REALTOKYO CINEMA

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Review 008 『ミューズ・アカデミー』& 特集上映「ミューズとゲリン」

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(C)P.C. GUERIN & ORFEO FILMS

1月7日(土)より、東京都写真美術館ホールにて公開されるホセ・ルイス・ゲリン監督の新作『ミューズ・アカデミー』、さらに「ミューズとゲリン」と題した映像作品11作品が上映される特集上映。新年の幕開けに、充実の映画年を予感させるようなプログラムになっている。

 

『ミューズ・アカデミー』の自由と制約

スペインの鬼才、ホセ・ルイス・ゲリンが監督・脚本・撮影・編集をする新作『ミューズ・アカデミー』についての監督の言葉がこの作品のすべてを物語るので引用します。

もちろんこれはフィクション映画、空想的なフィクション映画なのだが、ほんものの感情を土台とし、”人生の諸断片”を土台とする映画でもある。これらはしばしば、観客第1号たるわたしを不意打ちしたー自分が作っている映画に驚かされてしまったのだーしたうえ、わが企画から自治権を奪い取ってしまったのだった。(ホセ・ルイス・ゲリン 2015年8月)

※ミューズとは、ギリシャ神話で音楽・舞踏・学術・文学を司るとされる女神。作家にとって、作品にインスピレーションを与える女性の存在のことを、しばしばミューズと呼ぶ。

バルセロナ大学で教鞭をとるイタリア人のピント教授のクラス「ミューズ・アカデミー」における、教室を飛び出して変化する教授と教え子たちの関係性、そんなユニークな”授業”が描かれる。怒涛のように発せられるセリフは難解ではなく具体的で世俗的、興味深い言葉の数々がシャワーのように降り注ぐ。「言葉」のおもしろさに酔いしれる作品でもある。

「詩の力で野獣を人間へと変えていった」、「作品の力を信じて異次元で生きようとした」、「ミューズは賞賛を引き起こす」、「結婚とは経済活動のひとつ」、「恋愛というシステム」「美とは何か?」等々……。一度の鑑賞ではとても受け止めきれない名言の数々であり、何度も何度も観たくなる。「言葉を我がものにできれば君は真のミューズだ」、そして「家父長的」という言葉も頭にひっかかるテーマ。「人間は言語の囚人」なのか……?

それらの言葉たちは脚本なのかそうでないのか、ドキュメンタリーライクなフィクションは痛快なほどドキュメンタリーとフィクションの境界線を消していく。カフェのガラス越しに撮る会話のあたりとか、撮影がかっこ良過ぎ、編集もユニーク。なんとも興味が尽きない作品になっている。

大学の講義に登場するミューズたち、つまり、ダンテ『神曲』のベアトリーチェ、イタリアの詩人ペトラルカが恋したラウラ、哲学者・神学者のアベラールが恋した10代のエロイーズ、それに加えてピント教授の教え子たちというリアルライフ(映画中の)のミューズたち。そこにミューズの「特別枠」とも言える奥さんの存在は興味深い。「妻」という存在のせいで、そのほかの恋愛が「不義の愛」になり、それゆえ燃え上り、悲劇も起きる。男(教授)はほかの女性へと心が揺れ続けるが(それも情けなくもあり)、研究と称する実験的「恋愛」を正当化することは奥さん対しては無理というもの。奥さんと愛人(学生)の対峙シーンはおもしろくてたまらない。教授の”ミューズ説”に対して、女性を「ミューズ視」することへの学生の反論によって、冒頭から映画に没入する要因になっている。

それにしても議論好き民族というか、「喧嘩」ではない議論の応酬が、対立してしまうとしても、議論を尽くすことで「差異」の理解ができたりすることなど、日本文化とは距離があるが、それだけに議論し尽くし合える社会に嫉妬し、羨望の念が湧いたりもする。

 福嶋真砂代★★★★

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