REALTOKYO CINEMA

リアルトウキョウシネマです。映画に関するインタビュー、レポート、作品レビュー等をお届けします。

2025年 わたしの10大イベント「CINEMA10」

■2025年の「CINEMA10」を発表いたします

2025年に観た映画・映像作品のなかから、7人のメンバー(澤隆志、石井大吾、松丸亜希子、前田圭蔵、白坂由里、フジカワPAPA-Q、福嶋真砂代)が(ジャンル、上映スタイル、公開年を問わず)選りすぐりの10本をそれぞれリストアップ。コメントと共にお楽しみいただけましたら幸いです。

ところで「CINEMA10」は今回で10回目を迎え、唐突ではありますが、これが最終回となります。選者たちは多様なフィールドでそれぞれ活動しながら、「映画好き」というシンプルな共通項でつながり、このプロジェクトを育ててくれました。10年の間には、各々の拠点が変わったり、新しい環境で仕事の新境地を切り拓いたり、また育児や介護を担ったりと、ステージが変わるにつれて人生観も変化し、選ぶ映画にもその変化が表れる――そんなところも興味深い点でした。
これからも偏らず、柔軟な感性で映画を観続けていきたいものです。
長い間お読みいただき、ありがとうございました。
選者のみなさんにも、お付き合いいただいたことに感謝いたします。

追記:「CINEMA10」はこれで完結しますが、REALTOKYO CINEMAはつづきます。なにかしらまた年間ベストシネマを掲載する予定です(おそらく...)。なのでよろしくお願いします。

※「はてなブログ」仕様によるアンダーバー+リンクはRTCの意図とは関係なく、無視しつつお読みいただければ幸いです。

<2025 RTC CINEMA10>

★澤 隆志の2025 CINMA10

コメント:西川智也さん、芹沢洋一郎さん、大木裕之さんのご冥福をお祈り申し上げます。未だに信じられません… やりたかった事も多かっただろうに。
訃報が続く一年はタイムラグ、時間感覚のギャップに思いを巡らす年となりました。作家の着想と現実とのギャップ。渇望と出力とのギャップ。そういえば洋画公開もそのギャップで受難が続いています。本国公開→ウケてネットで考察化ミーム化→出涸らした果てに日本公開という流れ。ドヨーン…  AI時代に、洋画の日本公開が超超超遅すぎる。
2026年は"タイムラグなき時代の感性"に自分なりの企画をしたく、今から右往左往しています。渇望を感じる暇のない鑑賞。炎上ばかり気にする風情。情報過多に疲れ果てている現在を、圧と愛嬌でサヴァイヴしましょう!(リストは50音順。配信のあるリンクを優先しました。)

『あなたのおみとり』© EIGA no MURA 2024-2025
  1. 『あなたのおみとり』https://www.omitori.com/
  2. 『Unless the Eye Catch Fire』@EAST EAST https://brandonpoole.net/Unless-the-Eye-Catch-Fire
  3. 『WEAPONS/ウェポンズ』 https://www.warnerbros.co.jp/movie/c8r-63sq936/
  4. 『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』 https://www.gundam.info/feature/gquuuuuux/
  5. 『キムズビデオ』 https://kims-video.com 
  6. 『サブスタンス』 https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0FJ4H7DLX/
  7. 『セプテンバー 5』 https://video.unext.jp/title/SID0185925
  8. 『破墓/パミョ』
    https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0DR5JT1NN/
  9. 『分身考』@イメージフォーラム・フェスティバル  https://www.imageforumfestival.com/2025/program-c/
  10.  『ワン・バトル・アフター・アナザー』 https://tv.apple.com/jp/movie/umc.cmc.66y1fmjq8p3jni6jntoj53id7

★松丸亜希子の2025 CINMA10

コメント:新潟県に移住して12年目、雪国の生活にもすっかり慣れました。映画館は少ないながらも、足繁く通い続けているのは、この「CINEMA10」のおかげです(まーしゃさんに感謝)。1から10は観賞順で、大好きな監督たちの新作を観ることができて幸せな一年でした。ここからは余談ですが、2025年の個人的な事件といえば、子どもの付き添いで生まれて初めて王道アイドルグループのライブに出かけたこと。場違いなのでは? と恐る恐るその界隈に足を踏み入れたところ、意外と中高年のファンも多く、いつしかミイラ取りがミイラに……。人生なにが起こるかわかりません。推し活に時間とお金を吸い取られていますが、映画への情熱を失うことなくバランスよく楽しみたいものです。

『敵』©1998 筒井康隆/新潮社 ©2023 TEKINOMIKATA
  1. 『敵』https://happinet-phantom.com/teki/
  2. 『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』https://www.warnerbros.co.jp/home_entertainment/dfoxm9skkl/
  3. 『片思い世界』https://kataomoisekai.jp
  4. 『Flow』https://flow-movie.com
  5. 『ルノワール』https://happinet-phantom.com/renoir/
  6. 『夏の砂の上』https://natsunosunanoue-movie.asmik-ace.co.jp
  7. 『ブラックドッグ』https://klockworx.com/blackdog
  8. 『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』https://zsazsakorda-film.jp
  9. 『ミーツ・ザ・ワールド』https://mtwmovie.com
  10. 『旅と日々』https://www.bitters.co.jp/tabitohibi/

★石井大吾の2024 CINEMA10

コメント:2025年は大きな変化のある一年でした。子供が生まれ、今までの生活が一変しました。映画館で映画を観る暮らしはピタッと止まり、映画体験がほとんどなくなりました。不思議なものです。ということで、今回は2025年の序盤の映画館での鑑賞と、出張中の飛行機や自宅で鑑賞した映画も含ませてもらいました。過去の参加では、映画館での体験に限定していましたが、少ない映画体験の中から選ばせてもらっています。きっと鑑賞していたら、この10本は全く違ったものになるだろう、という映画がたくさんある中の10本で大変恐縮です。さて、坂本龍一の最後のピアノソロ演奏を収録したOpusは、深夜にテレビで鑑賞しました。寝付かない息子を抱え、立ったまま坂本龍一の演奏と向き合いました。映画は映画館でなければと今も思い続けていますが、あの時間の感触はずっと残り続ける気がします。これからは息子と共に新しい映画体験をすることを探りたいと思います。

『Opus』©“Ryuichi Sakamoto: Diaries” Film Partners
  1. 『Sakamoto Ryuichi|Opus』

    https://www.bitters.co.jp/opus/#modal

  2. 『HAPPY END』https://www.bitters.co.jp/HAPPYEND/
  3. 『敵』https://happinet-phantom.com/teki/
  4. 『サンセット・サンライズ』https://wwws.warnerbros.co.jp/sunsetsunrise/
  5. 『おおきな家』https://bighome-cinema.com/
  6. 『AT THE BENCH』https://spoon-inc.co.jp/at-the-bench/
  7. 『ルノワール』https://happinet-phantom.com/renoir/
  8. 『笑いのカイブツ』https://sundae-films.com/warai-kaibutsu/
  9. 『ロボット・ドリームズ』
    https://klockworx.com/movies/robotdreams/
  10. 『ぼくのお日さま』https://bokunoohisama.com/

