REALTOKYO CINEMA

リアルトウキョウシネマです。映画に関するインタビュー、レポート、作品レビュー等をお届けします。

Review 30 『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』

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© 2015 Moulins Films LLC All Rights Reserved

RealTokyoに『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』レビューを寄稿しました。

「町が、世界が、ここに凝縮されて呼吸する」

フレデリック・ワイズマン監督が撮るニューヨーク、クィーンズのジャクソンハイツ地区。167もの言語が話される移民の町だ。グロッサリーストアにはカラフルな食材が並び、様々な国の音楽があふれ、様々な宗教の礼拝がある。カメラが向けられるのは、様々な場所の様々な活動。LGBTの悩みを分かち合う会、クイーンズプライド、グリーンカード取得支援、優雅なマダムたちの井戸端会議。議員事務所の女性スタッフの電話応対があるかと思えば、再開発に対抗する市民活動もある。行政や政治活動にも目を配る。町の呼吸の音が聴こえてくる。「この地域は、19世紀の終わりのニューヨーク市ローワーイーストサイドを連想させる“真のアメリカ”というべき『人種のるつぼ』なんだ」とジャクソンハイツを撮るモチベーションをワイズマンが明かしている。ここに世界が凝縮され、この多様性にこそ、アメリカの生命力の源があると感じる。

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www.realtokyo.co.jp

 

Review 29『愛と法』

均質社会に問う、多様化に向かう覚悟と準備は?

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(C)Nanmori Films

ドキュメンタリー映画愛と法』は、大阪で「なんもり法律事務所」を経営する弁護士の南和行(カズ)と吉田昌史(フミ)が主人公。仕事でもプライベートでも共にパートナーであり、瀟洒なマンションに住み、1匹の猫を飼う、素敵な暮らしをするカップルだ。2011年に結婚式を挙げた。初めてゲイであることを打ち明けた時のカズの母ヤエさんは「だって知らないもの、誰も教えてくれなかったもの」というリアクションだった。残念ながらいまの日本でのごく一般的な反応かもしれない。みんなと同じでないことに違和感を持ったり、知識不足による偏見を持つ傾向があるのは否めない。ヨーロッパで育った戸田ひかる監督はそこに興味と疑問を抱き、カズとフミを撮るために、ロンドンから大阪に拠点を移した。

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(C)Nanmori Films

忙しいふたりの弁護士の日常と共に、ドキュメンタリーが見つめるのは「君が代不起立裁判」、「ろくでなし子裁判」、「無戸籍者裁判」の3つの裁判。いずれもいまの日本の状態を象徴するような“現在進行形”の注目の訴訟だ。懸命に取り組むふたりは時には傷ついたりもする。そんな中、係争中のろくでなし子さんの父親が

語る「親バカって言われるかもしれないんだけど、(世界を変えるために闘う)彼女のことを誇りに思う」の言葉がイカしている。娘も周りもどんなに救われるか.....。そんな父と娘の関係性が尊く愛おしい。

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(C)Nanmori Films

人のことを親身に考えるからこそ、心身ともに疲労困憊するふたりの毎日。彼らを癒すのは、やはり「家庭」であり、それを作る「家族」。緊張感がふっとほぐれるシーンへの戸田の視線が温かい。ある日、ふたりと猫の暮らしにカズマくんという少年が加わる。事情があって一時預かることになったのだが、彼ら3人の距離の測り方は実にスマートで、お互いの心地好いツボを探すような配慮を感じる。そんなふたりの存在と生き様は、LGBTなどアイデンティティで悩む人たちへの大きな励みになるのではないだろうか。議員の方々にもぜひこの映画をお勧めしたくなる。

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(C)Nanmori Films

冒頭、「日本は世界でも数少ない均質国家である。常に多数派が尊重されるこの国では、少数者は法的にも社会的にも冷遇されている」と英語と日本語のテロップ表記がある。良くも悪くもそういう国で生きるということの現実を自覚しながら、では多様性を受け入れるためにはどうしたらいいのか......。変化を恐れず、そして楽しめる、リラックスした社会への1歩を踏み出したい。”少数者”と共に闘う、カズとフミのやさしい努力に感謝でいっぱいになる。

福嶋真砂代★★★★

information:

