REALTOKYO CINEMA

リアルトウキョウシネマです。映画に関するインタビュー、レポート、作品レビュー等をお届けします。

Review 29『愛と法』

均質社会に問う、多様化に向かう覚悟と準備は?

f:id:realtokyocinema:20180924132155j:plain

(C)Nanmori Films

ドキュメンタリー映画愛と法』は、大阪で「なんもり法律事務所」を経営する弁護士の南和行(カズ)と吉田昌史(フミ)が主人公。仕事でもプライベートでも共にパートナーであり、瀟洒なマンションに住み、1匹の猫を飼う、素敵な暮らしをするカップルだ。2011年に結婚式を挙げた。初めてゲイであることを打ち明けた時のカズの母ヤエさんは「だって知らないもの、誰も教えてくれなかったもの」というリアクションだった。残念ながらいまの日本でのごく一般的な反応かもしれない。みんなと同じでないことに違和感を持ったり、知識不足による偏見を持つ傾向があるのは否めない。ヨーロッパで育った戸田ひかる監督はそこに興味と疑問を抱き、カズとフミを撮るために、ロンドンから大阪に拠点を移した。

f:id:realtokyocinema:20180929120159j:plain

(C)Nanmori Films

忙しいふたりの弁護士の日常と共に、ドキュメンタリーが見つめるのは「君が代不起立裁判」、「ろくでなし子裁判」、「無戸籍者裁判」の3つの裁判。いずれもいまの日本の状態を象徴するような“現在進行形”の注目の訴訟だ。懸命に取り組むふたりは時には傷ついたりもする。そんな中、係争中のろくでなし子さんの父親が

語る「親バカって言われるかもしれないんだけど、(世界を変えるために闘う)彼女のことを誇りに思う」の言葉がイカしている。娘も周りもどんなに救われるか.....。そんな父と娘の関係性が尊く愛おしい。

f:id:realtokyocinema:20180929115730j:plain

(C)Nanmori Films

人のことを親身に考えるからこそ、心身ともに疲労困憊するふたりの毎日。彼らを癒すのは、やはり「家庭」であり、それを作る「家族」。緊張感がふっとほぐれるシーンへの戸田の視線が温かい。ある日、ふたりと猫の暮らしにカズマくんという少年が加わる。事情があって一時預かることになったのだが、彼ら3人の距離の測り方は実にスマートで、お互いの心地好いツボを探すような配慮を感じる。そんなふたりの存在と生き様は、LGBTなどアイデンティティで悩む人たちへの大きな励みになるのではないだろうか。議員の方々にもぜひこの映画をお勧めしたくなる。

f:id:realtokyocinema:20180929120220j:plain

(C)Nanmori Films

冒頭、「日本は世界でも数少ない均質国家である。常に多数派が尊重されるこの国では、少数者は法的にも社会的にも冷遇されている」と英語と日本語のテロップ表記がある。良くも悪くもそういう国で生きるということの現実を自覚しながら、では多様性を受け入れるためにはどうしたらいいのか......。変化を恐れず、そして楽しめる、リラックスした社会への1歩を踏み出したい。”少数者”と共に闘う、カズとフミのやさしい努力に感謝でいっぱいになる。

福嶋真砂代★★★★

information:

監督:戸田ひかる 
出演:南和行 吉田昌史 南ヤヱ カズマ ろくでなし子 辻谷博子 井戸まさえ 山本なつお
配給:東風

aitohou-movie.com

9/22()より大阪 シネ・リーブル梅田、9/29()より東京渋谷 ユーロスペースほか全国順次ロードショー