REALTOKYO CINEMA

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Review 22『残像』

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アンジェイ・ワイダ監督の「遺言」の今日的意味

2016年10月、90歳で急逝したアンジェイ・ワイダ監督の遺作が公開になった。彼の「遺言」の今日的意味の重さを噛み締めたい。今日的な意味。「自由」が完全なる「自由」でなくなる危うさ。監視、検閲、言論統制、危険な言葉がまとわりつく昨今..。遠い国、あるいは遠い昔にあった話かと思っていたことがいま身近に、日常に起き、この映画の状況と似てきていることにゾッとする。舞台は第二次世界大戦後のポーランド社会主義政権による弾圧が強まる状況下、強靭に闘った不屈の画家、ヴワディスワフ・ストゥシェミンスキ(1893-1952)の晩年の4年間を描く。第一次世界大戦時、ロシア軍工兵として参戦中に重症を負い、片手片脚を失っている。不自由な身体だが、ポーランド構成主義の前衛画家として高く評価され、ウッチ造形大学では精力的に真の芸術を教え続ける。大学の野外講義の冒頭シーンはのびのびとした空気を吸う。離婚した妻の元にいるかわいい娘のニカ。父を心配し様子を見に来るが、女子学生と部屋で鉢合わせし、ヤキモチを妬いたりもする、その描写がとても微笑ましい。そんな柔らかい空気も束の間、ポーランドは戦後ソヴィエト連邦の勢力圏に組み込まれ、部屋の窓がプロパガンダの垂れ幕の赤色に染まる現象に象徴されるように、全体主義の影が国中に覆いかぶさる。空気は一瞬にして硬直していく。恐ろしいほどの変化はあっという間だ。しかしストゥシェミンスキは闘い続けた。それは完全なる孤独な闘争。同じくワイダ監督の描いたワレサ(『ワレサ 連帯の男』)も闘争した。しかしワレサは家族とパン(生きること)を捨てなかった。画家はパンも、家族も、文字通り命さえも投げ出す。そうまでして守りたかったものとは…。大学を追放され、芸術家としての尊厳、名声も奪われ、絵を描くことさえ奪われた。身体は病魔に蝕まれ、しかし最後の最後まで精神の自由、芸術の自由を信じた。自由を死守することの厳しさ大切さを、いま、もっともっと感じなければならない。主演のボグスワフ・リンダが素晴らしい。タイトルは、ストゥシェミンスキの作品シリーズ「光の残像」(1948-49)に由来している。

福嶋真砂代★★★★★

zanzou-movie.com

残像 | 岩波ホール

監督・脚本:アンジェイ・ワイダキャスト:ボグスワフ・リンダ、ゾフィア・ビフラチュ、ブロニスワバ・ザマホフスカニ他

2016年/ポーランド映画ポーランド語/99分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/DCP/配給:アルバトロス・フィルム/後援:ポーランド広報文化センター/提供:ニューセレクト/宣伝:テレザ、ポイント・セット

2017年6月10日(土)岩波ホールほか全国順次ロードショー