REALTOKYO CINEMA

リアルトウキョウシネマです。映画に関するインタビュー、レポート、作品レビュー等をお届けします。

Report 07『勝手にふるえてろ』レビュー&TIFF2017 記者会見レポート

コミカル&サブカルに描く、現代”絶滅危惧”女子の生態と幸福

f:id:realtokyocinema:20171207125820j:plain

©2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会

 

勝手にふるえてろ』(大九明子監督・脚本)が第30回東京国際映画祭コンペティション部門にてワールドプレミア上映され、記者会見が行われた。綿矢りさの同名小説を原作に、大九監督が自身の過去に重ね合わせるように脚本を練り上げた。これが初主演となる松岡茉優が”こじらせ女子”の生態をコミカルにリアルに表現し、同映画祭では堂々の観客賞を受賞。プレス向け上映後の記者会見にはたくさんのマスコミ取材陣が詰めかけ、期待と関心の高さを伺わせた。

アテ書きされたという脚本は松岡茉優の繊細な器用さ、演技的運動神経の良さが存分に引き出され、さらにイチ役の渡辺大知はその素朴で不器用な魅力がまさに全開、『色即ぜねれいしょん』で魅せた初々しさが健在でほっとする。とりわけ終盤、ヨシカのアパートクライマックスシーンの渡辺は見応えがある。さらに石橋杏奈北村匠海は人間のネガティブ要素を軽やかに引き受けて巧みに演じている。自分を曲げられず苦しむヨシカだが、絶滅危惧種の化石になりそうだった心がふとほぐれた一瞬、主題歌の黒猫チェルシー渡辺の素直な歌声が心にストレートに染み込んでくる。

 

f:id:realtokyocinema:20171207130156p:plain

東京国際映画祭2017にて

記者会見レポート:
会見には大九明子監督、松岡茉優渡辺大知、石橋杏奈北村匠海が出席。東京国際映画祭で上映されることについて、また役柄を演じた印象について、それぞれ語ってくれた。大九監督は言葉を選んで少し控えめな表現でしたが、おそらく「この映画を選んでくれたTIFFは”なかなかいいセンスをしている”」と映画のセリフになぞらえておっしゃりたかったのではないかと、勝手に”ふるえながら”脳内変換をしました。(敬称略)

◆世界中にいるヨシカ的な女の子に届け

松岡茉優:この映画では普通の女の子を普通の物語の中で演じました。その普遍的なものがこのような国際映画祭で上映されることで、世界中にいるヨシカ的な女の子に届けられたらと思います。

普段お芝居をしているときは、誰かとの会話とか、見てはいけないものを見てしまったり、怪物が出てきたり、そういう設定で感情が動いていたのですが、ヨシカの場合はほとんど独り相撲というか、ひとつの部屋でヨシカとしてひとりで感情の起承転結というか、そのシーンが成立するために、上げて下げて止まって動いてと、長ゼリフの中で自分で色をつけたり緩急をつけたりするところが、初めは戸惑いましたが、けっこう仕切りたがりのところも自分にはあるので、演じているうちにひとりだからこそできるチャレンジというのもあり、そこが演じていて新鮮に感じたところです。

初主演の感想は、子役からこの仕事をしていますが、ほぼ全シーンにわたって自分が出ているというのは、憧れの時間だったので、撮影中はギュッとなってしまいましたが、(通訳を気にして)「ギュッ」というのは、つまり殻に閉じこもってしまったという意味ですが、終わってみるとなんて贅沢な時間だったんだろうと思いました。

渡辺大:この作品のなかで「二」という役と、主題歌を担当しました。僕は主人公のヨシカの大ファンになりました。主演の松岡さんの魅力が爆発している映画だと思っています。僕は男ですけど、ヨシカに共感させられるところが多いので、男性も安心してヨシカワールド惹きこまれて楽しめると思います。演出的なところでは、ヨシカの妄想というか、街の中で釣り人や駅員さんとヨシカが会話するシーンがあります。自分の心の声の表現として、日々生活する街に存在する、自分と関わったことがない人たちと会話をするという演出が、ヨシカというキャラクターを象徴しているシーンだと思っていて、ああいうシーンがあるので、何かが壊れたときにすごくドキドキさせられたというか、男でありながら僕がヨシカに感情移入できたところかなと思います。そんな少し変わったファンタジックな演出のなかで松岡さんがとても生き生きとリアリティ溢れる演技をされていて、それがこの映画の魅力のひとつかなと思います。

石橋杏奈:ヨシカの親友のくるみを演じましたが、恋をかき乱す役で、自分の周りにも意図せずにそういうタイプはいるなと思って、あらためて周りを見直してちょっと参考にさせていただきました。そういう人も、そうでない人も共感できる役どころかなと思います。でも私はヨシカ目線で、ヨシカに似てるところもたくさんあるので、女性が観て、誰しもが共感できる作品になっているのではないかと思います。ヨシカにとても感情移入できる、女子として大好きな作品です。多くの女性、もちろん男性にもに観ていただきたいなと思います。

