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TIFF Report :『三人の夫』(東京国際映画祭2018 コンペティション部門)レビュー&記者会見レポ

香港からひとりの女優の強烈すぎる誕生を目撃

取材・文:福嶋真砂代

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©Nicetop Independent Limited

『ドリアン、ドリアン』(2000)、『ハリウッド★ホンコン』(2001)に続く、香港のフルーツ・チャン監督の「娼婦三部作(売春三部作とも)」を締めくくる『三人の夫』が第31回東京国際映画祭コンペティション部門にて上映された。性欲が止まらない女、シウムイと彼女をめぐる三人の男の話だ。小さな漁船の上で暮らす漁師は娘のシウムイを老夫に嫁がせ、二人の男は彼女に売春をさせる。これだけでもショッキングな話なのだがシウムイの止められない性欲は一種の病気なので(怪しい医者にもそう診断を受ける)、こうするしかないと思うことになる。すると売春の若い客が彼女に惚れ込み三人目の男となる。ああそれもよかったと思うと、さらに彼女は客をとる。かなりの分量がセックスシーンで占められている。肉感的なシウムイの官能の表情、障害のせいでトロンとした目付きはもう彼女はそういう人なんだと思わせてしまうくらい。正直、私にはそう見えた。半分以上信じ込んでしまった。彼女を演じる女優は普通の人ではないのではないかと......。

さてそんなわけはなく、記者会見に登場した素顔のクロエ・マーヤンの凛とした、モデルのような姿のかっこよさ。MCの笠井信輔さんも「あんなに劇中で太っていたのに目の前のあなたはとてもスリム!なぜ?(実際の言葉は英語)」とスタイルの違いに目を疑うほど。まるでアクターズスタジオの俳優ではないか。その上、わざとらしさがまったくない。スクリーンの彼女の肢体、表情に目は釘付けになってしまう。金魚と一緒に水の中で戯れるシーンの優美さ。クロエは映画祭のシンポジウムでその演技について「『世の中、美しいものは大抵真実ではない。』この言葉は、女性として、私を非常に柔らかくしました。監督は、この映画を通してある種の「美』を作り上げようとしていると思います。」と述べている。監督からは「心も意識も“空っぽ”にしてほしい」と要求があったという。

クロエのシウムイという人物についの見解が興味深い。「半分は人間、半分は魚。動物ですよね。したがって、私はこの演技をする時に一生懸命、この魚はどういう風に目を開けて見せているのか。私の演技の多くは非常に魚に似ているような感じで演じたわけなんです。なんとなくこのちょっと気が狂ったみたいな性をある種、「神獣」、つまり、想像上の、中国の伝説の中ではいろいろな想像上のこういった動物、キャラクターがあるわけですね、つまり、人間と動物が合体して、何かを表現すると。私のこの役柄が単に人間、あるいは単に動物のセックスを表現しているとなりますと、私にとってはこのセックスはつまらなく、高級な感じはしないと思います。そうするとむしろ、一般の人々が考えている人間、動物のセックスというよりも、この人間と動物が合体した、このような想像上のこのキャラクターがやっているセックスというようなものは、ある種の解脱になるわけですよね。彼女は結局、自分はこのセックスを通して、一生懸命生きていくために、自分は解放されたと、そういう部分を、私の表情、私の声を通して演じたわけです。もうひとつ付け加えておきたいことがひとつありまして、イルカの鳴き声ですね。実は私が子供の時にイルカの鳴き声を真似するのが超得意でした。私がワーと鳴くとですね、建物全体の電気が点いてついてしまうぐらいに。一番得意な部分を監督の映画の中で活かされたわけです。」

また注目すべきは、香港という街の運命がこの映画に投影されていること。脚本のキートーはインタビューでこう語る。「人魚伝説は、香港を象徴した歴史的なものです。香港はもともと水上生活をメインにした漁港でした。それが経済発展とともに、みな陸に動きました。ただ低下層の人たちは、陸の生活に慣れない。結局、大澳の水上生活に移動し、最終的に船に戻っていった。歴史が流れても、香港はもとに戻っていくということです。」

受賞にはならなかったが、クロエ・マーヤンという強烈な女優の誕生を目の当たりにした迫力の作品だった。これからの彼女の活躍に注目したい。

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@realtokyocinema2018

フルーツ・チャン監督、女優クロエ・マーヤン、脚本のラム・キートー

『三人の夫』記者会見 2018.10.28@TOHOシネマズ 六本木ヒルズ 

MC:笠井 信輔アナウンサー

ラム・キートー:僕は香港で50本以上作品を書いていて、これが最新作です。

ーーセックスシーンが満載の映画に衝撃を受けた方も多いと思うのですが、性欲が止まらない女性シウムイと、彼女を買うために並ぶ男たち。それが何を象徴しているのかわかりませんが、私から見ると日本で爆買いをする物欲が治らない中国人の姿と重なってくるのですが、監督はどうお考えでしょうか。

フルーツ・チャンまず本来この性欲というのは男性特有のものだと思うのですが、性欲をテーマにして女性を描いたのは私にとって初めてです。自分としてもこの性欲がどこまで、どのぐらいまで行くのかわからないので苦労したところです。医者に聞くと、女性の性欲も無尽蔵で満足いくまで止まらないものだと教えてくれました。

ーーこの強すぎるヒロインの性欲は何を象徴していると?