監督:戸田ひかる 
出演:南和行 吉田昌史 南ヤヱ カズマ ろくでなし子 辻谷博子 井戸まさえ 山本なつお
配給:東風

aitohou-movie.com

9/22()より大阪 シネ・リーブル梅田、9/29()より東京渋谷 ユーロスペースほか全国順次ロードショー

Review 28『オーケストラ・クラス』

音楽は素晴らしい。自由と希望の力をチャージする

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© 2017 / MIZAR FILMS / UGC IMAGES / FRANCE 2 CINÉMA / LA CITÉ DE LA MUSIQUE - PHILHARMONIE DE PARIS

遠くにエッフェル塔が見えるパリのビルの屋上で熱心にバイオリンを練習する少年、アーノルド。西アフリカのマリ出身で母子家庭の彼が通うのは、パリ19区という貧しい地区の小学校で、アフリカ系、アラブ系、アジア系など多様な移民の子供達がいる。そこに来たのが、オーケストラ・クラスの新しい先生であるプロのバイオリン奏者、ダウド。しかし、悪ガキ達は勝手に騒いで授業にならず…。ある日、ダウドが演奏すると生徒達は興味津々の表情で聞き入り、やっと練習が始まり、ダウドはアーノルドの才能を見出す。が、演奏の失敗、先生と生徒の対立、教室の火災など問題が起きるが、保護者達の協力で新たな場所を得て練習に打ち込む。目標は、フィルハーモニー・ド・パリというホールで、リムスキー=コルサコフの「シェエラザード」を演奏する事だ。演奏当日、ひとつのアンサンブルとして結束した彼等はスタンディングオベーションを受け、全員が笑顔になるのだった。
実際に行われている子供の為の音楽教育プログラム「デモス」に想を得て映画化した、監督と脚本のラシド・ハミアルジェリア出身で、この生徒達と同じ様な環境で育ったという。子供達にとっての音楽の意味を本当に理解しているに違いない。実は、ハミ監督は先日のフジロックに来た程の音楽好きだが、気に入ったアクトは誰だったのか聞きたい所だ。ところで、映画の最後に流れるのが「フリーダム」という曲(ウッドストックでリッチー・ヘブンスが歌った事で有名)なのだが、これがハミ監督の一番のメッセージではないだろうか。

フジカワPAPA-Q★★★★.5

Information:

オーケストラ・クラス
監督:ラシド・ハミ
脚本:ラシド・ハミ&ギィ・ローラン
出演:カド・メラッド/サミール・ゲスミ
上映時間:102分
配給:ブロードメディア・スタジオ

8月18日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開 

www.orchestra-class.com

Review 27『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ☆アディオス』

キューバの世界的音楽家集団よ、永遠に!

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© 2017 Broad Green Pictures LLC

米国の世界的音楽家ライ・クーダー1996年にキューバに行き、ベテラン・ミュージシャン達と制作したアルバムが『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(以下BVSC)で、BVSCは彼等の名称ともなった。その世界的ヒットを受け、ヴィム・ヴェンダースが監督した音楽ドキュメンタリーが1999年公開の同名映画『BVSC』で、彼等の音楽が更に世界に広がった。

それから18年、この『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』はアディオス(さよなら)とある通り、彼等からの別れの挨拶である。今回、ヴェンダースは製作総指揮になり、監督は高い評価を得る英国のドキュメンタリー作家のルーシー・ウォーカーBVSCの成功以来、彼等は世界中で演奏し、各メンバーのソロアルバムも話題になったが、多くのメンバーが天国へ旅立った事もあり、活動の終了を決意した彼等は最後のアディオス・ツアーで世界を回る。

映画は、キューバの歴史を紹介し、最初のBVSCの映像や各メンバーの個人史を昔の映像とインタビューで掘り下げ、ツアーのバックステージを描き、ハバナでのアディオス・ツアーの舞台で終わる。BVSCの逸話を英国のレコード・プロデューサーのニック・ゴールドと現地の仕掛人フアン・デ・マルコスが大いに語るのが印象的だ。余り取り上げられないメンバーもいる等の不満もあるが、キューバをあまり知らない人にこそ見てほしい音楽と愛の映画である。そして、今も活躍するキューバ最高の歌姫オマーラ・ポルトゥオンドは、9月頭に開催の「東京ジャズ」で日本の誇るオルケスタ・デ・ラ・ルスと共演する!

