REALTOKYO CINEMA

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Report 001『アズミハルコは行方不明』TIFF2016 記者会見

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(C)2016「アズミ・ハルコは行方不明」製作委員会

山内マリコの小説を原作に松居大悟監督が大胆に演出(脚本は瀬戸山美咲)。アニメーションやプロジェクションマッピングを組み込んだポップな映像と環ROYのヒップホップ音楽が降り注ぐ。異なる時間軸のエピソードをフラグメント化、観客を混乱させるのは狙いでないとしながら、理解しようとして座席の背もたれから「思わずスクリーンに近づくような劇場体験」を促すような作りを試みた。確かにアズミハルコSIDE、愛菜+キルロイSIDEが交わることはなく、「失踪」という事象をカナメに繋がる現実が隠されるままストーリーが進み、意外な結末が...。挿入されるアニメーションは『スプリング・ブレイカーズ』(ハーモニー・コリン監督)、さらに『パルプ・フィクション』のような感覚的に訴える”肌触り”を意識していたという監督の言葉にこの映画のひとつの楽しみ方を示唆する。作中のグラフィティユニット「キルロイ」のふたり(大賀、葉山奨之)と松居大悟監督を迎えた東京国際映画祭2016での記者会見採録を掲載します。MCは笠井信輔アナウンサーが担当。

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(c)2016 TIFF

スタッフの女性たちにもみくちゃにされながら答えを探した

MC: この作品は地方で悶々とする若者たちの行き場のない思いが思いがけない方向に走り出し、捻れた思いがほとばしる痛々しくも鮮烈な青春ムービーでした。ゲストのみなさん、まず一言ずつお願いします。

松居大悟監督(以下、松居):いまの時代の日本映画というものは何だろうと考えながら、自分と同世代の人たちと一緒に心をこめて作りました。

大賀:ユキオ役を演じました大賀です。僕は個人的な話ですけど、松居監督とは4作品ほど一緒に作っていまして、『アズミハルコは行方不明』は松居さんについてきて本当によかったなと心から思える作品です。スタッフ、キャストが一丸となって作った渾身作です。

葉山奨之(以下、葉山):こんなに記者の人が近くだと緊張しますね。今日は楽しみたいと思います。よろしくお願いします。

MC:キルロイがポスターを描く場面とアズミハルコの事情を時制をずらしながら編集していくという、いくらかの混乱と映画のうねりが魅力的な構成でしたが、そのご苦労と、台本どおりに繋げているのかどうかというのもお話下さい。

松居:原作小説は時系列どおりで、それを文字で読んだときはすごくおもしろかったのですが、これを生身の役者が演じるとなったとき、「こういう理由で行方不明になった」というふうに見えてしまって、そのようにこの映画が見えてほしくなくて、行方不明に関しての理屈だったり、理由も感じてほしくなかったし、キルロイたちが衝動的にやる行為よりも、その行為を人に認められたり、見られることへの価値基準がちょっとずつズレているというところを意識的に作っていました。ですのでエピソードを短冊のように切って、脚本でも15回くらい、編集でも15回くらい、いや30回以上時系列はいじっていたのですが、明確な答えやこういうことが伝えたいというのは僕には、女性のことはわからないので、プロデューサーだったり編集スタッフが全員女性でしたから、その方々にもみくちゃにされながら、とっかかりというか答えをずっと探していった感じです。

MC:ということは、決定稿の脚本と完成した映画ではかなり変わっていると考えていいのですか?

松居:そうですね。編集の段階で、撮れた画のなかで必要なくなったところもあったので、変化したと思います。

大賀:出来上がった映画を観たときは、脚本とまったく違うもののように感じるくらい、こんな作品になっているんだという気づきがあったと思います。

葉山:僕は小説を先に読んでいたので、台本をみてこんなにも違うんだと、まったく違う作品を作っているような感覚でした。さらに出来上がりを観ると、かっこよくなっていたと思います。

スクリーンにぐっと近づくような劇場体験をしてほしい

会場記者:アズミハルコの人生で起きていることというのは、すべて彼女が行方不明になる前に起きていることかと思うので、本当にそれを時系列的にみせる必要があるのかは疑問に思う所で、印象的、感覚的に見せたかったのでしょうか。

松居:それが正しいのか正しくないかということは正直わからないのですが、観客にとって、戸惑ったり、混乱したりということすらも、僕は感じていいと思っています。きっと男女の違いだけでも感じ方は違うと思うし、そのような意味で、こちら側がむしろ「こういうふうに感じてほしい」と提示してはいけないと思っていたので、混乱させることが狙いだったわけではないのですが、(理解しようとして座席の背もたれから)スクリーンにぐっと近づくような劇場体験をしてほしいというような思いで作りました。

MC:今回強烈に弾けている愛菜役の高畑充希さんでしたが、大賀さんはご一緒に演じられていかがでしたか?

