灯台のようなデリでひと息、人生はまだまだ続くから
文・福嶋真砂代

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ホアン・シー監督最新作の『娘の娘』が東京国際映画祭コンペティション部門にて上映された。前作『台北暮色』(『ジョニーは行方不明』として東京フィルメックス2017 コンペティション部門出品)では繊細な人物描写や叙情豊かな作風に惹かれた。本作も違わず、人間味、親密さ、そして優しさ、ある種の楽観、「ああわかる。」と思わず口に出る秀作。没入しながら、人生にとって大切なことを見つめ直す時間を過ごした。
『娘の娘』はホウ・シャオシェンと共にエグゼクティブプロデューサーを担うシルヴィア・チャンが主演。台北とニューヨークをベースに暮らす女三代のシルビアは真ん中世代、母のアイシャを演じる。ある日、アイシャの母親が骨折して台北の病院に入院する。認知症も進んだ老いた母の介護が日常になり、人生のフェーズの変化をじわり感じていた。病室にはコンサバティブな長女のエマ(カリーナ・ラム)が見舞いに駆けつけ、そこへ「ハロウィンかい?」と祖母も驚く派手なメイクの妹ズーアル(ユージェニー・リウ)が遅れて顔を出す。正反対なイメージの姉妹は、ひさびさの再会のよう。それから間もなく、アイシャの元に「NY在住のズーアルがパートナーと共に自動車事故で亡くなった」と知らせが飛び込む。気持ちが動転したままNY行きの飛行機に乗り込むアイシャ……。

エマと合流しズーアルが住んでいたアパートメントの部屋に到着すると、そこには母の知らないズーアルの生活が息づいていた。気落ちしたまま遺品整理をするエマとアイシャ。過去の記憶が手繰り寄せられると、エマはずっと胸に秘めてきた疑問をアイシャに投げかける。「私を養子に出したとき、どんな気持ちだったの?」まるでブロードウェイの舞台劇のような臨場感、緊迫したセリフと長い沈黙、思いを秘めた両者の心がぶつかり合う刹那、思わず胸がいっぱいになるシーンだ。
家族とは、日頃たあいのない会話は交わしても本音をなるべく避けてしまう。それが平穏に暮らすコツでもあり、また誤解が生まれる理由でもあり。良くも悪くも「ズーアルの喪失」をきっかけに、これまで話せなかったことを話し、いつしか距離が縮まっていく母と娘。筆者の個人的感想だが、この赦しのプロセスはズーアルの願いだったのではないか。その上、ズーアルからのさらなる「課題」がアイシャにふりかかる。それは未来の話、ズーアルが人工授精で遺した"子ども"を迎えるか否か。はて還暦をすぎたアイシャの決断は…….?
マンハッタンのチャイナタウン、アイシャがしばしば立ち寄る街角の小さなデリカフェがある。暗闇に浮かび上がる灯台のように佇んでいる。一杯のコーヒーに心を温め、自分を労り自分に戻る、そしてまた歩き出す。人生はその繰り返しなのかもしれない。疲れたアイシャに「がんばれ」とそっと背中を押す。こうして観客は人物の気持ちの機微に知らず知らずにシンクロしていく、ホアン・シー作品独特のマジックだ。『台北暮色』に味わったあの充実感が蘇る。ところで、電話の声の出演からはじまり、常に温かく家族に寄り添う隠れたキーマン「ジョニー」の存在も忘れられない。あ、そうか、ジョニーはここにいたのですね。
第37回東京国際映画祭の受賞はのがしたが、筆者としては最高点をつけた本作。ぜひぜひ早い日本公開を願う。
Information:
監督/脚本:ホアン・シー
キャスト:シルヴィア・チャン、カリーナ・ラム、ユージェニー・リウ
エグゼクティブ・プロデューサー:ホウ・シャオシェン、シルヴィア・チャンほか
126分カラー北京語、英語日本語、英語字幕2024年台湾
キャスト:シルヴィア・チャン、カリーナ・ラム、ユージェニー・リウ
エグゼクティブ・プロデューサー:ホウ・シャオシェン、シルヴィア・チャンほか
126分カラー北京語、英語日本語、英語字幕2024年台湾