REALTOKYO CINEMA

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Review 006 『皆さま、ごきげんよう』

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(C)Pastorale Productions- Studio 99

どの人生(シーン)も愛おしく、味わい深い

オタール・イオセリアーニ監督の仕掛けるネタすべてに1回観て気づけるとしたら相当凄い。だからと言って難解なのではなく、パズルみたいな巧妙な仕掛けがあるから面白すぎるのだ。できれば何度も観るべきであり、観る価値があり、観れば観るほどカラクリのおもしろさが増していく。同じ人物(役者)が姿を変えて、別の時代の話に繰り返し登場する。そのシチュエーションの作り方の旨さ。ジャック・タチの映画のように流れるようなしかし細工をほどこされた展開に魅入る。「あらゆる人物に共通するパラドクス、曖昧さ、二重性。それは「体格(ピポスタジー)=「三位一体」(神は同時に父であり、子であり、聖霊である)というようなことを描いている。ちょっとテーマは深刻でシリアスだ。だけど人間の可笑しさや悲哀、不公平な不運も、すべては人生の、いや大局的には、輪廻転生の生のワンシーンなのだと説かれているよう。日常の愛おしさと、悩みすぎることのばかばかしさにふと笑う。

主人公はアパート管理人にして武器商人の男(リュファス)と人類学者(アミラン・アミラナシュヴィリ)だが、イオセリアーニの映画では主役から端役まで、すべての登場人物が主人公になる。ちょっと脱線するが、宮藤官九郎脚本の作品はドラマも映画も「すべての登場人物が主人公」という精神を感じる。とりあえずの主人公は確かに決まっているのだが、ひとつの話の中でもそれぞれのシーン、あるいはカットで「主人公」がめまぐるしく変わる。カメラワークの妙によって「いま、この人」次の瞬間には「いま、この人」とキャラ立ちさせていく。それがおもしろい。イオセリアーニは緻密なストーリーボードを作り、俳優の位置やカメラの位置を細かく決めていくらしい。だからこそ、複雑に(同一)人物が変遷する様を描くことが可能なのだろう。

豪華ゲストに、ピエール・エテックスジャック・タチ『ぼくの伯父さん』のポスター画家、道化師、俳優、映画監督)、映画監督のトニー・ガトリフ、マチュー・アルマリック等々が不意打ちに登場するのでお見逃しなく。

 福嶋真砂代🌟🌟🌟🌟

www.bitters.co.jp

 

【物語】

現代のパリ。アパートの管理人にして武器商人の男。骸骨集めが大好きな人類学者。ふたりは切っても切れない縁で結ばれた悪友同士。そんな彼らを取り巻くちょっとユニークな住人たち──覗きが趣味の警察署長、ローラースケート強盗団、黙々と家を建てる男、没落貴族、気ままに暮らすホームレス、そして、お構いなしに街を闊歩する野良犬たち。そんな中、大掛かりな取り締まりがはじまり、ホームレスたちが追いやられてしまうことに。緊急事態発生!
街の住人たちは立ち上がるが…。

(公式サイトより)

 

2016年12月17日(土)より岩波ホールほかにて全国順次ロードショー

 

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