REALTOKYO CINEMA

リアルトウキョウシネマです。映画に関するインタビュー、レポート、作品レビュー等をお届けします。

Review 33『バハールの涙』

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©2018 – Maneki Films – Wild Bunch – Arches Films – Gapbusters – 20 Steps Productions – RTBF (Télévision belge)

RealTokyoに『バハールの涙』レビューを寄稿しました。

 「ヤズディの女性たちの恐怖と苦痛から目を背けてはならない」

実話に基づいて作られた。イラク北部のヤズディ教徒の女性たちに降りかかった恐怖と苦痛。2014年8月のIS(イスラミックステート)の侵攻により彼らに起きた悲劇は想像を絶する。2018年ノーベル平和賞共同受賞者のナディア・ムラドは自身の恐ろしい体験を語ることで、いまだ安否不明の多くの人々の救済を訴える。ナディアはまさにエヴァ・ウッソン監督が取材した女性たちの代表者であり、“バハール”と言えよう。

砲弾飛び交う紛争の最前線。ISと戦うクルド人部隊の女性兵士バハールと、片眼の戦争記者マチルドが出会うところから映画が始まる。『パターソン』での可憐な美しさが印象的なゴルシフテ・ファラハニが、一転して兵服に身を包む孤高の兵士バハールを演じる。夫と息子と幸せな家庭を築いていた弁護士バハールがクルド人自治区へ家族で里帰りした夜、ISの襲撃を受け、悲劇が始まった。村の成人男性はことごとく殺害され、女性と少女は拉致、あげく性的奴隷として売買され、少年たちはIS戦闘員養成学校へ送られた。バハールも何回も売られ、夫は殺され、息子は行方不明となった……。

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www.realtokyo.co.jp

 

2018年 わたしの10大イベント「CINEMA10」

REALTOKYO CINEMAはおかげさまで3年目を迎えました。今年もよろしくお願いいたします。そしてすっかり年頭の恒例行事になった「CINEMA10」の発表です。今回もさまざまなフィールドで活動する6人の旧RealTokyoメンバーが、2018年に観た映画から心に残る10本を厳選しました。激動の1年間を振り返りつつ、平成ラストのCINEMA10を、原稿到着順にお届けします。よい意味でバラバラ、だけど実に味わい深いセレクトではないかと思います。どうぞお楽しみ下さい。

2018 RT CINEMA 10

★澤 隆志の2018 CINEMA10

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© E.x.N K.K.
  1. 『マウンテン・プレイン・マウンテン (恵比寿映像祭)』https://www.yebizo.com/jp/program/detail/2018-04-02
  2. 君の名前で僕を呼んでhttp://cmbyn-movie.jp/
  3. 『フロリダ・プロジェクト』 http://floridaproject.net/
  4. 『外国人よ、出て行け!』 (イメージフォーラム・フェスティバル2018) http://www.imageforumfestival.com/2018/program-s7
  5. 『この素晴らしいケーキ!』 (イメージフォーラム・フェスティバル2018) http://www.imageforumfestival.com/2018/program-k
  6. 『タクシー運転手』http://klockworx-asia.com/taxi-driver/
  7. きみの鳥はうたえるhttp://kiminotori.com/
  8. 僕の帰る場所https://passage-of-life.com/
  9. 『Long Day's Journey into Night ()』https://filmex.jp/2018/program/competition/fc08
  10. 『完璧なドーナツをつくる』https://www.kyunchome.com/donut

コメント:難民ー移民ー国民の解釈と共生があいまいな日本に国内外の様々な「声」が突きつけられた印象が強かった。(4、5、8、10)男と女の間にヴァカンスという性があると言わんばかりの2、外国人と日本人の共同監督でコミュニティに切り込み字幕とセリフの差異まで料理するカタコト映画の1、飯を食うソン・ガンホに萌えつつ光州事件1980年というのも驚愕の6、A24フィーバーの中、子供達の圧倒的な演技と豊かなサントラが突出の3、染谷将太石橋静河、なにより柄本祐のいい声が際立つ7、ケレン味全開の前半、執念の1ショット3Dの後半と威勢のいい9は、中国本土でまさかのデートムービーとか。観客が一番エクスペリメンタル!

 

★前田圭蔵の2018 CINEMA10

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(C)「雨にゆれる女」members
  1. 『雨にゆれる女』http://www.bitters.co.jp/ameyure/
  2. 『ラッキー』https://www.uplink.co.jp/lucky/
  3. 万引き家族https://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku/
  4. あなたはわたしじゃないhttp://keishichiri.com/jp/events/anatawatashi/
  5. 『Don't Blink ロバート・フランクの写した時代』http://robertfrank-movie.jp/
  6. 顔たち、ところどころhttps://www.uplink.co.jp/kaotachi/
  7. ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ アディオス』https://gaga.ne.jp/buenavista-adios/
  8. 『嘘をつく男』http://www.zaziefilms.com/arg2018/index.html
  9. 『生きてるだけで、愛』http://ikiai.jp/
  10. ボヘミアン・ラプソディhttp://www.foxmovies-jp.com/bohemianrhapsody/

コメント:映画を見るのが大好きなのに、こうして振り返ってみると、昨年は全然映画館に通えなかった。特に、アジア各国の監督の映画は、見逃した作品がたくさんある。月並みかも知れぬが、高校の先輩でもある是枝裕和監督のカンヌ受賞作は、監督の一貫した眼差しが結実したほんとうに良い作品だった。細野晴臣の音楽も出色だった。文科相祝意を「公権力とは距離を保ちたい」と辞退した是枝氏の姿も印象的だった。貧富の差の拡大や、#MeToo運動などに象徴される社会における様々な「不理解」と「分断」の構図。「世界」はひとつであるのに「社会」は決してひとつなんかではないという現実とどう向き合うか。そんな問い掛けを胸に秘めつつ、今年こそはもっと映画を見ようと誓うのである。

 

★松丸亜希子の2018 CINEMA10

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©Laboratory X, Inc
  1. 『港町』http://minatomachi-film.com/
  2. 友罪https://gaga.ne.jp/yuzai/
  3. 万引き家族https://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku/
  4. ザ・スクエア 思いやりの聖域http://www.transformer.co.jp/m/thesquare/
  5. 『それから』http://crest-inter.co.jp/sorekara/
  6. 海を駆けるhttp://umikake.jp/
  7. 寝ても覚めてもhttp://netemosametemo.jp/
  8. 『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』http://child-film.com/jackson/
  9. 『生きてるだけで、愛。』http://ikiai.jp/
  10. 『ハード・コア』http://hardcore-movie.jp/

コメント:新潟県長岡市に移住して5年目に突入。かつて通い詰めていた試写や映画祭への未練も薄れつつあり、市内唯一のシネコンと県内2軒のミニシアターをはしごして、ちびちびと、じっくりと映画を味わっています。この10本は劇場で観た順で、観賞本数は少ないながらも2018年もたくさんの傑作と出会うことができました。想田監督との新潟での再会という僥倖にも感謝。動画配信で手軽に映画見放題の時代だからこそ、今年も劇場に足を運ぶことを諦めずにいたい。そう胸に刻み、毎年恒例のCINEMA10に参加できる喜びを噛み締めています。

 