大賀:高畑さんは普段は愛菜とはかけ離れて、地に足のついた賢い女性なのですが、いざ愛菜を演じると、きっと本人は悩んでいらしたとは思いますが、軽々とご自身とは違う愛菜を演じることの説得力を持って僕の前で対峙してくれていました。ユキオの出演シーンはほとんど愛菜が一緒だったので、愛菜に助けられた部分があったと思います。

MC:キルロイのおふたりは、撮影中にはアズミハルコには会ってないですよね……。

葉山:撮影中には蒼井優さんとは、ビデオ屋ですれ違うシーンがありました。何度かすれ違いました。

「自分たちの無自覚さが人を傷つけて心を痛ませた」という発見があった

MC:タイトルロールとなっているアズミハルコ側のシーンを初めて観てどんな感じでしたか?

葉山:僕は蒼井優さんのファンだったので、同じ作品に出演できたことに「俺、よかったな」と思いました。まずそういう一般的な感覚で楽しませてもらって、僕は直接はアズミハルコとはそんなに絡んでいないのですが、自分たちのせいでこういうふうになっちゃったということが、作品のなかで繋がっていくので、自分たち3人組がやってしまったことが、こんなにデカイことなんだと、でもそれをあまり感じていなくて、感じないほうがよりキルロイとして爆発するんじゃないかと思っていたので、この物語を見て、「ここまでこの”Missing(行方不明)”に対して絡んでいたんだな」というのはすごく感じました。

大賀:僕たちーユキオ、学、愛菜ー3人でのシーンは、若さゆえにいま自分たちがやりたいことを全開で楽しんでいくシーンの連続だったと思うんですが、完成した映画を観たときに、僕たちが知らないアズミハルコ側のストーリーがあるなかで、いかに自分たちが楽しんでやっていたことがひとりの女性を傷つけたかということ如実にわからされたというか、もちろん直接的に蒼井さん演じるアズミハルコがそれを感じていたかを描いてはいませんが、やっぱりこういう自分たちの無自覚さが人を傷つけて心を痛ませていたんだなと感じたんです。だから完成した映画を観て、僕らがいかにクズだったかを思い知らされ、そういうふうにアズミハルコを映画には描かれているような気がして、自分が盲目であったことがこの映画に刻まれているような気がして、その発見は、この映画をやってよかったなと思います。

会場の中国人記者:以前、李相日監督が蒼井優さんをサッカーのロナウジーニョ選手に例えていらしたように思いますが、松居監督はどのように思いましたか。

松居:僕は、桁違いというか、化けもののような、ゴジラ的な、規格外の存在のように感じました。

会場記者:この作品を観て勝手にスタンリー・キューブリック監督の『時計じかけのオレンジ』を感じていたのですが、松居監督は何かインスパイアされたり、意識した映画はありますか。

松居:この原作で女子高生たちが観ている映画はハーモニー・コリン監督の『スプリング・ブレーカーズ』で、女の子が男をぶち殺すというアニメーションだったのですが、作品の肌触りでいうと、意識したわけじゃないのですが、『パルプ・フィクション』的な、理屈ではなくて感覚的におもしろいというふうに構成されたらいいね、ということは話してました。

MC:大賀さん、葉山さん、いたずら描き(グラフィティ)は気持ち良いものですか?

大賀:そうですね~、最高に気持ちいいですね。

葉山:そうですね。本番中、エネルギーが有り余っている状態で演技したので、本当に興奮してやりました。本番一発でしかできないものだったので。けっこう長回しで何ヶ所も、「ここに描いても大丈夫ですか?」っていうところまで、神社とか、罰当たりそうなところでも描いてましたから。

MC:松居監督、それらを消す作業は大変でしたか。

松居:そうですね。場所によりましたね。愛のある現場だとそのままでよくて、いまも現場に残っていたりしますが、どうしてもマズイものは薄いビニールを敷いてわからないように加工して剥がしたりとか、高架下のグラフィティはみんなで消しました。

 (#この記者会見は2016年10月30日に行われました)

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(C)2016「アズミ・ハルコは行方不明」製作委員会

突如、街中に拡散される、女の顔のグラフィティアート。無差別で男をボコる、女子高生集団。OL安曇春子(28)の失踪をきっかけにひとつの街で交差する、ふたつのいたずら。なぜハルコは姿を消したのか?(TIFF2016サイトより)

azumiharuko.com

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