★白坂由里の2025 CINEMA10

コメント:2017年から参加しているシネマ10。その間、外に出たがらない/家に他人を入れたがらない母の自宅介護が2019年から始まり、今年1月には父が脳梗塞で入院、目下リハビリ中と、大きな変化が……。もちろん両親も頑張っているわけですが、母は「仕事無理しないで」と牽制してきます(笑)。いやいや、廃業はしたくないよ(涙)。現実の手強さからドキュメンタリーやドキュメンタリーに近いフィクションを好むようになり、自ずとコツコツとロングランに結びつく自主上映会へも足を運ぶようになりました。
川田淳監督の1は、クルド人姉弟や母親たちの日本語学習支援の様子を淡々と記録しています。安全に顔を出せない日本社会。それでもレッスンの合間の他愛ないお喋りにクスッとさせられ、プールで遊ぶシーンが美しい。4は、恵比寿映像祭のプログラムの一つ「コミッション・プロジェクト」で特別賞を受賞した小森はるか監督の作品。今年2月の恵比寿映像祭でも新作が見られます。二人とも、人を見つめる目は穏やかで、それだけに抗いたいものを暗に示していると感じます。一方で、5の山本草介監督は多少うっかりしたまま国家の闇の深部に辿り着いてしまう。ライター業にとっても、うっかりゆえ、時に真実を知る「抜け道」になることもあろうかと。2と3は連帯できる国への憧れ。6〜9は沖縄関連。8はWOWOW単独から昨年ネトフリやアマプラでも解禁に。沖縄を知るに必見です。10のホン・サンスでよき時間を過ごせました。

『夏休みの記録』©Jun Kawada
  1. 『夏休みの記録』https://www.recordofasummerholiday.com
  2. 『プラハの春 不屈のラジオ報道』https://pragueradiomovie.com
  3. 『女性の休日』https://kinologue.com/wdayoff/
  4. 『春、阿賀の岸辺にて』https://www.youtube.com/watch?v=T_8_b4NmnaI
  5. 『医の倫理と戦争』https://inorinri.wordpress.com
  6. 『木の上の軍隊』https://happinet-phantom.com/kinouenoguntai/
  7. 『宝島』https://www.takarajima-movie.jp
  8. 『フェンス』https://www.amazon.co.jp/フェンス/dp/B0DN9VNF4W
  9. 『劇場が終わるとき』https://gekiowa.com
  10. 『小川のほとりで』https://www.mimosafilms.com/lineup/小川のほとりで

★フジカワPAPA-Qの2025 CINMA10

コメント:音楽映画公開順。1:マン・レイがモンパルナスのキキを主役に100年前にパリで作った短編映像4本に、ジム・ジャームッシュが音楽を付けたアート作品。2:ピンク・フロイドや10CCらのジャケットを手がけたデザイナー集団、ヒプノシスのドキュメンタリー。3:ボブ・ディランの最初期1961年~65年の活動をティモシー・シャラメが歌とギターで熱演。4:シンシア・エリヴォとアリアナ・グランデの歌が素晴らしいミュージカル。続編が3/6に公開。5:ブラジルのピアニスト、テノーリオ・ジュニオル(1941~76)の活動と悲劇的な最期を描くアニメ。多くの音楽家も登場。6:ブルーズ音楽&吸血鬼ホラー。巨匠バディ・ガイが歌とギターを披露。7:ジャズピアニストでもあったミシェル・ルグランの生涯を描くドキュメンタリー。8:音楽大作『アメリカン・エピック』(2017年)の監督によるレッド・ツェッペリンの公式ドキュメンタリーで、1969年の2作目のアルバム迄を追う。9:ブルース・スプリングスティーンの1982年のアルバム『ネブラスカ』制作にフォーカスした伝記ドラマ。10:ジルベルト・ジルがコロナ禍の2020年にファミリーと共に自宅の庭で行った親密なライヴ。

『名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN』©2024 Searchlight Pictures.
  1. 『リターン・トゥ・リーズン』https://longride.jp/returntoreason/
  2. 『ヒプノシス レコードジャケットの美学』https://www.hipgnosismovie.com/
  3. 『名もなき者 /A COMPLETE UNKNOWN』https://www.searchlightpictures.jp/movies/acompleteunknown
  4. 『ウィキッド ふたりの魔女』https://wicked-movie.jp/
  5. 『ボサノヴァ 撃たれたピアニスト』https://wicked-movie.jp/
  6. 『罪人たち』https://warnerbros.co.jp/movies/detail.php?title_id=59698
  7. 『ミシェル・ルグラン 世界を変えた映画音楽家』https://unpfilm.com/legrand/
  8. 『レッド・ツェッペリン ビカミング』https://zep-movie.com/
  9. 『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』https://www.20thcenturystudios.jp/movies/springsteen
  10. 『ジルベルト・ジル ゴッド・イン・ヒズ・ガーデン』https://rewindera.net/gilberto_gil/

★前田圭蔵の2025 CINMA10

コメント:2025年は自分にとっては「変化の年」、そして「旅する年」となりました。
ちょうど1年前の1月末、15年近く仕事をしていた東京芸術劇場を思い切って退職し、2月からは縁もゆかりもなかった北海道の苫小牧市と東京を往復する日々が始まりました。3月には、以前から気になっていた福井県の三方五湖にある年縞博物館を初訪問、およそ7万年という途方も無い年月の堆積(年縞)を目視するという貴重な体験をしました。6月には震災でいまだ傷んでいる能登半島へも行ってきました。
新緑眩しい5月。生まれ育った東京を初めて離れ、太平洋に面した“紙と物流の港町”苫小牧での新生活が始まりました。たくさんの友人知人からは「なぜに北海道へ?しかも苫小牧って何があるの?」などと聞かれましたが、それはこっちのセリフです!wだって、僕自身、なぜに北海道なのかの明快な理由はなかったし、苫小牧に何があるかなんてほんとうに何も知らなかったのですから。でも、生きているうちにもう少し冒険がしてみたい、知らない土地で知らない人と出会いたい、そんな心持ちだったのかもしれません。僕の住む苫小牧の自宅から歩いていけるところには、1998年に開館した「シネマトーラス」という小さな独立系映画館があります。苫小牧に来てすぐにしたことのひとつは、この今にも潰れてしまいそうな小さな映画館の会員になることでした。映画好きな人が、もし苫小牧を訪れることがありましたら、必ず立ち寄ってほしい映画館です。
CINEMA TAURUS | シネマトーラス | 苫小牧市

