REALTOKYO CINEMA

リアルトウキョウシネマです。映画に関するインタビュー、レポート、作品レビュー等をお届けします。

Interview 013 想田和弘さん(『精神0』監督・製作・撮影・編集)インタビュー

「なんで生きるんだろう?」そんな疑問を抱き続けてきた

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想田和弘監督の観察映画第9弾『精神0』が「仮設の映画館(http://www.temporary-cinema.jp/)」にて公開中(配信中)だ。新型コロナウイルスで世界が騒然とする中、新作を携えて来日した想田さんに公開直前Skypeインタビューを行った。『精神0』は、精神医療に人生を捧げてきた山本昌知医師の引退と、その後の人生、そして妻の芳子さんにカメラを向けたドキュメンタリー。誰しも逃れられない「老いと死」に繊細かつ鋭い眼差しを注ぐ。インタビューには妻でありプロデューサーの柏木規与子さんが飛び入り参加するというオンラインならではの嬉しいハプニングもあり、撮影の経緯(いきさつ)や、印象深いシーンの秘話、さらにバリ島のお葬式へと話が弾んだ...。さらに想田監督と東風の共同発案による新しい試み「仮設の映画館」の仕組みや、厳しい状況下にある映画への現在の思いも語ってくれた。たっぷり1時間のロングインタビューをほぼノーカットでお届けします(内容に踏み込んだところもありますので、できれば観賞後にお読みいただく方が良いかもしれません)。

聞き手・文:福嶋真砂代

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©️2020 Laboratory X, Inc

■「ゼロに身を置く」ということ

ーー『精神0』は、ひとりの患者さんが山本先生に「ゼロに身を置くとはどういうことか?」と問いかけるエピソードからはじまります。この映画の真髄がここに描かれ、すべての起点はここにあると解釈していいでしょうか。

想田: 「ゼロに身を置く」という山本先生の言葉ですね。そうですね、あれが映画のすべてを規定していると言えます。患者さんだけじゃなく、山本先生ご自身、奥さまの芳子さん、すべての登場人物にとって必要な言葉であり、おそらく山本先生もご自身に対して言い聞かせている言葉ではないかなと僕は解釈しました。『精神0』の「ゼロ」はそこからインスピレーションをいただいてます。

ーーこの映画には3人の主人公がいるように思いました。つまり、山本先生と芳子さん、さらに隠れ主人公として想田監督なのではと。勝手な解釈なのですが、これまでの作品の客観的視点からよりご自身が踏み込んでいるように感じました。

想田: まあそうかもしれないですね(笑)。

ーープレスにも想田さんは「”仕事人間”である自分の生き様が山本先生に重なる」とコメントされていたこと、それが映し出されていたようでした。また「夫婦」という視点でも、山本先生と芳子さんが作ってこられた「こらーる岡山」が、想田監督と柏木さんにとっての「映画」というものに重なっていくのを感じました。

想田: 特に柏木がそれを感じたようです。山本先生はいわば精神医療界の“スター”で、実際に数多くの患者さんを支えるすばらしい活動をされてきました。でも実は山本先生の業績の半分は、芳子さんがされた仕事だったんです。そのことに僕は、『精神』を撮った頃には気づけなかった、いや薄々気づいていたけどフォーカスできていなかった。今回『精神0』で芳子さんの友人のお宅に一緒に伺って、そこでようやく芳子さんの功績についてのいろいろな話が出てきたわけです。芳子さんが山本先生の仕事の欠かせない部分を担っていたということを、はっきりと語られて、それを山本先生も含めてみんなで確認し合うことができたのはよかったなと思います。柏木いわく「その構図はうちとそっくりで、一緒に映画を作っているのに想田ばかりが脚光を浴びて、柏木は想田に吸収されている」と。それはそうだなと思いました……。

■ここで柏木規与子さんが登場!

ーー柏木さん、初めまして。ベルリン国際映画祭の授賞式では、柏木さんが出席してエキュメニカル賞を受賞されましたね、その時はどんな感じでしたか?

柏木: 気持ちよかったです。だいたい構図としては想田が前で、私は後ろでニコニコしているという形なのですが、今回は想田がエジプトにいて出席できず、私はドイツに別件で滞在していて、本当にバタバタと直前にベルリンに着いて授賞式に間に合ったんです。受賞後に女性の審査員やプレスの方々が駆け寄ってこられて、「I’m a big fan of you!」と口々に言われました。いつもは想田の後ろでニコニコしてると「あ、奥さんですか」みたいな扱いなんですが、こうやってポンと前に立つと大勢の方々から「女性としてあなたは誇りよ」と言われる。それを聞いて「私ももう少し積極的に前に出るほうがいいのかな」と思いました。女性としてがんばっている姿を見たい人がこんなにいるんだなと思いました。

ーー柏木さんは長いおつきあいの中で芳子さんを見ていらっしゃると思うのですが、芳子さんの生き方について、どのように感じていらっしゃいましたか?

柏木: 一度だけ、私は芳子さんに注意を受けたことがありました。「ミニコラ」という作業所で、山本先生と芳子さん、想田と私の4人でごはんを食べていたときに、私が話の中で、想田を“落とした”ことがあったんです。すると芳子さんが「夫はね、立てれば立てるほど輝くのよ」とおっしゃったんです。「それはウチの家訓と逆だな…」と思ってすかさず「夫がちやほやされて登っていったら、上からガツンと叩き落とす、私は自分がそういう役割だと思ってるんです」と言いました。すると芳子さんは「うふふふ」という感じで「夫は基本的には立てるほうが輝くものよ」と。確かに芳子さんを見てると常にそのスタンスで、ただ内心は「私は夫と二人三脚で、『こらーる』も私がいなければ!」くらいの気概を持ってらっしゃったんじゃないかな。でもそれを表に出さない、そういう価値観なのかなと思いました。山本先生は、芳子さんなしで「こらーる」を維持発展させていくのは難しかっただろうし、芳子さんは先生が自宅に連れてこられた患者さんのお世話をしたり、時にはふたりの子供さんたちと山本先生の間に立たされたり、いろいろ苦労を重ねられた。でもそういうことを表に出して言われないんだなと思いました。私は自分の功績をアピールしがちで。へへへ。

■「もう一軒行かん?」と山本先生に誘われた

ーー芳子さんが活躍された姿を映画の中で知り、芳子さんの印象が変わると同時に、「こらーる」が山本先生だけの仕事ではないことも理解することができました。

想田:(それを描けたのは)ギリギリセーフでしたね。実は僕はあのシーンを撮る前に、「だいたいこれで撮り終わった」と思って、先生に「だいたい撮り終えました。ありがとうございました」と申し上げたら、「もう一軒行かん?」って言われたんです。「芳子さんの友達のお宅に遊びに行きたいから、よかったら撮影せん?」という山本先生からの提案があった。それで一緒に、芳子さんをよく知る居樹(すえき)さんのお宅にお邪魔して、あのような非常に重要な場面を撮れたわけです。もしかしたら山本先生も、「このままだと芳子さんのことが十分撮れていないんじゃないか」とお感じになってたんでしょうね。

ーーそうだったんですか! そのシーンでハッとしたのは、居樹さんが芳子さんの趣味の歌舞伎や茶道、さらに株の話もして、それを聞いている芳子さんはすべてわかっているように笑っておられたことです。いっぽうで、お墓参りのシーンや、想田さんが山本先生のお宅でお寿司をごちそうになるシーンで芳子さんにカメラがフォーカスしていきますが、そこには想田監督の覚悟も感じました。

想田: たぶん山本先生も最初は迷われたところだと思うんです。最初に先生の引退のことを聞いて「撮らせていただけないか」とお願いしたとき、先生って大抵はふたつ返事で受けて下さる方なんですけど、今回は「1週間くらい考えさせてくれ」とおっしゃって、それがけっこう心にひっかかったんです。あの山本先生が「考えさせてくれ」というのは珍しいなと。たぶん先生はかなりの覚悟を持って私たちのお願いを受けて下さったのだと思うんです。

ーーそうなんですね。

想田: 申し出てから1週間後くらいに「自分は被写体として全然自信がないけれども、もし精神医療になんらかの貢献ができるような映画になるのであればお願いします」というような言い方をされて、撮影を了承してくださいました。そのことは僕の中にずっと残っています。

ーーその山本先生の覚悟は、10年前の『精神』を撮った時とは違ったのでしょうか。

想田: ちょっと違うように思いました。

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©️2020 Laboratory X, Inc

■ドキュメンタリーの怖さを知った10年前

ーー『精神』では、患者さんの顔を映すかどうか、そういうところからクリアしていかれたと思いますが、『精神0』でも患者さんは顔出しされていて、加えて先生と芳子さんのありのままの姿を撮ることもあり、ハードルはアップしていたのですね。

想田: そうですね。『精神』の時は僕がまだ若かったんですね。ほとんど何も考えずに、精神科の診療所で映画を撮らせてもらえることにウキウキしながらカメラを回していました。

ーー好奇心のほうが優っていたと。

想田: そう、若かったので、それがどんなことを意味するのかほとんど考えもせず、勢いだけで撮ってしまって、結果、公開するときにめちゃくちゃ苦労しました。公開時に「自殺する」とおっしゃる患者さんがいらっしゃったり。ドキュメンタリーというのはこんなにも怖いことなんだ、公開するということはもしかしたら人を殺してしまうかもしれない、そんな恐怖を実感させられたような経験でした。

