REALTOKYO CINEMA

リアルトウキョウシネマです。映画に関するインタビュー、レポート、作品レビュー等をお届けします。

Interview 003 長谷井宏紀さん(『ブランカとギター弾き』監督・脚本)インタビュー

「この人たちと出会って、自分が見たかった”場所”、自分が感じたかった”場所”を脚本にした」

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初の長編監督作品『ブランカとギター弾き』(脚本も)が公開になる長谷井宏紀さんにインタビューした。「お母さんをお金で買います」と書かれたビラを街に貼り歩くフィリピンの孤児のブランカが、路上のギター弾きの老人ピーターと出会い、一緒に旅をし、やがて本当の愛を見つける物語。スモーキーマウンテン(四ノ宮浩監督のドキュメンタリーでも描かれたマニラのゴミ山)に通い、スラムの子どもたちと交流を重ねた長谷井さんのかけがえのない体験が原点になっている。日本人として初めてヴェネツィアビエンナーレヴェネツィア国際映画祭の全額出資を受け、イタリアチームの日本人監督として、オールフィリピンロケを敢行し、「この人たちと出会って、自分が見たかった”場所”、自分が感じたかった”場所”」を撮り上げた(フィリピン在住の大西健之撮影監督による柔らかな映像美も必見)。ヴェネツィア映画祭シネマカレッジのことや作品に込める思い、さらに愛すべき「セバスチャン」との撮影秘話も語ってくれた。セバスチャンの涙、そして呼び戻されていたとは…… 。

聞き手&写真:福嶋真砂代

 ヴェネツィア国際映画祭シネマカレッジのこと

ーー冒頭、空からスラムの街並みの屋根を映し、グーっとブランカにフォーカスされるシーンで一瞬にして惹き込まれました。全体にスモーキーな色合いも渋いギターの音色と融けあって素敵でした。本作を作るきかっけとなったヴェネツィア国際映画祭シネマカレッジでのワークショップについて、どのように進んだのか教えて下さい。

ありがとうございます。シネマカレッジのプロジェクトはトータルで10ヶ月間ですが、ワークショップは全部で3週間、1週間ずつ3回やりました。最初に選ばれた16ヶ国の映画人たちが作品の企画を持って集い、他にプロデューサー、脚本家、エディターなどプロフェッショナルたちも参加して、彼らと話をしながら企画を高めていきます。ある程度ストーリーを決めて、一度それぞれ持ち帰ります。脚本を書いてまた戻し、最終的に3作品に選ばれました。あとの2作はポーランドとアメリカ、そして僕たちのイタリアチームでした。その後は出来上がった脚本に磨きをかけていくというワークショップがありました。並行して、資金的な部分、どういうバジェット配分でプロジェクトを形にしていくかを話し合います。それについては、僕のパートナーのプロデューサー、フラミニオ・ザドラが他のプロデューサーたちと話を進めていきました。このような流れで企画を、現実に「撮影」に持って行くまでを詰めます。ただ、僕らの映画はフィリピンを舞台にした映画なので、バジェットについてはフィリピンサイドと話をしなければ進められないという限界もありました。

ーーフィリピンのスタッフはどのように?

ヴェネツィアにいるときに、すでにフィリピンのラインプロデューサーを決めていたので連絡をとっていました。

ーーつまり、イタリアのチーム、日本人の監督、フィリピンでの撮影、ポストプロダクションの韓国と4ヶ国にまたがる作品なのですね。イタリアチームの日本人監督という異色なポジションだと思いますが、居心地はどうだったのでしょう?

まったくと言って特別という感じではなかったです。国の違いよりも、ひとつの企画に対して、これを形にしたいという人たちと組むというだけで、それがたまたまイタリア人チームだったということなんです。

ーーイタリアのスタッフは、エミール・クストリッツア監督との交流からつながっているのですか?

いや、これはまた別のつながりなんです。僕がセルビアに住んでいた頃ですが、ヴェネツィアの映画祭に遊びに行き、偶然レストランで出会ったんです。当時の僕のガールフレンドとファティ・アキン監督が顔見知りで挨拶をしていたところ、アキン監督に出資していたのがいまのザドラプロデューサーの会社で、僕の短編を見せたら「絶対一緒にやりたい」と言ってくれて、そこからスタートしました。

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ⓒ2015-ALL Rights Reserved Dorje Film

ピーターやブランカを尊敬し、かっこいいなと思うからこそできた映画

ーーシネマカレッジの映像をネットで観ましたが、ザドラプロデューサーは「フェアリーテール」という言葉で紹介していました。この映画には、フィリピンのスモーキーマウンテンに通って子どもたちと交流し、多くの時間を積み重ねてきた監督が、肌で感じてきたことが染み込んでいると感じます。人身売買や病気の蔓延などゴミ山やスラムの過酷な現実は知られていますが、映画はそこに何か「魔法」をかけたように美しいです。どのような化学変化を起こそうとしたのでしょうか。

