REALTOKYO CINEMA

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Review 23『ダイ・ビューティフル』

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            (C)The IdeaFirst Company Octobertrain Films

監督:ジュン・ロブレス・ラナ 
出演:パオロ・バレステロス クリスチャン・バブレス グラディス・レイエス ジョエル・トー
配給:ココロヲ・動かす・映画社 ◯
120分/カラー/フィリピン語(日本語・英語字幕付き)/ 2016年/フィリピン 

7月22日(土)より新宿シネマカリテ他にて全国ロードショー

華やかに終わり始まる、トリシャの人生

第29回東京国際映画祭で最優秀男優賞と観客賞のW受賞作品。ミス・ゲイ・フィリピーナ(ミスコン女王)に輝いた直後に急死したトリシャ・エチェバリア(エッチェバリアと発音されるのがかわいい)の豪華でユニークな葬儀を軸に、波乱万丈なトリシャの人生を複雑な時系列のなかで描き上げる。監督はフィリピンの実力派、ジュン・ロブレス・ラナ。主演にフィリピンのテレビ界の人気ホストでメークアップアーティストのパオロ・バレステロスを起用している。彼は、2013年に脳卒中で倒れた際、リハビリの一環としてメークアップを思いつき、技術を身につけたというユニークな経歴、今回は華やかなトランスジェンダー役を熱演している。トリシャの親友バーブスもすばらしく好感度が高い。

ラナ監督は「興行性の高い作品と個人的な思いの作品を並行して手掛けてる」と話し、こちらは「個人的な思いの範疇」に入る作品だそう。「個人的な思い」の作品では新しい手法、実験的な手法を取り入れてるようにしているとのことで、『ダイ・ビューティフル』の時系列の複雑さもそのひとつだ。その時間の組み合わせが巧みで、トリシャの死から遡り、スリリングに「人生」を読み解いていくところが小気味いい。「私が死んだ時は日替わりで海外セレブメイクをして」と親友に伝えていたことで、トリシャの葬儀はかくも華やかな展開を見せ、映画自体とても華やいでいる(お葬式なのだけど)。と思わせつつ、実はラナ監督は様々な重い問題を問いかけてくるのだ。トランスジェンダーとして生きたい息子パトリックの前に立ちはだかる父親は最後まで息子を理解できない。通った高校では重大な事件が起きた。傷ついた息子をさらに責め立て、追い出す父親は残酷だ。しかしまだまだ世間的にはよくいるタイプだとも言えるし、悩ましい。家出してミスコン出場で生計を立てるたくましいトリシャは娘を育てる。娘はものわかりのよい、親に反抗しつつも、やさしい人物に描かれているのは父をあまりにも痛く描いた反動だろうか。

さらに、これはもっともラナ監督が深く問いかけたかったことだろうと思うが、トリシャの深い傷と突然現れた理想の恋人の関係。夢のような展開のなかで突きつけられる「ゆるし」という問題。ネタバレになるので詳しく書けないが、このシーンのトリシャの心情に胸が痛む。果たして「ゆるし」とはなんだろう?と考えさせられる。ちなみにトランスジェンダーを演じる役者たちはみなさんストレートな方なのだそう。そういう意味でも実験的であるし、つくづく死ぬこととは生きることだなと納得させる力強さがあるなと思う。

福嶋真砂代★

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