フジカワPAPA-Q★★★★.5

Information:

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス
製作総指揮:ヴィム・ヴェンダース
監督:ルーシー・ウォーカー
出演:オマーラ・ポルトゥオンド(ヴォーカル)、マヌエル・“エル・グアヒーロ”・ミラバール(トランペット)、バルバリート・トーレス(ラウー)、エリアデス・オチョア(ギター、ヴォーカル)、イブライム・フェレール(ヴォーカル)
原題:Buena Vista Social Club: Adios/2017年/イギリス/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/110分/字幕翻訳:石田泰子
後援:駐日キューバ共和国大使館 インスティトゥト・セルバンテス東京 日本人キューバ移住120周年
配給:ギャガ (C)2017 Broad Green Pictures LLC

2018年7月20日(金)より TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開中

公式サイト: 

gaga.ne.jp

www.tokyo-jazz.com

Interview 011 アンナ・ザメツカさん(『祝福~オラとニコデムの家~』監督・脚本)

子どもは子ども時代に「子ども」として過ごさなければ、悪循環が起こるだろう

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処女作『祝福~オラとニコデムの家~』が公開中のポーランドのアンナ・ザメツカ監督にインタビューした。本作は2017年、山形国際ドキュメンタリー映画祭で最高賞のロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)受賞他、数々の賞に輝いた注目のドキュメンタリーである。ザメツカ監督は、ポーランドにも仲の良い日本人の友人がいるのだと、「黒海バルト海がちょうどぶつかるところに、ふたつの違う文化を持った友人の日本人とポーランド人(自身)が写る、という象徴的な写真なの」とスマートフォンの写真を見せてくれた。

ジャーナリズム、人類学、写真学を学んだ鋭敏な観察眼と洞察力で、親がその役割を果たせない家庭の子どもに光を当て、「家族とは何か」、「絆とは?」を問いかける。ワルシャワで出会ったひとつの家族。長女オラ(14歳)は自閉症の弟ニコデム(13歳)の世話をし、生活能力のない父親と暮らす。母親は家を出て別の男と暮らしている。オラは弟の「初聖体式」がうまく行けば、バラバラになった家族がまた一緒になれるのではないかと、独り奮闘する。まだまだ遊びたい盛りの少女。光と陰影を捉える繊細なカメラワーク、憂いある映像にはストーリーを感じさせる奥深さがある。長い時間をかけて、姉弟との信頼関係を作り上げたからこそ映り込む子どもたちのこころの奥。「オラとニコデムは、リアリスティックな”ヘンゼルとグレーテル”なのです」と公式サイトで監督メッセージを寄せている。是枝裕和監督や大島渚監督にリスペクトを捧げるというポーランドの気鋭監督に思いを聞いた。

聞き手・文:福嶋真砂代

◼️「映画を撮る」ことを隠さず話した

ーー瞬間瞬間の映像の美しさが印象深く、そこには豊かなストーリー性を感じます。たとえば、オラが友達と3人で森で遊んでいるシーンは、構図やアングルも美しく、光がちょうどカメラに入りこむすごい瞬間を捉えていましたね。子どもたちへの何か演出的なアドバイスはあったのでしょうか。

そのシーンでは私から何も提案しませんでした。ただ、教会でのニコデム初の聖体式で両親の間にオラが座るところ、そこだけ私から提案をしました。彼女が子どもに戻れるとても貴重な場面で、両側に座るお父さんとお母さんをオラが交互に見て、とてもうれしそうな顔を見せます。そのシーンでは座る位置の提案をしていますが、森のシーンでは何も提案しませんでした。

また私はあの森の公園のことをよく知っていたので、どの時間にどこから光が射してくるかをだいたい把握していました。だからいい瞬間を捉えることができたのだと思います。うまくカメラに当たる濃い光が使えたと思います。

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©HBO Europe s.r.o., Wajda Studio Sp. z o.o, Otter Films Wazelkie prawa zastrzeżone. 2016

ーー撮影のクルーは何人だったのですか?

 全部で3人でした。

ーー家の中のシーンにおいても被写体とカメラとの親密性を感じました。家族との関係性をどういうふうに作っていったのですか?