でもそのとき、山本先生は映画の公開に全面的に協力して下さったんです。そのことがすごく不思議でした。患者さんに「公開日に自殺します」とか言われたら、普通なら「もう映画を公開するのやめようか」ってなるのが医者だと僕は思ってたから。ところが先生は「やめる」という選択肢ではなくて、「みんなで乗り越えましょう」という感じで、患者さんのケアにも当たってくださって、すごくサポートして下さったんです。そして結果的には公開も無事にできた。そういうこともあって「いったい何者なんだ?」と山本先生に興味を募らせたという側面はありますね。また、柏木家と山本家の関係も深まっていきました。実は芳子さんが通っているデイケアセンターは柏木の母と父が中心になって経営する施設で、家族ぐるみのつきあいになっていってた。僕と柏木の間では「いつか山本先生のドキュメンタリーを撮ろうね」という気持ちがずっとあったんです。

ーー『港町』(2018)のプロモーションのために来日したとき、たまたま山本先生の引退に居合わせたというのも奇跡的なタイミングですね。

想田: 本当に“タイミングと出逢い”なんですね、それがちょっとずれただけで、もしかしたら全然撮れてなかったかもしれないですから。

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©️2020 Laboratory X, Inc

■試行錯誤を経た「フラッシュバック」

ーー『港町』のバーベキューのシーンにも山本先生と芳子さんがいらっしゃいましたね。『港町』は霊界を漂うような不思議なドキュメンタリーで、その文脈のなかに『精神0』があるのかなと思ったのと、『ザ・ビッグハウス』にも宗教的なカットがいくつかありました。今回、はっきりと「宗教」ではないけれど、やはり描かれているのは「日本人の死生観」のようなものではないかと。想田さんがお寿司をごちそうになるシーン。マラソンで言うと「折り返し地点」のような分岐点があって、戻って来ると先にはお墓があるという構図がまた意味深いです。今回の編集にあたって苦労されたことはありましたか。

想田: この作品は結構ポンポンポンと進みました。撮影もカメラを回したのは7日間で、編集もそんなに迷いはなかったです。最後のカットは「もうこれしかないだろうな」と撮ってる時に思ったし。唯一悩んだところは「フラッシュバック」です。あれは最初はなかったんです。でもラフカットを観ている時、柏木が「芳子さんのシーンが足りない、足りない」とすごく言うので、僕も確かにそうだなと……。そんなときに『精神』では使わなかった芳子さんの映像素材があることを思い出して、観たら僕らが長く親しんできた「芳子さん」が映っている。でもこれまで「フラッシュバック」を使ったことがなかったので、編集技術的には試行錯誤が必要でした。最初はカラーで入れたのですが、現在と区別がつかなくなってしまった。友だちにも観てもらい、伝わるかどうか確認しながら編集したのですが、やっぱり伝わらないというので、モノクロにしようと。そんな試行錯誤を経てああいう形になったんです。

ーーそういえば、マーク・ノーネス(ミシガン大学映像芸術文化学科・アジア言語文化学科教授、『ザ・ビッグハウス』共同監督・製作)さんがクレジットされていましたね。

想田: そうなんです、マークさんにはかなり早い段階のラフカットを見ていただいて、いろいろと有益なアドバイスや意見もいただいてました。パンフレットには長文の批評を寄せていただきました。

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©️2020 Laboratory X, Inc

■老いて死ぬ「苦」からは、誰も逃れられない

ーー話を戻しますが、フラッシュバックでは芳子さんがとても生き生きと、山本先生をリードするくらいのエネルギーを持った女性であることがわかるのですが、同時に現在のお姿との対比に繊細なアプローチでありながら「時間の残酷さ」も感じます。

想田: 『精神0』で撮らせていただい2018年の芳子さんももちろん「芳子さん」ですが、僕らとしては以前の「芳子さん」も存じ上げているので、そうすると2018年の映像だけでは芳子さんのパーソナリティがちゃんと観客に伝わらないのではないかと考えたんです。なんとか僕らの知っている「芳子さん像」に近づけたいと思い、そうすると過去の「芳子さん」にアクセスするしかない。

ーーなるほど。

想田: おっしゃった「残酷」という言葉はその通りで、やはり人間が老いていくこと、そしてその先には死があること、それは本当に残酷なことなんです。しかも誰にも逃れられないところが特に残酷です。いまの新型コロナウイルスをなぜみんなが怖がっているかというと、死ぬのが怖いからです。自分が死ぬ、あるいは自分の大好きな人が死ぬかもしれない、そのことが怖くてパニックになっている。いくら逃れようとしても、最終的には誰も逃れられない。これが本当に人間にとってのいちばんの「苦」なんだと思うんです。この「苦」とどう私たちがつきあっていくかというのは、おそらく誰にとっても、生きていく上での最大のテーマなんだと思うんです。意識するとしないとに関わらず。そういう部分を見つめたいという気持ちはずっとあったし、これは子供の頃からずっと抱えているテーマなんです。

ーーそんな小さい頃にもう「死」について考えていたんですか?

想田: 「なんで生きるんだろう」とすごく思っていた時期があって。せっかく一生懸命勉強して、努力して、身体を鍛えたりしても、最後は死んじゃうんだ、と。死んじゃうのになぜ生きるのだろうっていうのはずっと僕の中にあった「問い」なんです。そういうこともあって、大学で宗教学を専攻したのかな。

■受け入れ難いことを、いかにして受け入れるか

ーーどんなことを勉強したのですか?

想田: お葬式の研究とか。特にバリ島のお葬式は1ヶ月くらい調査に行きました。バリ島では公開で火葬もして、お祭りのように賑やかに死者を送り出すんです。衝撃的だったのは、火葬される遺体が見えること。動物の形をした棺に遺体を入れて、それを野外で火葬する。これはバリヒンズーという宗教のしきたりですが、カースト制度が残っていて、その人のカーストによってどういう動物の棺に入るかが決まっている。いちばん位の高い人は「牛」です。張り子の牛みたいな棺の中に遺体が入っていて、公衆の前で火葬します。見る人たちも着飾って、笑いながら送り出すんです。遺体がどんどん破壊されて灰になっていく過程をみんなで見つめる。僕はそんな残酷なことを目撃して耐えられるかなと思ったけれど、見ていると、不思議にさわやかな感じがしたりして。火が遺体を浄化しているように見えて、思っていたこととは全然違いました。その遺体は灰になると海へ流すのですが、その一連の行事が儀礼になっているんですね。やはり人間にとって死を受け入れることはなかなかできることではない、自分の死も、自分の愛する人の死も受け入れ難い。でもその受け入れ難きを受け入れるためにはなんらかの装置が必要なんです。だからこそ、文化によってやり方は違うけれど、お葬式を発達させてきて、それによって「死」を飼い慣らしてコントロールしようとしてきた。お坊さんがお経をあげてくれると、なんとなく魂が荒ぶるのを抑えてくれるような気がしたりするでしょ(笑)。「49日が過ぎるとこの世からあの世に行くんですよ」と説明を聞くと、なんとなく納得して安心したり。

ーーお葬式はそのためにあるんですね。

想田: はい、「無事にあの世へ行けた」ということを確認し実感するために、どうしても必要なんだと思います。話が逸れましたが、今回、なぜ山本先生が引退するかというとご高齢になったからです。ご高齢だということは、死に近づいているということです。先生や芳子さんの生活を見つめさせてもらう作業というのは、ある意味、老いや死を見つめることになるだろうということは、最初から予感はあったし、実際そうなったと思います。

ーー山本先生は映画を観られましたか。

想田: 去年の夏に柏木と一緒に岡山に行って、先生と芳子さんと息子さんと一緒に観ていただきました。先生は特に感想はおっしゃらなかったけれど、ずっとにこにこしながら「おうおう」と声を上げながら観ていらしたので、おそらく気に入ってくださったのではないかと思います。

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©️2020 Laboratory X, Inc

■「生きる」ことのエッセンスが凝縮された瞬間

ーーひとつ不思議に感じたのは、普通の映画の音効かと思うくらい、音声が驚くほどクリアなことです。想田さんおひとりでカメラを回していて、音声さんはいないはず……?

