REALTOKYO CINEMA

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Review 41『37セカンズ』(第32回東京国際映画祭 Japan Now部門)

ユマの心意気がつくりだす優しいミラク

文:福嶋真砂代

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(C)37Seconds filmpartners

生まれた時に37秒間、呼吸が止まっていたことで身体に障害を負い、車椅子で生活する23歳のユマは、シングルマザーの母親とふたり暮らし。漫画家志望の彼女は友人のゴーストライターとして働いていたが、そこは自分の夢を叶える場所じゃないことに気づく。ならば自分の力を試そうと、ヒナ鳥が殻を破るように”世界”に飛び出した。なんとアダルト漫画の雑誌社に原稿を売り込むのだが、編集長からシビアな現実をつきつけられる。「あなたの作品はリアルさに欠ける。妄想だけで描いたエロマンガなんて面白くないでしょ」。つまり実体験なしには作品は作れないというのだ(そうかもしれないし、そうでないかもしれないと筆者は思うが)。

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(C)37Seconds filmpartners  

さあ、どうしよう? ユマは独り、勇気を持って大人の冒険の“旅”にでる。個性的な人々、初めてのラブホテル、異国の地、母の秘密、次々と新たな出会いをする。まるで必要なアイテム、ギフトを獲得し、成長を遂げていくクエストゲームの勇者のように......。

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(C)37Seconds filmpartners  
何度もユマの声に救われる

主人公の貴田(たかだ)ユマを演じる佳山明(かやまめい)の声が強く印象にのこる。やわらかく、凛としていて力強い、聡明さを感じる声。困難にぶつかるたびに「もうユマは心折れてしまうのではないか」とハラハラしてしまうが、その美しい声に、はっと我にかえり、何度も救われる思いがした。HIKARI監督は、佳山明の起用について、彼女の声に強く惹かれたと話している。監督の期待に体当たりの演技で応えるユマ(佳山)の心意気が、優しいミラクルタイムを作り出す。監督が彼女と出会った奇跡がそのまま連鎖して映画のなかに起こっている、そんなふうに感じた。

そんなユマの物語を、アニメーションとリアル世界を融合させた軽快な世界観で描いたHIKARIは、映画監督、脚本家、カメラマン、撮影監督、プロデューサーとマルチな活躍をする女性監督。18歳で渡米し、USC(南カリフォルニア大学院)で映画制作を学んだ。この長編処女作では、実際に障害をもつ佳山明と出会ったことで、もとの脚本を大幅に佳山に合わせて書き直し、魅力を存分に引き出した。他に神野三鈴、渡辺真起子大東俊介ら演技派を起用、また『パーフェクト・レボリューション』(松本准平監督、2017)のモデルとなったクマさんこと熊篠慶彦の出演で物語に奥行きを与える。母親役の神野の迫真の演技、そして大東と渡辺の存在が温かく素敵だ。ベルリン国際映画祭にてワールドプレミアされ「パノラマ観客賞」と「国際アートシネマ連盟(CICAE)賞」をW受賞や、ほか多数受賞。さらに第32回東京国際映画祭Japan Now部門で上映された。

さらなる女性監督の活躍に期待

同映画祭ではHIKARI監督や『タイトル、拒絶』の山田佳奈監督など女性監督が力強い作品を発表した。映画祭事務局の集計によると、エントリー作品における男女比は、女性監督の作品は20.7%(応募総数1804本のうち女性監督作品は男女共同監督作品の22本を含めて385本、ただし男女共同を0.5人と換算)とまだまだ少ないのが現状だ。劇中の「障害があろうがなかろうが、あなた次第よ」という厳しくも可能性を信じる温かい言葉は、そのまま言葉通り“障害があるなしは関係なく”、すべての境界を越えて背中を押すパワーワードに聴こえる。今後もさらなる女性監督の活躍を見守りたい。

Information:

『37セカンズ』

監督・脚本:HIKARI
出演: 佳山明、神野三鈴、大東駿介渡辺真起子熊篠慶彦、萩原みのり、宇野祥平、芋生悠、渋川清彦、奥野瑛太石橋静河尾美としのり板谷由夏
2019年/日本 /115分/原題:37 Seconds/PG-12
挿入歌:「N.E.O.」CHAISony Music Entertainment (Japan) Inc.>
配給:エレファントハウス、ラビットハウス

2020年2月7日(金)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー 

映画「37seconds」公式サイト

www.youtube.com

2019.tiff-jp.net

●映画『37セカンズ』、HIKARI監督、主演の佳山明さんによる質疑応答〜「広島国際映画祭2019」上映後のトークショー

https://www.youtube.com/watch?v=rLA6_ymzPNA

 

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