北村匠海:僕が演じた「イチ」は残酷な役だったのですが、でもその残酷さに共感してしまった自分がいました。登場人物はそれぞれキャラクターがすごく濃いのですが、そこにリアリティを感じるというのは、きっと僕らが日常的に心で感じているけど表に出ない感情を象徴している気がして、例えば「このごはん会が早く終わんないかな」と心で思うシーンとか、そういう思ってしまうけど理性的に口に出してはいけないことを、イチは表情や声のトーン、目つきなどで前面に押し出せる役だったので、なんて自分は残酷なんだろうという気づきありました。脚本を読んだ段階では僕はヨシカという女の子をなかなか理解できなくて、残酷だと言われる「イチ」に対しての理解がすごくできたので、それを100パーセント北村匠海として出し切った作品です。僕の大好きな作品が大きく羽ばたくことをいちファンとして願っています。

大九明子監督:これがワールドプレミアということで光栄なタイミングであると同時に、東京国際映画祭コンペティション部門という素晴らしい場面で俳優と立たせていただいているのが信じられない気持ちです。この映画はシナリオの段階から、自分が20代の頃から閉じ込めてきた思いをぶちかますように書いて、いままで3年間のおつきあいのある松岡茉優さんだからこそ絶対できるとプロデューサーなどを説得しながら、「大丈夫だから」とポンと(松岡さんに)お渡ししました。その時点では狭い領域のヨシカ的な人たちに届けばいいんだということでとにかく好き放題撮らせてもらいますという気持ちだったのが、このような大きな舞台に立たせていただいて感謝しています。「二」が「君を見つけた俺はなかなかいいセンスをしている」というセリフがあるのですが、東京国際映画祭がこの作品を見つけてくださってうれしく有難いなと思っています。

―以下、ネタバレあります、ご注意を―

大九監督:気づきといえば、もう観ていただいた後なので申し上げますが、演出として「歌を歌う」というシーンがございまして、まず構成を考えたときに、どうやって前半部分がすべて彼女の脳内の会話だったのかを明かすために、単純にモノクロにしてみるとか、アスペクト比を狭くしてみるとか、いろいろ考えたのですが、もっとズドンと観ている人の心に届けるには「説明しよう」と考えて、そこにメロディーをのせました。カメラ目線で松岡さんを撮ることを過去の2作品でやってきたので、ここでそれをしようと。思い切って「もう絶対気がつく!」という構成にすることを心がけました。この映画の最大命題は、気取った体裁を作ることではなく、ヨシカという人間を観た人にしっかり届けるということなので、「ワンシーンワンカット」の撮影法も好きなのですが、そういうこともわざわざこだわることをせず、とにかく物語として必要な演出にだけこだわって作りました。

(※この記者会見は2017年10月30日に行われました。)

f:id:realtokyocinema:20171207130456j:plain

東京国際映画祭2017にて

 インフォメーション:

furuetero-movie.com

配給:ファントム・フィルム

12/23(土・祝)、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー

 

Review: (ネタバレあります)

(正直、冒頭の主人公のモノローグでほんの少しだけ先行きが不安になってしまったが、すぐに)隣の住人、カフェの店員、通りすがりのおじさんなどに躊躇なく話しかける不思議なヨシカの行動に「わ、何これ?」と前のめりになり、以降すっかりヨシカの気持ちにシンクロしていく感覚を覚えた。趣味は絶滅危惧種動物のネット検索、通販で手に入れたアンモナイトを崇め愛でるというオタク志向な24歳のヨシカ=江藤良香(松岡茉優)は、中学時代からイチというクール男子(北村匠海)に片思い。離れて目の端で見る視野見という必殺技を編み出したり、複雑な思いは純粋ゆえに出口が見えない。そんなヨシカが会社の同期男子渡辺大知)から人生初の告白をされ舞い上がる。初デートが実現するが、同窓会で再会したイチへの思いは募る一方だ。イチとニの間、はたまた理想の自分と本当の自分の間で激しく揺れるヨシカの心情を、会話劇でコミカルにサブカルに描く大九監督独特の演出(松岡とはこれが3度目のタッグ)が冴える。*1サブカル味は、原作に加えられた個性豊かな脇役人物たちにも託される。なんとも三木聡的な小ネタも散りばめられ、「タモリ倶楽部」が話の引き合いに出されるのも必然だ。怪しい釣り人演じる古舘寛治、眉毛のつながった柳俊太郎、そこに謎めいた片桐はいりがと来れば、何かが潜む映画であることは間違いないと推しつつ、前半のコミカルな展開を楽しむ。と、そこに落雷のように挿入されるミュージカル! それまでニヤニヤと見つめていた世界がぐらりと揺らぎ、本当のヨシカ、ヨシカの本音が出現し、観ているこの身も現実に引き戻され、その後の展開に固唾を飲むのだ......

福嶋真砂代★★★★

2017.tiff-jp.net