想田: 音声さんはいません。僕の腕がいいからですよ(笑)。つねに音声のことも考えながら自分のポジションやカメラワークを決めてます。先生にはだいたいの場面ではピンマイクをつけていただいたので、細かな息遣いまで録れています。息遣いの音はこの映画の中でとても重要なものになりました。

ーー本当に息遣いはとても印象的でした。他にも印象に残るのは先生と芳子さんがブロック塀を挟んでわかれて歩いて行くシーンや、最後の手をつなぐお墓の坂道シーン。あの瞬間はどういう気持ちで撮られていたんですか。

想田: それはもう感動してます。なんというか、「生きる」ということのエッセンスが、お墓の場面にはあると思うんです。言葉にするとベタになってしまうんですが、結局は人間は手を繋ぐしかない。そういうことをおふたりを見ていてものすごく感じたし、特に日本のご夫婦が人前で手を繋がれるのはレアで、ドキドキするんですね。

ーーNYなら手を繋ぐことも日常だろうと思いますが、想田さんが日本で見ると違う感じがするわけですね。

想田: それはそうです。先生と芳子さんが手を繋いでいるところはこれまで見たことなかったですし、お墓の場面では、最初は手を繋いでいなくて、先生はズンズン先へ歩いてしまって、芳子さんは一生懸命ついていくんですね。ちょっと急な坂道にさしかかって、先生が芳子さんに手を出すのですが、先生は繋ぐことなく先に行ってしまう。でもそこで先生はハタと気づいて振り返るとそこに芳子さんがおられて。それで初めて戻って手を繋ごうとするのですが、その時は先生は両手に花とか荷物を持っているのでなかなか繋げない。荷物を脇に抱えることで、ようやく手を繋げるわけです。ここまで言っていいのかわからないのですが、僕の解釈としては、あの道筋にいままでの先生と芳子さんの関係がエッセンスとして凝縮されているのだと思ってます。

■「仮設の映画館」について

ーー最後に、初めての試みである「仮設の映画館」について、お聞かせ下さい。

想田: あくまでも今回は映画館に生き残ってもらわないと困るという。それに尽きます。本当は僕も公開を延期したかったんです。こんな状況で公開していただいても、どれだけ観に来て下さるのか、感染のことを気にしてヒヤヒヤして観るなんてのは作品にとってはいいことではないし、公開の意味がないと思ったので、最初は「1年くらい延期しませんか」と言いました。ところが配給の東風からは「そうすると映画館、みんな潰れちゃいます」と言われて、それもそうだなと思い直しました。実際、観客動員数が激減し、さらに新作を引き上げられてしまったら、映画館はもう閉めるしかない。そうするともう僕らが戻るところはないわけです。だから今回は本当にあくまでも緊急避難で、事態が収束したらみんなでワイワイガヤガヤ映画館に集いたいわけです。そのためには今は配信で我慢して、配信によって映画館を守りたいという、それ以外になかったです。

ーー実は「観察映画」シリーズのうち『精神』だけが想田監督にインタビューしていない作品だったのでとても心残りでしたが、今回『精神0』でお会いできて嬉しかったです。ありがとうございました。

想田: そうなんですね、ありがとうございました。

(このインタビューは2020年4月17日、Skypeにて行いました。)

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©️2020 Laboratory X, Inc
***

『港町』ではクミさんという不思議な存在がある種の悟りの境地へと想田作品を導いたように感じた。そして『精神0』では、山本夫妻を、いや芳子さんを撮ることで、人間にとって逃れられない「老いと死」を、少し言葉が荒いかもしれないが、「容赦なく」見つめ、さらに違う次元へと向かうように思う。なにしろ想田カメラが粘るときは要注意だ。例えば『牡蠣工場』では外国人労働者を撮るシーン(ここで柏木さんのアシストがかっこいい)、『港町』では高祖鮮魚店の車に乗り込むところ、『精神0』では、女性からすると「ああこれは少し残酷だな」という角度で芳子さんを撮ることを躊躇しない。そこには「何か」があるのだ。被写体へ最大の敬意を払いながら、核心にタッチする何かが......。そうやってちょっとヒヤヒヤしながらソウダカンサツの企みを読みこんでいくところが個人的に想田作品の強烈な魅力だと感じる。今回の山本先生の教え「ゼロにもどる」という魔法のような言葉をこれから杖にして、『港町』で体感した霊験の旅を超えていきたい。観察映画への興味はまだまだ尽きない。(RealTokyoに寄せたレビューもぜひご一読下さい)

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想田監督と柏木プロデューサー

Profile: そうだかずひろ 1970 年栃木県足利市生まれ。東京大学文学部卒。スクール・オブ・ビジュアル・アーツ卒。93 年からニューヨーク 在住。映画作家。台本やナレーション、 BGM 等を排した、自ら「観察映画」と呼ぶドキュメンタリーの方法を提唱・ 実践。 監督作品『選挙』(07)、『精神』(08)、『Peace』(10)、『演劇 1』(12)、 『演劇 2』(12)、『選挙 2』(13)、 『牡蠣工場』(15)、『港町』(18)、『ザ・ビッグハウス』(18)。国際映画祭などでの受賞多数。著書に『精神病とモザ イク』(中央法規出版)、『なぜ僕はドキュ メンタリーを撮るのか』(講談社現代新書)、『演劇 VS 映画』(岩波 書店)、 『日本人は民主主義を捨てたがっているのか?』(岩波ブックレット)、『熱狂なきファシズム』(河出書 房新社)、『カメラを持て、町へ出よう』(集英社インターナショナル)、『観察する男』(ミシマ社)、『THE BIG HOUSE アメリカを撮る』 (岩波書店)など。  

Information:

監督・製作・撮影・編集:想田和弘 製作:柏木規与子 製作会社:Laboratory X, Inc 配給:東風 2020 年/日本・アメリカ/128 分/カラー・モノクロ/DCP/英題:Zero

 過去の相田和弘監督インタビュー

 

2019年 わたしの10大イベント「CINEMA10」

REALTOKYO CINEMA(RTC)は4年目を迎えました。今年もよろしくお願いいたします。さて年頭の恒例行事わたしの10大イベント - CINEMA10(シネマテン)を発表します。「2019 RTC CINEMA10」では建築家の石井大吾さんを新メンバーに迎えてパワーアップ! 映画を愛するRTゆかりのメンバーたちが、今年も大いに悩みながらセレクトした珠玉の10本(公開年にこだわらず、基本2019年に観た映画から選びました)です。どうぞお楽しみ下さい(寄稿者は原稿到着順に:澤隆志、石井大吾、松丸亜希子、前田圭蔵、白坂由里、フジカワPAPA-Q、福嶋真砂代)。

2019 RTC CINEMA10

★澤 隆志の2019 CINEMA10

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『虚空門 GATE』
  1. 『つばめを動かす人たち 月曜シネサロン&トーク』 http://www.cinesalon.jp/
  2. 『虚空門 GATE』 https://gate.salon
  3. 『主戦場』 http://www.shusenjo.jp/
  4. 『解放区』 http://kaihouku-film.com/
  5. 『ジョーカー』 http://wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie/
  6. サスペリア』 https://gaga.ne.jp/suspiria/
  7. 『だってしょうがないじゃない』 https://www.datte-movie.com/
  8. 『「バシャ」 しなやかな闘い ポーランド女性作家と映像』 https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-3443.html
  9. 『交換日記 百瀬文×イム・フンスン』 http://ayamomose.com/?p=1523
  10. 『「Lost Sight」 ミヤギフトシ 予兆の輪郭 第2期』 https://www.tokyoartsandspace.jp/archive/exhibition/2019/20190413-4454.html

コメント:特急つばめが8時間で結んだ東京-大阪は今や3時間切り。戦後は時空が変化して社会を変えた()。実験映画ーAVープロレスーUFOというイメージの虚実に魅せられた作家の執念がにじみ出た()。特定コミュニティの「かくあれかし」の熱は、自然と()の両翼それぞれの純化と壁を連想させてしまうのだった。それは芸術祭への暴力へ飛び火し、国の補助金まで取り沙汰される顛末...。経緯は違えど議論になった補助金を全額返金しやっと一般公開された()は”巻き込まれヴィラン”ともいえる()と同年に見られてよかった。強烈な印象の旧作(旧キャラ)をアップデートするために旧作の外側を描くのは()にも通じる決意。()()()(10)も社会の縁や裏をとりこぼさない決意。

 

 ★石井大吾の2019 CINEMA10

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(C)Primeworks Studios Sdn Bhd『タレンタイム』
  1. 『タレンタイム』http://moviola.jp/talentime/
  2. 『ひかりの歌』http://hikarinouta.jp/
  3. 『東京干潟』https://higata.tokyo/
  4. 『生きてるだけで、愛。』http://ikiai.jp/
  5. 『山懐に抱かれて』http://www.tvi.jp/yamafutokoro/
  6. 『芳華-Youth-』http://www.houka-youth.com/
  7. 『盆唄』http://www.bitters.co.jp/bon-uta/
  8. 『蹴る』https://keru.pictures/
  9. 希望の灯りhttp://kibou-akari.ayapro.ne.jp/
  10. 止められるか、俺たちをhttp://wakamatsukoji.org/tomeoreweb/

コメント:地方出張の際に映画館で過ごすことが楽しみである。小さな町であればなおさら。昨年は主に上田の上田映劇にお世話になった。そして帯広出張の際には、「小さな町の小さな映画館」の大黒座に!フライト前のロングドライブの果てにいただいた一杯のコーヒーは忘れられない。旅先で映画を観るということ。その土地もその映画も少し特別なものとして自分の中に残っていく。見逃した映画が少し遅れて地方で上映しているときなどは、あえて旅をしてみるのもよいかもしれません。さて、1位はタレンタイム、もう10年も前の映画である。2019年の夏はヤフミン・アフマドの特集をすべて鑑賞し、そのどれもをランクインさせたいところだが、代表してやはりタレンタイムを選んだ。自分の国の話ではないからではないか、何か見落としているのではないか、などと思いつつも、やはり素直に素晴らしい作品だ。

 

★松丸亜希子の2019 CINEMA10

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『ROMA/ローマ』
  1. ROMA/ローマ』https://www.netflix.com/jp/title/80240715
  2. 『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』http://moviola.jp/nypl/
  3. 『愛がなんだ』http://aigananda.com
  4. 『よこがお』https://yokogao-movie.jp
  5. 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』http://www.onceinhollywood.jp
  6. 『ある船頭の話』 http://aru-sendou.jp
  7. 『ジョーカー』http://wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie/
  8. 『楽園』https://rakuen-movie.jp
  9. 『こはく』https://www.kohaku-movie.com
  10. 『夕陽のあと』https://yuhinoato.com 

コメント:新潟県長岡市に移住して6年目。主に市内唯一のシネコンで観ているのですが、うれしいことにミニシアター系の作品も多々上映されるので、レディースデーは劇場に向かうことが習慣に。旧REALTOKYOでインタビューした監督たちの新作を追いかけるのに忙しい1年で、大豊作のため選出に苦労しましたが、どうにか10本を選んで観た順に並べてみました。『夕陽のあと』に寄せたコメントが予告編やチラシに採用され、パンフレットや雑誌への寄稿のオファーもいただき、久しぶりに映画について長めの原稿を執筆できたことも2019年の収穫です。声をかけてくださった宣伝担当の方に感謝!