とにかくまず正直であること。なんでも打ち明けました。表面的にだけ仲良くなろうとするのではなく、「映画を撮る」ということを隠さず話をしました。彼らの助けになるという振りをしませんでした。長い月日をかけて、どうしてこの映画を撮りたいのかのモチベーションについて、よく話し合いました。とにかく尊敬の念を持って、パートナーとして彼らに接しました。彼らが、自分たちにとってもこの映画が大事なのだと感じてくれることがとても重要なことでした。そうやって知り合ううちに、行政や福祉局が彼らをまったく無視していることに気がつきました。そのせいで彼らは放ったらかしでした。このような状態で、オラは親のような役目を果たしていて、私は驚き、それは絶対におかしい、なんとかしなければと思いました。オラにとって親の代わりをすることはとても重荷なのです。彼女が背負わなければならない理由は全然ないのです。ですからこの映画を作るモチベーションを、そこから組み立てていくことから始めました。彼らと友人になるという方法はとりませんでした。でもそうこうしているうちに彼らと友人になるという、パラドックスは起きました。このようにしてお互いに信頼が生まれてきました。

ーー信頼関係は、オラ、ニコデム、お父さん、お母さんとも作れたのでしょうか。

お母さんとは会う機会が少なかったので、難しかったです。ニコデムとは、これは勘のようなものですが、私に何か近いものを感じて、最初からうまく信頼関係が作ることができました。

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©HBO Europe s.r.o., Wajda Studio Sp. z o.o, Otter Films Wazelkie prawa zastrzeżone. 2016

ーー映画を観ていて、ニコデムは自閉症ではあるけれど、聡明な人ではないかと感じました。

はい。彼の特徴は、とても頭がいいこと、感じやすいこと、内省的であることです。自閉症なので「ちょっと変な子」と外からは見られるかもしれないのですが、私から見ると、至極ノーマルな人間だと思いました。彼らはこの世界の中で行き場を失い、どうしたらいいかわからない、路に迷っているような状態なんです。ニコデムはすべてをそのまま受け入れました、バリアもなく。

ーー彼のそんなピュアな心が監督と呼応したのですね。

そうです。ニコデムは私に多くを語ってくれました。

ーーオラはニコデムのことをとても理解していて、一生懸命に弟を導こうとしています、お母さんの代わりに。たとえば、ニコデムが聖体式の口頭試問で言い淀んだとき、オラは「もう一度最初から」と助言します。そうすればニコデムが言えることをわかっている、ということがそのシーンで感じられました。

ほんとにそうですね。 

◼️なぜ福祉士は、オラの心の崩壊を見ないようにするのか

 ーーところで、福祉士は数回この映画に出てきますが、オラの気持ちや家庭を理解しようとしていたのでしょうか。

福祉士は3回出てきました。家の訪問はしますが、そこからは何も進みません。オラを通して両親の問題をいろいろ触ろうとしますが、お母さんを「家に戻す、戻さない」というような問題は、子どもを通してやることではなく、本来ならお父さんとすべきことです。福祉士はオラを守ってあげる立場であって、オラと一緒に話し合って解決しようという役割ではないのです。オラが福祉士の質問に「うちは大丈夫です」と答えますが、それは嘘であり、彼女の中で何かが崩壊していくのがよく見えます。しかし福祉士はそれを見ないようにしているのです。もし何か問題があるということを知ってしまうと、福祉士の仕事が増えてしまうので、避けたいと思っているのでしょう。

ーー日本でも子どもの虐待の悲しい事件が繰り返されます。

だからこそ、この映画を公開する価値があるのではないでしょうか。ポーランドもまったく同じです。そういう問題が起きた時、だいだいの場合において、父よりも母に罪があると責められ、報道されます。

 ーーオラのお母さんはとても子どもっぽく、家を出て行き、外で子どもを作り、また戻り、その赤ちゃんさえもオラに世話をさせようとします。

そう、オラが赤ちゃんを抱っこしているシーンもその象徴的なところです。

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©HBO Europe s.r.o., Wajda Studio Sp. z o.o, Otter Films Wazelkie prawa zastrzeżone. 2016

◼️ドキュメンタリーの奇跡が起きた“マットレス事件”

ーーベッドを組み立てようとしたら「マットレスが無い」とお母さんがイライラしているシーンもいろいろ物語りますね。あの日の撮影は、お母さんが来ると連絡を受けていたのでしょうか。

確かに電話がありました。だから私は2週間の間にシナリオを変えなければなりませんでした。いちばん重要なのは、ベッドを組み立てるシーンを撮ろうと思ったことでした。ベッドというのは普遍的なシンボルで、家と平和と安全のシンボルなんです。もちろんベッドはお母さんひとりでは組み立てられない。子ども達が手伝いましたね。ニコデムとオラの顔にフォーカスして、彼らの感情の動きを撮りました。彼らにあらかじめ、ベッドを組み立てるシーンを撮りますよと言っておきました。