自分自身も楽しみたいという気持ちもありますが、簡単に言えば、あまりネガティブなものを不特定多数の人とシェアしたくないということなんです。人身売買はもちろんネガティブなことですが、ではゴミ山で働く子どもたちはネガティブかというと、ネガティブではないのです。それを「かわいそう」と思うのは、物を持っている立場の視点でしかないのです。いったん彼らの中に入ってしまうと、そこには日常があるわけです。もちろん厳しい部分もたくさんありますが、描き方として「もうひとつの視点」がないとフェアじゃないというか、そこは大事にしたかったことです。僕はピーターやブランカを尊敬するし、かっこいいなと思うんです。セバスチャンにしてもそうです。まず彼らに対しての敬意があって、それを踏まえた上で表現したかったんです。

僕自身も彼らとずっと一緒に過ごしていたわけではないのですが、そこもあまり問題ではなくて、ゴミ山で生活したからと言って表現が「本物」になるということではないんです。例えると、ヘビが届かないシッポを追いかけているようなもので、特に答えは出ない、そこがいちばん大きな問題ではないのです。この人たちと出会って、自分が見たかった場所、自分が感じたかった場所を脚本にしているんです。架空のお話ですが、映画の制作にあたって本当の自分たちの「未来」になったりもするわけです。僕らだって明日も、1時間後も、このインタビューが終わった後のことも本当はわからない、どこを歩くかもわからないわけです。それもクリエイションですから。でもそんなクリエイションを毎日できるわけがないから、せめて映画では「こういう人生を味わってみたい」というクリエイションをしたと言えます。そこは温かいものであってほしいし、それをお客さんとシェアしたかったんです。

 

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ⓒ2015-ALL Rights Reserved Dorje Film

 ◆歩いて歩いてやっと見つけたセバスチャン

ーーピーターとブランカがすばらしく、またセバスチャン(ジョマル・ビスヨ)にもとても惹きつけられました。

セバスチャン最高ですね! 彼を見つけた時はほっとしました。2ヶ月探しても見つからなくて、歩き続けてやっと見つけたんです。

ーー見つけた時のセバスチャンの反応はどうでしたか? びっくりしてましたか?

それほどびっくりしなくて、ダイアログを渡してアシスタントに通訳してもらうと、その場で言ってくれて「めちゃおもしろい!」となり、そのままワークショップに来てもらいました。そこからはもう本領発揮。セバスチャンとしてのキャラクター、ラウルやブランカとの関係性もしっかり理解した上で演じてくれました。ブランカとの別れのシーンがありますが、ブランカを解放するのを助けるくだりで、セバスチャンが少しウルッときているんです。あれは実はセバスチャンのラストカットで、脚本ではラストシーンにはセバスチャンはいなかったんです。別れのシーンを撮った時に彼の出番は終わりで、クルー全員がセバスチャンに対して感謝とお別れの言葉を告げているのに反応して泣いてくれたんです。でもその後セバスチャンに会いたいと、役は無くてもセバスチャンが来てくれないかと思い、「だったらそれをシーンにしちゃえばいい」という話になってきて、「そうだ! 最後はセバスチャンもあそこにいるべきだ」と脚本が変わりました。

ーーセバスチャンも一緒に映画を観ましたか?

回観てます。1回目はセバスチャンの住む街に行って、子どもたちと一緒に観ました。でもあいつらは黙って観ない(笑)。ずっと自分の出てるところは「イエーイ!」という感じ、でも最後は集中してたかな。2回目に、フィリピンの映画祭で子どもたちと一緒に大きな劇場で観たときは幸せでした。シーンごとに爆笑があってね。

ーー他にもストリートの子どもやトランスジェンダーの人など多彩な方々が出演してました。その中で悪い女性の役と、クラブの支配人はプロの役者でしたか?

そう、あの悪い女の人はルビー・ルイスという、フィリピンでは女優賞を受賞したことのある女優さんです。

ーー電気屋の前でブランカとテレビを一緒に観ていたインパクトのある男性は?

そうそう、彼も役者なんです!

 

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ⓒ2015-ALL Rights Reserved Dorje Film

笑わせてくれるピーターのギターの魅力

ーーピーター(ピーター・ミラリ)について、残念ながら映画を観ずに亡くなられて、でも葬儀の場で上映会をしたという感動的なエピソードもあるとのことですが、もっとも印象に残っていることは?

