(C)FALABRACKS, OPERA NATIONAL DE PARIS, UPSIDE DISTRIBUTION, BLUEMIND, 2016
舞台上よりドラマチックな舞台裏にワクワクドキドキ
パリ・オペラ座を本拠地(「メゾン」と称する)とする、355年の歴史を持つパリ・オペラ座バレエ団。ニューヨーク・バレエシアタープリンシパルを務め、L.A.ダンスプロジェクトの振付師、さらに女優ナタリー・ポートマンの夫でもあるパンジャマン・ミルピエが、革新的な人事によって新芸術監督として就任した (2014.11.1)。映画はミルピエとダンサーたちが33分間の新作「クリア、ラウド、ブライト、フォワード」を完成させるまでの40日間に密着するドキュメンタリー。古い体制、体質、因習に斬り込む革命児と言葉で書くのは勇ましく格好いいが、(最近の新都知事の苦戦を見るごとく)保守的な土壌に新風を吹き込むのは相当の軋轢は覚悟の上である。いや覚悟はしていても予測できない壁が襲いかかる。加えてスタッフストライキまで。果たして幕は開くのか…? しかしミルピエは、新作での革命的な試み(エトワールを起用しない)、ダンサーを怪我から守るためのリハーサルスタジオの床板の張り替え、資金提供の支援者を自ら見つけるなど、果敢に攻める。周りは敵ばかりの状況のなか、元ダンサーと思われるアシスタントの女性の献身的な働きぶりが凄い。なぜかプレス的に紹介されていないのが気がかりだが、ミルピエ辞任劇と何か関係があるのだろうか。わずか1年3ヶ月で辞任したミルピエの遺産は大きい。ダンサーの心身のケアプログラム、ネット上の「サードステージ」、そして新世代のダンサーたちの発掘。数々の改革を進めていくアグレッシブなミルピエをめぐりバタバタする、舞台上よりドラマチックな舞台裏にワクワクしてしまう。「情熱大陸」も真っ青だ。もちろん超絶美しいバレエ、ニコ・マーリーの音楽、マキシム・パスカルの指揮、イリス・ヴァン・ヘルペンの衣装も見応えあり。
福嶋真砂代 ★★★★
監督: ティエリー・デメジエール/アルバン・トゥルレー
キャスト: バンジャマン・ミルピエ、レオノール・ボラック、ユーゴ・マルシャン、ジェルマン・ルーヴェ、アクセル・イーボ、エレオノール・ゲリノー、レティツィア・ガローニ、マリオン・バルボー、オーレリー・デュポンほか
<公演参加クリエイター>
音楽:ニコ・マーリー「拘束のドローイング」、衣装:イリス・ヴァン・ヘルペン、指揮:マキシム・パスカル
2016年12月23日(金)よりBunkamuraル・シネマ他全国ロードショー