REALTOKYO CINEMA

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Report 08-1『ジョニーは行方不明』(東京フィルメックス2017 Q&A)

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第18回東京フィルメックス2017/11/1826)は25本の国内外の刺激的な作品が上映され、今年も豊かな実りを残した。(コンペティション部門の受賞結果

そのなかで個人的に特に印象に残った3本に絞ってご紹介。まずコンペティション部門『ジョニーは行方不明』(英題「Missing Johnny」ホァン・シー監督)、次に特別招待作品『天使は白をまとう』(英題「Agels Wear White」ヴィヴィアン・チュウ監督)、3本目はコンペティション部門泳ぎすぎた夜五十嵐耕平ダミアン・マニヴェル監督)。時間の都合で残念ながら見逃してしまったものが多いですが(受賞作品は特に)、この宝物のような3本に東京フィルメックスめぐり逢えたことは幸運だった。

さて『ジョニーは行方不明』(合わせてQ&Aの模様も記載)。鑑賞後、なんとも言えない満足感と幸福感に包まれた。ホウ・シャオシェン監督製作総指揮による、台湾の新鋭ホァン・シー監督の長編デビュー作。以前にホァン監督はホウ・シャオシェンのアシスタントを務めていた。

映画には、不在の謎の人物(ジョニー)をさりげなく意識の中に流れこませたり、インコ失踪によって存在していたものの急な不在を感じさせたり、様々な潜在的揺さぶりの仕掛けがある。素晴らしいオープニング、赤いスズキ(この自動車がアイコンとなる)が都会のど真ん中(高速道路下だったか)でエンスト、仕事途中の運転手の男イー・フォンは車を降りて、仕方なく電車移動する(各所で台北の交通が映るのが楽しい)。男と同じ電車に乗っていた(しかしお互いまったく接点はない)若い女性ツー・チーはモバイルフォンに「ジョニーを出して」という妙な間違い電話を受けつつ帰宅する。このふたりの交差の仕方がこの上なくクールだ。この先彼らがどんな関わりをするのか、楽しみに思いながら進むのだが、コトはそう単純にはいかない。それぞれの日常を過ごしすれ違う。しかしひょんなことからふたりは(とくにツー・チーには)まったく他人のにぎやかな食卓に飛び入りする。台湾の昔からある大家族の食卓風景、偶然の楽しさ、人の温かさを伝えて、ストーリー(ほとんどストーリー性はない映画なのだが)に厚みを加える。このあたりにもホァン監督が受け継ぐホウ・シャオシェンの教えが潜むのではないだろうか。ツー・チー役のリマ・ジダンのハツラツ健康美が映画を明るい光へひっぱり続ける。しかしただ元気で美しいインコ好きな女性ではなく、人生の岐路に思考を重ね、人との繋がりを大切にする繊細さを表現し魅力的だ。ちなみにインコ失踪直前のシークエンスも美しくて印象的。「距離が近すぎると、人は衝突する、愛し方も忘れる」というさりげないセリフに味がある。監督がQ&A(下記)で明してくれたように、「台北の生活風景の感じを出したくて」あえて、ラッシュアワーの高速道路でゲリラ撮影したラストなどもスリリングな終わりを演出する。「エンストばかりするけれど、人生はこれからもいろんなことがあり、それでもなんとか進んでいけるのだから」なんていうメッセージが夕日の優しい光の中に聴こえそう。不在の存在、都会の孤独、時間と空間の不思議、そんな感覚をナチュラルな空気感の中でリアルに映し出す。デビュー作にしてクオリティの高さに慄く。(台北映画祭にて脚本賞はじめ4賞獲得)

東京フィルメックス上映後のQ&A抜粋

ーーリアルな人物像や関係性が印象的でした。どのように脚本を作りましたか。

実はこの脚本の他に2本の脚本が同時進行していたのですが、その2本はハリウッドスタイルのわりと普通の映画でした。同時にエッセーのような感じでこの『ジョニー』の脚本を書き続けていました。書いてる時には特にどの俳優を当てようとか考えていなかったのですが、最初に浮かんだのはカユ(?)の役です。彼を頭に浮かべながら書いていました。他のふたりの主要人物については、具体的な役者さんを浮かべてアテガキしたわけではありませんでした。登場する3人は私の身の回りにいたり、出会った様々な人々、つまり都市で生活している私の友人であったり、知り合いや、出会った人、あるいは知らない人でも観察して記憶に残った人たち、そのような人たちを思い浮かべてコラージュして作った人物像です。

■タイトル”Missing”には「消えてしまう」と「恋しい」の意味をかけた

ーー英題タイトルは「Missing Johny」ですね。しかし実際にはジョニーという人物は登場せず、”ジョニー”を探す間違い電話がきっかけとなって物語が進んでいきます。脚本段階からジョニーさんの正体を出ないことにしていたのでしょうか。何かジョニーさんに関する情報や、監督の意図を教えて下さい。