『旅と日々』©2025「旅と日々」製作委員会
  1. 『名もなき者 /A COMPLETE UNKNOWN』https://www.20thcenturystudios.jp/movies/a-complete-unknown
  2. 『敵』https://happinet-phantom.com/teki/
  3. 『その街のこども』https://transformer.co.jp/theatrical/2011/01/sonomachi/
  4. 『FUKUSHIMA with BELA TARR』http://fieldrain.net/fukushima-with-bela-tarr/
  5. 『Ryuichi Sakamoto | Opus』https://www.bitters.co.jp/opus/#modal
  6. 『白い町で』https://ivc-tokyo.co.jp/tanner_2025/
  7. 『アイム・スティル・ヒア』https://klockworx.com/movies/imstillhere/
  8. 『小川のほとりで』https://mimosafilms.com/gekkan-hongsangsoo/
  9. 『ワン・バトル・アフター・アナザー』https://wwws.warnerbros.co.jp/onebattlemovie/index.html
  10. 『旅と日々』https://www.bitters.co.jp/tabitohibi/

★福嶋真砂代の2025 CINMA10

コメント:4年前、姉ががんで急逝し、実家に戻り母と暮らす日々が始まった。とにかく毎日時間がなく、観賞本数は激減した。それでもアンテナにひっかかる映画を追いかけ続け、自分自身を取り戻そうと足掻いてきた。今年もガザがいつも頭の隅にある。関連映画を観ると暗澹とする。でもあえて視聴覚から身体に刻み込む。これが現実だ。人々の息づかい、苦しみ、悲しみ、なけなしの希望を掬いとる。地元に目を移そう。能登穴水町で被災者に寄り添い、手書きの新聞を作り続ける滝井元之さん(『能登デモクラシー』)、その熱のこもるジャーナリスト魂に心打たれた。TIFFで観た『シネマ・ジャジレー』と『雌鶏』のインパクトは強かった。映画祭参加が難しくなってきたけれど現場の皮膚感覚は大事だなとつくづくーーー。加えてクラシック再上映も豊作年だった(『ヤンヤン 夏の思い出』、『カップルズ』、『白夜』、『狂い咲きサンダーロード』他)。さらに青山真治監督の金沢ゆかりの『秋聲旅行日記』、嶋田久作さんのアフタートークも堪能した。10年間、大切な仲間と豊かな映画交流を続けることができたこと、また読者の皆様にも毎年おつきあいいただきましたことに改めて深く感謝します。(リストは観た順)

『手に魂を込め、歩いてみれば』©Fatma Hassona
  1. 『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』https://www.transformer.co.jp/m/nootherland/
  2. 『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』 https://klockworx.com/movies/twilightwarriors/
  3. 『カップルズ』 4kレストア版 』https://www.bitters.co.jp/edwardyang2025/
  4. 『能登デモクラシー』 https://notodemocracy.jp/
  5. 『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』https://oliver-movie.jp/
  6. 『シネマ・ジャジレー』https://2025.tiff-jp.net/ja/lineup/film/38011WEP03
  7. 『雌鶏』  https://2025.tiff-jp.net/ja/lineup/film/38002CMP06
  8. 『旅と日々』 https://www.bitters.co.jp/tabitohibi/
  9. 『秋聲旅日記』http://www.cine-monde.com/syuusei.html
  10. 『手に魂を込め、歩いてみれば』 https://unitedpeople.jp/put/
●選者プロフィール

・澤隆志:2000年から2010年までイメージフォーラム・フェスティバルのディレクターを務める。現在はフリーランス。パリ日本文化会館、あいちトリエンナーレ2013、東京都庭園美術館、青森県立美術館、長野県立美術館などと協働キュレーション多数。「めぐりあいJAXA」(2017-)「たまき -eastern film promises-」(2023)「スゥパァドゥルォォォォオ」(2024) 「あたため期たたみかけ」(2026)などプロデュース。

・石井大吾:2008年よりDaigo Ishii Designとして活動開始。建築やまちづくりのプロジェクトに携わる。2009-2015年には中野にてgallery FEMTEを運営。 2018年からは株式会社アットカマタの活動にも参加し、2019年に京急梅屋敷にKOCAをオープン。2020年より週の半分は房総半島を拠点に。https://www.daigoishii.com

・松丸亜希子:1996年から2005年までP3 art and environmentに在籍した後、出版社勤務を経てフリーの編集者に。P3在職中に旧REALTOKYO創設に携わり、2016年まで副編集長を務める。2014年夏から長岡市在住。

・前田圭蔵:世田谷美術館学芸課を経て、80年代後半より音楽やコンテンポラリー・ダンスを中心に舞台プロデュースを手掛ける。2012年より東京都歴史文化財団東京芸術劇場に勤務。また、F/T11、六本木アートナイト、あいちトリエンナーレ2013パフォーミング・アーツ部門プロデューサー、国際芸術祭「あいち2022」パフォーミングアーツ・アドバイザーなどを歴任。2025年より、苫小牧市民文化ホール ART CUBESの開業準備責任者として北海道苫小牧市に移住。旧realtokyo同人。

・白坂由里:神奈川県生まれ、小学生時代は札幌で育ち、現在は千葉県在住。『WEEKLYぴあ』を経て1997年からアートを中心にフリーライターとして活動。学生時代は『スクリーン』誌に投稿し、地元の映画館でバイトしていたので、いまも映画に憧れが……。

・フジカワPAPA-Q:選曲家、DJ、物書き、制作者等。NHK-FMのゴンチチさんの番組「世界の快適音楽セレクション」選曲構成。コミュニティ放送FM小田原の番組制作者として、巻上公一さん等の番組担当。フジロックで開催のNO NUKESイベント「アトミックカフェ・トーク&ライブ」(MCは津田大介さん&ジョー横溝さん)制作。等々色々活動中。

・福嶋真砂代:RTC(REALTOKYO CINEMA)主宰。航空、IT、宇宙業界勤務を経てライターに。『ほぼ日刊イトイ新聞』の「ご近所のOLさんは、先端に腰掛けていた。」などコラム寄稿(1998-2008)。桑沢デザイン塾の黒沢清、諏訪敦彦、三木聡監督を迎えたトークイベント「映画のミクロ、マクロ、ミライ」コーディネーター&MC(2009)。RealTokyoやキネマ旬報などに寄稿。姉が他界し2022年より金沢暮らし。

TIFF Review『雌鶏』(第38回東京国際映画祭コンペティション部門)

雌鶏が映す、この世界の滑稽と真理

©Pallas Film 2025 film still by DOP Giorgos Karvelas

文・福嶋真砂代

「アタクシが主役(ヒロイン)よ!」とでも宣言しているかのような、気高く凛とした雌鶏の表情。その顔(頭)を捉えたクローズアップショットに心を掴まれた。ハンガリーの鬼才、パールフィ・ジョルジ監督(『タクシデルミア ある剥製師の遺言』(2006)、『ヒズ・マスターズ・ヴォイス』(2018))による最新作は、にわとりを主役に据え、世界の不条理と人間社会の滑稽さを映し出す、痛快かつ示唆に富んだコメディドラマだ。第38回東京国際映画祭コンペティション部門にて、アジアンプレミア上映された。

2018年の東京国際映画祭公式サイトには、監督について次のような言葉が記されている。

「パールフィ・ジョルジ監督は、想像力と表現力において世界屈指の存在のひとりである。古今東西の無数の作品をコラージュした『Final Cut』(2012)、映画のさまざまなスタイルを1本に凝縮した『フリー・フォール』(2014)などは、映画を知り尽くした芸術家の仕事であり、常人には思いもよらぬ発想を映像化する技術を持つ、まさに鬼才である。」