★白坂由里の2018 CINEMA10

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(C)2017 Florida Project 2016, LLC.
  1. 僕の帰る場所https://passage-of-life.com/
  2. 『フロリダ・プロジェクト』http://floridaproject.net/
  3. ワンダーストラックhttp://wonderstruck-movie.jp/
  4. 正しい日 間違えた日http://crest-inter.co.jp/tadashiihi/
  5. きみの鳥はうたえるhttp://kiminotori.com/
  6. デトロイトhttp://www.longride.jp/detroit/
  7. 『スリービルボードhttp://www.foxmovies-jp.com/threebillboards/
  8. 『マイ・フォークス・イン・ジェイド・シティ』/『リターン・トゥ・ビルマ』(恵比寿映像祭2018)https://www.yebizo.com/jp/program/detail/2018-04-04
  9. 『With Friction, As Friction』(イメージフォーラム・フェスティバル2018)http://sanaeyamada.com/WithFrictionAsFriction.html
  10. 『ZEN FOR NOTHING〜何でもない禅』http://silentvoice.or.jp/works/zenfornothing/

コメント:1.2.3は移民や貧困、ままならぬ身体や現状を抱えた子どもたちが、友達と駆け出す姿に。どんな場所にもある笑いや遊び、悲しみで掠れた言葉。その対比を色彩や光と影で表す。3はミュージアムが“居場所”になる。4.5は“今”に率直で、または“今”を見送り、傷つき、修復する大人たちに。6は容赦なく理不尽だが、歌に救いあり。7は瀕死から寝返る“チキチータ”警官に希望が。8はミャンマーの労働者を描くミディ・ジーの視線が優しい。カラオケシーンがそのまま映画音楽になる。9は新潟県十日町市松之山の雪ほり(雪下ろし)を撮影した山田沙奈恵の映像。骨が折れるが、自然とともにある労働。雪の音。雪面に反射する光。10は「みちのおくの芸術祭」で旅ごと体感。

 

 ★フジカワPAPA-Qの2018 CINEMA10

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(C)BUSHBRANCH FILMS LTD 2017
  1. 『ラスト・ワルツ』https://lastwaltz.net-broadway.com/
  2. 『ラジオ・コバニ』https://www.uplink.co.jp/kobani/
  3. ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオスhttps://gaga.ne.jp/buenavista-adios/
  4. オーケストラ・クラスhttp://www.orchestra-class.com/
  5. 『テル ミー ライズ』http://tellmelies.jp/
  6. ペギー・グッゲンハイム  アートに恋した大富豪』http://peggy.love/
  7. 『華氏119https://gaga.ne.jp/kashi119/
  8. エリック・クラプトン 12小節の人生』http://ericclaptonmovie.jp/
  9. ピアソラ 永遠のリベルタンゴhttps://piazzolla-movie.jp/
  10. 『私は、マリア・カラスhttps://gaga.ne.jp/maria-callas/

 コメント:1:公開40周年記念デジタルリマスター版。爆音で! 2:ラジオのスタジオでのウードの演奏は希望の音だ。 3:続編にして最終作。ベテランから若手へ音楽継承。 4:監督と同じパリの移民の少年少女が演奏会を目指してバイオリンを学ぶ。音楽への信頼が素敵。 5: 1967年制作のベトナム反戦映画。本邦初公開!?  6:ヒップな富豪女性が様々な美術家をNY、パリ等で援助する痛快譚。  7:米国や世界の状況を見て多彩な人々が発言し行動する。赤いバンダナはイカす! 8:幼少期~現在までの音楽人生を大胆に描く。 9:ピアソラの実の息子の視点で父親の生涯を描く。 10:マリアとカラスの相克を本人が深く語る。歌が切なくて涙。(リストは公開順)

 

 ★福嶋真砂代の2018 CINEMA10

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(C)2017 MLD Films / NOBO LLC / SHELLAC SUD
  1. ライオンは今夜死ぬhttp://www.bitters.co.jp/lion/
  2. 『港町』/『ザ・ビッグハウス』http://minatomachi-film.com/> http://thebighouse-movie.com/
  3. 友罪https://gaga.ne.jp/yuzai/
  4. きみの鳥はうたえるhttp://kiminotori.com/
  5. ゲンボとタシの夢見るブータンhttps://www.gembototashi.com/
  6. 『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』http://child-film.com/jackson/
  7. 泳ぎすぎた夜http://oyogisugitayoru.com/
  8. ガザの美容室https://www.uplink.co.jp/gaza/
  9. ポルトの恋人たち 時の記憶』http://porto-koibitotachi.com
  10. 『オンネリとアンネリのふゆ』https://www.onnelianneli.com/

コメント:諏訪敦彦とジャン=ピエール・レオーの実験的南仏ランデブー(1)。神秘的なモノクロ映像で観察を超えた前者と後者のアメリカ社会システムの痛快観察の対比(2)。瑛太はどこまで怪演を極めるのか!(3)。三宅唱の作る佐藤泰志の新しい世界観(4)。“幸福な国”の現実を兄妹を通して見せてくれた若い才能たち(5)。ワイズマン、ワイズマン!(6)。雪景色と少年の完璧な構図(7)。ガザ日常のリアル体験(8)。ポルトガルギマランイスと柄本&中野との驚きの親和性(9)。フィンランド児童文学の最高の映像化(10)。(付録)TIFFとFILMeXは豊作。個人的グランプリはそれぞれ『三人の夫』、『自由行』でした。(リストは順不同)

 

●選者プロフィール:

archive.realtokyo.co.jp

 過去の「CINEMA10」

realtokyocinema.hatenadiary.com

realtokyocinema.hatenadiary.com

 

TIFF Report :『三人の夫』(東京国際映画祭2018 コンペティション部門)レビュー&記者会見レポ

香港からひとりの女優の強烈すぎる誕生を目撃

取材・文:福嶋真砂代

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©Nicetop Independent Limited

『ドリアン、ドリアン』(2000)、『ハリウッド★ホンコン』(2001)に続く、香港のフルーツ・チャン監督の「娼婦三部作(売春三部作とも)」を締めくくる『三人の夫』が第31回東京国際映画祭コンペティション部門にて上映された。性欲が止まらない女、シウムイと彼女をめぐる三人の男の話だ。小さな漁船の上で暮らす漁師は娘のシウムイを老夫に嫁がせ、二人の男は彼女に売春をさせる。これだけでもショッキングな話なのだがシウムイの止められない性欲は一種の病気なので(怪しい医者にもそう診断を受ける)、こうするしかないと思うことになる。すると売春の若い客が彼女に惚れ込み三人目の男となる。ああそれもよかったと思うと、さらに彼女は客をとる。かなりの分量がセックスシーンで占められている。肉感的なシウムイの官能の表情、障害のせいでトロンとした目付きはもう彼女はそういう人なんだと思わせてしまうくらい。正直、私にはそう見えた。半分以上信じ込んでしまった。彼女を演じる女優は普通の人ではないのではないかと......。

さてそんなわけはなく、記者会見に登場した素顔のクロエ・マーヤンの凛とした、モデルのような姿のかっこよさ。MCの笠井信輔さんも「あんなに劇中で太っていたのに目の前のあなたはとてもスリム!なぜ?(実際の言葉は英語)」とスタイルの違いに目を疑うほど。まるでアクターズスタジオの俳優ではないか。その上、わざとらしさがまったくない。スクリーンの彼女の肢体、表情に目は釘付けになってしまう。金魚と一緒に水の中で戯れるシーンの優美さ。クロエは映画祭のシンポジウムでその演技について「『世の中、美しいものは大抵真実ではない。』この言葉は、女性として、私を非常に柔らかくしました。監督は、この映画を通してある種の「美』を作り上げようとしていると思います。」と述べている。監督からは「心も意識も“空っぽ”にしてほしい」と要求があったという。

