REALTOKYO CINEMA

リアルトウキョウシネマです。映画に関するインタビュー、レポート、作品レビュー等をお届けします。

Interview 004 黄インイクさん(『海の彼方』監督・プロデューサー)インタビュー

八重山諸島の台湾移民」を粘り強く探求し描く、家族のドキュメンタリー 

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『海の彼方』を監督・プロデュースした黄インイクさんにインタビューした。本作は『狂山之海(くるいやまのうみ)』(日本統治時代、沖縄へ移民した台湾の人々を描くことをテーマにした黄監督の長編ドキュメンタリー3部作)シリーズの第1弾となるとのことで、シリーズ企画の意図やこだわりについて伺った。「八重山諸島の台湾移民」というテーマに興味を持ち、東京の大学院在学中から沖縄へ通い、リサーチを重ねた。綿密な調査による妥協のないパラメータ選定、そこから人脈をたどり信頼関係を構築するコミュニケーション力も光る。黄自身も台湾出身だが、見知らぬ土地で、しかも黄らの世代では話す人の少ない純粋台湾語を話す人々への取材。言葉に苦労する黄に両親からの優しいサポートもあった。台湾と八重山諸島の「近さ」に目をつけ、そこから始まる人の流れと戦争を挟む壮絶な移民の歴史について図解や絵による解説もわかりやすい。石垣島に住む移民一世、玉木玉代さんの三男が経営する「アップル青果」にある懐かしい家族の匂いに強烈に惹きつけられて作った3部作の第1弾。石垣島の台湾移民の過去、現在、未来を描く家族ドキュメンタリーはほのぼのとして、台湾文化センターで行われた試写会では幾度となく笑いが起こっていた。続くシリーズ2作品の制作のため、クラウドファンディング支援者を募集中とのこと。ぜひ映像満載のサイトをチェックしてみて下さい。

聞き手&写真:福嶋真砂代

 

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(c) 2016 Moolin Films, Ltd.

■「八重山の台湾移民」というテーマに興味を持った

ーー本作は「狂山之海」3部作シリーズの第1弾になるということですが、このシリーズを企画しようと思った動機を教えて下さい。

まず「八重山の台湾移民」という比較的手つかずだったテーマがあって、以前から学校の授業で聞いたり、本で読んだりして気になっていました。私は2013年から調査のために八重山諸島に通いましたが、実際に行ってわかったことは、これを映画化するのはとても難しいということでした。ハードルが高いと思いました。たくさんの台湾移民がいる中で代表的な人を見つけだし、どうやって映画に進もうか、とても時間がかかりました。彼方此方、離れて住んでいる約150名の移民の方にインタビューを行いました。インタビューしながら考える時間も含めて、全部で1年半くらい調査にかかりました。どうやってこのテーマを世の中に届けるか。単純にたくさんのインタビューをまとめて見せるという映画はやりたくなかったのです。どういう表現でやろうかと悩み、2015年の初めに最終的に3部作という構成になったのです。そこにたどり着くまでに2年くらいかかりました。

ーー2013年からリサーチや数多くのインタビューをして考察を重ね、2015年に3部作にしようと決まったと。

そう、ようやくハマったんです。歴史も勉強しながらわかったことの中で、いちばん重要な点は、台湾と八重山は近いということ。距離的に近いから、違う年代で交流したルートがたくさんあるということです。まず「パイナップルと水牛農民」を描き、2番目の「西表島の炭鉱」はこの次の作品ですが、パイン農民よりも1020年前に来ていた人たちについて、そこにはとても残酷な話があります。2013年に八重山を訪れてすぐに撮り始めたのは、移民三世の伝統舞踊「龍の舞」をやっている人たちの活動で、これが3部作の最後です。このように3人の主人公で、3部作を表現する形に決まりました。

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(c) 2016 Moolin Films, Ltd.