(以下、作品の内容に触れる。)

 

■黒く生まれた雌鶏、コタの旅

物語の主人公は、一羽の雌鶏。黒色で生まれたがゆえに養鶏場のベルトコンベアーから外され、命の選別をすり抜けた彼女は、主の目を盗んで外の世界へと逃げ出す。幾度もの危機を乗り越えながら辿り着いた先は、ギリシャの海辺に佇む海鮮レストラン「パノラマ」だ。

オーナーの家に忍び込み、家人たちを騒がせた末に捕らえられ、庭のケージに入れられた雌鶏は「KOTA(コタ)」と名付けられる。卵を産むことで重宝されるものの、彼女は決してそこに留まらない。隙を突いて車に飛び乗り、再び世界へと身を投じていく。その表情と行動力は圧倒的で、次に何をしでかすのかと観客の視線を釘付けにする。

ギリシャの雄大な風景、卵が生まれる瞬間を捉えた大胆なクローズアップ、リズミカルな編集、ガムランを思わせる音楽。なかでも特筆すべきは、鶏たちの“演技”だ。プロデューサーによれば、雌鶏8羽に加え、スタント用として2羽を起用し、ほぼCGなしで撮影された。優れたアニマルトレーナーの存在なくして、この表現は成立しなかったという。

Hen©Pallas Film 2025 film still by DOP Giorgos Karvelas

■コタの目に映る人間社会

「パノラマ」は一見、繁盛する観光レストランだが、その裏では不穏な気配が漂う。難民の密輸か、人身売買か。説明的なセリフはほとんどなく、観客はコタと同じ視線で、徐々に異変を察知していく。

しかし、そうした人間の思惑は、コタにとって本質的ではない。彼女はただ“生存本能”に従い、生き抜くだけだ。その姿は、人間がいつの間にか失ってしまった、生の原点を鮮やかに照らし出す。争いに明け暮れる人間たちの姿は、コタの目にはさぞ滑稽に映ることだろう。本作は、言葉少なに人間の存在意義を問いかけてくる。

やがて物語は大きく転調し、コタの主は世を去り、「パノラマ」は荒廃していく。カメラが引き、ドタバタ劇を俯瞰すると、コタが過ごした時間でさえ、宇宙のスケールでは一瞬にすぎないことが示される。陽は昇り、また沈む。諸行無常の理が静かに刻まれる。

それでもコタは、今日も卵を産み、粛々と生をつなぐ。生存本能こそがすべて——。そんなシンプルな真理から導かれた驚きの展開。宇宙は悠久、時間は縷々とする。不思議と清々しい境地になった。

 

■プロデューサーのタナシス・カラタノスが映画祭に来日してQ&Aを行い、ギリシャを舞台にした理由や、雌鶏のキャスティングや演技指導など、興味深い撮影秘話を披露してくれた。下のリンクからぜひチェックを。

全編ニワトリの視点で進行する奇想天外な物語、ほぼCGなしで撮影したコンペティション作品『雌鶏』インタビュー|第38回東京国際映画祭

Information:

監督/脚本:パールフィ・ジョルジ
脚本:ルットカイ・ジョーフィア
撮影監督:ジョルゴス・カルヴェラス
編集:レムヘーニ・レーカ
美術:コンスタンディノス・ザマニス
音響デザイン:エリク・ミスキエフ
音楽:スーケ・サボルチ
プロデューサー:タナシス・カラタノス
プロデューサー:コスタス・ランブロプロス
プロデューサー:マルティン・ハンペル
プロデューサー:ヨルゴス・キリアコス
キャスト:ヤニス・コキアスメノス、マリア・ディアコパナヨトゥ、アルギリス・パンダザラス
雌鳥(エスティ、サンディ、フェリ、エンチ、エティ、エニクー、ノーラ、アネット)
96分/カラー/ギリシャ語/英語、日本語字幕/2025年/ギリシャ、ドイツ、ハンガリー

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TIFF Review『シネマ・ジャジレー』(第38回東京国際映画祭ウィメンズ・エンパワーメント部門)

土壇場の”変身”が恐怖心を味方に変える

文:福嶋真砂代

Cinema_Jazireh©Hayedeh, Ahmad Zahir songs, copyrighted
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第38回東京国際映画祭ウィメンズ・エンパワーメント部門「シネマ・ジャジレー」はアフガニスタンの過酷な政治情勢下での女性を描く印象深い作品だった。
 
トルコのギョズデ・クラル(GözdeKural)監督はカブールを訪れたときに感じた得体のしれない「恐怖心」がまとわりついて離れず、それがこの作品を作る原動力になったと語っている。同時に、「恐怖心」は人間を前進させるパワーにもなりえると...。
 
タリバン政権下のアフガニスタン。家族を殺され、家も精神もすべて破壊され、ひとり残った母親レイラ(Fereshte Hosseini)は行方不明の幼い息子を探し歩く。
 
暗い闇のなかに「希望」というともしびを、この母の困難な“冒険”とも言える旅を通して、どうやって見出すのだろうか。レイラと一緒に旅をしよう。
 
冒頭、荒廃した砂漠地帯を消え入りそうな声をしぼりだしトボトボと彷徨い続けるレイラの姿が痛々しい。声もよく聞こえない。背中から底なしの苦しみが滲み出している。ヘジャブのくすんだブルーが砂色に映えて目に焼き付く。
厳しい宗教の戒律を強要する国では女性がひとり外出することはありえなく、どんなに危険で恐ろしいことかをレイラの歩みと共に我々も思い知る。男たちに小突かれ、蹴られ、追われ、命の危険に晒される。
 
窮鼠猫を噛む
本当にどうにもならない極地に立たされたとき人はどんな行動をとるのか。とんでもないアイディアでもやってみる。普段ならできないことでも、窮地に陥るとなんでもできる。おそらくはそんな境地なのだ。まさに火事場の馬鹿力。窮鼠猫を噛む。
 
彼女は「男装」を思いつく。女として大切な髪を切り落とし、それでヒゲの生成を試みるが化けきれない。自らを危険な状況に追い込み、命がけで突進する。もう死んだつもり。闇雲だ。やがてそれを完遂させる運が巡ってくる。小さな光が灯る。そうやって母は変身を遂げ、勇気をまとって前進する。その力の源は監督が「恐怖心」にあると説く。恐怖を前に誰でも身動きがとれなくなるもの。その状態を力に変えるのは「変身」だ。これ、ヒーローものの「変身!」に通じるかもしれない。でもこんな状況下、申し訳ないが、か細い母の必死の変身にはどこか可笑しみが漂う。
 
一方本作は、このなすすべもない政治状況の下部レイヤーに怪しい「光」を映し出す。それは陽光からは程遠い、汚れた「光」かもしれない。だがそれは人間の下世話な癒やし。戒律の厳しさとは裏腹な自由さだ。映画も音楽も飲酒も、闇の流通システムがあるのだ。「この作品の普遍性」とクラル監督が語るもののひとつは、こんなシステムかもしれない。
 
