を歴史的映像、関係者の証言で記録。7:1958年の音楽祭。動くセロニアス・モンクエリック・ドルフィー等!8:モータウンの初期デトロイト時代の約10年の記録。9:ジョン・ケージビートルズも登場して驚き。10:  REALKYOTOの浅田彰さんの評論で知った。テオドール・クルレンツィスとムジカエテルナのベートーヴェン第九の演奏を中心とした約30分の哲学的記録映像。(リストは題名五十音順)

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(C)2019 Motown Film Limited. All Rights Reserved
  1. ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』https://theband.ayapro.ne.jp/
  2. 『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』https://www.uplink.co.jp/Basie/
  3. 『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え』https://www.phantom-film.com/billandted/
  4. ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』http://helmutnewton.ayapro.ne.jp
  5. 『星屑の町』https://hoshikuzu-movie.jp
  6. マイルス・デイヴィス クールの誕生』https://www.universal-music.co.jp/miles-davis-movie/
  7. 真夏の夜のジャズ 4K』http://cinemakadokawa.jp/jazz4k/
  8. 『メイキング・オブ・モータウンhttp://makingofmotown.com
  9. 『ようこそ映画音響の世界へ』http://eigaonkyo.com
  10. 『プランB』https://www.youtube.com/watch?v=TasClnikg0o
 
★福嶋真砂代の2020 cinema10

コメント:大変なコロナイヤーも、振り返ると3月まではコンスタントに試写室のイスを温め、後半オンライン環境に変わっても充実の出会いは続いた。1)はド・ストライクなイーストウッドの真髄みたり。2)の山トリロジー、牧歌的と思ったら急激な不協和音に心がザワつく怪作。3)はダンサオーラインプルソに自分的踊り子ダマシイが疼くのだ。4)はいい意味で“異質な”女優、モトーラ世理奈を発見。 5と7)はドキュメンタリーの底力、両監督インタビューも実り多く。6)は大倉と成田が体当たりする切ない純愛にキュン死、海辺シーンも痺れる。映画の醍醐味とはまさに8と9)のこと。10)は映像の魔術師、ロイ・アンダーソンの凝り凝りの世界が好きすぎる。(リストは鑑賞順)

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(C)水城せとな小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会
  1. 『リチャードジュエル』https://wwws.warnerbros.co.jp/richard-jewelljp/
  2. 『山の焚き火』https://gnome15.com/mountain/
  3. 『衝動ー世界で唯一のダンサオーラ』https://impulso-film.com/
  4. 『風の電話』http://www.kazenodenwa.com/
  5. 『空に聞く』https://www.soranikiku.com/
  6. 『窮鼠はチーズの夢を見る』https://www.phantom-film.com/kyuso/
  7. 『精神0』https://www.seishin0.com/
  8. 『デッド・ドント・ダイ』https://longride.jp/the-dead-dont-die/
  9. 『スパイの妻 劇場版』https://wos.bitters.co.jp/
  10. ホモサピエンスの涙』http://www.bitters.co.jp/homosapi/

 

●選者プロフィール(原稿順)

・澤隆志:2000年から2010年までイメージフォーラム・フェスティバルのディレクターを務める。現在はフリーランス。パリ日本文化会館、あいちトリエンナーレ2013、東京都庭園美術館青森県立美術館などと協働キュレーション多数。「めぐりあいJAXA」(2017-)「写真+列車=映画」(2018)などプロデュース。

・石井大吾:fuse-atelier、blue studioを経て2008年よりDaigo Ishii Designとして活動開始。建築、インテリア、家具などのデザインを手がける。2009-2015年には中野にてgallery FEMTEを運営。 2018年からは株式会社アットカマタの活動にも参加している。2019年、京急梅屋敷にKOCA(koca.jp)をオープン。https://www.daigoishii.com/

