REALTOKYO CINEMA(RTC)はおかげさまで6年目を迎えました。さてお待ちかね、新年恒例CINEMA10は、今年も多彩な分野の選者7名(澤隆志、石井大吾、松丸亜希子、前田圭蔵、白坂由里、フジカワPAPA-Q、福嶋真砂代)による個性豊かなラインナップ(ジャンル、形態、公開年問わず、2021年に観た映画から10本を選びました)が揃いました。2021年を振り返りつつ、お楽しみいただければ幸いです。予測不能のパンデミック、国際情勢、異常気象に翻弄される時代に、地球の悲鳴に耳を澄まし、日常の小さな幸せを大切に、これからもさまざまな映画にアンテナを立てていきたいと思います。2022年もRTCをどうぞよろしくお願いいたします。
※アンダーバー+リンクはRTCの意図とは関係なく「はてなブログ」仕様によるものです。無視しつつお読みいただければと思います。
<2021 RTC CINEMA10>
★澤 隆志の2021 CINEMA10
コメント:1が元旦から公開スタートしたことが象徴的な2021年のほぼ見た順。「My body is my story」とは8の引用だが今年の10作全てに通底する。1も4も「家」に食われそうになる女の抵抗。3、7、10は学校や工場といった男コミュニティでの女の抵抗を描く! 国民—移民-難民の線引きを依然ほったらかしにしている我が国の齟齬について、2はワイズマンのドキュメンタリーの様でいて実は周到なドラマ作品、6は北野武「キッズ・リターン」然とした青春映画に映るが紛うことなきドキュメンタリー。両者の突きつける現実は、今も未解決で、とても痛い。 身体の先天的、後天的変調を描く作品。5は目の見えない白鳥さんに付き添って監督などが対話型鑑賞をする。僕の見た回は視覚障害者向けコメンタリー付き上映。劇中の個人的な関係性の上での作品描写と、コメンタリー上の客観的描写。二者の微妙な差異がとても面白い。9は、認知症患者の迫真の演技を描くのではなく、編集のトリックを用いて映画的に認知症の世界認識を仮想体験させるという逆転が効奏している。 他者や制度の管理下にあるMy body を奪還する作品に惹かれた年であった。
- 『スワロウ』http://klockworx-v.com/swallow/ (https://www.amazon.co.jp/dp/B093G61W8X/)
- 『海辺の彼女たち』https://umikano.com/
- 『女の子たち 紡ぐと織る 寺尾紗穂、青葉市子、小林エリカ 』at 隅田川怒涛https://dotou.tokyo/news/229/ (https://www.youtube.com/watch?v=kb_UKVbi7m0)
- 『あのこは貴族』https://anokohakizoku-movie.com/ (https://www.amazon.co.jp/dp/B095MG2RTP/)
- 『白い鳥』https://topmuseum.jp/contents/new_info/index-4183.html (https://theatreforall.net/movie/awhitebird/)
- 『東京クルド』https://tokyokurds.jp/
- 『プロミシング・ヤング・ウーマン』https://pyw-movie.com/ (https://www.amazon.co.jp/dp/B09JLB4RGH/)
- 『Flos Pavonis』百瀬文 at 新・今日の作家展2021 日常の輪郭https://ycag.yafjp.org/exhibition/new-artists-today-2021/
- 『ファーザー』https://cinerack.jp/thefather/(https://www.amazon.co.jp/dp/B09BQLDZF2/)
- 『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノat イメージフォーラム・フェスティバルhttp://www.imageforumfestival.com/2021/program-h3(https://unluckysex-movie.com/)
★石井大吾の2021 CINEMA10
コメント:音楽映画が多く悩みます。映画が音楽の価値を掘り出し、歴史を編集するようです。『フィッシュマンズ』では彼らの音楽が鮮烈に甦ると同時に90年代がはるかノスタルジーであることを突き付けられるようでもありました。全体的には心の底の方をザワザワとさせる映画が多かったように思います。場所や時間、記憶というものを意識させるのでしょうか。時の流れというものは嫌でも世界を更新し、強固に構築していきます。私はあまり夢を見ないのですが、『サマーフィルムにのって』の観賞後、影響をもろにくらって未来から来た人に提言を受けるという夢を見ました。その世界では経済的にも環境的にも牛丼や豚丼(なぜ丼なのかはわかりません)を食べることがもはや難しく、もやし丼が食事の最高の選択肢でした。そのときに備えて私は美味しいもやしの研究者への道を歩んでいました。見ていない方には何のことやらかもしれませんが、さて映画の未来は。