シネマ・ジャジレーの正体
西洋の娯楽がすべて禁止されている社会だが、踊りや音楽を嗜む娯楽施設、「シネマ・ジャジレー」が登場する。酒もタバコもある。表の顔からは別世界。誘拐され行方不明となった少年たちは、あやしく歪んだ魔界に連れ込まれ、虚しい笑顔を浮かべている。
 
そんな環境で少年が大人になるとどうなるのか。青年になった男娼の踊り子ザブールの悲哀が描かれる。演じたマズルム・シュメル(Mazlum Sümer)がとびぬけて素晴らしい。

©Hayedeh, Ahmad Zahir songs
 母は息子に会えるのか
シネマ・ジャジレーに幼い美少年がいる。おそらく誘拐され連れてこられたのだろう。強面の男性たちに囲まれ、感情をおし殺し、従順を装い、ときに優しいザブールに護られて暮らす。少年の表情からは自ずと無抵抗を選択した聡明さも読みとれる。彼の選択、そしてレイラの選択。どんな未来が待ち受けるのか...? 物語はクライマックスに向けてスリルを増していく。
 
世界に「希望」は存在するのか
行方不明の息子「オミッド」の名前は希望という意味だ。人間に付与された生きるチカラ。絶望のなかレイラが息子(希望)を探すことは、蹂躙されてしまった国を探すことでもある。ザブールの哀しく美しいコーランの叫び声は、たったいまも困難を極める世界の隅々に波のように響き渡るよう。
 
明日考えよう。レイラは『風と共に去りぬ』のスカーレットのごとく独り言をつぶやく。変身の末に勇気という強力な光の"武器”を得た彼女の本心だろう。この作品は、絶望的な状況で、大地を踏みしめて立ち上がろうと勇気をふりしぼるすべての女性への応援歌でもあるのだと、レイラが探していた希望の手触りを感じるのだ。
 
以下、クラル監督の制作への思いが伝わるDirectors Note(原文英語)の概要を掲載します。

Dir.GözdeKural_Cinema_Jazireh©2025 TIFF
私はアフガニスタン、カブールを訪れたときに得体のしれない、それまで感じたことのない「恐怖心(Fear)」を感じた。それは本能であり、私をひきつけて離さないような磁力があり、日が経つにつれて深まり、自分のなかに住み着いていた。
12年後、ふたたびカブールを訪れたときに、恐怖心はそのままだが、身体的にも、内面的にもアフガニスタンにとりこまれた感覚があり、アフガニスタンは何度も「帰る」場所となった。
2015年、「DUST」というショートフィルムをカブールで撮った。その際に”We were here”と壁に掘り、一瞬でも「ここに居た」という証を残そうとした。
「“偉大な美、あるいは痛み”と出会うとき、世界の見方が突然変化し、何でもできると感じるのだ」という文章が頭の中につねにある。そして以下の異なるふたつのビジョンがある。
①母が3人の息子の雪の積もる墓に毛布をかける
②カラシニコフを握る一人の女、子どもの復讐のために25人のタリバン兵を殺害したあとに、誇りを持って奮い立っている。
このふたつの愛、ふたりの母からわかることは、「恐怖心」を抱くことは停止状態ではなく、前進する力なのだ。それは人を動かし、変身させることができるということ。
そんなビジョンの裂け目から生まれた主人公レイラは恐怖心をまとい、しかしそれに突き動かされている。恐怖心とは、仲間であり、道しるべ、鏡でもある。レイラを通して、どうやって恐怖心が人をむき出しにして、変身を遂げるかの冒険を体験する。
私を奮い立たせているのは、この言葉、
「言語はバラバラになり、概念は崩れ果てる。ものは名前を失い、意味は溶解する」つまり、過激な政権の下では、何一つとしてそこにあるものが続くことはない、ということだ。
(The very fabric of reality shifts and suddenly life becomes a terrain with no coordinates.)
この、意味の崩壊、存在の漂流は、私がこの作品で対峙したテーマだった。
私の映画の文脈は、感情的な流れ、モラルの曖昧さ、人間の二面性(二元性)の緊張である。
「シネマ・ジャジレー」は、特定の場所に位置するが、普遍性を持ち、私たちはみんな変わりゆく表皮を持つ。意味を問うことの挫折を否定し、喪失のあるところに宝の希望がある。
(Ruin reminds us where there is ruin, there is hope for treasure.)
「恐怖心」に取り憑かれ、そして惹きつけられたアフガニスタンは、私を人として、フィルムメイカーとして深くゆっくりと成長させた。
「DUST」を撮っていなければ「シネマ・ジャジレー」は撮れなかった。
FearとHopeは生きる直感においてパワフルなエンジンとなりうる。
私は「息子」だけではなく、ゴーストシティで「国」を探した。
恐ろしい世界の下のレイヤーには生命力、音楽、笑いさえある。しかしここでも女性は存在せず、若い男子が女の役をさせられている。偽りで不在の「女性」を感じるのだ。
 
ザブール(Zabur)について
グレーな領域の表現として、トライ&エラーを重ね、女、母親になろうとする。その限られた世界では意味のあること。選択肢がないから虐待されていると感じてることができない。女装して男をもてなす人格が、大人になって女性と結婚させられそうになるという矛盾を描いた。
訳:福嶋真砂代
 
Information:
監督/脚本/編集:ギョズデ・クラル
撮影:アディブ・ソブハニ
美術:ババック・ターミリ
プロデューサー:ブルト・レイハンオウル
プロデューサー:ミラド・ホスラヴィ
編集:ビュンヤミン・バヤンサル
プロデューサー:スヴェトラ・ツォツォルコヴァ
プロデューサー:アンデレア・ドゥミトレスク
キャスト/フェレシュテ・ホセイニ、マズルム・シュメル



2024年 わたしの10大イベント「CINEMA10」

REALTOKYO CINEMA(RTC)は9年目を迎えました。去年元旦の地震から復興ほど遠い奥能登の被災地、あるいは遠く世界の紛争地に思いを寄せ、1日でも早く日常が戻ることを祈る年明けです。さて、新年恒例の「RTC CINEMA10」は9回目。Realtokyoゆかりのいつものメンバー7人(澤隆志、石井大吾、松丸亜希子、前田圭蔵、白坂由里、フジカワPAPA-Q、福嶋真砂代)が、ジャンル、上映スタイル、公開年を問わず、2024年に観た映画・映像作品のなかから選りすぐりの10本をそれぞれリストアップしました。いつもながらバラエティに富んだ10選をお楽しみいただければ幸いです。2025年もRTCは映画とともにゆるゆると進み続けたいと思います。よろしくおつきあい下さい。

