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Review 25『泳ぎすぎた夜』

ありえないほどの奇跡がおこる雪の日の冒険

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(C)2017 MLD Films / NOBO LLC / SHELLAC SUD

実際に暮らしてみることで、その土地や街からインスピレーションを得て、物語を紡ぎ出す、そんなアプローチで撮られた『泳ぎすぎた夜』は、五十嵐耕平ダミアン・マニヴェルというふたりの気鋭の監督による、国境を超えた共同監督作品だ。ふたりは見知らぬ土地、青森でのロケハンの頃から書簡をウェブ公開していて、結果がまったく見えないその時期の試行錯誤や発見の数々を知らせてくれていた。お互いを「まったく違う性格のふたりだ」と語るダミアンは、「発見と困難の両方があった」と振り返り、しかし「ピンポン・ゲームのようにアイディア交換をしながら、喧嘩や揉めるようなことは一度もなく、ふたりの違いはむしろ豊かなものに育っていった」と、東京フィルメックスプレミア上映後のQ&Aで語っていた。

映画は、6歳の元気な少年(古川鳳羅:タカラくん)の小さな冒険を、「家」、「魚市場」、「長い眠り」の3つのパートで描く。夜明け前の古川家、出勤する父の物音にタカラくんが目覚める。実はこの冒頭の、通学前のわずかな時間に大事なヒントがたくさん隠されている。勝手な感想だが、これは謎解きRPGゲームに似ていると思う。なぜならセリフはほぼゼロに等しく、最初のうち画面は暗い(これは素敵なのだが)、全編ナレーションも説明する人もでない、難解ではないが、すごく親切とは言えない進行に、鑑賞者はじっと目を凝らして、散りばめられたアイテムを見つけ、かつ覚えておかなければならない。静まり返る家の階段、窓の外の雪、犬の歩く音、父の烟草、ジッポのライター、それからおもちゃの恐竜、そして魚の絵(これは特に重要!)。まだまだある、帽子、手袋。どれが大事でどれがそうではないか、冒頭ではわからない。しかしすべては(だったはず)この先のパートで丁寧に回収されていく。つまり綿密に隅々まで練られ、かつそこから起こる「偶然」をたっぷり遊ぶ。もしかしてふたりの監督はゲーマーだろうか? いやそうでなくても遊び大好き少年の心を忘れない大人であることは確かだ。犬が少年にする「おはよう」の挨拶、お姉ちゃんがほとんど眠っている弟に服を着せるシーンもチャーミング。家族の優しさ、家庭のぬくもり。外の寒い寒い雪道の厳しさとの温度差を見せつける。起点のホームをスタートしてタカラくんはひとり旅、手袋が片方なくなろうが、道端の犬に吠えられようが、あはや迷子になりそうになろうが、勇気と機転で挑むのだ。圧巻はゴール間近の吹雪の駐車場、鍵のかかっていない車を探すなんて、ありえないほどのヒーローぶりを発揮した後、やがて電池が切れてしまう.....。家→中央弘前駅→魚市場(の駐車場)→家。彼が無事でいられるのか否か、観客はドキドキの冒険ゲームにお供する。

そんな視線を独り占めする少年をキャスティングした経緯について、「青森の音楽フェスティバルで遭遇した、異常にテンションの高い、でもシャイな少年がタカラくんだった」という。次いでお姉ちゃん、お母さん、お父さん、叔父さん(タカラくんがこっそり乗った車のやさしい運転手)という順序で家族まるごとキャスティングした。カメラマンは五十嵐の前作『息を殺して』の高橋航。スクリーンサイズを4:3スタンダートにしたのは「子供のサイズ感を生かし、絵本のように作りたかった」と。

さらに「この映画は、言ってみればドキュメンタリー的なフィクションなのです。タカラくんがだんだんと疲れていく様を描けたことは、映画にとって非常に重要なことでした」と五十嵐。予測をはるかに超えていく映画のミラクル。「タカラくんから、笑ったり、孤独な気持ちを感じてくれたらうれしい」とダミアン。もしかしたらすべてタカラくんの夢の続きだったのかも、なんて。冒頭の古川家の雪の窓、あそこに映っていたのかもしれない......。(敬称略)

福嶋真砂代★★★★

Information:

泳ぎすぎた夜

監督:ダミアン・マニヴェル五十嵐耕平/日本、フランス/2017年/79分

配給:コピアポア・フィルム、NOBO

映画『泳ぎすぎた夜』オフィシャルサイト

2018年4月14日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

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第18回東京フィルメックスで学生審査員賞受賞(学生審査員とダミアン・マニヴェル五十嵐耕平監督)

★『泳ぎすぎた夜』 | 第18回「東京フィルメックス」