そうして二人め、三人め(これは偶然のように描かれる)と訪問は続き、微かながらもストーリーのボルテージが上がっていく。この三人はガミにとってどんな存在なのか、ガミは何を目的に彼女たちの「生活」を確認しに行ったのだろう? なぜタイトルが「逃げた女」なのか(原題は「Woman Who Ran」)、しだいに核心に向かう。ガミの過去を仄めかす最後のエピソードは妙にリアルで、もしや「監督の実体験?」と勘ぐってしまいそう。しかし謎は謎のまま、ミステリアスな空気を纏い続け、また次の作品を待ってしまう。正解よりも、あなたはどうなのかと問いかける。これもホン・サンスの術中にハマる理由のひとつと言えるだろう。
Information:
監督・脚本・編集・音楽:ホン・サンス キャスト:キム・ミニ、ソ・ヨンファ、ソン・ソンミ、キム・セビョクほか 撮影:キム・スミン 録音:ソ・ジフン 2020年/77分/G/韓国 原題:The Woman Who Ran 配給:ミモザフィルムズ
ニューヨーク(NY)最大のブックフェアを入り口に、稀少本(レアブック)のラビリンスへいざなうドキュメンタリー映画『ブックセラーズ』が公開になった。ぎっしり情報の詰まったこの映画を一言で表現するのはなかなか難しいが、「この映画自体が珍しい本であり、真の宝物だ!」という映画評(THE FILM EXPERIENCE)の言葉がしっくりくる。いつも側(ソバ)に置いて何度も読み返したい類の本、ひとつひとつの言葉がまるで宝石のように煌めく本だ。決して難解な世界ではないが迷路のように奥深い。この膨大な情報量は、プロデューサーのダン・ウェクスラー(実際にブックセラーであり多くの稀少本オーナー)の熱量、さらに監督・編集のD・W・ヤングの探究心の現れだ。軽快なジャズのグルーブにのって、起承転結のメリハリよく、時代の変遷に伴いながら「物質」としての本がたどる生命のうねりを感じさせてくれる。いざ魅惑の本の深海へ。