クロエのシウムイという人物についの見解が興味深い。「半分は人間、半分は魚。動物ですよね。したがって、私はこの演技をする時に一生懸命、この魚はどういう風に目を開けて見せているのか。私の演技の多くは非常に魚に似ているような感じで演じたわけなんです。なんとなくこのちょっと気が狂ったみたいな性をある種、「神獣」、つまり、想像上の、中国の伝説の中ではいろいろな想像上のこういった動物、キャラクターがあるわけですね、つまり、人間と動物が合体して、何かを表現すると。私のこの役柄が単に人間、あるいは単に動物のセックスを表現しているとなりますと、私にとってはこのセックスはつまらなく、高級な感じはしないと思います。そうするとむしろ、一般の人々が考えている人間、動物のセックスというよりも、この人間と動物が合体した、このような想像上のこのキャラクターがやっているセックスというようなものは、ある種の解脱になるわけですよね。彼女は結局、自分はこのセックスを通して、一生懸命生きていくために、自分は解放されたと、そういう部分を、私の表情、私の声を通して演じたわけです。もうひとつ付け加えておきたいことがひとつありまして、イルカの鳴き声ですね。実は私が子供の時にイルカの鳴き声を真似するのが超得意でした。私がワーと鳴くとですね、建物全体の電気が点いてついてしまうぐらいに。一番得意な部分を監督の映画の中で活かされたわけです。」

また注目すべきは、香港という街の運命がこの映画に投影されていること。脚本のキートーはインタビューでこう語る。「人魚伝説は、香港を象徴した歴史的なものです。香港はもともと水上生活をメインにした漁港でした。それが経済発展とともに、みな陸に動きました。ただ低下層の人たちは、陸の生活に慣れない。結局、大澳の水上生活に移動し、最終的に船に戻っていった。歴史が流れても、香港はもとに戻っていくということです。」

受賞にはならなかったが、クロエ・マーヤンという強烈な女優の誕生を目の当たりにした迫力の作品だった。これからの彼女の活躍に注目したい。

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@realtokyocinema2018

フルーツ・チャン監督、女優クロエ・マーヤン、脚本のラム・キートー

『三人の夫』記者会見 2018.10.28@TOHOシネマズ 六本木ヒルズ 

MC:笠井 信輔アナウンサー

ラム・キートー:僕は香港で50本以上作品を書いていて、これが最新作です。

ーーセックスシーンが満載の映画に衝撃を受けた方も多いと思うのですが、性欲が止まらない女性シウムイと、彼女を買うために並ぶ男たち。それが何を象徴しているのかわかりませんが、私から見ると日本で爆買いをする物欲が治らない中国人の姿と重なってくるのですが、監督はどうお考えでしょうか。

フルーツ・チャンまず本来この性欲というのは男性特有のものだと思うのですが、性欲をテーマにして女性を描いたのは私にとって初めてです。自分としてもこの性欲がどこまで、どのぐらいまで行くのかわからないので苦労したところです。医者に聞くと、女性の性欲も無尽蔵で満足いくまで止まらないものだと教えてくれました。

ーーこの強すぎるヒロインの性欲は何を象徴していると?

チャン:実はファーストシーンに答えがあるのですが、火にかけられたアワビが蠢く、あのシーンがある意味象徴しています。でも何か特別な意味を象徴しているということではないのです。

ーーマーヤンさんは映画の中でとてもふっくらした女性を演じていましたが、いまの姿はとてもスリムですね。なぜですか?(なぜ?という質問にはびっくりしたが)

クロエ・マーヤン:ひとつには、監督からの要望で体重を増やして肉感的になることもありました。私としては力強い女性を演じようとしました。つまりシウムイは単なる“被害者”ではないということです。いまは体重は戻りました。

ーー監督は彼女に何kg増やすように言ったのですか?

そういう指示ではしなくて、時間が短かったので、できるだけ増やしてくれとお願いして、だいたい13、4kg増やしてくれました。いま目の前にいるマーヤンさんはとてもスリムな女性です。

ーーマーヤンさんが初めて脚本を読んだ感想を聞かせて下さい。

マーヤン:脚本を初めて読んだのは、香港に到着してクランクインの初日でした。読んだときは、長年待っていた脚本で、こういう役がやりたかったと思いました。

ーー日本ではなかなか、主演女優が撮影初日に脚本を目にするというのはないと思うんですが、香港ではよくあるのですか?

マーヤン:もちろんあまりそういうことはないのですが、この映画は「娼婦三部作」の最後の1本で、このシリーズのフルーツ・チャン監督の撮り方というのは、まず文字脚本を起こし、次にキャスティングをして、その後リンさんが脚本をビジュアルに起こします。ある意味、実験的な作り方だと思います。

ーーマーヤンさんのお芝居は圧倒的で、さらに精神的な危うさを含めて見事だと思います。なぜ主演経験のないマーヤンさんを大抜擢したのでしょうか?

チャン:まず中国において、ある意味「冒険」という感じなのですが、女性のセックスの映画を撮るのは中国の女優さんの中ではまだタブーだと思います。ですので役者がなかなか決まらなかった。マーヤンとは別の映画のキャスティングで十何年か前に一度会っていて、そのときはイメージと違ったので外れたのですが、今回この映画を撮りたいと思ったときに、友人から彼女がいいんじゃないかと教えてもらって、会ってみるとシウマイにかなりイメージが近いと思い、決まりました。

ーーマーヤンさん、香港でもタブーを犯すような役柄に挑戦する決断はどうだったでしょうか。

マーヤン:私のなかではとても簡単な決断でした。自分との対話という意味で、過去の子供のころや未来の自分、いろいろ考えるなかで、いまいちばんこれを演じる時期だと感じ、私が成長していくなかで、パワフルで特別な役だと考えました。

ーーキートンさんはマーヤンさんの演技をどう思いましたか?

キートー:この作品の脚本はあて書きで書いたところが多かったです。そんななかで撮り終えたあとにクロエさんの芝居を見たら、完璧に伝えてくれたと思います。ただこれは脚本の力ではなくて、あくまで監督とクロエさんら演者の力だと思います。

Q&A:
ーー中国本土と香港での上映状況はどうでしょうか?

チャン:香港は問題なく上映できますが、中国国内では諦めています。これはある意味、社会の暗黒面だと思います。

ーー(シンガポールの記者)「脱ぐのは簡単だが、服を着るのは大変だ」などという言い方をされるかと思いますが、以前アン・リー監督作品でベッドシーンを演じた女優さんもそういう意味で苦労されたと聞いています。そこに対して心配はないのでょうか。

マーヤン:その女優さんはタン・ウェイさんですね。以前彼女と共演したことがあって、そういうご苦労された話を伺っていました。でも共演したときは彼女は心穏やかな状態でした。自分としても心配はしましたが、いちど海へ飛び込んだからには身を任せるしかないと思っています。いまみなさんの前で私も心穏やかにいます。

MC:私たちも凛とした女優さんの船出を目撃したように思います。

Information:

監督:フルーツ・チャン [陳果]

キャスト:クロエ・マーヤン、チャン・チャームマン

101分/カラー&モノクロ/2018年香港

2018.tiff-jp.net

参考サイト:

フルーツ・チャンが17年ぶりに発表した「売春三部作」に見る主演女優の圧倒的存在感|第31回東京国際映画祭

「一生懸命時間をかけてこの人物について議論した」10/28(日):シンポジウム『三人の夫』|第31回東京国際映画祭

Review 32『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』

タンゴの革命者、アストル・ピアソラの生涯を描く

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©Daniel Rosenfeld /© Juan Pupeto Mastropasqua

