REALTOKYO CINEMA

リアルトウキョウシネマです。映画に関するインタビュー、レポート、作品レビュー等をお届けします。

Review 24『ライオンは今夜死ぬ』(と「こども映画教室」)

映画の“魔法”が未知の扉をあける 

ライオンは今夜死ぬメイン

© 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES PRODUCTIONS BAL THAZAR-BITTERS END

南仏の陽光の中で語られる老いと死

マネかルノアールセザンヌか、さながら印象派の絵画を思わせるような美しいポスタービジュアルに目を奪われる諏訪敦彦監督の南仏で撮られた最新作『ライオンは今夜死ぬ』。タイトルの「死ぬ」に潜む闇の力も「ライオン」という言葉の眩しさがそれを打ち消す。一体どんな映画なのだろう? 子どもたちと一緒に作った映画だという。主演はヌーヴェルヴァーグの申し子と言われた俳優、ジャン=ピエール・レオー。実は諏訪監督がジャン=ピエール・レオーにフランスの映画祭(ラ・ロシュ・シュル・ヨン国際映画祭 2012)で出会ったその頃、「ジャン=ピエール・レオーに会ったんだ」という興奮を伺っていた。夢の中にでもいるような、会えなくなった昔の恋人に巡り会えたような、少し熱を帯びた感じ(私個人の勝手な感じ方です)で、本当にうれしそうだった。まだ何も始まっていない、でもすでに何かが始まっている、そんな予感を孕む空気だった。

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© 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES PRODUCTIONS BAL THAZAR-BITTERS END

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© 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES PRODUCTIONS BAL THAZAR-BITTERS END

オープニング、劇中映画の撮影現場にいるレオーのチャーミングな仕草にやられる(全編においてチャーミングだ)。「この人を撮りたい」と思ったという諏訪の気持ちが飛び込んでくる。さらにフランスの子どもたちとの劇中「こども映画教室」の映画技師フィリップ(アルチュール・アラリ)は日本の「こども映画教室」講師の諏訪さん役という立ち位置でかなり興味深い(なんとこの映画には劇中映画が2本あり、映画が詰まった映画なのだ)。『ママと娼婦』(ジャン・ユスターシュ監督 1973)でレオーと共演したイザベル・ヴェルガルテンの出演、さらに『ユキとニナ』(2009)のユキ(ノエ・サンピ)の成長した姿がフィルムに焼き付けられたのはファンタスティックだ。映画技師フィリップ役アルチュール・アラリの兄は、本作の撮影監督トム・アラリ。冒頭に触れた”さながら印象派”の画は彼の仕事だ。「この撮影監督は今後注目していて」と他のインタビューで諏訪が絶賛するほど素晴らしい仕事ぶりだ。ロケ地はリュミエールの街、南仏ラ・シオタ。昨年日本公開の『リュミエール!』(ティエリー・フレモー監督)でいままた注目を浴びている街に諏訪組が舞い降りて作った。降り注ぐ陽光の眩しさと、語られる「老いと死」の鮮やかなコントラストと融合。溌剌としたポーリーヌ・エチエンヌの幽霊役も美しく、またジュールと母親(モード・ワイラー)の物語が現実感を固めながら、レオーは唄い、ライオンはおもむろに姿を現わす。幻想と現実のバランスも印象派絵画の光と陰を思わせる。本当に見どころ満載なのだ。そしてワークショップでオーディションをしたというフランスのアマチュアの子どもたちがレオーと共演する。

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© 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES PRODUCTIONS BAL THAZAR-BITTERS END

”すわさん”と「こども映画教室」と”ねんりき”

