デトロイト発、モータウン初期13年の音楽記録
先日、米国の「ローリング・ストーン」誌が発表した2020年版「歴代最高のアルバム500」で1位に選ばれたのは、マーヴィン・ゲイの『ホワッツ・ゴーイング・オン』。1971年にモータウン・レコードから出たアルバムだが、現在の社会状況を反映したランキングであろう(以前の2012年版の1位は『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』)。本作は、ファブ4やストーンズが魅せられ、スプリームス、スティーヴィー・ワンダー、ジャクソン5、等々のヒット曲を生み、ブラック・ミュージックの素晴らしさを世界に広めたモータウン・レコード設立60周年記念のドキュメンタリー映画である。1959年にデトロイトの自宅で、ベリー・ゴーディ(1929年生まれ)が創設してから、1972年にロサンゼルスへ移転するまでの時代が描かれる。
そのゴーディと、歌手、作曲家、プロデューサーで副社長だったスモーキー・ロビンソン(1940年生まれ)の2人が饒舌に楽しげに回想し、様々な歌手や作曲家、スタッフ(黒人だけではない)が証言する。更に、ライブやスタジオの貴重な映像(「エド・サリバン・ショー」に出演するスプリームス、アポロ・シアターのモータウン・レビューのスティーヴィー、等々)が多く登場して楽しめる。また、今のアーティストであるドクター・ドレ、ジョン・レジェンド、ジェイミー・フォックス、サム・スミス(!)がモータウンへの愛を語り、更にキング牧師(1963年に演説レコードを出した)、ネルソン・マンデラ、バラク・オバマ、オプラ・ウィンフリー等の著名人が絶賛する。
そして、音楽とその時代に起きた社会状況との絡みも当然出てくる。スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズの「ショップ・アラウンド」が大ヒットした1960年はJFKが大統領に当選した年で、『ホワッツ・ゴーイング・オン』の1971年はニクソン・ショックの年だ。その間の10年間、つまり60年代のヒット曲、社会の出来事はご存知の通り。例えば、映画『デトロイト』は1967年のデトロイト暴動の話であり、スプリームスやテンプテーションズが南部をバスでツアーした時に受けた人種差別は映画『グリーンブック』の話でもある。そんな南部でもモータウンのレコードはヒットしていた訳だが。そして映画の終盤、ウッドストックの年、1969年のテンプテーションズのサイケデリック・ソウル曲「クラウド9」はその時代の趨勢の反映だ。「ホワッツ・ゴーイング・オン」は、弟がベトナムに行っている事でゲイのシンガーソングライター魂から生まれた歌であったが、その制作秘話は本作のハイライトの一つ。この歌が現代のアンセムになったのは驚異と言うべきか。さあ、映画を見ながらヒット曲を一緒に歌おう!
フジカワPAPA-Q ★★★★.5
Information:
監督:ベンジャミン・ターナー、ゲイブ・ターナー
出演:ベリー・ゴーディ、スモーキー・ロビンソン
2019/カラー/5.1ch/アメリカ、イギリス/ビスタ/112分/字幕翻訳:石田泰子 監修:林剛
配給:ショウゲート
2020年9月18日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次ロードショー
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