タンゴのバンドネオン奏者、作曲家アストル・ピアソラ(1921〜1992)の生涯を描いたドキュメンタリー映画が公開中だ。ピアソラは幼少期にニューヨークへ移住し、バンドネオンという楽器に出会う。十代で帰国しタンゴ楽団に加入後、自分の楽団で作曲活動、そして1954年にパリへ留学して高名な音楽教育者ナディア・ブーランジェに師事するが、タンゴに進む様に指導された事が転機となる。パリから戻ると新たに楽団を結成するが前衛的な音楽は賛否両論を呼び、58年にニューヨークへ。帰国後、精力的に活動するも75年にイタリアへ移り、90年にパリの自宅で倒れ帰国するが92年にブエノスアイレスで死去。

監督は、アルゼンチンのドキュメンタリー作家ダニエル・ローゼンフェルドで、2002年に監督した著名なバンドネオン奏者ディノ・サルーシの映画がベルリンやニューヨークの映画祭で上映された実力派。その映画を見たピアソラの息子で唯一の肉親であるダニエルが、父親のピアソラについての映画を監督に依頼した事から始まったという。

映画の中に写真家ソール・ライターの作品が出てくるが、これはニューヨークの通りですれ違ったかもしれないピアソラとライターという2人の異人的芸術家への監督の想いか。ヨーヨー・マウォン・カーウァイばかりか、クロノス・カルテットギドン・クレーメルキップ・ハンラハンも愛するピアソラの音楽、「リベルタンゴ」「アディオス・ノニーノ」などもたっぷり堪能できる異色作だ。

フジカワPAPA-Q ★★★★.5

Information:

監督:ダニエル・ローゼンフェルド  
出演:アストル・ピアソラほか 
配給:東北新社 クラシカ・ジャパン
国際共同製作:クラシカ・ジャパン
後援:アルゼンチン共和国大使館
2017/フランス・アルゼンチン/英語・フランス語・スペイン語/カラー(一部モノクロ)/94分

Bunkamuraル・シネマ他全国順次公開中!

公式サイト:

piazzolla-movie.jp

Review 31 『エリック・クラプトン~12小節の人生~』

エリック・クラプトンを描く音楽ドキュメンタリー

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© BUSHBRANCH FILMS LTD 2017

夏にレコード屋でたまたま見つけたのがエリック・クラプトンのアルバム『LIFE IN 12 BARS』。映画『エリック・クラプトン 12小節の人生』のサントラ盤だった。彼の音楽人生の前半の代表曲、名曲が収録されたベスト盤ともいえるもの。最初期のヤードバーズジョン・メイオールのバンドを経て、クリームを結成してアメリカを席巻、その後ブラインド・フェイスデレク&ザ・ドミノスでの活躍後、ソロ名義で活動を始め、他のアーティストへの客演も多数という軌跡だ。

そして、映画はクラプトンについての音楽ドキュメンタリーで、複雑な幼少期、ラジオでブルースを聞いてギターを手にし、ミュージシャンとして名声を得るもドラッグ、アルコール等の依存症に陥り、不幸な事故に見舞われるが、音楽に救われて復活するという半生を描く。監督は、クラプトンの長年の友人で、劇映画の製作演出のリリ・フィニー・ザナックで、これが初のドキュメンタリー作品となる。

クラプトン自身の語り、様々なアーカイブ映像で数奇な人生を深くさらけ出していて圧倒される。B.B.キング、ジョージ・ハリスンジミ・ヘンドリックス、パティ・ボイド、ザ・ローリング・ストーンズボブ・ディラン等々が登場する場面も興味深い。ひねくれ者でろくでなし、と自分で言うギタリストの存在感、そして、たっぷり流れる音楽を楽める。なお、本作は、20192月に発表されるグラミー賞のベスト・ミュージック・フィルム部門にノミネートされている。

フジカワPAPA-Q ★★★★.5

Information:

監督:リリ・フィニー・ザナック(『ドライビングMISSデイジー』製作) 製作:ジョン・バトセック(『シュガーマン 奇跡に愛された男』『We Are X』)
編集:クリス・キング(『AMY エイミー』) 音楽:グスターボ・サンタオラヤ(『ブロークバック・マウンテン』)
出演:ミュージシャン:エリック・クラプトンB.B.キングジョージ・ハリスン、パティ・ボイド、ジミ・ヘンドリックスロジャー・ウォーターズボブ・ディランザ・ローリング・ストーンズザ・ビートルズ etc.
2017年/イギリス/英語/ビスタ/135分/原題:ERIC CLAPTON : LIFE IN 12 BARS/日本語字幕:佐藤恵

配給:ポニーキャニオン/STAR CHANNEL MOVIES,、提供:東北新社 映倫(PG12)

1123日(金・祝)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

公式サイト:

ericclaptonmovie.jp

TIFF Report :『ブラ物語』(東京国際映画祭2018 コンペティション部門)レビュー

字幕も翻訳もいらない、本当の意味でユニバーサルな映画が実現した

ーー取材・文:福嶋真砂代

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©2018 Veit Helmer – Filmproduktion, Theo Lustig ©2018 Theo Lustig

空から舞い降りていく鳥のように、優しいバイオリンの響きに乗って、高原の小さな街に近づいていくカメラ。そんなワクワクするオープニングの(構図がすばらしい)、ドイツのファイト・ヘルマー監督『ブラ物語』が第31回東京国際映画祭コンペティション部門にてプレミア上映された。

セルビアの名優ミキ・マノイロヴィッチエミール・クストリッツァ監督『アンダーグラウンド』(1995)でお馴染み)演じる定年退職を前にした鉄道運転士ヌルランは、ルーティンワークを淡々とこなしていたある日、列車にひっかかった青いブラジャーが気になり、持ち主を探し歩き様々な形の愛を見つける、というマジカルストーリー。しかしなぜ列車にブラジャーがひっかかるのか? それは躍動的に映される列車運行の日常を見ると納得するのだ。このロケーションとシチュエーションこそ、ヘルマー監督が実際に見て驚き、映画に残すべきと考えた発想の原動力だった。というのは、村の家々のすぐ脇を線路が走り、列車は家の玄関前や軒下ギリギリを通過していくのだ。1日にほんの数本しか列車が来ない線路は住民たちの大事な生活圏になる。あるものはテーブルを広げ、親父たちはギャンブルを楽しみ、もちろん子供たちにとっても線路は格好の遊び場だ。驚くことに線路上で営業するホテルまである。また線路を挟んだロープに堂々と洗濯物を干す女性たちもいる。

列車の通過時間が近づくと、列車の到着を笛を吹ききながら走って知らせる一人の少年がいる、まるで『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988)のトト少年のように愛らしい。鉄道会社敷地の犬小屋に住むこの少年がとても気になり、上映後に監督に「あの子はどこで見つけたのですか?」と問うと「あの子はね、あの村の近所で見つけたんだよ」と教えてくれた。

脱線したが、このようなわけで列車にブラジャーが度々ひっかかる。運転士は1日の終わりに列車を念入りに点検し、拾得物(ひっかかった物)を持ち主に返す。定年までトラブルなく粛々と勤め上げたヌルランにとって持ち主に返せないブラジャーは喉にひっかかった骨のようでもあり、優秀の美を飾れないような居心地の悪さもある。あとはブラジャーに寄せる(監督の)愛? 実はヘルマー監督の前作『ツバル』のなかでも、主演のドニ・ラヴァンがヒロインのブラジャーに愛しげに顔を擦り付け離さないシーンがある。すでに伏線はあった。そしてヌルランはブラジャーを返そうとする。