・松丸亜希子:1996年から2005年までP3 art and environmentに在籍した後、出版社勤務を経てフリーの編集者に。P3在職中に旧REALTOKYO創設に携わり、2016年まで副編集長を務める。2014年夏から長岡市在住。

・前田圭蔵:世田谷美術館学芸課を経て、80年代後半より音楽やコンテンポラリー・ダンスを中心に舞台プロデュースを手掛ける。F/T11、六本木アートナイト、あいちトリエンナーレ2013パフォーミング・アーツ部門プロデューサーなどを歴任。現在は東京芸術劇場に勤務。旧realtokyo同人。

・白坂由里:神奈川県生まれ、小学生時代は札幌で育ち、現在は千葉県在住。『WEEKLYぴあ』を経て1997年からアートを中心にフリーライターとして活動。学生時代は『スクリーン』誌に投稿し、地元の映画館でバイトしていたので、いまも映画に憧れが……。

・フジカワPAPA-Q:選曲家、DJ、物書き、制作者等。NHK-FMゴンチチさんの番組「世界の快適音楽セレクション」選曲構成。コミュニティ放送FM小田原の番組制作者として、巻上公一さん等の番組担当。フジロックで開催のNO NUKESイベント「アトミックカフェ・トーク&ライブ」(MCは津田大介さん)制作。等々色々活動中。

・福嶋真砂代:RTC主宰。航空、IT、宇宙業界を経てライターに。『ほぼ日刊イトイ新聞』の「ご近所のOLさんは、先端に腰掛けていた。」などコラム寄稿(1998-2008)。黒沢清諏訪敦彦三木聡監督を迎えたトークイベント「映画のミクロ、マクロ、ミライ」コーディネーター&MC(2009)。旧Realtokyo(2005年から)と現RealTokyoにも寄稿。

realtokyocinema.hatenadiary.com

Review of "KANARTA: Alive in Dreams" (directed by Akimi Ota)

Sebastian sings, in concert with the universe

 Written by Masayo Fukushima
 Translated by Andreas Stuhlmann

The Japanese premiere of “Kanarta: Alive in Dreams” as part of the “Visual Ethnography” program at the Tokyo Documentary Film Festival 2020 (on Dec. 9, 2020) was completely sold out, which suggests just how much attention the movie has been attracting. Director Akimi Ota had decided to make a movie on the indigenous people in the Amazon rain forest, as his doctoral work at the University of Manchester's Granada Centre for Visual Anthropology. He eventually spent over a year in Ecuador, where he lived with and filmed the local Shuar people that were once known and feared as “headhunters.” The result is a documentary film that sent shivers down my spine thanks to its innovative style of raising a variety of topics within a display of an open world-view. The following review is interspersed with parts of my recent conversation with the director.

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©Akimi Ota

"Come on boy!" says Sebastian Tsamarain as he cuts his path through the wild forest, captured by the camera that follows on his heels, and accompanied by the echoing sound of rhythmical breathing. Upon arriving at a plateau from where they can overlook the village, Sebastian observes the sky, and suddenly concludes that it will rain. This scene alone is charged with such a freshening sense of openness that I am immediately hooked to the exciting “story” that was about to unfold. When Sebastian sings, he sings in concert with the universe, and here I am, wondering where he is going to take me.

The “boy,” Akimi Ota recounts how he made his way to Kenkuim, a small village near the Peruvian border in central Ecuador, thanks to “a connection to a friend of a friend’s friend.” It was anything but an easy journey, and apparently it wasn’t always a safe one at that. Kenkuim is an unexplored region inhabited by the indigenous Shuar people, and it is virtually impossible for the average traveler to set foot in this area. This is where Ota stayed for an extended period of time, always having his camera ready to capture whatever was going to happen.