チャン:実はファーストシーンに答えがあるのですが、火にかけられたアワビが蠢く、あのシーンがある意味象徴しています。でも何か特別な意味を象徴しているということではないのです。

ーーマーヤンさんは映画の中でとてもふっくらした女性を演じていましたが、いまの姿はとてもスリムですね。なぜですか?(なぜ?という質問にはびっくりしたが)

クロエ・マーヤン:ひとつには、監督からの要望で体重を増やして肉感的になることもありました。私としては力強い女性を演じようとしました。つまりシウムイは単なる“被害者”ではないということです。いまは体重は戻りました。

ーー監督は彼女に何kg増やすように言ったのですか?

そういう指示ではしなくて、時間が短かったので、できるだけ増やしてくれとお願いして、だいたい13、4kg増やしてくれました。いま目の前にいるマーヤンさんはとてもスリムな女性です。

ーーマーヤンさんが初めて脚本を読んだ感想を聞かせて下さい。

マーヤン:脚本を初めて読んだのは、香港に到着してクランクインの初日でした。読んだときは、長年待っていた脚本で、こういう役がやりたかったと思いました。

ーー日本ではなかなか、主演女優が撮影初日に脚本を目にするというのはないと思うんですが、香港ではよくあるのですか?

マーヤン:もちろんあまりそういうことはないのですが、この映画は「娼婦三部作」の最後の1本で、このシリーズのフルーツ・チャン監督の撮り方というのは、まず文字脚本を起こし、次にキャスティングをして、その後リンさんが脚本をビジュアルに起こします。ある意味、実験的な作り方だと思います。

ーーマーヤンさんのお芝居は圧倒的で、さらに精神的な危うさを含めて見事だと思います。なぜ主演経験のないマーヤンさんを大抜擢したのでしょうか?

チャン:まず中国において、ある意味「冒険」という感じなのですが、女性のセックスの映画を撮るのは中国の女優さんの中ではまだタブーだと思います。ですので役者がなかなか決まらなかった。マーヤンとは別の映画のキャスティングで十何年か前に一度会っていて、そのときはイメージと違ったので外れたのですが、今回この映画を撮りたいと思ったときに、友人から彼女がいいんじゃないかと教えてもらって、会ってみるとシウマイにかなりイメージが近いと思い、決まりました。

ーーマーヤンさん、香港でもタブーを犯すような役柄に挑戦する決断はどうだったでしょうか。

マーヤン:私のなかではとても簡単な決断でした。自分との対話という意味で、過去の子供のころや未来の自分、いろいろ考えるなかで、いまいちばんこれを演じる時期だと感じ、私が成長していくなかで、パワフルで特別な役だと考えました。

ーーキートンさんはマーヤンさんの演技をどう思いましたか?

キートー:この作品の脚本はあて書きで書いたところが多かったです。そんななかで撮り終えたあとにクロエさんの芝居を見たら、完璧に伝えてくれたと思います。ただこれは脚本の力ではなくて、あくまで監督とクロエさんら演者の力だと思います。

Q&A:
ーー中国本土と香港での上映状況はどうでしょうか?

チャン:香港は問題なく上映できますが、中国国内では諦めています。これはある意味、社会の暗黒面だと思います。

ーー(シンガポールの記者)「脱ぐのは簡単だが、服を着るのは大変だ」などという言い方をされるかと思いますが、以前アン・リー監督作品でベッドシーンを演じた女優さんもそういう意味で苦労されたと聞いています。そこに対して心配はないのでょうか。

マーヤン:その女優さんはタン・ウェイさんですね。以前彼女と共演したことがあって、そういうご苦労された話を伺っていました。でも共演したときは彼女は心穏やかな状態でした。自分としても心配はしましたが、いちど海へ飛び込んだからには身を任せるしかないと思っています。いまみなさんの前で私も心穏やかにいます。

MC:私たちも凛とした女優さんの船出を目撃したように思います。

Information:

監督:フルーツ・チャン [陳果]

キャスト:クロエ・マーヤン、チャン・チャームマン

101分/カラー&モノクロ/2018年香港

2018.tiff-jp.net

参考サイト:

フルーツ・チャンが17年ぶりに発表した「売春三部作」に見る主演女優の圧倒的存在感|第31回東京国際映画祭

「一生懸命時間をかけてこの人物について議論した」10/28(日):シンポジウム『三人の夫』|第31回東京国際映画祭