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©2018 Veit Helmer – Filmproduktion, Theo Lustig ©2018 Theo Lustig

ジョージア鉄道の全面協力により実現された鉄道の撮影について「大変な撮影だった」と記者会見で監督やキャストが口にした。「撮影したのは欧州でいちばん高い村。高度2600mにある。水がなく、ひとつのシャワーをみんなで譲り合う状況。機材や食料を運ぶだけでも困難だった。9月には雪が降り始めるので、その前に終えるように期間制限があったのでそれも大変だった」のだと。本当に「鉄道」はこの映画の主役と言ってもいいくらいに表情豊かに撮られている。

アゼルバイジャンの首都バクー周辺に「鉄道の線路が住宅の信じられないほど近くに敷かれ、町の通りや娯楽場所としても機能している」変わったエリアがあり、その不思議なランドスケープからインスピレーションを得た。再開発計画で姿を消すことが決まっている地域を映像に残したかったと語るその精神は『ツバル』で古いプールが破壊される様をセピアとブルーに染まるモノクロ映像でメランコリックに撮った精神に繋がっている。

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©2018 Veit Helmer – Filmproduktion, Theo Lustig ©2018 Theo Lustig

セリフのない映画を撮る理由について、ヘルマー監督はこう語る。「ヒッチコック監督は、言葉で話したものは観客はすべて忘れるのだと言い、トリュフォー監督は、しゃべっている人を撮ることは演劇を撮っていることと同じだと言った。特殊なストーリーでないと成立不可能なので、言葉がなくても成立するストーリーというものが必要でした。この映画は観客にとっても新しい体験になるだろう。音効もあるし、音楽もある、”サイレント映画”とは違う、新しい映画の形であり、映画を進化させたいという思いがある。ある意味、純粋な映画だと思う。字幕も翻訳もいらない、本当の意味でユニバーサルな映画だと思う。」実はこれも『ツバル』の手法を継承するもので、ノンバーバルな表現の迫力と楽しさはますます魅力を増している。いまのところニュースはないが、日本公開が待たれる。

最後に、ヘルマー作品常連でもあるドニ・ラヴァン。『ポンヌフの恋人』の怪演の印象も強く残る。『ブラ物語』では列車の車庫で個性的なダンス(と言えばダンス)を披露する。今回の来日でも彼のキュートな人柄がファンを大いに喜ばせていたのも記憶に残る。

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@realtokyocinema2018

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©2018 TIFF

 

Information:

監督:ファイト・ヘルマー

キャスト:ミキ・マノイロヴィッチドニ・ラヴァン、パス・ヴェガ、チュルパン・ハマートヴァほか

2018.tiff-jp.net

 

Report 10『ポルトの恋人たち〜時の記憶』マスタークラス@アテネ・フランセ文化センター

「時代の無意識」について思いを馳せるとき(モレイラ、柄本、舩橋が抱く映画へのディープな思いを聴く)

取材・文:福嶋真砂代

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市山尚三さん、アナ・モレイラさん、柄本佑さん、舩橋淳監督 @reatokyocinema

ポルトの恋人たち〜時の記憶』の公開に先がけて行われたマスタークラス(11月3日、アテネ・フランセ文化センター)に、アナ・モレイラ、柄本佑舩橋淳監督が講師として登壇。モレイラが”若きアウロラ”を演じた『熱波』(ミゲル・ゴメス監督/2013)と2本のショートフィルム『ウォーターパーク』(アナ・モレイラ監督/2018)&『ムーンライト下落合』(柄本佑監督/2017)を上映後、映画プロデューサー市山尚三が司会を務め、それぞれの監督作品や『熱波』、ふたりが出演した『ポルトの恋人たち〜時の記憶』(舩橋淳監督/2018)について意見を交換。ポルトガルと日本をつなぐ、熱い映画トークを堪能した。3人が抱くそれぞれの映画へのディープな思い、終盤には『ポルトの恋人たち』の見どころやポルトガルと日本の撮影の違いについても語られた。ほぼ全文を掲載します。(敬称略)

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『熱波』は第1部が現代リスボンが舞台の「楽園の喪失」、第2部は植民地時代のアフリカが舞台の「楽園」という2部構成のモノクロ作品。『ウォーターパーク』は痛ましい事故ののち廃墟となった公園施設を舞台にしたポルトガルの社会の危機の影を感じるサスペンスタッチな作品。またムーンライト下落合は明日に不安を感じる男ふたりが月光差すアパートの小さな部屋を舞台にたわいのない会話を交わすという作品。個人的にはサミュエル・ベケット戯曲『ゴドーを待ちながら』のような不条理劇の独特な空気感を感じた。ポルトの恋人たち〜時の記憶』舩橋淳監督の最新作。第1部「1760年ポルトガル」、第2部「2012年日本・浜松」の2部構成。日本とポルトガルを繋ぐ歴史的な縁(えにし)をたどる壮大な物語。とりわけオリヴェイラ監督作品の舞台となったギマランイス歴史地区で撮影されたポルトガル編は重厚な迫力があり、日本編と合わせて謎解き要素のあるミステリアスな作りになっている。解き明かされる時空を超えた運命とは......?

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アナ・モレイラさん、柄本佑さん @realtokyocinema

◆『ウォーターパーク』と『ムーンライト下落合』はこうしてできた

市山:モレイラさんが『ウォーターパーク』を撮ろうと思ったのはどういうきっかけでしたか?

アナ:2つの理由があります。ひとつめは、90年代に実際にウォーターパークで2人の10代の子どもが吸水口に吸い込まれ命を落としたという不幸な事故があり、当時その子どもたちと同年代の私はとてもショックを受けました。そしてこのような「日常にある死」をフィクションとして表現したいと思い、映画が最適な手段だと思いました。

ふたつめの理由として、ポルトガルの政策への疑問があります。撮影したのは2013年ですが、ポルトガルはその少し前から経済危機を迎えていて、その年は危機のピークでした。働く場もなく、夢を追うこともできず、人生を組み立てていくこともできない、そんな若者に対して政府がとった政策は「ポルトガルを出て外国で移民となりなさい」というショッキングなものでした。そのような過去や現在の危機などが何層もの理由となって、物語を描きたいと思いました。2013年に脚本を書き終え、それからプロデューサーを見つけ、次に助成金を探し、ポルトガル映画・映像院(ICA)に申請をしました。ここはポルトガルで唯一の映画への助成を行う機関です。最初の応募では落ちてしまいましたが、翌年に同じ脚本で応募をすると、幸い審査員が入れ替わっていて、大変よい評価を得て合格しました。主観は物事を左右するのだなと感じました。

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アナ・モレイラさん @realtokyocinema

市山:柄本さんが『ムーンライト下落合』を作ったきっかけは?