- 『ドライブ・マイ・カー』https://dmc.bitters.co.jp/
- 『フィッシュマンズ』https://fishmans-movie.com/
- 『春を告げる町』https://hirono-movie.com/
- 『街の上で』https://machinouede.com/
- 『逃げた女』https://nigetaonna-movie.com/
- 『アイヌモシリ』http://ainumosir-movie.jp/
- 『ブータン 山の教室』https://bhutanclassroom.com/
- 『アジアの天使』https://asia-tenshi.jp/
- 『春江水暖』http://www.moviola.jp/shunkosuidan/
- 『サマーフィルムにのって』https://phantom-film.com/summerfilm/
★松丸亜希子の2021 CINMA10
コメント:新潟県長岡市に移住して8年目、2020年に引き続き、県内から一歩も出ずに終わった2021年。前年に折れた脚を1年余にわたり支えてくれた金属プレートを抜釘手術で取り出し、コロナ禍の最中に全身麻酔の手術を2回も経験してしまいました。このリストは劇場で見て印象的だった作品を観賞順に並べたもの。新潟では上映予定がないとか、だいぶ遅れて上映されるとか、じっと待つことや諦めることにも慣れたけれど、濱口竜介監督の2作品を早めに見られてよかった!
- 『すばらしき世界』https://wwws.warnerbros.co.jp/subarashikisekai/
- 『あのこは貴族』https://anokohakizoku-movie.com
- 『ノマドランド』https://searchlightpictures.jp/movie/nomadland.html
- 『JUNK HEAD』https://gaga.ne.jp/junkhead/
- 『夏時間』http://www.pan-dora.co.jp/natsujikan/
- 『くれなずめ』https://kurenazume.com
- 『最後にして最初の人類』https://synca.jp/johannsson/
- 『ドライブ・マイ・カー』https://dmc.bitters.co.jp
- 『逃げた女』https://nigetaonna-movie.com
- 『偶然と想像』https://guzen-sozo.incline.life
★前田圭蔵の2021 CINEMA10
コメント:生きていると、映画のワンシーンのような場面に出くわすことがある。感情が揺り動かされ、意識が幽体離脱のように自分のカラダから少し遠のき「なんだか映画のようだな」とふと思う・・・そんな瞬間に出くわすことがある。ごくまれに出くわすそんな場面は、もちろん「007」のような派手な場面なんかではない。一見さして変化のない日々の営みや、通勤や旅のさなかなどで、まるで映画のような予期せぬ場面に遭遇し、それがすぐには言葉にはならないけど自分にとって明らかに大切な“何か”を呼び覚まされる・・・。映画を観続けているのは、なかなか思い出せなかったり気づけなかったりする、そんな大切な“何か“に気づかせてもらいたいからなのかもしれない。だから、僕の中では映画と日常は地続きで離れ離れになりようがない。
- 『すばらしき世界』https://wwws.warnerbros.co.jp/subarashikisekai/
- 『逃げた女』https://nigetaonna-movie.com/
- 『アメリカン・ユートピア』https://americanutopia-jpn.com/
- 『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』https://gaga.ne.jp/amazing-grace/
- 『春江水暖』http://www.moviola.jp/shunkosuidan/
- 『ドライブ・マイ・カー』https://dmc.bitters.co.jp/
- 『Shari』https://shari-movie.com/
- 『リル・バック ストリートから世界へ』http://moviola.jp/LILBUCK/
- 『風櫃の少年』https://www.ks-cinema.com/movie/taiwan2021/
- 『偶然と想像』https://guzen-sozo.incline.life/
★白坂由里の2021 CINEMA10