※「はてなブログ」仕様によるアンダーバー+リンクはRTCの意図とは関係なく、無視しつつお読みいただければ幸いです。

<2024 RTC CINEMA10>
★澤 隆志の2024 CINEMA10

コメント:山峰潤也氏のご冥福をお祈りいたします。
新春から香港在住作家のインタレーションとLA在住作家の上映が重なって苦労はあったけど海外の情報交換と楽しい呑みができました。夏はタイでディープな芸術祭内に“仮設映画館"で飛び入り参加。秋冬はドイツと日本の作家による映像とパフォーマンスのブリッジが試せました。というわけで、投影されるものとその空間、そこにいる観客導線を考えていると、拝見する作品の形式の区別はますます溶けていくのでした….。●
映画は娯楽や芸術である前に錯覚である。ということをインストールの日下竜吾さんチームに再認識させてもらえました。(1)また、3セット3プレイのイケそうでイケないイケズな構成(とBGMの切り方)は、2024年ぶっちぎりで心を動かされました!(6) ※順位に意味はありません。

  1. 「マティス 自由なフォルム」のロザリオ大聖堂https://www.nact.jp/event/2024/005434.html
  2. 『ザ・ペンギン』https://video.unext.jp/title/SID0148753
  3. 『15グラムの記憶 』https://www.imageforum.co.jp/cinematheque/1074/index.html
  4. 『ソウルの春』https://klockworx-asia.com/seoul/
  5. 『I./II./III.』http://www.imageforumfestival.com/2024/program-m
  6. 『チャレンジャーズ』https://wwws.warnerbros.co.jp/challengers/
  7. 『ウイニング・タイム1&2』https://video-share.unext.jp/video/title/SID0071172
  8. 『MaXXXine』https://www.imdb.com/title/tt22048412/
  9. 『Why?』https://www.nact.jp/exhibition_special/2024/keiichitanaami/
  10. 『どうすればよかったか?』https://dosureba.com/
★石井大吾の2024 CINEMA10

コメント:あらゆる表現において、初期衝動とも言える作品がとても好きです。情熱、飢え、不安、迷い、様々な感情を乗り越えて生み出されたものには強いエネルギーが纏っています。自らの初期作品のクオリティこそが、最大の壁という表現者も少なくないのではないでしょうか。各ステージごとの最大の表現活動を継続することは全ての表現者たちの永遠の課題でしょう。2024年はそんなことを思うことの多い年でした。だからこそ、継続する人々を尊敬しますし、高められていく表現に感動します。「夜明けのすべて」は三宅唱監督の素晴らしい到達だと感じました。日々の暮らしとは不安定で、思うようにならなくて、いつも揺れ動く。しかしそれこそがperfect daysと呼べるのかもしれませんね。あれ?

『さよなら ほやマン』(C)2023 SIGLO/OFFICE SHIROUS/Rooftop/LONGRIDE
  1. 『夜明けのすべて』https://yoakenosubete-movie.asmik-ace.co.jp/
  2. 『パスト ライブス/再会』https://happinet-phantom.com/pastlives/
  3. 『枯れ葉』https://kareha-movie.com/
  4. 『青春』https://moviola.jp/seishun/
  5. 『すべての夜を思いだす』https://subete-no-yoru.com/
  6. 『王国(あるいはその家について)』https://www.domains-movie.com/
  7. 『チャレンジャーズ』https://wwws.warnerbros.co.jp/challengers/
  8. 『SUPER HAPPY FOREVER』https://shf2024.com/
  9. 『さよならほやマン』https://www.cine.co.jp/hoyaman/index.html
  10. 『どうすればよかったか?』https://dosureba.com/
★松丸亜希子の2024 CINMA10

コメント:新潟県民になって11年目、ほぼ県内で完結する穏やかな日々の中、この「CINEMA10」に背中を押され、劇場に通っています。ということで、印象的だった作品のリストを作りました。1から10は劇場で観た順番で、邦画と洋画がちょうど5本ずつ。REALTOKYO時代にインタビューした2人の巨匠、アグニエシュカ・ホランド、フレデリック・ワイズマン両監督の新作を県内で観られたことがなによりの喜びです。かつては試写の暗闇の中でノートにメモを取ったり、サンプルDVDを借りて気になるシーンで止めたり、新作のレビューを書き、取材に備えて観ることも多かったけれど、ただの映画ファンとして純粋にスクリーンに向き合う時間を楽しんでいます。

『夜明けのすべて』©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会
  1. 『夜明けのすべて』https://yoakenosubete-movie.asmik-ace.co.jp
  2. 『枯れ葉』https://kareha-movie.com
  3. 『瞳をとじて』https://gaga.ne.jp/close-your-eyes/
  4. 『人間の境界』https://transformer.co.jp/m/ningennokyoukai/
  5. 『悪は存在しない』https://aku.incline.life
  6. 『関心領域』https://happinet-phantom.com/thezoneofinterest/
  7. 『ナミビアの砂漠』https://happinet-phantom.com/namibia-movie/
  8. 『至福のレストラン 三つ星トロワグロ』https://www.shifuku-troisgros.com
  9. 『Cloud クラウド』https://cloud-movie.com
  10. 『雨の中の慾情』https://www.culture-pub.jp/amenonakanoyokujo/
★前田圭蔵の2024 CINEMA10

コメント:2024年は、元旦に能登地方で大災害が起き、沈んだ気持ちからの一年となった。個人的にも、いわゆる“本厄”ということで、なんとなく弱気というか、一年を無事に乗り切れる自信はまったくもてなかった。世界に目を向ければ、力や富を有する者たちの横暴はますます目に余り、ガザやウクライナをはじめとした紛争地域に希望はみえず、さらに貧富差の拡大や物価高騰、地球温暖化による環境変化、陰惨な事件など、暗いニュースがひっきりなしに流れてくる。夏目漱石を気取るわけではないが「兎角、この世は住みにくい」という実感は増すばかりだ。選んだ各作品は、そんなもやもやとした日々の心境に、小さな気づきやかすかな希望をもたらしてくれる。生きることの切実さとリアリティをどうにかして伝えようとする想いが込められている。「暗闇と静寂が、私をこの世界に繋ぎ止めている。どこか別の街で暮らす誰かは、眠れぬ夜を過ごし、朝が来るのを待ち侘びているかもしれない。しかし、そんな人間たちの感情とは無関係に、この世界は動いている。」(『夜明けのすべて』より)●番外『琵琶湖・島ぐらし-滋賀県・沖島-』(NHK新日本紀行/初回放送1980年)

『Here』(C)Quetzalcoatl
  1. 『HERE』  https://www.sunny-film.com/here
  2. 『ゴースト・トロピック』 https://www.sunny-film.com/ghosttropic
  3. 『夜明けのすべて』 https://yoakenosubete-movie.asmik-ace.co.jp/
  4. 『ジャン=リュック・ゴダール/遺言 奇妙な戦争』 https://eiga.com/movie/100915/
  5. 『すべての夜を思いだす』 https://subete-no-yoru.com/
  6. 『悪は存在しない』 https://aku.incline.life/
  7. 『HAPPYEND』 https://www.bitters.co.jp/HAPPYEND/
  8. 『関心領域』 https://happinet-phantom.com/thezoneofinterest/2dc
  9. 『あんのこと』 https://annokoto.jp/
  10. 『キノ・ライカ 小さな町の映画館』 http://eurospace.co.jp/KinoLaika/