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©Akimi Ota

Sebastian and his wife Pastora Tanchima play a central role – both in real life in the village itself, and also in the movie, where they are the ones who introduce Ota to the Amazon rain forest. Pastora makes “chicha,” a unique type of liquor produced by a process that involves fermentation by chewing (comparable to Japanese “kuchikamizake”). No work gets done here without chicha, and the viewer gradually gets to understand how chicha is the very foundation that their lives are built on. In one scene, for example, we see Sebastian asking a neighbor to share some of her chicha, because his “wife was ill and couldn’t make any.” He explains that he would go and buy some, but it will be worthless if it doesn’t “taste good.” So as we watch their negotiation that is serious and humorous at the same time, we arrive at the conclusion that nothing in Kenkuim goes without chicha.

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©Akimi Ota

Be that as it may, I am puzzled as to how Ota managed to capture these scenes in such overly intimate, natural images. The words that describe their relationship with “Akimi” in the most direct of ways come from Sebastian and Pastora themselves. At the screening event in Quito, to which they were invited, they explained, ”Everything in this movie is true. That’s because Akimi ate any food that we gave him to eat.” After all, they would never open their hearts and minds to people who don’t eat their food. (Which shows once again just how amazing a job an anthropologist does while clearing such tricky obstacles.) They sometimes turn to the camera and directly ask it to “tell the world about the Shuar people.”

What we do not get in this movie are the typical aerial shots of the Amazon, and indigenous people in traditional costumes dancing for tourists. What is served instead is a mixed bag of trees, plants, water, earth, sky, birds, insects, and the sounds of the “inhabitants” of the forest as they continuously celebrate life with everything the abundant environment of the Amazon has to offer. A quick look at this is enough to feel that, taking a deep breath here must have an instantly refreshing effect. Equipped with a machete, they go out into the forest, which never ceases to provide things for them to eat and drink. As a matter of course, there is no Wi-Fi here. But there is a firm network through which relatives are connected. Families help each other build their houses, and watching the mothers prepare meals while chatting does feel a lot like home. It’s certainly not much different from what the typical Japanese family looked like just a few decades back. And all of a sudden, the Amazon seems so much closer...

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©Akimi Ota

Meanwhile, the viewer is introduced to the world of medical plants, by way of the stimulating effects of ayahuasca and maikiua. Coming from a family with shaman roots, Sebastian illustrates the Tsamarains’ profound knowledge of the matter – while having a cup himself. While asleep, the body crosses the boundaries of space and time. To dream means to have a “vision.” Ota explains that he chose the (Japanese) subtitle “Rasenjo no yume (literally “spiral dreams”) because he “felt that, while adopting a circular world-view, their idea wasn’t about repeating the same thing over and over again, but they seemed to be alive in their dreams and visions that inspire each one of them to choose and pursue their own individual path in life.” Here we witness how “Akimi” himself plunges right into that spiritual experience.

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©Akimi Ota

“Kanarta,” by the way, reminded me of Sean Penn’s ”Into the Wild” (2007). This movie tells the true story of Chris (Emile Hirsch), who embarks on a wild journey to the north, and eventually dies a lonely death in the Alaskan wilderness. The journey in “Kanarta” takes place along the equator, and, after enduring the pains of loneliness, ends with a “safe return” in the warming arms of the Amazon rain forest and its people. The chill I initially felt running down my spine was perhaps caused by a gut feeling that I might just be witnessing a “miraculous movie.” In addition, I also heard some rather perplexing comments suggesting that it might in fact not be “Akimi Ota” who made this movie. A hint in this respect is hidden in the credits, where a certain “NANKI” is mentioned. “It would probably be impossible for me to make this movie now. I was named “Nanki” (a Shuar word for “spear” or “warrior” – referring to my courage to travel all the way alone) by the family, and it seems to me that it was that kind of ‘persona’ and power that was bestowed on me, that made me realize the movie.”