ところで、私は諏訪が「すわさん」として講師を務める「こども映画教室」を幾度か見学する機会をいただき、子どもたちと(ではなく、子どもたち主導で)映画を撮るとは、どういうことか。つまり「子どもが映画を撮るということは、どういう意義(意味)があるのか」ということについて、長く一緒に考えさせてもらっている。いや、そんな堅苦しい定義を軽く越えて、毎回子どもたちの想像力と創造力に圧倒されていた。「大人は手出し口出ししない」というルールの元に、短期間(通常3日間)で映画を撮り、上映するという、大人でも難しい”離れワザ”をやってのける彼ら。時に悩み、けんかし、立ち止まり、苦戦の末に何かが生まれる。そんな共同作業を経た彼らの成長の様子に驚くばかりだ。彼らの活動のほんの一部分しか目にしてはいないが、それでも「子どもが映画を撮る」ということが産み出すエネルギーや実りについて、具体的に実感することができた(これについてはまた追々書こうと思います)。「こども映画教室」には諏訪の他にも、是枝裕和砂田麻美中江裕司横浜聡子、沖田修一、市井昌秀ら、名だたる監督たちがこれまで講師として参加している。諏訪の教室の他には是枝の早稲田大学演劇博物館(エンパク)での「こども映画教室」(2014と2015)を見学させていただいた。

こども映画教室@ヨコハマ2015

こども映画教室@ヨコハマ2015 (c)realtokyocinema2017

そうやって実際に「こども映画教室」の現場を見て(体験して)印象的なこと。それは参加した子どもがそれぞれ担当した講師の監督から受ける大小さまざまの影響はもちろんあるが(影響がゼロの場合もあるだろう)、その反対向きの影響、つまり教室それぞれ(毎回毎回まったく違う現場でのまったく違う作り手たちによって生み出されるまったく違う瞬間の数々)を通して、諏訪監督にしても、是枝監督にしても、(監督たちに毎回の試行錯誤の話を伺う中でも)少なからぬ影響というものを受けているだろうことを目の当たりにして、それについてもかなり心を動かされていた。要するに、「こども映画教室」を経験した前と後で、監督たちの作品がどれほど違ってくるのか、深い興味を覚えながらいた。しかし起こっていることは言わば無形であり、いつそれがどういう形で出てくるのかわからないタイプのものだ。私の中にそんな感動や情報のストックが増え続けた。また「こども映画教室」主催のフィルムメイカー、教育従事者や研究者など、興味を抱く人たちが集まるシンポジウムでは活発な意見が交換され、そこでも”「こども映画教室」という現象”に関する考察はますます多岐にわたり、深くなっていく。私自身は一見学者として何らかのアウトプット(たとえば「こども映画教室」について見解や感想を述べること)を期待されていることを知りながら、目の前に起こることのある種の「コトの重大さ」に怯んでいたかもしれない。

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こども映画教室@ヨコハマ2015

ライオンは今夜死ぬ』に話を戻して、振り返ると、東京藝術大学横浜校舎で行われた「こども映画教室@ヨコハマ2015」でのハレの上映発表会の直後、いつものように煙草を吸いながら休憩をとっていた諏訪監督に立ち話のクイックインタビューさせてもらった。観たばかりのこどもたちの映画について伺った後、「今度フランスでこどもと共同作業でお話作りとかをやってみたいなと思ってて」と二言、三言漏らしてくれた。おそらくこの時に諏訪の頭の中にあった構想がいま目の前に実現されて姿を表したということになる。前作品『ユキとニナ』から数えて8年目の新作になるが、その間に『黒髪』(2010)、『世界の質量』(2016)と素晴らしい2本の短編を発表している。よく”すわさん”が子どもたちに”ねんりき”の話をする。映画を撮るという初めての経験。不安を乗り越えて何かを作り出すときに必要な不思議な魔法の言葉だ。今回はフランスの子どもたちとジャン=ピエール・レオーというレジェンドと共に育み、参加者ひとりとりの“その人”にしか表現できない(表方でも裏方でも)体験が現実に見える形になっている。そんな熱い”ねんりき”を感じる作品なのである。

(敬称略)

福嶋真砂代★★★★★

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すわさんの板書:こども映画教室@ヨコハマ (c)realtokyocinema2017

インフォメーション:

www.bitters.co.jp

ライオンは今夜死ぬ

監督・脚本:諏訪敦彦
出演 ジャン=ピエール・レオー、ポーリース・エチエンヌ、イザベル・ベンガルデン、子どもたち他
2017年/フランス=日本/103分/カラー
配給・宣伝 ビターズ・エンド

2018120日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー! 

www.kodomoeiga.com