■「家族のドキュメンタリーが撮れる!」と思ったお掃除シーン

ーー第1弾の主人公として、石垣島の玉木玉代さんを撮ろうと思った決め手はなんだったのでしょう。インパクトのある女性ですね。

正直ここまで撮れるとは想像できなかったんです。もっと客観的に考えていて、3部作の1本目としてまず「八重山諸島に台湾人がいる」ということを最初に見せたいと思いました。そこから考案したのは、たくさんのインタビューで構成するのではなく、主人公をを中心にした「家族のドキュメンタリー」にしたいということです。家族を題材として、「家族史」から大きな歴史が見えるような被写体を選びたいと思いました。そんななかで、移民一世でお元気で、昔の記憶を話せる、魅力ある人を探していました。
最初は玉木家次男の茂治さん(アップル青果経営)と三男の文治さん(居酒屋経営)しか知りあっていなかったので、玉木家の全体像が見えませんでした。もっと家族のことを知りたくて茂治さんに案内してもらいました。それから「アップル青果」に通い、インタビューをしながら「この家族はどんな家族だろう」と観察しました。アップル青果は素敵で、店の前で子供が遊んでいたり、いつも活気がありました。玉代さんは、そんな元気なお店のヌシのようなおばあさんで、「この家族いいな」と思いました。それから玉代さんの米寿のお祝いや台湾に行く話も聞いたので、ぜひ密着したいと思ったんです。最初に「いける!」と思ったのは、米寿のお祝いの準備の家の掃除シーンを撮った時です。お祝いの会のために遠方から帰ってきた人もいたり、久しぶりに会う家族の団欒が撮れていたんです。カメラは邪魔しないし、影響もそれほどしていない、ここまで撮れるのかと、そのシーンのラッシュを見て、「あ、家族ドキュメンタリーが撮れる!」と思い、「できそう」という自信になりました。玉木家を撮るきっかけになった重要なシーンで、そこから始まりました。

ーー撮影隊と家族との距離感が絶妙で、近すぎず、遠すぎず。どうやってあのような距離感を作れたのでしょう。撮影前に玉木家と打ち合わせのようなものをしたのですか?

実は玉木家は『狂山之海』3部作のいちばん最後に選んだ家族です。それ以前に、他のふたつのドキュメンタリーを撮りながら、1年以上に渡って玉木家の様子を見る時間がありました。それと、お祭りなどのイベントで、中心メンバーとして活躍している彼らの方から、周りでウロウロしている撮影隊は逆に見られていたんです。ある日、茂治さんが「うちのおばあちゃんがいろいろ知ってますよ、話を聞かないか」みたいに声をかけて下さいました。その前にも玉代さんに会ってはいたのですが、ちょっと、怖い雰囲気があって話しかけられなかったんです(笑)。

ーー玉代さんが、昔、迷惑な客を追いかけて草履で叩いて懲らしめた、みたいな武勇伝を紹介するシーンもありました。強い方なのですね。

強いですよ。会ったばかりの頃はご自分で自転車に乗っていて、地元一強いおばあさんという感じでした。茂治さんが家族の全体像が見えるように導いて下さって、たくさんインタビューができました。そのようにどんどん親しくなり、インタビュー時間も長かったので、生活などの撮影に入る頃にはすでにお互いをよくわかる関係性ができていました。準備にたっぷり時間をかけて関係の基礎が出来上がっていたので、いきなり撮影に入るということではなかったのです。

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(c) 2016 Moolin Films, Ltd.

八重山は人類学的にも、とても貴重な地域

ーーその後は台湾旅行に密着されましたが、どれくらいの期間でしたか?

4、5日間です。玉代さんの体調もあるのでそんなに長くは旅行できなくて。

ーーしかも大雨の中、大変でしたよね。玉代さんが台湾で、台湾語を話し出すと、急に少女に返ったように可愛らしく、石垣にいる時とは違う感じになっていました。ところで、黄監督は台湾語を話しますか?

私の世代は中国語です。台湾語は、ある程度の理解はできますが、話すのは下手です。沖縄の台湾人に興味があるのは、まさにそこで、戦前に沖縄に渡った人たちなので、戦後の教育を受けずに台湾語しか話せない台湾人であることです。台湾にはもうそういう人はあまりいないので、とても特殊で、そこに興味を覚えました。とても昔風で、昔の言い方、難しすぎて聞き取れない言葉がたくさんあります。1年半の間に、私もけっこう台湾語がうまくなりました(笑)。沖縄弁の日本語も、台湾語もたくさん勉強しました。このように中国語の影響がない難しい言葉を話す人たちが住む八重山は、人類学的にもとても貴重な地域なのです。

ーー他の文化や民族の影響を受けずに、そこに純粋に生き残った言葉なのですね。

そう、「純粋」です。タイムスリップしたみたいです。本当に難しすぎて聞き取れないので、録音した音を私の両親に聴いてもらって解読してもらいました。両親も「難しい、でも懐かしい言い方ね」と言っていました。

ーーではご両親に言葉をちょっと助けてもらったのですか。

ちょっとではなく、かなり(笑)。字幕を作る時にもチェックしてもらいました。とは言え両親は映像の仕事はしていないのですが。

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(c) 2016 Moolin Films, Ltd.