 

 ★前田圭蔵の2019 CINEMA10

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(C)2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC『運び屋』
  1. 『運び屋』http://wwws.warnerbros.co.jp/hakobiyamovie/
  2. 『ブラック・クランズマン』https://bkm-movie.jp/
  3. 『イメージの本』http://jlg.jp/
  4. 『火口のふたり』https://kakounofutari-movie.jp/
  5. 『ジョーカー』http://wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie/
  6. 『セメントの記憶』https://www.sunny-film.com/cementkioku
  7. 『パラダイス・ネクスト』 http://hark3.com/paradisenext/
  8. 『ひとよ』https://hitoyo-movie.jp/
  9. 『家族を想うとき』https://longride.jp/kazoku/
  10. 男はつらいよ お帰り 寅さん』https://www.cinemaclassics.jp/tora-san/movie50/

コメント:昨年の固い決意も虚しく、そもそも封切り新作映画をスクリーンで見た本数自体がたったの13本でした。学生時代は年に200本以上も見ていたシネフィルだったのに・・・悔しいです!w  特に印象深かった映画は、は、KKKの潜入捜査をする実在の黒人刑事を題材に、リー監督独特の編集の”リズム感”が冴え渡る。テレンス・ブランチャードの音楽もいい。   は、カルロス・ゴーン氏の逃亡先としても注目を浴びる中東レバノン・ベイルートで肉体労働に従事するシリア移民労働者のあまりにも過酷な現実を捉えたドキュメンタリー。は、家庭内暴力に耐えかねた夫を殺めてしまう母と3人の子どもたちの行く末を描き、極東独特の高い湿度感と田中裕子の演技が迫力のある画面を絶えず覆っていた。イーストウッド作品ももう一度スクリーンで観たい映画。そう、多くの人は人生の多くの時間を好き好んだことに費やしているわけではないのです。(リストは順不同)

 

★白坂由里の2019 CNEMA 10

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(C)2018MoozFilms『存在のない子供たち』
  1. 『セメントの記憶』https://www.sunny-film.com/cementkioku
  2. 『存在のない子供たち』http://sonzai-movie.jp
  3. 『シュバルの理想宮 ある郵便配達員の夢』https://cheval-movie.com
  4. 『永遠の門 ゴッホの見た未来』https://gaga.ne.jp/gogh/
  5. 『家族を想うとき』https://longride.jp/kazoku/
  6. 『テルアビブ・オン・ファイア』http://www.at-e.co.jp/film/telavivonfire/
  7. 『ドント・ウォーリー』http://www.dontworry-movie.com
  8. 希望の灯りhttp://kibou-akari.ayapro.ne.jp
  9. 『よこがお』https://yokogao-movie.jp
  10. 『水と砂糖のように』http://mizusato.onlyhearts.co.jp

コメント:ベイルート超高層ビル建設現場でシリア人移民が過酷な労働に従事するは音、その振動で伝え記憶させるドキュメンタリー。それ以外はリサーチをもとにしたフィクションを見ることが多かった。人それぞれ理不尽な運命にどんな態度をとるか。絵を描いたり、ささやかな美しさを見つけたり、ユーモアで返すシーンにホッとする。なかでも、自身ではまだ人生を選択できないと思われている子供が声を挙げるの存在感は群を抜く。そしての、不条理な世界を超えて不条理な創造に生ききったシュバルに希望を見た。10は映画の言葉でもある色彩と光。尊敬するケン・ローチ監督も登場します。(リストは順不同)

 

★フジカワPAPA-Qの2019 CINEMA10

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『マイ・フーリッシュ・ハート』
  1. 『ROMA/ローマ』https://www.netflix.com/jp/title/80240715
  2. ビル・エヴァンス~タイム・リメンバード』http://evans.movie.onlyhearts.co.jp
  3. 『カーマイン・ストリート・ギター』http://www.bitters.co.jp/carminestreetguitars/
  4. 『‪ジョアン・ジルベルト‬を探して』http://joao-movie.com
  5. ブルーノート・レコード ジャズを超えて』http://www.universal-music.co.jp/cinema/bluenote
  6. 『ザ・ヒストリー・オブ・シカゴ~ナウ・モア・ザン・エヴァー』http://wowowent.jp/chicago/
  7. 『イエスタデイ』http://yesterdaymovie.jp
  8. ガリーボーイ』http://gullyboy.jp
  9. 『トップ・ハット』<フレッド・アステア・ボーン・トゥ・ダンス(特集上映)>http://www.cinemavera.com/preview.php?no=231
  10. 『マイ・フーリッシュ・ハート』http://my-foolish-heart.com

コメント:音楽の映画10本公開順。キュアロン監督選曲のサントラ素敵。昨年生誕90年&今年没後40年のエヴァンスの生涯。ジャームッシュ監督らも訪れるNYヴィレッジのギター工房。昨年天に召されたJGを探す監督のリオの旅。昨年80周年のブルーノート・レコードの歴史。ベテラン・ロックバンドの軌跡。ダニー・ボイル監督のビートルズ愛は泣ける。インド映画とヒップホップは合う。NAS絶賛のムンバイの青年ラッパー出世譚。フレッド・アステアの特集上映を代表して。アーヴィング・バーリンの音楽で歌い踊る1935年の最高作。10アムステルダムで謎の死を遂げたチェット・ベイカーを描くノワールなドラマ。今なお彼の音楽は魅力的。

 

★福嶋真砂代の2019 CNEMA 10

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©2019「ある船頭の話」製作委員会
  1. 『ある船頭の話』http://aru-sendou.jp/
  2. 『ブラック・クランズマン』https://bkm-movie.jp/
  3. 『僕はイエス様が嫌い』https://jesus-movie.com/
  4. 『幸福なラザロ』http://lazzaro.jp/
  5. 『ニューヨーク公共図書館』http://moviola.jp/nypl/
  6. 『カーマイン・ストリート・ギター』http://www.bitters.co.jp/carminestreetguitars/
  7. 『北の果ての小さな村で』http://www.zaziefilms.com/kitanomura/
  8. 『7月の物語』https://contes-juillet.com/
  9. 『少女は夜明けに夢をみる』http://www.syoujyo-yoake.com/
  10. 『柄本家のゴドー』http://emotoke-no-godot.com/

コメント:2019年も選びきれないほど多くの素敵な作品に出会った。圧巻は『ある船頭の話』の息を呑む映像美と静かな迫力。華麗な長編監督デビューを果たしたオダギリ監督に撮影秘話を聴けたことも感慨深い。『ブラック・クランズマン』のスパイク・リーらしい痛快さに年初から参ったし、『僕はイエス様が嫌い』と『幸福なラザロ』の根源的な「問い」はいつまでも心を揺らす。TIFFではデンマーク『わたしの叔父さん』の奥ゆかしさ、またフィルメックスは中国『春江水暖』の壮大な”絵巻物”を描く若い監督の“挑戦”に驚嘆。そしてすでに『リチャード・ジュエル』で感動メーターMAXな2020年なのだが、どんな作品がこれを越えるのか楽しみだ。

 ●選者プロフィール(原稿順)

・澤隆志:2000年から2010年までイメージフォーラム・フェスティバルのディレクターを務める。現在はフリーランス。パリ日本文化会館、あいちトリエンナーレ2013、東京都庭園美術館青森県立美術館などと協働キュレーション多数。「めぐりあいJAXA」(2017-)「写真+列車=映画」(2018)などプロデュース。

・石井大吾:fuse-atelier、blue studioを経て2008年よりDaigo Ishii Design(daigoishii.com)として活動開始。建築、インテリア、家具などのデザインを手がける。2009-2015年には中野にてgallery FEMTEを運営。 2018年からは株式会社アットカマタの活動にも参加している。2019年、京急梅屋敷にKOCA(koca.jp)をオープン。https://www.daigoishii.com/

・松丸亜希子:1996年から2005年までP3 art and environmentに在籍した後、出版社勤務を経てフリーの編集者に。P3在職中に旧REALTOKYO創設に携わり、2016年まで副編集長を務める。2014年夏から長岡市在住。