コメント:『梅切らぬバカ』の和島香太郎監督は、数年前にドキュメンタリー映画の編集に携わったときに描けなかった出来事が心に残り、フィクションとしてなら描けるかと思ってこの映画を制作したという。書けないことを物語化する動機はよくわかる。また、言葉でうまく表現できなかったり、何かを呑み込んでいたりする人物が開示する作品を選びがちかも。『ドライブ・マイ・カー』の運転手も、語らずに亡くなった人と残された人の物語も同様に。外国人技能実習生の実話に基づく『海辺の彼女たち』では、俳優とカメラマンの身体性に引き込まれながら見た。『由宇子の天秤』は誰でも「明日から」を失いたくない中で、自分はどうあろうとするかを問われる作品だ。むしろ聞き役のセルヒオ(『83歳のやさしいスパイ』)を手本としたいところだが。一方、箱庭的なフレーム内世界『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』は、行ったことのない向こう岸を怖がったり、誰かを排斥することで回ったりする楽隊とか寓話的で巧みだ。でもやっぱり『ノマドランド』のような移動の映画がいいなあ。叫んでも誰にも咎められない大地。迷ったら自然に聞いてみるのが一番だ。(リストは順不同)
- 『梅切らぬバカ』https://happinet-phantom.com/umekiranubaka/
- 『ドライブ・マイ・カー』https://dmc.bitters.co.jp/
- 『海辺の彼女たち』https://umikano.com/
- 『由宇子の天秤』https://bitters.co.jp/tenbin/
- 『83歳のやさしいスパイ』http://83spy.com/
- 『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』https://www.bitters.co.jp/kimabon/
- 『ノマドランド』https://searchlightpictures.jp/movie/nomadland.html
- 『羊飼いと風船』https://www.bitters.co.jp/hitsujikai/
- 『へんしんっ!』https://henshin-film.jp/
- 『ミナリ』https://gaga.ne.jp/minari
★フジカワPAPA-Qの2021 CINEMA10
コメント:音楽系を中心に。①デイヴィッド・バーンのブロードウェイ舞台をスパイク・リーが監督。11人の音楽家の動きと音が最高!②NYが舞台のリン=マヌエル・ミランダ原作作詞作曲のラテン・ミュージカル舞台をジョン・チュウが映画化。③アイスランド出身の作曲家ヨハン・ヨハンソン(1969~2018)が監督・音楽を手がけ、旧ユーゴの戦争記念碑群を撮影したSF。④1969年夏、NYハーレムで開催された黒人音楽フェスの記録。凄い顔ぶれによるライヴが圧巻。⑤1974年に製作された、フロム土星のサン・ラー師匠が主演・脚本・音楽を担当したSF。アーケストラの演奏場面も。⑥ジョン・コルトレーン生誕95周年記念のドキュメンタリー。かの四重奏団はやはり最高!⑦ミュージカル『レント』の作者を描くドラマで、②のミランダが監督。スティーヴン・ソンドハイムも登場。⑧民主化運動に参加する、LGBTQの現代香港ポップス歌姫の活動を追うドキュメンタリー。FREE HK!⑨ジョン・ベルーシの夫人が全面協力した貴重な素材満載のドキュメンタリー。ブルース・ブラザーズは最高だった!⑩ジェニファー・ハドソンがアレサ・フランクリンを演じるドラマ。アレサの歌は永遠に!(リストは五十音順)
- 『アメリカン・ユートピア』http://americanutopia-jpn.com/
- 『イン・ザ・ハイツ』https://wwws.warnerbros.co.jp/intheheights-movie.jp/
- 『最後にして最初の人類』https://synca.jp/johannsson/
- 『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』https://searchlightpictures.jp/movie/summerofsoul.html
- 『サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイス』http://sunra.jp/
- 『ジョン・コルトレーン~チェイシング・トレーン』https://www.universal-music.co.jp/john-coltrane-chasing-trane/
- 『tick, tick...BOOM!:チック、チック…ブーン!』https://www.netflix.com/jp/title/81149184
- 『デニス・ホー~ビカミング・ア・ソング』http://deniseho-movie2021.com/
- 『BELUSHI ベルーシ』http://belushi-movie.com/
- 『リスペクト』https://gaga.ne.jp/respect/
★福嶋真砂代の2021 CINEMA10