ーー“マットレス事件”は偶然起こったのですか。

 それは奇跡的に起こりました。時々起こる「ドキュメンタリーの奇跡」ですね。マットレスが無いというのは、何かが足りないということのメタファーになりました。あのベッドは5つの部品からなっていて、「5」はあの家族のメンバーと同じ数字です。ひとつ足りなくなる部品(マットレス)はお母さんです。

ーーすごい。予想を超えた、思いがけないことが起こったのですね。

私は全然そこまでは予期していませんでした。編集スタッフは、私が何か案を出すととんでもないことが起こるから、私のことを魔法使いのようだと言いました。

ーーこの映画をヘンゼルとグレーテルの話になぞらえたり、魔法使いが出て来たり、ドラマチックですね。

おもしろいリンクですね。

ーーキリスト教には「三位一体」などの言葉のように、シンボリックな数字がありますが、「5」という数字もそうですか?

いえ、今回の5という数字は偶然で、ベッドを組み立てるシーンは、結果的に「5」が現れました。部品が足りないだけじゃなくて、ネジを回すときにうまくいかなかったり、結局ベッドが組み立てられなかったという現象は、あの家族の状況を象徴しているのだと思います。

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©HBO Europe s.r.o., Wajda Studio Sp. z o.o, Otter Films Wazelkie prawa zastrzeżone. 2016


◼️是枝裕和大島渚、両監督作品につながる親子の関係

ーー家族をテーマに映画を撮るのは、監督の境遇とオラとの相似性を見つけたからですか。

 オラと私の過去の境遇が似ているというのは確かに映画を作るインスピレーションになりました。私の育った環境はオラと比べるとドラマは小さいもので、比べられないとは思いますが。ただ責任感が増大していくところは、共感しました。

ーー是枝裕和監督の『誰も知らない』にインスパイアされたと伺いました。

そうですね、『万引き家族』はまだ観ていないのですが、早く観たいです。私は大島渚『少年』からもインスピレーションを受けました。両親が息子に車の当たり屋をやらせて、保険を奪うという話ですが、興味深いのは、息子が最後には親を庇うところです。どんな家族であろうと、その子どもにとってはとにかく「家族」であってほしかった。子どもにとっていちばん大事な価値は「家があり、親がいること」だと思います。オラは親をとても愛していて、父は酔っ払いで、母もいい親とは言えないですが、何が何でも家を守ろうとします。『少年』では、警察署で取り調べを受けた子どもが、そこでも親を庇おうとします。決していい親ではないのに。この映画でも、オラは福祉士から親を守ろうとしていました。

ーーそれはオラのすばらしさでもあると同時に、子どもにとって親は本当はそういう親であってほしいという理想であるわけですね。

親とは支えてくれるもので、本来、子どもは親なしには生きられないのです。

ーーしかしオラの家の環境は、それがすべて逆転しているという矛盾、悲しさを感じます。

オラがすごくがんばっているのは事実なのですが、「がんばらなくていいんだ」ということを解ってほしいとは思います。“アダルトチャイルド(ザメツカ監督によると「子どもなのに大人のような責任を担わされる子」の意味)”はがんばってしまうのですが、本当はそうするべきではないのです。神父、福祉士、学校の先生など周囲の大人がそれをすべきです。「子どもは子どもでいていいよ」と。たとえば親が子どものことを「子どもの面倒もみてくれてえらい」と自慢するケースがありますが、その責任感はその子にとっては重すぎるのかもしれません。また親が自分の問題のはけ口に子供を使うケースでも、自分の問題で子どもに重荷を与えてはいけないのです。この映画はそういう意味で「プロテスト」でもあるのです。子どもは子ども時代に「子ども」として過ごさないと、大人になったときに、自分の子に対して過度な負担を与えることになってしまうのですから。そうしないと、この家族のような悪循環が起こってしまうのです。

(※このインタビューは2018年6月8日に行われました。)

プロフィール:

Anna Zameccka /ポーランドの映画監督、脚本家、プロデューサー。ワルシャワコペンハーゲンでジャーナリズム、人類学、写真学を学んだ。ワイダ・スクールでDok Proドキュメンタリープログラムを修了。本作が長編デビュー作。

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©HBO Europe s.r.o., Wajda Studio Sp. z o.o, Otter Films Wazelkie prawa zastrzeżone. 2016

Information:
脚本&監督:アンナ・ザメツカ
原題:Komunia|英語題:Communion|監督:アンナ・ザメツカ
2016年|ポーランド|DCP|カラー|5.1ch|75分|配給:ムヴィオラ

6月23日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

公式サイト:

www.moviola.jp