・前田圭蔵:世田谷美術館学芸課を経て、80年代後半より音楽やコンテンポラリー・ダンスを中心に舞台プロデュースを手掛ける。F/T11、六本木アートナイト、あいちトリエンナーレ2013パフォーミング・アーツ部門プロデューサーなどを歴任。現在は東京芸術劇場に勤務。旧realtokyo同人。

・白坂由里:神奈川県生まれ、小学生時代は札幌で育ち、現在は千葉県在住。『WEEKLYぴあ』を経て1997年からアートを中心にフリーライターとして活動。学生時代は『スクリーン』誌に投稿し、地元の映画館でバイトしていたので、いまも映画に憧れが……。

・フジカワPAPA-Q:選曲家、DJ、ライター、編集者、オーガナイザーなど。先日放送1000回となったNHK-FMゴンチチの番組「世界の快適音楽セレクション」の選曲構成。コミュニティラジオ FM小田原の番組プロデューサー。フジロックアバロンステージで開催のNO NUKESイベント「アトミックカフェ・トーク&ライブ」スタッフ。等々と色々活動中。

・福嶋真砂代:RTC主宰。航空、IT、宇宙業界を経てライターに。『ほぼ日刊イトイ新聞』の「ご近所のOLさんは、先端に腰掛けていた。」などコラム寄稿(1998-2008)。黒沢清諏訪敦彦三木聡監督のトークイベント「映画のミクロ、マクロ、ミライ」MC(2009)。旧Realtokyoには2005年から参加。https://www.realtokyo.co.jp/

 

 

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TIFF Report: 『わたしの叔父さん』(第32回東京国際映画祭 コンペティション部門)レビュー&記者会見レポ

人間にとって大切なものを静かに問いかける北欧映画

取材・文:福嶋真砂代

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© 2019 88miles

32東京国際映画祭コンペティション部門 東京グランプリの栄冠に輝いたのはデンマークユトランド地方を舞台にした『わたしの叔父さん』。フラレ・ピーダセン監督(監督・脚本・撮影・編集)が昔からの知り合いだという元獣医の女優イェデ・スナゴーと、彼女の実の叔父であるペーダ・ハンセン・テューセンを主役に起用し、酪農農家の毎日の暮らしと人間模様をリアルに、ユーモアを込め、静かなトーンで描いた。

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©2019 TIFF

不幸な事故で両親を亡くしたクリスは身体の不自由な叔父のペーダと農場で二人暮らしをしていた。冒頭シーンから「老人介護」の映画だろうかと思わせるも、1日のルーティンをひたすら無言でリズミカルにこなすふたりの動きがだんだんユーモラスに見えてくる。たとえば叔父さんのお気に入りのヌテラ(Nutella)をパンに塗って食べる朝食シーン、またそのヌテラを大事そうにスーパーで買うシーンなど、細部のこだわりが楽しい。上映後の記者会見では、イェデとペーダが実の叔父と姪であり、さらにイェデが元は獣医をしていたという事実が明かされ記者たちを驚かせたが、リアルな演技の理由に納得した。イェデさんに上映後に会って伺った話では、「実はペーダおじさんはヌテラを食べたことがなく、撮影時に初めてヌテラを知ったのだけど、ものすごく気に入ってリハーサルで食べ過ぎ、本番で食べられなくなってしまったの」という微笑ましいエピソードや、ペーダさんは脳梗塞を患いつつも現在は回復してひとりで農場生活をしていて「私も手伝います、時々ね」とチャーミングに教えてくれた。スクリーンに映るとおりの彼女の穏やかでピュアで奥ゆかしい人間性に触れた。

カメラは淡々と農場での営みを映し続けるが、叔父の世話も獣医への夢も捨てきれないクリスの複雑な気持ち、また合唱団のマイクと出会い、恋愛への意欲も見せてみたり、農場の外の世界に出ようとするクリスの“冒険”がストーリーの起伏を作る。農場の、また叔父との生活の大切さにあらためて気づくクリスを通して、都会化、IT化で人間性を見失う現代人を憂い、「人間にとって本当に大切なことは?」と問いかける。クリスが未来よりも「現在」を見つめるようなラストは少しミステリアスな香りがする。

下記リンクにあるインタビューではピーダセン監督がカメラワークについて触れている。小津安二郎監督が編み出したローアングルショットは「オヅ・ショット」とデンマークで呼ばれ愛されているそうだ。そう言われれば、クリスが『晩春』の原節子演じる婚期を逃した娘に重なるようにも見えてくる。なんとも奥ゆかしさを感じる北欧の映画のトーンに、ピーダセン監督独特のセンス、日本映画へのリスペクト、品格と温かさが宿る。今後の公開が楽しみな作品だ。

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@MasayoFukushima

『わたしの叔父さん』記者会見 2019.10.31@TOHOシネマズ 六本木ヒルズ 

マーコ・ロランセン:プロデューサーのマーコです。ワールドプレミアということで東京で初披露できて大変うれしいです。

フラレ・ピーターゼン監督:私は監督と脚本を担当しました。今回、多くの方に観ていただいてうれしいです。

イェデ・スナゴー:一般上映では多くの方に観ていただき多くの質問をいただいてうれしいです。

Q1:前半は特にセリフが抑制されていて、彼女の表情からいろんな感情が読み取れるようにしていた気がしますが、事前に監督から説明があったのか、それとも役者任せで演じられたのでしょうか。

スナゴー:この映画は最初から最後まで、主人公クリスのキャラクターの感情の様々な変化を監督と細かく打ち合わせをしたなかでストーリー展開する形でした。彼女は別に不幸なのではなく、叔父さんが大好きで、農場での暮らしに満足しているのですが、自分のニーズとか、自分のことはとりあえず横に置いておいて、叔父さんのケアをまず第1にしていくのだということで、彼女自身の気持ちをかなり抑えています。冒頭の部分でそういう感情がみなさんに伝わったかなと思います。合唱団のマイクと出会ってからいろんな感情が芽生えるのですが、彼女なりに自分の感情を抑えなければいけないというそういう葛藤もあります。そこは監督と打ち合わせをして撮影に入りました。

監督:付け加えると、監督でありながら脚本も書いているので、演出についてのこだわりは強いほうかもしれません。彼女とよく話したのはどうやってバランスをとるのか、セリフの量は多くないのですが、その少ないセリフのなかでどうやって感情を出せばいいのか、そこは彼女とよく話をして、場合によってはリハーサルをしてから撮影に入るときもありましたし、逆に話をしてそのままぶっつけ本番で撮ったシーンもあるのですが、そのあとで思ったよりうまくいったね、うまくいかなかったね、というような話もたくさんしました。

Q2:かなりのシーンが自然光というか、最小限のライティングで撮ったのではないかと思われます。その分、自然条件によってかなり時間をかけて撮られたかと思います。監督の狙いや苦労などありましたか。

監督:実はデンマークは冬が長くて夏が短い、短い夏にも雨が多いという状況が多いので、映画の撮影を行うときは、どちらかといえば雨のない時期を選んで撮影します。特に今回は雨に見舞われ大変でした。おっしゃるとおり、照明などは最小限でしたが、雨の日は建物の中のシーンを撮影をするという工夫をしました。撮影のライティングは4本くらいで最小限で、他に雰囲気づくりのためにランプを多用していますが、とても役立ちました。

スナゴー:この作品は私の2本目の出演で、前作は同じピーターゼン監督のチョイ役でした。というわけで大きなスタジオの作品の経験がないので、私にとってはまったく苦労もなく、自然体の演技ができました。贈り物のような環境だったと思います。「ペーダ叔父さん」は自分の実際の叔父なので、小さい頃から知っていて、よく遊びに行きましたし、動物がいたり癒される環境で仕事ができたのはとてもよかったと思います。父も年に一度は農場に行っていたので、叔父からトラクターの運転の仕方など習っていて、いわゆる農機の扱いとかは知っていたので、そういう点でもよかったと思います。

MC:ちょっと確認したいのですが、映画の中の叔父さんは実際のイェデさんの叔父さんですか?

スナゴー:はい、そうです。

MC:びっくりしました。この作品が2本目の出演とおっしゃっていましたが、それまでは他の仕事をなさっていたのですか?

スナゴー:そうなんです、獣医をしていました。

MC:なるほど! そうするとこの脚本は彼女に合わせて書いたと言ってもいいですか?

監督:彼女は農場近くの小さな町に住んでいましたが、獣医になるためにコペンハーゲンに行きました。私は彼女のことを昔からよく知っていて、以前の作品では農場をロケして撮影しました。先ほどの質問に関してですが、そうです、彼女に合わせて脚本を書きました。叔父さんの本名は「ピーター」というのですが、彼はそこで生まれ育ち、25歳で農場を受け継ぎました。そして63歳の時、「実は映画が作りたいのだけど、主人公を演じてくれないか」と頼んだところ「いいよ!」と言ってくれました。彼女を含めて、彼女のファミリーはとても演技力があって、とても助かりました。もうひとつは、身体の不自由な叔父さん役に役者を起用した場合、リアルさに欠けてしまう。もちろんフィクションであるのですが、やはりリアルさを追求したかった。キャストのみなさんは農場環境をよく知っている方々です。それでも彼女は新たにトラクターの運転を習得したりという努力もありましたが、現実に近いリアルなものになったのではないかと思います。

Q3:劇中に流れるTVニュースで、北朝鮮や日本、EUなどの世界情勢ニュースが出てくるのですが、一方クリスと叔父さんの毎日の生活は変わらないという状況が興味深く、観る側の想像力を膨らませます。そのような対比のアイディアはどのように生まれましたか?