”ジョニー”の存在については、香港に住む友人から聞いた話が基になっています。友人は携帯番号を変えた時に、見知らぬ人から電話がかかることが頻繁にあり、最初は煩わしくて腹が立ったそうですが、何度もかかるとそのうち親しみすら感じたと語ったことが私の記憶に残っていて、脚本にこのエピソードを入れたいと思いました。誰にこの間違い電話がかかってきたことにしようかと考えて、やはりヒロインのシュウにかかってきたことに設定しました。英語の”Missing”の意味は、「消えてしまう」という意味と、「恋しい」という意味をかけてあります。ジョニーがどこに行ったかはわかりませんが、このエピソードがずっと心に残っていたのです。

この映画は人と人との関係がテーマなのですが、役者たちにはそれぞれ異なる脚本を渡しました。ですので彼らは自分の出番のシーン以外はほぼ知らないという状況でした。なぜそうしたかというと、あまり自分とは関係ないところで余計な考えを持ってほしくないと思ったからです。ごく自然な状態で、自分の演じる人物の中に入り込んでほしかったので、余計なインフォメーションを与えませんでした。その人物が関わる登場人物以外の役者との接触はほぼなかったと言えます。

ーー道路で車が故障するシーンがありますが、撮影の状況はどうでしたか? 最近の日本では運転技術による事故が大きな問題になっています。台湾での自動車マナーについても教えていただけるとうれしいです。

確かに自動車事故のシーンの撮影はとても難しくて、様々な困難がありました。台北の生活風景の感じを出したくて、どうしてもラッシュアワーの時間を撮りたかったのです。そのために申請を出して撮ったのですが、ただし1ヶ所だけ、申請せずにゲリラ的に撮ったシーンがありまして、それはラストシーンです。できるだけ一般の車の往来を邪魔しないように配慮して、高いところからカメラ2台を回して撮りました。撮影している車の前後を私たちクルーの車で挟んで撮りました。少しだけ台北の交通網を乱しましたが、なんとかできました。

ーーしかも夕暮れ時のすごい時間を狙っていたと思いますが、これはワンテイクでOKしたか?

実は「ワンテイクしか撮れない」と役者たちには言い渡しておいて、私もすぐに撮れるだろうとみていたのですが、結果的には6テイクくらいになりました(会場どよめき)きわどいシーンがありましたが、そこで警察にもちょうど出くわさなかったので、なんとかくぐり抜けて撮ることができました。

■時間軸と空間が混じり合うことに興味を感じた

ーー高速道路、MRT、U-バイクという台北の交通手段が意識的に使われています。それらと「Missing Johny」の”不在”ということの相関というか、都市と人を恋しく思うことと、”不在の存在”のような相関関係を意識して撮影したのでしょうか。

この脚本はほとんど家からカフェに出向いて書いていました。台北の移動手段として、大きな道路や橋を越えて行ったりするのですが、ある地点からある地点に移動する中で、c書いていました。考えていたことは、この映画はごく日常の人々の生活を扱っていますが、そこに何かしらの哲学的な意味とイメージを持たせたいと強く思っていました。それは登場人物に反映されています。登場人物がどのように未来に向かっていくかということなどが絶えず私の頭の中にあり、脚本を書き進めていきました。

侯孝賢監督から「人間としてどうあるべきか」を学んだ

ーーエクゼクティブ・ディレクターである侯孝賢監督はこの作品へのどんな関わりをしましたか。ホァン・シー監督は侯孝賢監督のアシスタントを務められていましたが、侯孝賢監督から学んだことがあったら教えて下さい。

侯孝賢監督は主にふたつの役割をしてくれました。ひとつは私が書いていた何本かの脚本の中からこの作品の脚本がいいと選んでくれました。そして脚本を書き上げた時にこれで行こうと言ってくれました。ふたつめは、撮影期間は現場にいらっしゃることはなく、出来上がったファーストカットーそのときは2時間強のバージョンだったのですがーを観て侯孝賢監督は「疲れるね」とおっしゃって、それを97分にまで切ってOKが出ました。だけど私たちはあまりにも「切りすぎた」と思い、今のバージョンに編集し直して、最終的にOKをいただきました。侯孝賢監督に学んだことは、映画の具体的な何かというものより、もっと人間としてどうあるべきか、人に対してどう対応するべきかということを、監督のそばにいて知らず知らずのうちに身に着けて学ぶことが出来たと思います。

 審査員寸評:雰囲気に溢れ、登場人物たちのポートレイトの創造でもあり、同時に台北という迷路のような都会的な構造を持った街の魅力的なポートレイトでもある。それは背景として、究極的には人と人がいかに再びつながりあうことができるかという物語を煌めくように魅せてくれています。視覚的にも、聴覚的にもデビュー作とは思えない渾身の作品。
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インフォメーション(公式サイトより)

『ジョニーは行方不明』Missing Johnny / 強尼・凱克

台湾 / 2017 / 105分 / 監督:ホァン・シー(HUANG Xi)

同じ男あての間違い電話を何度も受けた若い女性は、次第にこの男のことが気になってくる。やがてインコの失踪を契機に、彼女の思いがけぬ過去が明らかに……。ホウ・シャオシェンのアシスタントを務めたホァン・シーの監督デビュー作。台北映画祭で4賞を受賞。