柄本:きみの鳥はうたえる(以下、きみ鳥)』(三宅唱監督/2018)の撮影に関係があります。実は『きみ鳥』の撮影が延期になり、時間がぽっかり空きました。そのタイミングに加藤一浩さんーー父の劇団の座付き作家さんなのですがーーの短編戯曲を読ませてもらい、月を介する宇野祥平さんと加瀬亮さんの画が浮かんできて、これは映画になるのでは......と思ったのがきっかけです。それを森岡龍さんに相談して、さらに『きみ鳥』プロデューサーの松井宏さんと三宅唱監督に相談してみると「おもしろいね、一緒にやりましょう」と言ってくれました。映画はいつか撮りたいと思っていましたが、タイミングが合って、何かダムが決壊するように、3ヶ月のお祭りみたいな感じでわーっと撮りました。セットではなく、アパートを借りて、事前リハーサルを1日、撮影は2日間で作り上げました。

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柄本佑さん @realtokyocinema

◆スローエクスポージャーという手法による映画的な魅力

市山:舩橋監督はおふたりのショートフィルムの感想はいかがですか。

舩橋:アメリカ映画の脚本などで使われる「スローエクスポージャー(Slow Exposure)」という言葉があります。何も説明せず、小さな糸口から少しずつ事態の状況が見えてくる、それがいかにも味わい深く感じられるように見せる映画の話法です。これがふたりの監督作品に共通していると思いました。『ムーンライト下落合』を劇場公開で観たときは、登場する男ふたり(加瀬亮宇野祥平)はゲイに違いないと思って観てました。だけど少しずつその関係性が見えてくる、そういう意味のサスペンス、謎めいたところを解き明かしながら観るおもしろさがありました。『ウォーターパーク』も、男がなぜウォーターパークにやってきたのか、女の子と彼はなぜ黙っているのか、妙に男の動作がトロくて、下を向いているのはなぜか、などと状況が少しずつ明らかになります。このような手法は映画的に魅力的で、そこが共通していると思いました。

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舩橋淳監督 @realtokyocinema

『ウォーターパーク』の冒頭、女性がローラースケートを付ける前、腰のショット、足のアップと、ちょっとずつカメラを引いていく......というひとつひとつのカットにある切れ味。全部を最初から見せず、現実の一部を切り取っていくのですが、ひとつのショットが次のショットへの刺激となっていく。そんな映画としての佇まいがとてもおもしろい。『ムーンライト下落合』は、ひとつひとつのショットを、こうくるのか、ここで切り返すのか、と驚きながら観ていました。おふたりの映画への愛情は、(『ポルトの恋人たち』の)現場でも強く感じていました。自分の作品の現場ではどういうことを考えて撮っていたのでしょうか。

柄本:ムーンライト下落合』の撮影は四宮秀俊さんです。リハーサル後に、ふたりでカット割りの話をしました。撮影場所は六畳間ですが、60カットありまして、全部アングルが違います。普通、六畳間に60のアングルは無いので(笑)、四宮さんに苦労をかけました。例えばラストカットのカメラポジションですが、その前のカットで「ここから行きますか?」と言われた時に、「いや、それはちょっと待って下さい」と残しておいてもらい、それをラストカットにしました。映画をたくさん観たり、経験から学んだり、勉強すればするほど、このショットはダメだなんてストッパーがかかってしまうものです。だけどこの映画は、2日間の撮影期間中、余計なことを考えずに熱量だけで撮影をしました。カット割り通りに撮りましたが、減ることはなくカットはむしろ増えました。水を眺めている目線のカットは「思い切ったことやったね」と三宅唱監督から感想をいただきました。

舩橋:加瀬亮さんがリモコンでテレビを付けようとするだけで何カットあるんだろうというくらい、微細な世界でおもしろくするというところに勝負をかけているのかなと思いました。

柄本:それは思っていました。冒頭の10分間、言葉なくただ動いているだけですが、すべてト書きに書いてある動きで、ひとつひとつの動きが具体的にに腑に落ちてこないとおもしろくない、そこは勝負どころだなと思いました。俺の中ではこれは「アクション映画」だと思っていて、一挙手一投足を全部余すことなく拾っていって、それが積み重なることで、ひと言めのセリフが出た時におもしろくなるかなと思いました。同様に、アナの作品も冒頭はアクションだけで、ひと言めのセリフが出るまで時間がかかっているので、共通するものを感じました。主演の女性の持つ快活で爽やかな色気というか、太ももがぶるんぶるんして、髪の毛が気持ちよくたなびいていくなど、アナならではの撮り方、「快活なエロ」というのでしょうか、すばらしかったです。主演の女の子はスケートの練習をしたのですか?

アナ:主役のキャスティングはオーディションをしたのですが、結局選んだのは、8歳からスケートを始め、いろんなコンクールにも出場し、人前で演技することにとても慣れている15歳のマルガリータという少女でした。

舩橋:アナは、「スローエクスポージャー」についてはどう思いますか?

アナ:私が最初に脚本を読んだ時、”ウォーターパーク”そのものが登場人物のように思えました。もともとは娯楽施設として作られ、子どもたちの遊び場でしたが、痛ましい事件の後に閉鎖され、廃墟になりました。その施設の佇まいが、当時の経済危機の中にあるポルトガルに重なって見えました。私は、場所にしても、人にしても、最初から全部を見せずに少しずつ見せていくことが重要だと思いました。なぜかというと、今の時代はあたかも爆発するように全部を見せてしまうことに観客は慣れてしまっているけれど、映画は本来そういうものではなく、見えることの外にあるもの、そこに映画の重要なものがあるのではないかと思っています。ですから小さい部分から話が始まり、少しずつ見せていき、だんだん広がり、またそれが小さいところに戻り、また大きなところへ、そういうふうに作りたいと思いました。

◆『熱波』はみんなの”記憶”の映画

舩橋:小さいところから少しずつ世界が見えるというところでは、柄本さんの作品でも、テレビのリモコンや柿ピーに拘っているところもあるし、アナの作品も、ウォータパークという小さな場所からポルトガルの現状が見えてくるというのもあります。僕はそれが映画の本質だなと思っていて、全部を見せることはできないから、どこかで視点を区切らなければならない。だから広い所から狭くなっていくよりも、狭いところから全部は見せられないけれど、外の世界を見せていく、というところに映画の魅力を感じるわけです。強引な言い方をすればミゲル・ゴメス監督の『熱波』もそうなのだと思います。逃げたワニをつかまえなければならないという、明らかにボケているおばあちゃんの話はとても狭い世界だけれど、それが少しずつ解明されていくと大きな世界につながっている、ということなのだと思います。

アナ:『熱波』は記憶の映画だと捉えています。自分の記憶をどういうふうに思い出すかについて語っているのだと思います。例えば、おばあさんも「カジノに行く」という記憶にしがみついているのですが、彼女ひとりの記憶は国の記憶にもつながります。ポルトガルの記憶は植民地をアフリカに持っていたということ。そこに入植して、彼らはそこで愛をはぐぐみ、失恋をして、人生の経験をし、そこで過ごしていた。要するにたったひとりのおばあさんの記憶がひとつの国の記憶であり、みんなの記憶であるということにつながるのだと思います。

柄本:僕は今日初めて『熱波』を観たのですが、とてもおもしろかったです。記憶のシーンで、手紙の使い方がいいなと思いました。手紙を読むところになると昔のベントゥーラと昔のアウロラ(モレイラ)の声になって、手紙のやりとりは当時のふたりの声で、ナレーションになると現代のベントゥーラの声になる、そういう声の使い方がとても新鮮で楽しく、おもしろいと思いました。『ウォーターパーク』では、冒頭では快活なローラースケートの音が、男が出てきて、彼の周りをぐるぐるまわるときの音は全然違い、痛々しく聴こえますが、その違いがおもしろくて、状況で聞こえる音が違うんだなと改めて思いました。後半の音は大きく調整しているのですか?