★白坂由里の2024 CINEMA10

コメント:土地や家族にまつわる問題を描いた映画を、その構造、自己決定権や行動原理について知りたくて、フィクションもドキュメンタリーも混ぜこぜに見ていた。1)はスペインのカタルーニャが舞台の、カタルーニャ語の映画。ソーラーパネル建設で立ち退きを迫られる桃農園の最後の夏。2)も同種の問題で、長野県の自然豊かな町に、東京の芸能事務所から、国の助成金目当てのグランピング建設が持ち込まれる。立場の異なる人々がそれぞれどんな行動を取るかという視点は、3)にもある。ベラルーシとポーランドの国境地帯の森で、シリアやアフガニスタンからの難民が右往左往させられた実話がもと。私自身は女医のようにはなれず、理解はするが生活を守る女医の友人どまりか。4)は沖縄の先島諸島で、自衛隊再軍備に抵抗する人々を長年見つめた声と歌の映画。5)は戦没者遺骨収集を続ける“ガマフヤー”、具志堅隆松さんの行動的慰霊に、6)は写真家・石川真生さんの語りから「沖縄」に少しでも近づく。10本のほかに2023年のシネマ10で挙げたときは自主上映だった「春を重ねて/あなたの瞳に話せたら」が、昨年劇場公開されたことを追記したい。同じ映画を繰り返し見る大切さを感じた。

『太陽と桃の歌』 © 2022 AVALON PC / ELASTICA FILMS / VILAÜT FILMS / KINO PRODUZIONI / ALCARRÀS FILM AI
  1. 太陽と桃の歌  https://taiyou-momo.com/
  2. 悪は存在しない https://aku.incline.life/
  3. 人間の境界  https://transformer.co.jp/m/ningennokyoukai/
  4. 戦雲(いくさふむ) https://ikusafumu.jp/
  5. 骨を掘る男  https://closetothebone.jp/
  6. オキナワより愛を込めて https://okinawayoriaiwokomete.com/
  7. どうすればよかったか? https://dosureba.com/
  8. 夜明けのすべて  https://yoakenosubete-movie.asmik-ace.co.jp/
  9. ルックバック  https://lookback-anime.com/
  10. リッチランド  https://richland-movie.com/

★フジカワPAPA-Qの2024 CINEMA10

コメント:音楽映画公開順。1)ジョナサン・デミ監督のトーキング・ヘッズ1983年のライヴ記録が4Kレストア版で復活。2)1967年、米国西海岸での世界初のフェスの記録が4Kレストア版で正式に劇場公開。ジャニス、ジミヘン等圧巻!3)ドラムとドラマーだけのドキュメンタリー。大御所から若手まで叩き語る。4)今年生誕80年のボブ・マーリーの伝記ドラマ。1977年ロンドンでアルバム『エクソダス』を録音する前後を描く。5)今年生誕150年のモーリス・ラヴェルの1928年に作曲の「ボレロ」を巡るドラマ。6)現在LAフィルで 2026年からはNYフィルを振る、ベネズエラ出身の指揮者グスターボ・ドゥダメルを追う記録。7)1969年にミュンヘンでECMレコードを創立したプロデューサー、マンフレート・アイヒャーを追う2009年製作の記録。8)1939年にドイツ人アルフレッド・ライオンがNYで創立したジャズの名門ブルーノート・レコードの、1997年製作のドキュメンタリー。9)フィンランドのメタル・バンドの珍道中を描くドラマ。BABYMETAL出演。10)B.B.キング(今年生誕100年!)や他の歌手のライヴと、若いカップルのドラマが並行し、BLUES とは何か?を掘り下げる。

『ブルースの魂』(C)1973-2022 NEYRAC FILMS
  1. 『ストップ・メイキング・センス』https://gaga.ne.jp/stopmakingsense/
  2. 『Monterey Pop モンタレー・ポップ』http://mp.onlyhearts.co.jp/
  3. 『COUNT ME IN 魂のリズム』https://countmein.jp/
  4. 『ボブ・マーリー:ONE LOVE』https://paramount.jp/bobmarley-onelove/
  5. 『ボレロ 永遠の旋律』https://gaga.ne.jp/bolero/
  6. 『ビバ・マエストロ!指揮者ドゥダメルの挑戦』https://www.viva-maestro-movie.com/
  7. 『ECMレコード - サウンズ&サイレンス』https://www.universal-music.co.jp/sounds-and-silence/
  8. 『BLUE NOTE ハート・オブ・モダン・ジャズ』https://jazzmovies2024.jp/
  9. 『ヘヴィ・トリップⅡ 俺たち北欧メタル危機一発!』https://heavytrip-2.com/
  10. 『ブルースの魂』http://blues.onlyhearts.co.jp/

★福嶋真砂代の2024 CINEMA10

コメント:北陸に拠点を移し3年、母との暮らしにようやく慣れてきたと思った矢先に人生2度目の病気のピンチが。手術もあり映画を観る機会は激減したけれど、映画館で光と影を見つめる時間が何より大切な2024年でした。1)ヴィクトル・エリセ31年ぶりの新作は重く深い「答え」、そしてアナ・トレントの感動的なカムバック。2)バス・ドゥヴォスは暮れゆく街の明かりに揺れる人間のぬくもり。 3)小さな新聞記事に衝撃を受けた入江悠は河合優実の「生」を存分に輝かせた。4)レイチェル・ランバートはなんとなく「死」に惹きつけられる妙齢女性のぎこちない生き方に共鳴。5)娘のDNAをどうするか、そんな難題に還暦すぎた母を直面させたホアン・シー。6)年々異常気象が深刻になる日本もまたヌリ・ビルゲ・ジェイランの過酷な世界に繋がっている。10)フー・ティエンユーは老先生の髪を切る美容師のまっすぐな思いを描く。”優しさ”は必ず誰かがみてるよね。この他にも五十嵐耕平の新作、また空音央の光る才能に出逢えた。劇場の暗闇でときには「死」を、あるいは「生」を考える、そんな贅沢で静かな時間が今年も続きますように……。(リストは順不同、敬称略)

『二つの季節しかない村』(C)2023 NBC FILM/ MEMENTO PRODUCTION/ KOMPLIZEN FILM/ SECOND LAND / FILM I VAST / ARTE FRANCE CINEMA/ BAYERISCHER RUNDFUNK / TRT SİNEMA / PLAYTIME
  1. 『瞳をとじて』https://gaga.ne.jp/close-your-eyes/
  2. 『ゴースト・トロピック』https://www.sunny-film.com/ghosttropic
  3. 『あんのこと』https://annokoto.jp/
  4. 『時々、私は考える』https://sometimes-movie.jp/
  5. 『娘の娘』https://2024.tiff-jp.net/ja/lineup/film/37002CMP05
  6. 『二つの季節しかない村』https://www.bitters.co.jp/2kisetsu/
  7. 『悪は存在しない』https://aku.incline.life/
  8. 『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』https://klockworx-v.com/robotdreams/
  9. 『人間の境界』https://transformer.co.jp/m/ningennokyoukai/
  10. 『本日公休』https://www.zaziefilms.com/dayoff/
●選者プロフィール