■「家族の視点」のドキュメンタリーにこだわった

ーーところで玉木慎吾さん(SHINGO☆:メタルバンドのベーシストとして活躍する、茂治さんの息子)をナレーターとして起用しましたが、若者世代として、現代と過去をつなぐ「ブリッジ」のように、敷居を低くしてくれている気がします。ナレーション作りは一緒に? それとも黄監督が作ったのですか?

ここは自慢したいところです。なぜなら、これは彼ら家族のドキュメンタリーで、監督視点ではなくて、家族の視点で作りたいと思っていたのです。そこで彼らの協力に加えて、彼らの参加も同じように重要だと考えました。被写体として「撮られる」ということだけではなく、台湾旅行中でも何を考えていたか、声を聴きたいと思いました。そこで、語り手は家族の誰かがやってほしいと思っていたのですが、バランスを考えると、東京に住む慎吾さんが移民三世として家族を見るのがふさわしいと思いました。未来(=現在)の代表としても、三世の人たちに入ってほしくて、歴史の部分は私たちが歴史資料を参考にして書きましたが、それ以外のところは慎吾さんにインタビューしたものを基にしたり、台湾旅のパートは、慎吾さんのブログの言葉を使ったりしてナレーションを作りました。

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(c) 2016 Moolin Films, Ltd.

■彼らの日常はここ、石垣にある

ーー英語のタイトルは「After Spring, The Tamaki Family・・・」となっていますね。台湾旅行が「2015年の春」で、「After Spring」はその後ということなのですね。その構成もおもしろく、「米寿のお祝い」が第1パート、「台湾旅行」が第2パート、そして第3パートには石垣に戻った彼らのその後が映されます。クールダウンした穏やかさを感じましたが、そこに込めた監督の思いは?

実は台湾で上映した際に、「第3パートが長い」という感想がありました(笑)。クライマックス、例えば台湾に行って感動があり、泣くシーンで終わりというのが商業映画の常道ではないかと私も思います。なのに「なぜまた石垣に戻るんですか?」と訊かれました。なぜこのような編集にしたかというと、彼らの生活、人生、将来は、あくまでも石垣にあるのだと思います。その意味では、台湾人であっても「石垣の人」だと思います。何十年ぶりに台湾に帰ったというのも、特別のタイミングで、あれは通常の彼らではないのです。だから制作者としては、台湾のシーンで終わるのはおかしいと思いました。台湾旅行を経て彼らの生活には変化がありましたが、第3パートは彼らの日常であり、家族の魅力的なところなのです。米寿は88歳の特別なお祝いですし、台湾訪問も特別でした。でも彼らの日常はここ、石垣にある、ということを見せたかったのです。2015年の春には私たちも彼らと一緒に素晴らしい場面を見ました。家族と一緒に成長したと思います。そうした後に彼らにどんな変化があるのか、「After Spirng」の第3パートを作りました。派手な場面ではないですが、お祭りのお供えをしたり、ちまきを作ったり、買い物したり、笑ったり、そんな日常生活が魅力的だと思いました。

ーー「ちまきシーン」は「お掃除シーン」と並んで素晴らしいシーンです。「時期が来たら死ぬ運命よ」という玉代さんの言葉も響きます。最後にボーナスカットのカラオケシーンが入っていますね。

最後のカラオケは茂治さんのホームビデオの映像です。最初ホームビデオがあるという話は全然知らなかったのですが、制作途中、信頼関係ができた頃に、見せてもらったんです。もちろんプライベート映像なので、すべて確認の上で、許可をもらって使わせてもらいました。編集段階でも茂治さんに意見をいただいたり、コミニュケーションを十分とりました。だからこそ素晴らしいホームビデオをこれほど使わせてもらえたのだと思います。これは宝物です。

ーーなるほど、すごく近い距離で家族を見ているという感覚は、ホームビデオの映像も新たに撮影された映像も、うまく融合されて頭のなかにどんどん入ってくるからなのですね。ところで黄さんは、台湾の大学では放送学科、日本でも大学院で映画を勉強されたのですね。

台湾では映画を勉強していました。東京造形大学大学院在学中はすでにかなり沖縄に通っていました。いま撮影組にもうひとりカメラマンがいますが彼は東京造形大学の後輩で、いま一緒に沖縄に住んで映画制作をしています。

(※このインタビューは2017年7月7日に行われました。)

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(c) 2016 Moolin Films, Ltd.

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