REALTOKYO CINEMA

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Review 26『ユートピア』

仮想現実とこの世界はこうやってリアル融合する

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(C) UTOPIA TALC 2018

現在、下北沢トリウッドにて公開中のSFファンタジー映画『ユートピア』。伊藤峻太監督(『虹色☆ロケット』(2007))が、監督のほかに、脚本、編集、VFX、主題歌の作詞作曲を手がけている。さらには新言語「ユートピア語」の創造も。ひとつの言語を作るって、果てしない労力と根性が要ることだろう。その新言語を登場人物たちは「自分の言葉」として流暢に話し、まるで異星人のように棲息している。もちろん秀逸なCGクオリティ、映像美にも目を奪われるが、このユートピア語こそ、ユニークな世界観を生み出す強力アイテムと言えるだろう。観客は言葉の美しい音色を聴きつつ、字幕を追い、未知の世界を体験する。それにしてもまみとベアは、突然の出会い(しかもものすごくびっくりの出会い方)の後、すぐに言葉を超えた意思疎通ができるのが気になると言えば気になる。ふたりの関係には、ある秘密が隠されていることが後々判明するのだが......。

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(C) UTOPIA TALC 2018

物語は、童話の「ハーメルンの笛吹き男」をモチーフに、さらにトマス・モアの小説もエッセンスとして取り入れ、730年前の出来事がいまだ大きな影響を与えている「現在」の世界を、ファンタジーとリアルを見事に融合させて描かれる。10年をかけ、その間に未曾有の大震災を経て、感じ、考えたことも染み込ませ、伊藤監督が作り上げた世界は深い、深すぎるかもしれない。レイヤー構造のストーリーを一気に把握するのは難しいのだが、できれば2度、3度と観たい。新言語を話す人物たちに見惚れ、CGの素晴らしさ(プレステ2ICO』の色調や質感に通じている気がする、私見です)に仰天しているうちに、壮大なストーリーが展開していく。やがて、自分たちの手に負えないものを作ってしまった人間、嘘ばかりつく政府、どうしようもない無力感を超えて、革命を起こすことは可能なのか。いや行動を起こすべきだろう! そんなメッセージを受け取った気がした。キャストには松永祐佳、ミキ・クラーク、森郁月、高木万平のフレッシュな若手俳優、さらに地曵豪、ウダタカキ、吉田晋一ら実力派が脇を固める。『虹色☆ロケット』に続いてヒロインを演じた松永の透明感はとりわけ印象的で、伊藤が作詞・作曲したポップな主題歌を歌う松永の澄んだ歌声も素晴らしい。10年間の伊藤の想いがぎっしり詰まる美しくシリアスな世界、下北沢トリウッドでぜひ体験してみて。

福嶋真砂代★★★★

Story:

その日、真夏の東京に雪が降った─

ある夏の朝、まみが目を醒ますと雪が降っていた。
そして、二段ベッドの上に現れた謎の少女 ベア。
電気や水などのライフラインが途絶した混乱の中、
まみは言葉の通じないベアに妙な懐かしさを覚え、
惹かれてゆく。
しかし、行動を共にする中でたどり着いた絵本
ハーメルンの笛吹き男》に二人は驚愕する。
なんとベアは、1284年にドイツのハーメルン
笛吹き男にさらわれた130人の子どもたちの 一人だった。

時を同じくして、少しずつ姿を消す東京の子どもたち。
ベアをさらった笛吹き男「マグス」の正体は?
夢の中にある「火も音楽も名前もない平和な国」とは?
そして、ベアの未来は?

停止した東京で、おとぎ話の続きが始まる。

Information:

監督/脚本/VFX/編集:伊藤峻太
プロデューサー:大槻貴宏
音楽:椎名遼
キャスト:松永祐佳、ミキ・クラーク、高木万平、森郁月、吉田晋一、地曵豪、ウダタカキ、まなせゆうな椿鮒子、吉田佳代

下北沢トリウッドにて公開中

映画『ユートピア』公式サイト

下北沢トリウッド

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松永祐佳さんと伊藤峻太監督@下北沢トリウッド