・澤隆志:2000年から2010年までイメージフォーラム・フェスティバルのディレクターを務める。現在はフリーランス。パリ日本文化会館、あいちトリエンナーレ2013、東京都庭園美術館、青森県立美術館、長野県立美術館などと協働キュレーション多数。「めぐりあいJAXA」(2017-)「写真+列車=映画」(2018)「継ぎの時代」(2021-)などプロデュース。

・石井大吾:2008年よりDaigo Ishii Designとして活動開始。建築やまちづくりのプロジェクトに携わる。2009-2015年には中野にてgallery FEMTEを運営。 2018年からは株式会社アットカマタの活動にも参加し、2019年に京急梅屋敷にKOCAをオープン。2020年より週の半分は房総半島を拠点に。https://www.daigoishii.com

・松丸亜希子:1996年から2005年までP3 art and environmentに在籍した後、出版社勤務を経てフリーの編集者に。P3在職中に旧REALTOKYO創設に携わり、2016年まで副編集長を務める。2014年夏から長岡市在住。

・前田圭蔵:世田谷美術館学芸課を経て、80年代後半より音楽やコンテンポラリー・ダンスを中心に舞台プロデュースを手掛ける。F/T11、六本木アートナイト、あいちトリエンナーレ2013パフォーミング・アーツ部門プロデューサー、国際芸術祭「あいち2022」パフォーミングアーツ・アドバイザーなどを歴任。旧realtokyo同人。

・白坂由里:神奈川県生まれ、小学生時代は札幌で育ち、現在は千葉県在住。『WEEKLYぴあ』を経て1997年からアートを中心にフリーライターとして活動。学生時代は『スクリーン』誌に投稿し、地元の映画館でバイトしていたので、いまも映画に憧れが……。

・フジカワPAPA-Q:選曲家、DJ、物書き、制作者等。NHK-FMのゴンチチさんの番組「世界の快適音楽セレクション」選曲構成。コミュニティ放送FM小田原の番組制作者として、巻上公一さん等の番組担当。フジロックで開催のNO NUKESイベント「アトミックカフェ・トーク&ライブ」(MCは津田大介さん)制作。等々色々活動中。

・福嶋真砂代:RTC(REALTOKYO CINEMA)主宰。航空、IT、宇宙業界勤務を経てライターに。『ほぼ日刊イトイ新聞』の「ご近所のOLさんは、先端に腰掛けていた。」などコラム寄稿(1998-2008)。桑沢デザイン塾の黒沢清、諏訪敦彦、三木聡監督を迎えたトークイベント「映画のミクロ、マクロ、ミライ」コーディネーター&MC(2009)。RealTokyoやキネマ旬報などに寄稿。2022年より金沢暮らし。

 

TIFF Review『大丈夫と約束して』(第37回東京国際映画祭 コンペティション部門)

母性から旅立つ少年、どんな未来が待つのだろう

文・福嶋真砂代

『大丈夫と約束して』Promise,_I_ll_Be_Fine
※「はてなブログ」仕様によるアンダーバー+リンクはRTCの意図とは関係なく、無視しつつお読みいただければ幸いです。
 
スロバキアのカタリナ・グラマトヴァ監督の長編デビュー作が第37回東京国際映画祭コンペティション部門にてワールドプレミア上映された。スロバキア共和国バンスカー・ビストリツァの山村ウテチカで撮影された、荒削りだがみずみずしく、パワフルな作品だった。市山尚三プログラミングディレクターは「非常にフレッシュで監督第1作とは思えないほど素晴らしい」と多数の応募作品のなかからコンペティション部門上映を決めたという注目作である。
 
山あいの村にある祖母の家で夏休みをすごすエニョ(ミハエル・ザチェンスキー)は15歳、仕事で離れている母(ヤナ・オルホヴァ)をまだ恋しく思う少年だ。シングルマザーの母親は都会で不動産コーディネーターとして忙しく、なかなか会えない。たまに欲しい物を買って会いにきてくれるのを楽しみにしていた。寂しさを紛らわすように村の少年たちとつるんでいたエニョは、ある日、母に関する不快なネット記事を目にした。孤独な高齢者の弱みに付け込み、村の不動産を売っている詐欺師だと書かれ、そこには幸せそうに写るアニョの知らない”恋人”との写真もあった。噂は村人も知ることになり、母への不信感がつのる。反抗期をむかえ大人へと変化する息子、しだいに母との関係性も変化していく。いつまでもこども扱いする母が疎ましく、間に入る祖母にまで反抗してしまうエニョ、気持ちをうまく表現できない鬱憤を晴らすかのように仲間とバイクで疾走する。緑豊かなスロバキアの山々の美しい風景は、彼の心を反映するかのように影が色濃く広がっていく….。
 
新鋭グラマトヴァ監督は本作を撮った動機について、「かつてこの村にあったガラス工場についての短編ドキュメンタリー映画製作がきっかけで、村の人間関係を取材、観察し、本作の設定がうまれました。ロケ地の村はスロバキアらしい村です。かつては工場があり栄えていましたが、閉鎖されて多くの人が職を失いました。閉鎖後村に残った人たちは、仕事がなく社会奉仕をしています。ドキュメンタリーを撮る中で、老人たちが自分の家を売って住み着いたという話を聞いて、この物語を思いつきました。」と興味深い話をインタビューで話している。
 
地元の少年たちを起用したというキャスティングについて、とりわけエニョを演じたザチェンスキーのまなざしに惹かれたという。憂いのある表情と強いまなざし、ナイーブな演技が印象に残る。監督は2ヶ月にわたって村で暮らしながら、彼らとの信頼関係を築いたという。しかして映画には村に流れる日常の空気がよく溶け込んでいる。さらに象徴的にアップになる牛のまなざし(監督は”母性”の象徴と説明)にも胸騒ぎがする。

『大丈夫と約束して』Promise,_I_ll_Be_Fine
美しい山々の緑を背景に4人の少年がバイクで疾走し、村から街へと移動するシーンが素晴らしい。「この世界を抜け出して新しい自分を見つけたい」という青い衝動がスクリーンから迸る。あたかもエドワード・ヤン監督がスクリーンに焼き付けた若者たちの熱情に重なるように感じた。ラストに至るスリリングなシークエンスは、母性からの旅立ちの先、ひいては”大丈夫とはいえない”この不確実な世界の未来に、さまざまに想像力が掻き立てられるのだ。
 
Information:
監督/脚本/編集/原作:カタリナ・グラマトヴァ
プロデューサー/原作:イゴール・エングラー
キャスト:ミハエル・ザチェンスキー、ヤナ・オルホヴァー、エヴァ・モレス、アダム・シュニアー、ドミニク・ヴェトラーク、ユリウス・オルハほか
92分/カラー/スロバキア語/日本語、英語字幕/2024年/スロバキア/チェコ

 ■第37回の受賞結果はこちら

2024.tiff-jp.net