アナ:音にはとても気を使って編集しました。仰る通り、ローラースケートの音はとても重要で、地面を引っ掻く音などをしっかり捉えたかったのです。同時にBGMにも気を使いました。最初はローラースケートの音とBGMが入っていますが、だんだんスケートの音が抜けて音楽だけになる、そうすると音によって観客も彼女の頭の中に入ったような感じになり、彼女自身がすべてを忘れて没入する錯覚を、観客も一緒に味わうことになる。音が終わった瞬間にひとつが終わり、彼女の体も下に下がり、音もなくなる、というふうにしたかったのです。

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(C)O SOM E A FURIA, KOMPLIZEN FILM, GULLANE, SHELLAC SUD 2012

舩橋:僕は『熱波』を2013年のベルリン国際映画祭で初めて観たのですが、読んだレビューで、前半は35mm、後半は16mmで撮った作品と知りました。前半はシャープなイメージ、後半はふわっとした感じに撮られていて、とてもおもしろかった。1931年のF.W.ムルナウ監督遺作の『タブウ(「Tabu: A Story of the South Seas」)』も2部制で、第1部が「Paradise」、第2部が「Paradise Lost」となっていますが、ゴメスの『熱波』ではそれが逆になり、「失われた楽園」から始まって「楽園」というふうに反転させているんです。ムルナウタヒチで撮っています。エキゾチシズムというか、知らない土地で黒人を撮ることで「世界」を見せている。そこからインスピレーションを得て、ゴメスはアフリカで撮ったのかなと思うのですが、遠く離れた南方で起きる恋愛劇というのは映画史にたくさんあります。成瀬巳喜男監督の『浮雲』(1955)やジョン・ヒューストン監督『アフリカの女王』(1951)なども、南の植民地や戦地で起きた恋愛を、時間を経た後に見つめる、ということを甘美でメランコリックな感情とともに映画にしています。この作品を観て浮かぶメランコリーやノスタルジアの感情に、35mm、16mmの映像がとても合っていて、16mmの素敵さを感じました。柄本さんがおっしゃるように、サイレントで過去を見つめるという描き方があるのだなと思って観ていました。

アナ:付け加えるとモノトーンで撮られていることもひと役買っていますね。

柄本:『熱波』では台本にセリフはきっちりと書かれていましたか?

アナ:台本は捨てました。少し前に台本をもらっていましたが、撮影の少し前にゴミ箱に。前日か当日に、アウロラのシーン、ワニと撮る、というふうに言われて、セリフはメモで貼られていきました。そうすることで監督の中で発酵させていったのではと思います。

柄本さんの映画を観た感想をお話したいのですが、私の映画は色があり、明るい感じの映像でしたが、柄本さんの作品は明暗のコントラストがはっきりしていて、まるで絵を見ているようでした。それからファンタジーを感じる、窓の外の月を見るシーン、月光を浴びるシーンも映画的だと思いました。映画はどこかマジカルなものであり、ラストシーンの大きな月を見上げるシーンも、過去の映画の精が集まってこの映画を見ているように感じられました。

柄本:たしかに、自分で観てきた映画の記憶が、誰しもそうであるように、あるのだと思います。自分の中では、6畳間の宇宙船の中にいるように、SFチックになったかなと思いました。6畳間にいる感覚は大事にしたくて、そこを描きながら、外の世界を感じたいという気持ちがあったので、「四角い箱の中の二人」という印象を置きながら、少し外が見えてきて、ふたりだけの社会ではない外の社会が見えているというふうに描きたいと思いました。

舩橋:宇宙船といまおっしゃいましたが、柿ピーの話をしているふたりの男の話ですが、そこに現代社会が見えるということがあるのでしょうね。

柄本:そんなに僕もいろいろ考えたわけではないのですが、要するにこのふたりは「眠れないふたり」で、深夜の何もできない時間、いい1日を過ごしたわけでもないふたりが、そんな時間に起きてなんとなくしゃべっている。明日に対する不安を抱えたふたりというふうなものが見えてくるといいなと思いました。最後にズームアップして音が入ってくるのですが、あれは次の日の朝の音、出勤していく人たちの音を入れたという意図があります。

 舩橋:非生産的な、何も産まない時間を過ごしているふたり、というのがとてもツボにハマったのですが、柿ピーを「食う?」って言って、受けとってからどうしようかなという、まだ迷っているという、時間の無駄がたくさんあるところがとてもおもしろかったです。

柄本:あのシーンは見るたびに僕も考えてしまうのですが、寿司屋になると決めた男に対して、一旦何をしていいかわからずにまた片付けを始めて柿ピーが目に入り、何か励ましの言葉をかけたいけど思いつかない、俺のできる唯一のことは柿ピーを渡してあげることくらいだと。渡して「がんばれよ」という気持ちがあるのですが、受けとった男はそれを食べない。食べてやれよと思ったり。そこにある行き違いがあり、最後は柿ピーを食べてくれたり、そこにふたりの思いの違いがあったりして、微妙な噛み合わなさがあるんです。加藤さんの本のおもしろさがあるのだと思います。

 『熱波』の好きなシーンは、ふたりで手をつないで楽しげに走るところ、ふたりとも幸せそうなのに、最後の顔は、この楽しさはいつかは終わる、ということを予感したふたりの顔で終わる。あのカットは重要で、ワンカットのうちに、後に来る地獄のような時間を予感させること、ふたりがそれを気がついているということを知らせる重要なカットだと思いました。あれも当日言われたシーンなのですか?

アナ:そうですね。台本にはなく、監督の頭の中にあったことです。メタシネマっぽいのですが、ふたりが幸せそうに歩いていて、ぱっと止まってカメラをまっすぐ見る、そのことで「みなさん、これは嘘なんですよ、これは映画なんですよ」と言っています。同時に、これから来る不幸を予感させ、ここにいるのは実はアウロラとベントゥーラではなく、アナとカルロト(・コッタ)なんだと一瞬仮面を剥ぐという狙いもあります。

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(C) 2017「ポルトの恋人たち」製作委員会

◆最新作『ポルトの恋人たち〜時の記憶』の魅力

舩橋:プロデューサーのロドリゴ・アレイアスさんが僕の『桜並木の満開の下に』(2012)を観て気に入ってくれて、「ポルトガルと日本を絡めた映画を作ろう」と声をかけていただいたのがきっかけです。ポルトガルも日本も大陸の端に位置していて、海洋国で、主食はお米で、海産物がおいしいとか、共通項が多いことがわかりました。ポルトガルを実際に訪れて感じたことは、ポルトガル社会ではモザンビークを中心に1960~70年代の植民地独立運動をやった時のことをいまだ引きずっていて、罪悪感が根強く残っていることです。僕は「時代の無意識」ということを映画を撮る人間として考えていますが、ゴメスもあのようにメランコリックに描いています。それがゴメスにはとても重要だったのです。僕もこれを重要なこととして考えたいと思っていました。そこでひっかかっていたのは「境界線」というコンセプトです。この映画の原題を「LOVERS ON BORDERS」としましたが、現代は境界線の重要性が増している社会ですが、僕は本当は境界線はなくてもいいと思っているんです。境界線を引くことで疎外され、迫害されてしまう移民たちが日本にもいますし、ポルトガルにもいる。そのような排外主義がある世の中で、難しい立場に追いやられてしまう恋人たちの話を描きたいと、このストーリーを作りました。

市山:柄本さんとモレイラさんは、シナリオを最初に読んだ時の感想はいかがでしたか?