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©Akimi Ota

Just when I thought that, after returning from the journey with Sebastian, I would land back at the same place from where I took off, it somehow appeared to me that I was in fact on a completely different level. This surrealistically warped sense of space and time was certainly an illusion that was also triggered by a combination of cool camera work, editing and sound design, while Ota’s anthropological viewpoint worked as a filter that casually extended the visible world and the connections between people, medical care and education. This is how the movie zooms in on the wisdom of nature and how it is embraced by the rain forest people, and their lifestyle is exactly what offers a plethora of hints that mankind should take notice of if it wants to survive. I am confident that the strong, newly established ties between “Akimi” and the Amazon will serve as a vehicle that delivers the message of “Kanarta” to people around the world.

*Shuar people say “KANARTA” when they wish you to have restful sleep, good dreams and visions of what you truly are. (from "Kanarta: Alive in Dreams")


Information:

Directed, produced, filmed and edited  by Akimi Ota (Granada Centre for Visual Anthropology, The University of Manchester)
Sound design: Martin Salomonsen
Colour Grading: Aline Biz
Location: Amazon Rainforest (Republic of Ecuador)
2020/120 min.

Official Trailer:

vimeo.com

Profile: 

Akimi Ota / Born 1989 in Tokyo. Graduated from Kobe University’s Faculty of Intercultural Studies (now “Faculty of Global Human Sciences”), and completed a master’s course in anthropology at the École des hautes études en sciences sociales (EHESS) in Paris. While engaging in anthropological investigations in Morocco and in the suburbs of Paris, he also worked as journalist and cameraman at the Kyodo News office in Paris, where he frequently visited the Cinémathèque Française. He subsequently enrolled in a doctor’s course at the University of Manchester's Granada Centre for Visual Anthropology. After spending over a year doing fieldwork in the Amazon tropical rain forest in Ecuador and Peru, in 2020 he completed his first movie as a director, titled “Kanarta: Alive in Dreams.” He holds a doctor’s degree in social anthropology. Official Site:  akimi ota

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@Jun Yokoyama

Selected Awards:

  • Best Documentary Feature Award, New York Movie Awards
  • Best Documentary Feature Award, Florence Film Awards
  • Best Documentary Film Award, Calcutta International Cult Film Festival
  • Best Documentary Feature Award, Beyond Earth Film Festival
  • Best Student / First-Time Director Award, Asian Cinematography Awards

 Japanese review:

Tokyo Documentary Film Festival 2020 site:

https://tdff-neoneo.com/lineup/lineup-1916/

Review 48『羊飼いと風船』

チベットの大草原に読み解く、過去、現在、未来

文:福嶋真砂代

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(C)2019 Factory Gate Films. All Rights Reserved.

『気球』というタイトルで第20東京フィルメックス(最優秀作品賞受賞)にて発表された本作は新しく『羊飼いと風船』とタイトルを変えて、本日(1月22日)からペマツェテン監督初の日本劇場公開となる。『オールド・ドッグ』(11)『タルロ』(15)『轢き殺された羊』(18)など同映画祭で次々発表され3度の受賞、作家としても活躍する同監督の"作家性"を印象づけてきた。ペマツェテン作品に欠かせないリュ・ソンイエ撮影の繊細かつ躍動的なカメラワークが作品の眼差しを支えている。

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(C)2019 Factory Gate Films. All Rights Reserved.

チベットの大草原で牧畜を営む、若い夫婦タルギェ(ジンバ)とドルカル(ソナム・ワンモ)と3人の息子、祖父と、三世代が一緒に暮らす家族が描かれる。生活の生命線である羊の繁殖。少数民族に許されない4人目のこどもの妊娠。仏教精神を重んじる生活、そしてドルカルの妹シャンチュ・ドルマ(ヤンシクツォ)の悲恋。さらには近代化していく生活の変化や教育問題などが物語のタペストリーに織り込まれる。「三世代」が示す3つの時代、すなわち祖父の文化大革命時代(過去)、若夫婦の伝統を引き継ぎながらも近代化の波に対峙する時代(現在)、そして地縁や血縁からフリーな生き方を選ぶであろう次世代(未来)が、同時に映し出されるところにこの映画の“現代性”がある。とりわけ妻ドルカルが、予期せぬ妊娠から異なる価値観の板挟みとなり、葛藤の末に未来へと立ち向かうエネルギーには女性の自立が示され、新しい時代の息吹きと風を感じる。

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(C)2019 Factory Gate Films. All Rights Reserved.

