REALTOKYO CINEMA

リアルトウキョウシネマです。映画に関するインタビュー、レポート、作品レビュー等をお届けします。

Review63:『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』

天才デザイナーが語る、天国と地獄

文:福嶋真砂代

© 2023 KGB Films JG Ltd

※「はてなブログ」仕様によるアンダーバー+リンクはRTCの意図とは関係なく、無視しつつお読みいただければ幸いです。 

独創的な世界観でファッション界を席巻した天才デザイナー、ジョン・ガリアーノ。時代の寵児がなぜ転落してしまったのか。突如として彼が起こしたヘイトクライム事件。しかしそこには理由があるはず。その真相を探るべく、ガリアーノ自らが闇の深遠を覗き込む。「洗いざらい話す」とインタビューに答えた。その映像を軸として、じつに多角的にガリアーノの人物像を描き出したのはケヴィン・マクドナルド監督(『[ブラック・セプテンバー]ミュンヘン・テロ事件の真実』)だ

事件当時の、亡霊のように彷徨う孤独なガリアーノの姿はあまりにも惨めだ。それでも業界の錚々たるスターたち、アナ・ウィンターやケイト・モスなどが明かすのは、大切な仕事仲間であり、友人としてのガリアーノへの愛にあふれる。その言葉の温かさがガリアーノへの信頼感を表し、見捨てなかった。ドキュメンタリーの随所に、踊り続けて破滅する「赤い靴」のバレリーナガリアーノが賛美したナポレオンをモチーフとして挿入し、ガリアーノの複雑な心象風景がドラマティックに浮かび上がる。映画は、ひとりの有名デザイナーの人生を見つめながら、成功、過失、転落、中毒、寛容、贖罪、赦しといった多くの人間が経験する普遍的なテーマへと導いているようだ。

冒頭の衝撃的なガリアーノの行動と発言。華やかなステージで輝くデザイナーが一体なぜ? 出自、過去の虐待の記憶、またジェンダー、宗教、教育、信条等々、心身の過労、アルコール中毒、大事な人を突然亡くした喪失感が大きな要因であることは間違いないだろう。しかし様々な要素を考察しても、果たして正解があるのか。潜在意識レベルのことなのか。人間はそもそも愚かな生き物で理解不能な面があり過ぎるが、だからこそそこには無限の可能性と魅力があるのでは。その到達不可能な柔らかな部分にまで触れるドキュメンタリーの考察にグッとくるものがある。

個人的には本ドキュメンタリーの優れたデザイン性も印象的だった。「いま話しているのは誰か」という情報がシンプルにわかりやすいリズム感と映像デザイン。つまり、それだけ映画に没入できるというメリットは侮れない。

Information:

ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』

原題:High & Low -John Galliano

9/20(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町他ロードショー 

監督:ケヴィン・マクドナルド

出演:ジョン・ガリアーノケイト・モスシドニー・トレダノ、ナオミ・キャンベルペネロペ・クルスシャーリーズ・セロン、アナ・ウィンター、エドワード・エニンフル、ベルナール・アルノーほか

jg-movie.com