監督:実はここにいる私たち3人はみんなデンマークの南の地方の生まれです。デンマークでは大学に行くとなるとどうしても故郷を離れ、すぐに戻れるような環境ではないのです。自分の夢を叶えるためにはそうなるのです。私も、すぐに故郷に帰れないというなんともいえない寂しさがずっと心にありました。これはイェデに合わせて書いた脚本ですが、私自身も大学進学のために故郷を離れた経験があります。クリスのように故郷に残る人もいました。彼女は獣医の夢を持ちながらも叔父さんの世話をしなければならないので、半ば夢を諦めていたり、両親を悲劇的な状況で亡くしているというストーリーでは、叔父さんをおいて自分が都会へ出てしまうということの葛藤を表現したいということがひとつと、もうひとつはピーター叔父さんは実際に6年前に脳梗塞を患い、それもかなりストーリーのインスピレーションになっています。こういう状況の叔父さんを放っておいてまで自分の夢を追いかけたいのか、ということを描きたいと思いました。

ニュースのことについては、叔父さんはテレビの戦争や世界の出来事のニュースを観ていましたが、対してクリスはまったくニュースを観ない。彼女は日々の生活のなかで考えることがいっぱいあるし、世界で起きることに興味がなく、テレビを観ないのです。世界では悲劇的なことがあるのは事実ですが、個人は個人であることもまた現実です。その個人の世界に与える影響力よりも、日常生活での自分の問題、感情、葛藤が重要で優先するのではないかということを伝えたかったという気持ちがあります。

Q4:牛の世話は大変でしたか、また雲や夕日などのシーンや渡り鳥のシーンが印象的でした。

監督:牛は耳としっぽに個性が現れるので観察しました。搾乳機は40年ほど前の古いタイプを使ったので、そこは少し苦労しました。渡り鳥は(実はいまインターネットで調べましたが)「スターリング」と呼ばれている「黒い太陽」と現象があり、それは年に1度しか観られないので、世界中から観光客がたくさん観にきます。夕陽の時に鳥が飛ぶのですが、私はイチかバチかという気持ちで脚本に書き込んだのですが、幸いにもうまくワンテイクで撮ることができました。

MC:プロデューサーのロランセンさんは何か付け加えることありますか?

ロランセン:監督とは何回も仕事をしていますが、彼の脚本はとても緻密で、安心感があります。彼が心の底から映画にしたいものが見つかったという喜びが伝わりました。またストーリーは万国共通の普遍的なもので、日本でも通じるのではないか思う、とてもいい作品になりました。

2019.tiff-jp.net

コンペティション『わたしの叔父さん』公式インタビュー|第32回東京国際映画祭

デンマーク映画『わたしの叔父さん』主演女優は元獣医!叔父と共演|第32回東京国際映画祭

Review41『37セカンズ』(第32回東京国際映画祭 Japan Now部門)

ユマの心意気がつくりだす優しいミラク

文:福嶋真砂代

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(C)37Seconds filmpartners

生まれた時に37秒間、呼吸が止まっていたことで身体に障害を負い、車椅子で生活する23歳のユマは、シングルマザーの母親とふたり暮らし。漫画家志望の彼女は友人のゴーストライターとして働いていたが、そこは自分の夢を叶える場所じゃないことに気づく。ならば自分の力を試そうと、ヒナ鳥が殻を破るように”世界”に飛び出した。なんとアダルト漫画の雑誌社に原稿を売り込むのだが、編集長からシビアな現実をつきつけられる。「あなたの作品はリアルさに欠ける。妄想だけで描いたエロマンガなんて面白くないでしょ」。つまり実体験なしには作品は作れないというのだ(そうかもしれないし、そうでないかもしれないと筆者は思うが)。

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(C)37Seconds filmpartners  

さあ、どうしよう? ユマは独り、勇気を持って大人の冒険の“旅”にでる。個性的な人々、初めてのラブホテル、異国の地、母の秘密、次々と新たな出会いをする。まるで必要なアイテム、ギフトを獲得し、成長を遂げていくクエストゲームの勇者のように......。

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(C)37Seconds filmpartners  
何度もユマの声に救われる

主人公の貴田(たかだ)ユマを演じる佳山明(かやまめい)の声が強く印象にのこる。やわらかく、凛としていて力強い、聡明さを感じる声。困難にぶつかるたびに「もうユマは心折れてしまうのではないか」とハラハラしてしまうが、その美しい声に、はっと我にかえり、何度も救われる思いがした。HIKARI監督は、佳山明の起用について、彼女の声に強く惹かれたと話している。監督の期待に体当たりの演技で応えるユマ(佳山)の心意気が、優しいミラクルタイムを作り出す。監督が彼女と出会った奇跡がそのまま連鎖して映画のなかに起こっている、そんなふうに感じた。

そんなユマの物語を、アニメーションとリアル世界を融合させた軽快な世界観で描いたHIKARIは、映画監督、脚本家、カメラマン、撮影監督、プロデューサーとマルチな活躍をする女性監督。18歳で渡米し、USC(南カリフォルニア大学院)で映画制作を学んだ。この長編処女作では、実際に障害をもつ佳山明と出会ったことで、もとの脚本を大幅に佳山に合わせて書き直し、魅力を存分に引き出した。他に神野三鈴、渡辺真起子大東俊介ら演技派を起用、また『パーフェクト・レボリューション』(松本准平監督、2017)のモデルとなったクマさんこと熊篠慶彦の出演で物語に奥行きを与える。母親役の神野の迫真の演技、そして大東と渡辺の存在が温かく素敵だ。ベルリン国際映画祭にてワールドプレミアされ「パノラマ観客賞」と「国際アートシネマ連盟(CICAE)賞」をW受賞や、ほか多数受賞。さらに第32回東京国際映画祭Japan Now部門で上映された。

さらなる女性監督の活躍に期待

同映画祭ではHIKARI監督や『タイトル、拒絶』の山田佳奈監督など女性監督が力強い作品を発表した。映画祭事務局の集計によると、エントリー作品における男女比は、女性監督の作品は20.7%(応募総数1804本のうち女性監督作品は男女共同監督作品の22本を含めて385本、ただし男女共同を0.5人と換算)とまだまだ少ないのが現状だ。劇中の「障害があろうがなかろうが、あなた次第よ」という厳しくも可能性を信じる温かい言葉は、そのまま言葉通り“障害があるなしは関係なく”、すべての境界を越えて背中を押すパワーワードに聴こえる。今後もさらなる女性監督の活躍を見守りたい。

Information:

『37セカンズ』

監督・脚本:HIKARI
出演: 佳山明、神野三鈴、大東駿介渡辺真起子熊篠慶彦、萩原みのり、宇野祥平、芋生悠、渋川清彦、奥野瑛太石橋静河尾美としのり板谷由夏
2019年/日本 /115分/原題:37 Seconds/PG-12
挿入歌:「N.E.O.」CHAISony Music Entertainment (Japan) Inc.>
配給:エレファントハウス、ラビットハウス

2020年2月7日(金)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー 

映画「37seconds」公式サイト

www.youtube.com

2019.tiff-jp.net

●映画『37セカンズ』、HIKARI監督、主演の佳山明さんによる質疑応答〜「広島国際映画祭2019」上映後のトークショー

https://www.youtube.com/watch?v=rLA6_ymzPNA

 

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TIFF Report: 『タイトル、拒絶』(第32回東京国際映画祭 日本映画スプラッシュ部門)Q&A

デリヘル舞台裏を描く、愛と葛藤の群像劇

取材・文:福嶋真砂代

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@DirectorsBox

その言葉とは裏腹に、吸引力バツグンに魅力的なタイトルの本作は、劇団「□字ック」(ロジック)主宰の山田佳奈監督が6年前に舞台のために書き上げた脚本を映画化した、長編監督デビュー作だ。第32回東京国際映画祭 日本映画スプラッシュ部門での上映チケットが10分で完売という注目度の高さ、その熱気はそのまま作品の熱気でもある。舞台はデリヘルの楽屋裏。ままならない世界を生き抜く女たちの世界。若さゆえの強さと弱さ、嫉妬と憧れ、そして人間のしたたかさと儚さ、複雑な感情のもつれを表現する、テンポよく緩急巧みなセリフの掛け合いがみどころ。

主人公カノウにはユニークな存在感の伊藤沙莉、熟女デリヘル嬢の迫力を魅せる片岡礼子、他に恒松祐里佐津川愛美のパンチの効いた熱演も印象的。さらに森田想、モトーラ世理奈、般若、田中俊介BOYS AND MEN)が競演し、ほぼ密室で行われる群像劇は映画『キサラギ』の痛快さを彷彿とさせる。同映画祭でのQAでは映画の熱気冷めやらず、溝口健二監督の『赤線地帯』の話題も上がったり、活発な意見交流が行われ、監督・キャストと会場との一体感は気持ちよいものだった。2020年公開が予定されている。