コメント:ダンスの振りを忘れて焦る奇妙な初夢に冷や汗、踊りながら(笑)選びました。1)33歳にしてこの成熟度、“山水絵巻”のような繊細かつダイナミックな作風に驚嘆。2)しのび寄る戦争の恐怖を“ぼんやりきまじめ”に描く独特の世界観、三木聡や鈴木卓爾、ロイ・アンダーソンにも通じるタッチ。3)“ハウスレス”に生きる人々、黙示録のようで震える。4)本の運命を問う映画、本屋よ永遠に!5)スパイク・リー監督によるデイヴィッド・バーンライブ映画化は永久保存版。6)私のBGMにジューキンが加わった。愛と努力が人生を決める。7)「吉開菜央」の魅力が詰まる宝箱。インタビューで感じた彼女の体温も印象的。8)ライブハウス火災事故後に病院で死者が続出。ルーマニアの闇は他人事ではない。9)フレデリック・ワイズマン監督(91歳)の冷めない情熱。「俺は“映画”を撮っている」のズーム対談取材も楽しかった。10)山内マリコ原作をエンターテインメントに仕上げた岨手由貴子監督、日本の階層社会に痛快に切り込んだ。番外)『理大囲城』(YIDFF2021大賞)大学立て籠もりを学生自ら撮影した壮絶ドキュメンタリー。香港に向かって祈るのみ。(リストは順不同)
- 『春光水暖』http://www.moviola.jp/shunkosuidan/
- 『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』https://www.bitters.co.jp/kimabon/
- 『ノマドランド』https://searchlightpictures.jp/movie/nomadland.html
- 『ブックセラーズ』http://moviola.jp/booksellers/
- 『アメリカン・ユートピア』https://americanutopia-jpn.com/
- 『リル・バック ストリートから世界へ』http://moviola.jp/LILBUCK/
- 『Shari』https://shari-movie.com/
- 『コレクティブ 国家の嘘』https://transformer.co.jp/m/colectiv/
- 『ボストン市庁舎』https://cityhall-movie.com/
- 『あのこは貴族』https://anokohakizoku-movie.com/
●選者プロフィール
・澤隆志:2000年から2010年までイメージフォーラム・フェスティバルのディレクターを務める。現在はフリーランス。パリ日本文化会館、あいちトリエンナーレ2013、東京都庭園美術館、青森県立美術館などと協働キュレーション多数。「めぐりあいJAXA」(2017-)「写真+列車=映画」(2018)などプロデュース。
・石井大吾:fuse-atelier、blue studioを経て2008年よりDaigo Ishii Designとして活動開始。建築、インテリア、家具などのデザインを手がける。2009-2015年には中野にてgallery FEMTEを運営。 2018年からは株式会社アットカマタの活動にも参加している。2019年、京急梅屋敷にKOCA(http://koca.jp)をオープン。https://www.daigoishii.com/
・松丸亜希子:1996年から2005年までP3 art and environmentに在籍した後、出版社勤務を経てフリーの編集者に。P3在職中に旧REALTOKYO創設に携わり、2016年まで副編集長を務める。2014年夏から長岡市在住。
・前田圭蔵:世田谷美術館学芸課を経て、80年代後半より音楽やコンテンポラリー・ダンスを中心に舞台プロデュースを手掛ける。F/T11、六本木アートナイト、あいちトリエンナーレ2013パフォーミング・アーツ部門プロデューサーなどを歴任。現在は東京芸術劇場に勤務。旧realtokyo同人。
・白坂由里:神奈川県生まれ、小学生時代は札幌で育ち、現在は千葉県在住。『WEEKLYぴあ』を経て1997年からアートを中心にフリーライターとして活動。学生時代は『スクリーン』誌に投稿し、地元の映画館でバイトしていたので、いまも映画に憧れが……。
・フジカワPAPA-Q:選曲家、DJ、物書き、制作者等。NHK-FMのゴンチチさんの番組「世界の快適音楽セレクション」選曲構成。コミュニティ放送FM小田原の番組制作者として、巻上公一さん等の番組担当。フジロックで開催のNO NUKESイベント「アトミックカフェ・トーク&ライブ」(MCは津田大介さん)制作。等々色々活動中。
・福嶋真砂代:RTC(REALTOKYO CINEMA )主宰。航空、IT、宇宙業界勤務を経てライターに。『ほぼ日刊イトイ新聞』の「ご近所のOLさんは、先端に腰掛けていた。」などコラム寄稿(1998-2008)。桑沢デザイン塾の黒沢清、諏訪敦彦、三木聡監督を迎えたトークイベント「映画のミクロ、マクロ、ミライ」コーディネーター&MC(2009)。現在はRealTokyoや雑誌「キネマ旬報」にも寄稿しています。