チベットというあまりにも過酷な歴史背景を背負うくにの物語を観る時、そのつらい闘いを思うと、正直、複雑な思いもする。しかし、雄大な草原や放牧の勇壮な営み、この大自然の中の暮らしは、ITやコンクリートにガッチリと包囲される殺伐とした私たちの生活とくらべると、なんという大気のすがすがしさだろうと羨ましくもなる。こどもたちの表情はあどけなく、コンドームを“風船”と思い込む純粋さに苦笑してしまう。先祖を敬い、輪廻転生を信じ、家族の結束はかたく、仏教が精神性を支える。そんな人間として大事なものを守っている生活へのノスタルジーや尊敬ももちろん湧き出る。

しかしそんな彼らの生活にも、やはり中国の政治問題の影がベールのように視界を阻む。そういえばこの映画のオープニングも白い靄がかかり視界がぼやけ、ある種のもどかしさの中ではじまる。ペマツェテン監督はあからさまな言及や表現をよしとせず、自然のなかで懸命に実直に生きる人々を、ユーモアとおとな向けの高度な比喩をまさに“羊飼い”のように使いこなし、見えるようで見えない、いや見える、そんな危うい境界線上の現象を描くことで、チベットの現状を世界に向けて照らしてくれているように思う。深く読み解くために、わたしたちの知性や想像力を最大に研ぎ澄ます必要があることは確かだ。

ちなみに原題の「気球」は、妹の元恋人の小説家・教師(実はペマツェテンの敬愛する作家タクブンジャと同名をつけている:プレス資料、星泉教授のコラムより)が書いた小説のタイトルである。

最後に、ペマツェテン監督の第20回東京フィルメックス上映に寄せたメッセージを掲載します。

「『気球』はリアリティと魂の関係を探求した作品だ。チベットの人々は肉体が消滅したとしても魂は生き続けると信じている。仏教の信仰が近代社会のリアリティとぶつかった時、人々はどちらを選ぶかを決めなければならない。」

Information:

監督・脚本:ペマ・ツェテン
出演:ソナム・ワンモ、ジンバ、ヤンシクツォ
配給:ビターズ・エンド
英題:BALLOON 原題:気球
2019 年/中国/102 分/チベット語/ビスタ
©2019 Factory Gate Films. All Rights Reserved.
 2021年1月22日よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー 

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Review 47『あのこは貴族』

さても聡明な女性は潔く、かっこいい

文・福嶋真砂代

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©山内マリコ集英社・『あのこは貴族』製作委員会

2021年2月劇場公開予定の『あのこは貴族』(第33回東京国際映画祭にて特別招待作品ワールドプレミア上映)。山内マリコの同名小説が岨手由貴子監督・脚本により映画化された。原作は、“別世界”に生きるふたりの女性の生き方を描くことで、日本の「階級社会」の実態にいわば社会人類学的な視点をあてる痛快で思索に富む作品。岨手監督はその本質を逃さず、世界観をリアルに伝えながら、原作にない差し込み演出で楽しい“ひねり”も数カ所に加えている。

おそらく東京に住む地方出身者には、ここに描写されていることに様々な場面で思い当たることがあるかもしれない。疎外感、羨望、そして「努力してもかなわない」という諦め。北陸出身の筆者自身も味わった数々のモヤモヤ感がみごとにミエル化されている。しかし、この物語が実り深いのは、そんなネガティブな感情を問題にせず、もっと先へ、フェアでポジティブな思考を導き出そうとしているところだ。