【作品解説(東京国際映画祭プログラムより抜粋)】雑居ビルの4階に位置するデリヘル。バブルを彷彿とさせるような内装の部屋で、さまざまな女性が肩を寄せ合って客待ちをしている。入店したばかりのカノウはそれを見て、小学生の頃にクラス会でやった「カチカチ山」を思い出す。みんな可愛らしいウサギにばかり夢中になる、嫌われ者のタヌキになんて目もくれないのに...。本作は自身の同名舞台の初映画化にして、長編デビュー作。劇中歌には女王蜂「燃える海」。どうしようもない人生でも生きていかなくちゃいけない女性たちの姿を描く。

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@MasayoFukushima

『タイトル、拒絶』Q&A 

司会:矢田部吉彦プログラミングディレクター
登壇ゲスト:伊藤沙莉田中俊介(BOYS AND MEN)、森田想、山田佳奈監督
場所:TOHO シネマズ六本木ヒルズ
日時:2019.11.4

Q1:勢いある旬の役者さんやこれからの活躍が楽しみな役者さんのキャスティングについて教えて下さい。

山田佳奈監督:まずカノウ役の伊藤沙莉ちゃんがいちばん最初に決まったのですが、私自身、カノウ役にはとてもこだわりがあって、(小学校クラス会で演じた「かちかち山」の)ウサギに憧れるタヌキを背負っていく女性で、うまい言葉かわかりませんが、“イケてない女性”というのをちゃんと背負える女性がいいなと思っていたときに、沙莉ちゃんと出会いました。最初はお互いにシャイだったので、うまくしゃべることもできず、ただただ「好きです、ご一緒できるのがうれしいです」ということを伝えて終わったような気がします。そこから森田想ちゃんや田中俊介くんらが続々と決まりました。キャスティングの妙に関しては、今回プロデューサーが『獣道』や『下衆の愛』の内田英治監督なので、その力もふんだんに借りながら、助けていただいたという感じです。

司会:森田さんがこの役と出会ったときの思いを聞かせていただけますか。

森田想:オーディションというより、面接というほうが近いかもしれませんね。

山田:こころ(森田)ちゃんの名前があがった時に『アイスと雨音』がめっちゃ好きだったという話をして、他にも何名か女優さんの候補をいただいて、ひとりずつ会いたいと言いました。まだこころちゃんの役は決まっていなくて、内田さんは実は「チカ」がいいんじゃないかと言っていて、お葬式をされる子ですね。でもこころちゃんにお会いしたときに彼女の「強さ」はチカじゃないなと思って、人を信じ抜く強さやブレないものを感じたので、見事にはまってくれたなと思っています。

森田:うれしい限りです。監督と初めてお会いしたときにチカ役の台本を読ませていただいて、チカは陰の表現をすることが多いキャラクターで、私も陽より陰の表現のほうが得意だったので、チカでいいと思っていました。でも途中で「キョウコ」を演じてみてくれないかと言われた時に、役柄的にかなり温度の違う役だったので、自分に務まるのかという不安はありました。それでもいざキョウコに決まって、結果的には大好きで、愛すべきキャラクターですし、そういうふうに映画に力添えできたとしたらすごくありがたい役だったと思います。

山田:サンキュー!

司会:伊藤さんは自分が「タヌキ」かどうかというところはすんなりと理解されたのですか、どのように消化して臨んだのでしょうか。

伊藤沙莉すんなりでした。人間・伊藤沙莉は「タヌキ」として生きてきたつもりだったので、カノウに寄り添えるなという考えが大きかったです。端から見ているようで、自分も中に入っていて、「客観と主観がぐちゃぐちゃになって自分変なの」ってなってる感じとか、ちょっと伝わりづらいかもしれませんが(笑)。カノウの立ち位置、目線や考え方は共感ばかりだったので、そこにカノウ独特のぐるぐる回っている日常や、「くだらないな」と思っている感情、ある意味やさぐれ感は私の持っていないもので、そういう考え方も理解できるもので、演じて楽しいだろうなと、脚本を読んだときにカノウを絶対やりたいと思いました。

田中俊介ちょうど撮影していたのは、じつは僕自身、苦しい時期で、その感情をうまく利用できないかなと思っていたところでした。そのときに「チワワ男子」ということを役的に言われていたので、「ワンワン、キャンキャン」騒いで、本当は弱いのに強くみせる男を演じてほしいということでした。だからその時期の苦しみをうまく利用しようと思い、隠すことで大きくみせて、本当は弱い、すぐ泣いてしまう、あれは笑っていただけるとうれしいシーンで「あいつアホや、こんなとこで泣くんかい」と。でもその弱さも人間的だと思うので、今回いろんなキャラクターが出てきますが、それぞれのキャラクターの弱い部分が見える、そういうところを見ていただければうれしいですね。

Q2:伊藤さんは、最後の泣くシーンを演じていた時の心情はどうでしたか?

伊藤:感情が溢れちゃったというか、ずっと溜めていたものというか、何かが爆発したというのももちろんありますが、それに加えて、泣いていることで心だけ冷静になってくることがあるように「もういいや」っていうちょっとした諦めというか、「この際だから泣いちゃおう」ということがカノウ的にはあったと思います。何より泣けない「まひるちゃん」がいるので、そこと対象になったらいいなと、監督とも相談して、生きている世界が違ったりするなかで、歩み方が違ったり、そういうところも泣いているシーンで伝わったらいいなという気持ちも込めて、お芝居的には演じたつもりです。

Q3:伊藤さんがデリヘル嬢を演じるということで艶っぽいシーンも期待していたりしたのですが(笑)。

田中:すみません、(代わりに)僕のお尻シーンでした。

山田:伊藤さんではなく田中くんの“お尻シーン”になった理由ということですが(笑)、最初、この企画を立ち上げたときに、デリヘルというセックスワーカーの話になるので、「脱ぐ脱がないをどうするか」とプロデューサー陣としました。あくまで「性」を扱うというよりも、一人ひとりの人間の生き様を描くものであり、性を描くための映画ではないという着地点に至りました。であれば性描写なしで人間を描けないか、人間は性生活だけではなく、性も衣食住の延長上にあるというのが人間で、キョウコとリョウタという役は、生活のなかの恋愛軸が強い関係性というのもあったので、そこだけ性描写を入れていきたいと。なおかつ、私は女性監督ですから、男性監督が女優を脱がしたりすることは多かったりすると思うけど、そうじゃない表現ってなんなんだろうと考えると、「男性のお尻ってどうなんだろう?」と思って、田中くんに「お尻ってどう?」と聞いてみると、「全然、お尻大丈夫です!」と言ってくれて。世の中的には「セクシャルハラスメント監督」になりそうで怖いですけど(笑)。そういう経緯もあって、性描写というものを自分なりの解釈で撮ろうと思ってこういう表現になりました。

司会:田中さん、コメントありますか?

田中:自分のお尻に関してですか? いかがでしたか?(会場から拍手)ありがとうございます、お尻の綺麗な俳優です。

Q4:たまたま私が東京国際映画祭で初めて観た映画は『赤線地帯』(溝口健二監督、1956年)でした。この映画を観ながら、『赤線地帯』で描かれたことの現代版だなと感じました。描かれている内容もそこで働く女性たちの人間模様であったり、群像劇になっていたり、とても重なる部分があります。監督は何かそこらへんを意識されたでしょうか。もうひとつは、映画祭側が意識したかどうかわかりませんが、同じような題材の今昔物語的に、もしかしたら比較されるかもしれないことに関して、監督からご意見をいただければと思います。

山田:まず意識したかどうかに関してですが、これは6年前に書いた脚本なので、まったく意識はしていません。その当時、私はレコード会社の社員という立場で、舞台を始めて、4年前くらいに自主映画を撮り始めました。映画が好きになったのは撮り始めてからで、まだまだ不勉強な監督ではあるのですが、レコード会社に勤めていた当時、女性も容姿がいい人と、そうではない人との仕事の取り方が全然違ったんです。いわゆる容姿(のよい人)とか、男性と仲良くなるのがお上手な方はバンバン仕事が決まっていくけれども、私は今回の作品だとタヌキ寄りだったので、ひな壇芸人よろしく飲み会のビールのこととか気を遣い続けて、深夜2、3時くらいにはぐったりしてタクシーで帰るということを20代前半で経験していたので、男性に負けたくないという気持ちが強かったんです。女性というのは、どうして2種類にしか分類されなくてはいけないんだろうとか、そういう葛藤があるまま20代を迎えて書いたのがこの作品でした。群像劇になったのは、とりわけ大きな理由はないのですが、ひとりひとりに人生があり、女性も2種類に分けられるだけじゃなくて、個人名があるように、個人の人生があるという考え方でしたので、このような群像劇の描き方をしました。

司会:私も最初に拝見したときに現代版『赤線地帯』だなと思いました。みなさん、もしご覧になってなかったら、共通点が多い作品なので、およそ60年以上前の作品ですが、びっくりするほど似ているのでご覧になって下さい。

山田:勉強させていただきます。ありがとうございます。

Q5:私は山田監督の『カラオケの夜』(2018年)が好きで、劇中での選曲に心打たれました。監督がレコード会社に勤めた経験があると今聞いて、なるほどなと思いました。今回も素晴らしいタイミングで女王蜂の曲が入ってきました。そういう劇中での選曲とか、場面レイアウトとか、映画を作る上でこだわりポイントはありますか?

