REALTOKYO CINEMA

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Review 002『聖の青春』

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(C)2016「聖の青春」製作委員会

決して出しゃばらず、最適なボリュームで最高の音色を奏でながら、登場人物の気持ちに寄り添う音楽が心地よく、「音楽、誰だろう?」と観ていると、最後のクレジットで半野喜弘だったことを知る。ジャ・ジャンクーホウ・シャオシェン作品の音楽も手がける音楽家、半野が初監督した『雨にゆれる女』と同じ日に公開になるのも何かの巡り合わせだろうか。若き天才棋士の短くも全力疾走した人生を表現し、優しく繊細に、しかしセンチメンタルに陥ることのない確かな音楽が耳に残る。

1998年に29歳で生涯を閉じた天才棋士村山聖のまさに疾風怒濤の人生。難病との闘いと将棋盤上の闘い、明確な目標と生きる意味を追い続けた最期の4年間にフォーカスして描かれる。家族、将棋以外の楽しみ、どんな部屋で、何を食べて生きていたのか、さらに聖を支えた人たちとの関係性のエピソードが物語を肉付けする。原作は「将棋世界」編集長だった大崎善生のデビュー作にして新潮学芸賞受賞作。脚本は向井庸介、森義隆が監督した。

さて村山聖の生涯のライバル羽生善治東出昌大が巧妙に演じている。資料を鑑賞前に読むと「ヒロイン」という言葉が目に入り、「ヒロイン?」「東出さんが?羽生さん役で?」と気になった。その登場の仕方、村山がとる微妙な距離感。近づきたいのに近づけない。でも力を振り絞って話しかけたり、対戦後に意を決して食事に誘う。モジモジと健気な村山に、プライド高い「姫」のような羽生の佇まいと振る舞い。「ヒロインだ」と思った。ある意味、男だらけの、殺風景になりがちな勝負の世界、そんななかで村山が羽生に抱く憧憬を「恋」と捉える感性がいい。これは近くで見ていた原作者の大崎の感覚なのか、映画制作陣の感覚なのか、原作をあたるべきだろうけど、映画として森監督と脚本の向井の密かな企みだとしたら、松山と東出の理解力、表現力は素晴らしい。リアルに羽生善治棋士から当時のメガネを譲り受け、本人の魂が乗り移ったような東出はこれまでどの作品よりも妙味が出ているように思う。そしてもちろん、デ・ニーロアプローチのごとく身体的、精神的に自分を追い込んで「村山聖」を演じた松山ケンイチの覚悟がなければすべては成立しない。父母役の竹下景子北見敏之、弟弟子の染谷将太、師匠のリリー・フランキー、他にも柄本時生安田顕、ひさしぶりにみる筒井道隆も、無駄なくしっくりくるキャスティングと感じる。千駄ヶ谷のクラシックな将棋会館もロケ地探訪者でしばらく華やぐのかもしれない。

 福嶋真砂代★★★★

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(C)2016「聖の青春」製作委員会

 

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