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©山内マリコ集英社・『あのこは貴族』製作委員会

物語の中心となるのは榛原華子(門脇麦)と時岡美紀(水原希子)の同年代のふたり(ハイバラハナコ、トキオカミキという名前の音感がいい)。華子は上流家庭のお嬢様で、世間知らずな“箱入り娘”である。「結婚」が家族にとっての最高のミッションであり、それが自分の幸せなのだと信じている、いや信じようとしている。恵まれた環境になんら疑問を抱くことなく、もちろん生活の苦労もなく、名門カトリック私立大学を卒業した。いっぽう美紀は、地方出身、猛勉強の末に競争を勝ち抜いて東京の一流私立大学に合格した「上京組」だ。実家からの仕送り頼みだったが、父の失業により、始めた夜のアルバイトにも限界がきて中退を余儀なくされる。

門脇と水原の豊かで繊細な表現力に加えて、サブキャストの女性たち:華子が唯一心を許せる、ドイツ留学から帰国したバイオリニストの相良逸子(石橋静河)と、美紀と共に地方から同じ大学に入学し、卒業後Uターン就職をした平田里英(山下リオ)の存在感も印象深い。「東京って棲み分けされているから、違う階層の人とは出会わないようになってる」と聡明な逸子が解くと説得力があり、「田舎から出てきて搾取されまくって、もう私たちって東京の養分だよね」と笑い飛ばす里英のセリフにパワーがある。

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©山内マリコ集英社・『あのこは貴族』製作委員会

“別世界”のふたりを繋ぐのは、華子のフィアンセとなる青木幸一郎(高良健吾)だ。偶然にも彼は、美紀の“恋人”だった。美紀の通った大学にいた「内部生」(小学校からエスカレーター式に進学する)グループの中の王子様的な存在だったが、一度だけノートを貸したことで知り合った。美紀が大学を中退した後、夜の仕事先で再会した幸一郎とは、“都合よく呼び出される女”としての関係がだらだらと続いていた。

さて、華子のフィアンセに恋人がいることを嗅ぎとった逸子は、ふたりを直接合わせるという大胆な“療法”を敢行する。ふつうなら修羅場となるところが(原作では近松門左衛門人形浄瑠璃心中天網島』を引用している)、ここで当事者たちにある種の“共犯関係”を結ばせる。さても聡明な女性は潔くかっこいい。階級云々より、人としてどう振舞うのかという根源的な人生訓が鮮やかに描かれる、ひとつのクライマックスシーンだ。ホテルの高層階、静かなティーラウンジの(男抜きで行われた)密約が、のちの彼女たちの人生を大きく変えていく。その痛快さ、とりわけあるシーンで幸一郎に美紀が手渡すキラーアイテム、「ホタルイカの素干し」の旨味は最高だ。

山内マリコは、究極のところ、“上流”と呼ばれる狭い世界の不自由さと、閉鎖的な地方都市の息苦しさは、同種のものではないかと導き出す。ちょっと視点をずらして見るだけで、つまり自分の気持ちしだいで「状況」は変わるのだ。しがらみのない世界を「なんて自由なことなんだろう!」と美紀が悟り、あるいは習慣を捨て、タクシーを降りて自分の足で華子が颯爽と歩きはじめると、冷たかった東京の空気、グレーな空の色が、鮮やかにやさしく変わっていくのだ……。

「ぼくの大事な日はいつも雨だ」という雨男の幸一郎に合わせて、グレイッシュブルーに彩られた上質な東京シーンが美しく、さらに渡邊琢磨のアンビエントかつエモーショナルな劇伴ががんばる彼女たちの人生にそっと寄り添う。すべてが静かに、饒舌に、豊かな時間を作り上げている。

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©山内マリコ集英社・『あのこは貴族』製作委員会


2021年2月26日(金)全国公開

Information:

監督・脚本:岨手由貴子
出演:門脇麦水原希子高良健吾石橋静河山下リオ銀粉蝶

音楽:渡邊琢磨
原作:山内マリコ「あのこは貴族」(集英社文庫刊)
配給:東京テアトル/バンダイナムコアーツ

上映時間:124