山田:おっしゃる通り、音楽は毎回こだわって作っています。今回の「女王蜂」の「燃える海」は、6年前の舞台のときにもラストにかけていました。あの曲の強さや親和性を限りなく信じていましたので、今回、「女王蜂」ご本人に映画を観ていただいて、曲を使いたいと申し出ました。まだ映画の粗編の段階でしたが、「3回観た」ということで、「音楽を使ってほしいし、なんなら録り直すよ」とまで言って下さって、使わせていただくことになりました。映画のこだわりは、私は舞台出身者ということもあるし、音楽好きというのもありますが、レコード会社では「怒髪天」の宣伝を担当していたのですが、あるミュージシャンから「ミュージシャンというのは出てきて最初の1音を鳴らすまでどう見せるかが勝負だ」と聞いたことがありまして、そういう意味で舞台も映画も最初の「5分」、物語が走っていく最初の「15分」をどうお客様に観ていただけるかというのをすごく大事にしています。『タイトル、拒絶』では沙莉ちゃんが正面向いて独白するカットの音のかけ方などは、1コマ1コマ編集するので沙莉ちゃんの顔が口が開いたり閉じたりをするところで、どこで繋ごうかと綿密に探りながらやりました。素敵なところをご覧いただいてありがとうございます。

Q6:胸が苦しくなる映画でまた観たいと思いました。6年前に舞台用に書かれた脚本ということで、取材等は、業界や経験者にどのようにされましたか?

山田:脚本を書いた当時は、すごくアメブロアメーバブログ)が流行っていた時代です。まずセックスワーカーの話にしようと思った時に、友人でそういう仕事をしていることを親に打ち明けていないという方がいて、いろいろお話を聞きました。ただ、それだけになってしまうと、彼女の一面的な話しか描けないと思ったので、いろいろブログを読ましていただいたのですが、直接アポイントを取って取材するということはなかったです。ただ私自身、10代のとき、若さゆえのことですが、男性とおしゃべりをしてお金をいただくという、サクラのバイトみたいなのをしたことがあって、面接に行ったときに、男性や女性がギラついて見えたこととか、そこに置かれていたお菓子が蛍光灯に照らされて青白んでしまっていたのがすごく印象的だったので、それを元に描いていたというのが6年前の記憶です。映画化に際しては、プロデューサーの内田さんが海外志向のある方なので、日本と海外の管理売春というシステムがどう違うか、日本だと国が場所限定で許可したり、電話で配送されるようなシステムがあったりしますが、海外は法律的には不可という考え方があることなどを学んで、それを映画に反映させた部分があります。

(※Q&Aは会話のママですが、意味を変えず若干文言を修正しています)

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@DirectorsBox

Q&Aイベント様子はこちらに。

 https://www.youtube.com/watch?v=b6hRki4S2O8&t=54s

Info 「第20回東京フィルメックス 」受賞結果

第20回東京フィルメックスはアジア映画の豊かさ、奥深さを堪能、また多様さと複雑さを確認し、興奮のなかで幕を閉じました。作品レビュー&レポートは追ってアップします。しばらくお待ち下さい。

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受賞結果は以下のとおりです。

  • 最優秀作品賞(グランプリ)『気球』(ペマツェテン監督)
  • 審査員特別賞『春江水暖』(グー・シャオガン監督)
  • スペシャル・メンション『昨夜、あなたが微笑んでいた』(ニアン・カヴィッチ監督)『つつんで、ひらいて』(広瀬奈々子監督)
  • 観客賞『静かな雨』(中川龍太郎監督)
  • 学生審査員賞『昨夜、あなたが微笑んでいた』(ニアン・カヴィッチ監督)
  • タレンツ・トーキョー・アワード2019『About a Boy』(シヌン・ウォナヒョコ監督)/ スペシャル・メンション『Skin of Youth』(アッシュ・メイフェア監督)『Plan75』(製作:水野詠子)

賞・審査員 | 第20回「東京フィルメックス」

filmex.jp

info「第20回東京フィルメックス」がはじまります(11/23-12/1)

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秋が深まるとやってくる、アジア映画の祭典「東京フィルメックス

今年も有楽町朝日ホール有楽町マリオン)をメイン会場に、レイトショー会場としてTOHOシネマズ 日比谷にて、11月23日(土)から12月1日(日)まで開催されます。

オープニング作品『シャドウプレイ』(ロウ・イエ監督)から、クロージング作品『カミング・ホーム・アゲイン』(ウェイン・ワン監督)まで、今年も楽しみなラインナップがずらり(全29作品)。

第20回を記念して、過去コンペティション部門受賞作品からweb投票によって選ばれた上位5作品のうちの3作品が上映される他、フィルメックスゆかりの過去作品の上映も決まりましたが、作品の選定については“通常運転”と市山尚三ディレクターは記者会見で次のように語ります。「作品選定に関しては(第20回ということは)特別に意識しないようにしました。でも結果的には第1回グランプリ受賞のロウ・イエ監督の新作『シャドウプレイ』をオープニング、またタレンツ・トーキョーで10年前プレゼンしてくれたアンソニー・チェン監督の『熱帯雨』がコンペティションで上映され、そして過去に上映したり審査員としてお呼びしたウェイン・ワン監督の新作『カミング・ホーム・アゲイン』をクロージング上映することになりました。でもだからといってあえてそれを意識して選んだということではないです。」

豪華ラインナップを眺めるだけですでにワクワク。どの作品も注目度満点です。個人的目玉はロウ・イエ監督『シャドウプレイ』(映画祭メインビジュアル使用のインパクトも凄い!)はもちろんのこと、以前『オフサイド・ガールズ』でインタビューをしたジャファル・パナヒ監督の新作『ある女優の不在』にも注目します。ほかにも「特別招待作品 フィルメックス・クラシック』や「特集上映 阪本順治』も見逃せない。興奮の9日間になるのは間違いでしょう。

コンペティション

  • 『水の影』(サナル・クマール・シャシダラン監督 / インド)
  • 『昨夜、あなたが微笑んでいた』(ニアン・カヴィッテ監督 / カンボジア、フランス)
  • 『熱帯雨』(アンソニー・チェン監督 / シンガポール、台湾)
  • 『評決』(レイムンド・リバイ・グティエレス監督 / フィリピン)
  • 『ニーナ・ウー』(ミディ・ジー監督 / 台湾、マレーシア、ミャンマー
  • 『気球』(ベマツェンテン監督 / 中国)
  • 『春江水暖』(グー・シャオガン監督 / 中国)
  • 『波高(はこう)』(パク・ジョンポム監督 / 韓国)
  • 『静かな雨』(中川龍太郎監督 / 日本)
  • 『つつんで、ひらいて』(広瀬菜々子監督 / 日本)

■特別招待作品

  • オープニング作品『シャドウプレイ』(ロウ・イエ監督 / 中国)
  • クロージング作品『カミング・ホーム・アゲイン』(ウェイン・ワン監督 / アメリカ、韓国)
  • 『完璧な候補者』(ハイファ・アル=マンスール監督 / サウジアラビア、ドイツ)
  • 『ヴィタリナ(仮題)』(ペドロ・コスタ監督 / ポルトガル
  • 『ある女優の不在』(ジャファル・パナヒ監督 / イラン)
  • 『夢の裏側〜ドキュメンタリー・オン・シャドウプレイ』(マー・インリー監督 / 中国)

■特別招待作品 フィルメックス・クラシック

■特集上映 阪本順治

■歴代受賞作人気投票上映

  • 『ふたりの人魚』(ロウ・イエ監督 / 中国 )

  • 『息もできない』(ヤン・イクチュン監督 / 韓国)

  • 『ふゆの獣』(内田伸輝監督 / 日本)

■映画の時間プラス(バリアフリー上映会)

  • 『夜明け』(日本語字幕付き 広瀬奈々子監督)

VRプログラム上映 11/23(土)~12/1(日) <- new!
 各日11:30~開場 12:20~開場 20:30~開場
 ※必ず開場時間までに上映会場にお集まりください

★詳細は公式サイトをご確認下さい。

filmex.jp

■information:

第20回 東京フィルメックス / TOKYO FILMeX 2019
  2019年11月23日(土) ~ 12月1日(日) (全9日間)

  • 【メイン会場】有楽町朝日ホール(有楽町マリオン)11/23(土)〜12/1(日)
  • 【レイトショー会場】TOHOシネマズ 日比谷 11/23(土)〜12/1(日)
  • 【併催事業:人材育成ワークショップ】<Talents Tokyo 2019> 11/25(月)〜11/30(土) 有楽町朝日スクエア B

■ 関連記事:

オフサイド・ガールズ』ジャファル・パナヒ監督インタビュー

https://www.1101.com/OL/2007-09-05.html

https://www.1101.com/OL/2007-09-07.html

『二重生活』ロウ・イエ監督インタビュー

http://archive.realtokyo.co.jp/docs/ja/column/interview/bn/interview_116/