柄本:1部と2部で似たことを少しずつ違うように描かれていますが、それぞれ時代が違います。印象としては最初は2本の映画が入った脚本(ホン)だなと思いました。ただどうするのだろう、1本の映画にになるのだろうかと思ったのですが、第1部で細かく撒かれたタネが、第2部で見事に花を咲かせ回収されていく。ふたつを並べることで1本の映画として成立するんだなと気づいて、それは監督の手腕だと思います。あと編集に時間がかかっていたのは、こういうことが行われたのだなと映画を見て思いました。台本の分量からすると、2時間20分の分量ではないですよね(笑)。

舩橋:はい、最初の編集では4時間になりました。ポルトガルではテレビバージョンがありまして、45分ずつの4つのエピソードということになっています。映画では、人間の生理的なことを考えて観られる長さに落としこんでいくのに時間がかかりました。

アナ:ポルトガルでは1755年にリスボン津波がありましたが、2011年の東日本大震災のアナロジーになると感じました。2本の映画でもよかったのかもしれませんが、1本ずつ分かれてしまったらこの映画は成り立たなかったと思います。それぞれが補い合うことで1本の映画になるということが必要だと思いました。カオスの中で、人々がどのような動きをするのかを見せている映画だなと思います。登場人物が、将来が見えない、幸せになる可能性も少ない、そのようなカオスの中で生きています。外的要因によって、または自分の行動のせいで幸せになれなくなった人々であることが、1部と2部で共通して描いていると思いました。

舩橋:おふたりは『ポルトの恋人たち』のどこを観て欲しいですか?

柄本:第1部に映る旧いポルトガルの街ですね。18世紀のポルトガルの街並みがそのまま残っている地域があって、普段入れない場所に入って撮影を敢行したので、そこは見応えがあると思います。

アナ:そうですね。ポルトガルには過去の雰囲気や記憶を留めた街並みが多く、建築物も多く残っています。映画を観ることで観光地ではないポルトガルのよいところを見てほしいです。

市山:第1部にポルトガルの貴族の館が出てきますが、実際の貴族の館が博物館になっていて、調度品などもそのまま残っていました。そういう場所を撮影に1週間貸してくれるのですが、日本では考えられないことです。壊したらどうしようとビクビクしながら見ていましたけど、やはり本物は迫力ありますね。

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(C) 2017「ポルトの恋人たち」製作委員会

舩橋:それから、ポルトガルでたまたま見つけたものを映画の中に取り込みました。ある天井画を見つけたのですが、アジア人が描かれていて、調べると実は九州の大村藩で火あぶりになった宣教師の絵だったのです。そのリアルストーリーを映画に取り込みました。種子島に鉄砲が伝来したとき、日本で鉄砲はコピーできたんですが、火薬は作れなかったので輸入していました。その引き換えとして奴隷を送ったということで、1バレルの火薬と50人の日本人奴隷を交換したという記録があります。インドのゴアを中心に世界中にばら撒かれた日本人奴隷がいたというのですが、その子孫でポルトガルにまで連れてこられた人たちを柄本さんと中野裕太さんに演じてもらいました。奴隷をひどく恨んでいるポルトガル人が「うちの先祖は日本人に火あぶりにされた、だから死ぬまでこきつかってやる」というリアルな設定を映画に取り込みました。

市山:この映画もアナの作品と同じポルトガル映画・映像院(ICA)に助成金を申請しました。映画の設定的に難しいかなと思ったのですが、かなり満額の助成金がでましたね。

舩橋:ICAの助成金の審査はすべて”ガラス張り”になっていて、脚本、映画芸術点、プロデューサーなどに点数をつけられ、ウェブに掲載されて落ちた人もわかるようになっていて、日本もそうしたらいいと思いました。ラッキーなことにこの映画は約30件の応募中トップでとれました。

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(C) 2017「ポルトの恋人たち」製作委員会

市山:柄本さんはポルトガルでの撮影は初めてでしたが、どうでしたか?

柄本:撮影的には難しかったところかもしれませんが、みなさんがとてもおおらかで、集合してからセッティングが始まるまで約1時間くらいお茶の時間があったり。もともとポルトガルではそれが普通で、そこに日本のスケジュールで撮るとなると大変ですが、自分たちのスタイルを崩さず、でも焦ることなく、同じ熱量で撮ってくださいました。きっとものすごく大変だったと思うし、ストレスも溜まったとは思いますが、そんな中でおおらかにいてくださって、ただ監督と古谷さんは気が気じゃなかったと思います。僕はどちらかというとポルトガルスタッフに囲まれていることが多かったので、僕や中野さんは、ポルトガルの人たちに助けられたと思います。 

アナ:日本とポルトガルとでは撮影方法は違うと感じました。私もコーヒーはゆっくり飲みたいし、ごはんはゆっくり食べたい(笑)。そういうことはいい仕事に結びつくとは思っていますが、日本に来て、日本の撮影をしたときに「ああこういうことなのか」とわかりました。スタッフも違うし、監督のやり方も違うのだと。ただ私は俳優なので、俳優はその場その場、監督の意向に合わせていかなければいけない。ショックとは言いませんが、違うんだということ、いろいろなことを学びました。

舩橋:日本人スタッフは少なかったのですが、ポルトガルでは本当に楽しみながら撮影をしました。マノエル・デ・オリヴェイラ監督の傑作『アブラハム渓谷』(1993年)にドウロ河のワイナリーが出て来ますが、僕らの映画もこのドウロ河沿いで撮りました。オリヴェイラ映画のすばらしい景色を観ていいなと思っていた同じ場所で撮影できたのは本当に幸せだなと思ったので、みなさんにもそれを感じていただけたらいいなと思います。

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(C) 2017「ポルトの恋人たち」製作委員会
 
・マスタークラス概要

講師:アナ・モレイラ(俳優/ポルトガル)、 柄本祐(俳優)、舩橋淳(映画監督)
司会:市山尚三(映画プロデューサー)
主催:映画美学校
後援:ポルトガル大使館文化部
協力:朝日新聞社/ アテネ・フランセ文化センター
日時:2018年11月3日(土)17:00-
会場:アテネ・フランセ文化センター(御茶ノ水)

【ポルトの恋人たち〜時の記憶】
あらすじ:物語の舞台は、リスボン大震災後のポルトガルと東京オリンピック後の日本。乗り越えられない境遇―境界線(ルビ:ボーダー) によって引き裂かれ、その挙げ句に恋人を殺害された女が、その恨みを晴らすために選んだ手段は、想像もつかないものだっ た・・。18 世紀と 21 世紀。登場人物の立場は時代によって微妙に入れ替わりながらもほとんど同じプロットが反復され、デジャ ブのように交差し、やがて愛憎の不条理に引き裂かれた人間の業をあぶり出してゆく。
出演:柄本佑、アナ・モレイラ、アントニオ・ドゥランエス中野裕太 製作:Bando á Parte, Cineric, Inc., Office Kitano プロデューサー:ロドリゴ・アレイアス、エリック・ニアリ、市山尚三 脚本:村越繁
撮影:古屋幸一 編集:大重裕二 音楽:ヤニック・ドゥズィンスキ 監督・脚本・編集:舩橋淳 配給:パラダイス・カフェ フィルムズ 配給協力:朝日新聞社 協力:ポルトガル大使館
PG-12/2018/日本=ポルトガル=アメリカ/139 分/シネスコ/5.1ch 
公式サイト:

porto-koibitotachi.com

2018年11月10日よりシネマート新宿・心斎橋ほか全国公開