REALTOKYO CINEMA

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TIFF Review:『山女』(第35回東京国際映画祭 コンペティション部門)

本年は、私事で恐縮ですが家族を失うという受け止め難い現実に直面しつつ、映画祭で出会った映画に個人的な経験と感情が呼応し、「喪失」や「不在」、そして「再生」という現象が骨の髄に深くに突き刺さるような映画体験がありました。とは言え受賞作品のほとんどは見逃してしまい残念でしたが(第35回の受賞作品については公式サイトにてチェックよろしくお願いします。公開を楽しみにしています)、鑑賞できたなかで強烈な印象を残してくれた作品についてレビューを掲載します。

取材・文:福嶋真砂代

『山女』(コンペティション部門)

(C)YAMAONNA FILM COMMITTEE
■民話に伝わる自然への畏怖

粗末な小屋に、姉の凛(山田杏奈)と弟の小吉、そして父親(永瀬正敏が身を寄せ合って暮らしている。手探りでしかわからないような暗闇のなかで、父は子どもたちに見せたくない“穢れ”の仕事の手元を隠そうと、苛立ちながら「見るな!」と叱る。そうは言っても小吉は盲目で、姉だけをたよりに生きている。母は不在であり、姉はその名のとおり「凛として」(山田の眼差しがすばらしい)家事を切り盛りしているが、まだ幼さが残る少女は父の怒声に怯えている。ある日、父の犯した罪の濡れ衣を着せられた凛は沈黙を守り、たったひとりで山へと入っていく。その先には山神様が棲み、踏み入る者は二度と還ることはできないと、村人が恐れる一線を越えて

アメリカをベースに作品制作をしてきた気鋭の福永壮志監督が、「遠野物語」にインスパイアされてオリジナル脚本(共同脚本・長田育恵)を練り上げた作品。スクリーンから溢れ出るとてつもないエネルギー、狭い社会に生きる人間の「畏れ」から生じる愚行、つまり差別や男尊女卑という現代に通じる問題について、殊更にものごとをジャッジをするのではなく、「そんな時代があった」という民話のエッセンスを巧みに取り入れて描く。どの瞬間も潔く、鮮やかな筆致が心に残る作品だ。世界がパンデミックに揺れるなかで、集団が個を追い詰めるという社会状況を脚本に反映させたのだと福永が語るように(TIFF公式インタビュー)、遠い昔の知らない土地の出来事がふと身近なことに重なっていく。

■生と死、再生について

福永監督は、昔々の生活を想像し、ほとんどのシーンを自然光で撮影することに決めたという。それだけに山の木立から漏れる光の美しさ、木々の風に揺れる様がある種の「エネルギー」として映り込んでいるように感じる。

凛は、どうやら村では蔑まれる家族の娘として、また強い父親のもとで、ひっそりと自身を押し殺して暮らし、生きながらの「死」を感じざるを得ない。しかしそんななかでも自然の美しさを感受し、りんどうの花を自分の「生」として弟に渡し、「命のつながり」の希望を託す。父はある事件を起こし村人たちから咎められ、凛がその罪を引き受ける(身勝手な父に比べてなんと潔いのだ!)。幼い盲目の弟に気持ちを残しながら、しかし凛の決意は固い。人々が畏れる「祠」を越え、足を痛めながら山の奥へ踏み入っていく。そこに登場するこの世のものとは思えない風貌をした謎の男。踊るように、陽炎のように現れる、森山未來演じる神秘的な「山男」によって、凛はこの世で初めて「生」の喜びを感じるのだ。その喜びもつかの間、飢饉にあえぐ村人たちが探す「生贄」として凛は再び村に戻される。あたかもイエス・キリストのごとく「死」を受け入れ、どこまでも潔い凛。絶体絶命と思われたそのとき、おどろおどろしい雷鳴が轟く。異界と現世の境界を行き来する民話のダイナミズムを表現し、流れる独特のリズムはグルーブ感と言ってもよいような“うねり”を生み出す。そのうねりが導く幸福な感覚、それは自然と闘い、自然の恵みを享受して生きてきた土臭い日本人のルーツに触れた懐かしさであり、この作品に出会えた満足感でもあったように思う。

福永監督の過去作、『リベリアの白い血』(2017)や『アイヌモシリ』(2020)などにさかのぼり才能の源流に触れたくなる、さらには新作に大いに期待したくなる一作だ。

Information:

『山女』

2022年/日本・アメリカ/100分/カラー/シネマスコープ/5.1ch
山田杏奈 森山未來 永瀬正敏
監督:福永壮志 
プロデューサー:エリック・ニアリ 三宅はるえ 家冨未央 
脚本:福永壮志 長田育恵 
撮影:ダニエル・サティノフ 
音楽:アレックス・チャン・ハンタイ 
制作プロダクション:シネリック・クリエイティブ ブースタープロジェクト 
国際共同制作:NHK 
配給:アニモプロデュース

2022.tiff-jp.net

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