僕はやっぱり彼のギターが好きなんです。なんというか、笑えるんです。ギターの音色で「ぷっ」と笑えるってなかなかないですよね。なんだかニコっとなるんです。「わ~感動した!」というのではなく。そういう「ギター」ってスゴイなと思うんです。心を柔らかくしてくれるギターなんですね。本当は彼の弾く楽曲を使いたかったのですが、権利関係に引っかかって使えなかったんです。彼は楽譜を見て学ぶのではなく、その当時、街に流れていた70-80年代のヒット曲を耳でキャッチして弾いているので、いろんな年代のヒット曲が1曲のなかに混ざっているんです。フィリピン音楽を研究している芸術大学の教授に確認してもらってそれが分かり、そんなわけで映画では新しく作曲家フランシス・デヴェラに作ってもらった曲をピーターに弾いてもらいました。

 

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ⓒ2015-ALL Rights Reserved Dorje Film

 ーーブランカが劇中で歌う歌「カリノサ」は、フィリピンの民族音楽に監督が詞をつけたのですね。ずっと耳に残る曲でした。

そうです。サイデル・カブテロのマネージャーに聞いたら「俺は知らない、よくこんなの見つけたな」なんて言われましたが(笑)。でもサイデルのお母さんに聞くと、やっぱり昔からあって、曲に合わせて子どもたちが踊る曲と教えてくれました。

ーーYoutubeで、サイデルさんが歌うのを見てキャスティングしたということですね。またプレス資料によると「3人のブランカ」が存在したのだと。2人目のアンジェラについてのエピソードもなんともドラマチックです。そして最終的にはサイデルを起用することができたと。(編集部注:当初、遠くに住むサイデルの出演は困難と判断し、2人目のアンジェラという女の子を路上で見つけたが、演技的に難しいという理由で断念した。3人目は実在する11歳の少女で、実際にピーターと一緒に歌を歌い、ステージに立っていたという。)

そう、僕は最後までアンジェラにしがみついていたんですが、どうしようもないということになったときにサイデルが現れてくれて……

 

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ⓒ2015-ALL Rights Reserved Dorje Film

魔法のような映像の温もり(撮影監督について)

ーー柔らかく、温かい映像が印象的でしたが、撮影監督の大西健之さんはフィリピン在住のタガログ語も話すというカメラマンだそうですね。

彼の経歴はユニークで、LAで映像を学び、日本に帰らずにフィリピンで映像の仕事を始め、すぐに撮影監督になった方です。アシスタント時代がほとんどなく、すぐにコマーシャルなどで活躍しはじめ、フィリピン在住12年くらいだそうです。僕の前作の短編ではイタリア人撮影監督を起用したのですが、いろんな方を知る中で、フィリピンに日本人の撮影監督がいることを知って今回お願いしました。

 ーー2015年に作品が完成し、世界でまず発表されて、満を持しての日本公開となりますね。

これは僕の最初の長編作品になりますが、こんな企画があって、こんな話をみんなで作ろうよと、みんなが情熱を傾けられるような「遊び場」を脚本として提供して、そこにみんなが集まってくれた、そんな感じなんです。正直言うと、こういう作品を日本で公開することはとても勇気がいることだと思うし、配給や宣伝のみなさんにも感謝しています。フィリピンのスラムに住む、純粋に幸せを求め、前向きに生きるブランカという少女の物語です。最初はお金でモノが手に入り、お母さんもお金で買えると思っていた。そういう場所にいた彼女がピーターと旅をしていくなかで辿り着いたのは、ピーターとブランカの間にできた「家=居場所」です。同じように、映画も、いろんな人と出会いながら、いい形で人と人の間に芽生える何かに繋がっていっているという感覚が日々あります。インタビューで話したり、試写会で観客の方々と話をしたり、サイデルが今回来日したことも含めて、いろんなことが前へ向かい、映画自体いろんな人に助けられていることが、ブランカもピーターに助けられ、ピーターとの間に温かいものを感じたことに重なります。そういう温かいものを感じながら映画が進んでいるなというふうに感じています。

 ーーセルビアから戻られて、現在は東京を拠点にされているそうですが、これからも世界を舞台に映画を撮る予定ですか?

そうですね。大事なのは、どこにでも置き換えられる物語にしたいということです。いま脚本を書いているところですが、頭の中にもまだ企画がいろいろあります。

ーー楽しみにしています。

(※このインタビューは2017年7月14日に行われました。)

プロフィール:

はせい こうき/岡山県出身。映画監督・写真家。セルゲイ・ボドロフ監督『モンゴル』(ドイツ・カザフスタン・ロシア・モンゴル合作・米アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品)では映画スチール写真を担当し、2009年、フィリピンのストリートチルドレンとの出会いから生まれた短編映画『GODOG』では、エミール・クストリッツァ監督が主催するセルビアKustendorf International Film and Music Festival にてグランプリ(金の卵賞)を受賞。その後活動の拠点を旧ユーゴスラビアセルビアに移し、ヨーロッパとフィリピンを中心に活動。フランス映画『Alice su pays s‘e’merveille』ではエミール・クストリッツア監督と共演。2012年、短編映画『LUHA SA DISYERTO(砂漠の涙)(伊・独合作)をオールフィリピンロケにて完成させた。2015年、『ブランカとギター弾き』で長編監督デビューを果たす。現在は東京を拠点に活動中。

インフォメーション:

ブランカとギター弾き』

配給:トランスフォーマー

2017年7月29日(土)より、シネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開

www.transformer.co.jp