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Review 43『死霊魂』

「そこで何が起きたのか?」悲劇の真実を探り記す、魂の旅

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©LES FILMS D’ICI-CS PRODUCTIONS-ARTE FRANCE CINÉMA-ADOK FILMS-WANG BING 2018
ワン・ビン独特の「意外性」にいざなわれて

中国のワン・ビン監督(以下、ワン・ビン)のドキュメンタリー『死霊魂』(カンヌ映画祭公式出品、山形ドキュメンタリー映画祭大賞と観客賞受賞)。シアター・イメージフォーラムにて8月に特別公開された本作は、10月から追加上映が決まった。ポスタービジュアルに浮かぶタイトル、そこに潜む得体の知れない恐怖に思わず怯んでしまうが、その中身にはいくつかの「意外性」があるように個人的に思う。

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©LES FILMS D’ICI-CS PRODUCTIONS-ARTE FRANCE CINÉMA-ADOK FILMS-WANG BING 2018

ひとつは、思いの外、穏やかさがあること。そこにはワン・ビンの素朴な人間味がもたらすある種のマジックが潜むのではないだろうか。老人たちからとんでもない実体験の記憶を引き出すワン・ビンは、程よい距離を保ちながら謙虚に相槌を打ち続ける。激昂する者、涙する者、死の床につく者。元囚人や関係者の声に我々はただひたすら耳を傾け、想像を絶する現実を思い知る。様々なエピソードが緻密な計算のもとに整然と編集され、だからこそ、当時の恐ろしさが地続きで伝わってくる。「この尺は必要不可欠だった」とワン・ビンが吐露する8時間26分。そこに一体何が描かれるのか、何を物語るのか……。それを探す長い旅になる。

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©LES FILMS D’ICI-CS PRODUCTIONS-ARTE FRANCE CINÉMA-ADOK FILMS-WANG BING 2018

3部構成となるドキュメンタリーに刻印されたもの、それは「1950年代後半、中国共産党によって突然『反動的な右派』と名指しされた55万人もの人が理由もわからずに、夾辺溝(ジアビエンゴウ)再教育収容所へ送られた『反右派闘争』。生存率10%とも言われた収容所から生き延びた人々が、半世紀以上の時を経て、カメラの前で語る様子をとらえる」と解説にある。ワン・ビンはその真実を語れる数少ない生き残りの人々を探し訪ね、死者の魂を呼び醒ます「生声」にアクセスする。

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©LES FILMS D’ICI-CS PRODUCTIONS-ARTE FRANCE CINÉMA-ADOK FILMS-WANG BING 2018

もうひとつ、これは「意外性」というのが正しいのかわからないが、老人たちの記憶は驚くほど鮮明であること。ほとばしり出る語りの中に、60年前の壮絶な光景がありありと目の前に浮かび上がる。実に120の証言と約600時間のラッシュ映像の素材から作られたという。封じられた深い傷と悲しみを掘り起こす繊細で大胆な作業。過去作の、ワン・ビンにしてはレアな劇映画の『無言歌』(2010)、さらにドキュメンタリー『鳳鳴 中国の記憶』(2007 のソースはまさに彼らの話の中にあったのだ(『無言歌』は楊顕恵の小説『夾辺記録』を原作として、さらなる取材をもとに作られている)。

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©LES FILMS D’ICI-CS PRODUCTIONS-ARTE FRANCE CINÉMA-ADOK FILMS-WANG BING 2018
ワン・ビンが記す中国の重要な証言記録

このドキュメンタリーは「映画」であると同時に、ワン・ビン監督によって記される中国に実際に起きた出来事の重要な証言記録である。それを明確に認識することになるのは第3部かもしれない。第1部、第2部に収録された囚人側のエピソードに心揺さぶられた後、第3部の収容所の元職員に話を聞くシーンは「そこで何が起こったのか」を検証する意味でも興味深い。さらにカメラは、収容所の跡地と思われる砂漠を歩くワン・ビンの背中を追いかける。「なぜこの映画を撮ろうと思ったのか」、その背中を見ながら、ワン・ビンの崇高な意志と、人間の生と死への深い探究心に戦慄さえ覚える。

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©LES FILMS D’ICI-CS PRODUCTIONS-ARTE FRANCE CINÉMA-ADOK FILMS-WANG BING 2018
●”命”と”死”がテーマ

インタビュー(下記リンク)の中の作品テーマに関するメッセージを抜粋する。「8時間を超える作品なので、鑑賞は非常に疲れるはず。しかもを扱っています。非常に重たい題材です。ですがは永遠であり、我々のは非常に短いもの。私を含めて、について語りたくない、直面したくないという方々は多いと思います。でも、年を重ねるとについて考え始めるでしょう? 昔は私も避けていたテーマです。しかし、今はこの題材から逃げることができなくなった。作品を通じて、さまざまなものを受け取っていただけたら幸いです。」

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©LES FILMS D’ICI-CS PRODUCTIONS-ARTE FRANCE CINÉMA-ADOK FILMS-WANG BING 2018

さらに、『無言歌』のためのインタビューで語られた映画の背景についての部分は、そのまま『死霊魂』の背景に繋がり、わかりやすいので以下に引用します(ムヴィオラ『無言歌』プレス資料より)。

ワン・ビンいわゆる「百花斉放・百家争鳴」キャンペーンの後、1957年に、中国共産党100万人以上の市民に対して、彼らが行った党への批判、または単に家族の出自を理由にして「反右派闘争」を開始しました。

19571958年にかけて、中国西北部ゴビ砂漠にある甘粛省夾辺溝の再教育収容所では「右派」と名指しされた3000もの人々が過酷な労働を強いられていたのです。そしてその同時期、1960年まで、中国全土を大干ばつが襲いました。その年の10月、夾辺溝収容所の1,500人の生存者は、新しい高台県明水分場に集められました。著しい疲労、食糧の不足、過酷な気象条件にあって大量死は不可避でした。生き残ったのは500人に満たなかったといいます。

Information: 

原題:死霊魂|英語題:DEAD SOULS|監督・撮影:ワン・ビン|製作:セルジュ・ラルー、カミーユ・ラエムレ、ルイーズ・プリンス、ワン・ビン|フランス、スイス|2018年|8時間26分(3部合計)|DCP|カラー|日本語字幕:最上麻衣子(第一部)、新田理恵(第二部、第三部)

配給:ムヴィオラ

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★10/3(土)〜シアター・イメージフォーラム、10/16(金)~アップリンク吉祥寺、 9/5(土)~横浜シネマリン、9/19(土)・20(日)名古屋シネマテークほか全国順次公開中

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