REALTOKYO CINEMA

リアルトウキョウシネマです。映画に関するインタビュー、レポート、作品レビュー等をお届けします。

Interview 002 ローラ・イスラエルさん(『Don't Blink ロバート・フランクの写した時代』監督)インタビュー

会ってみると飾り気のない、意外と「普通のひと」だったことが逆に嬉しかった

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『Don't Blink ロバート・フランクの写した時代』を監督したローラ・イスラエルさんにインタビューした。ニューヨークの伝説的芸術家ロバート・フランク(現在92歳)の波乱万丈の人生と、いまもなお異彩を放つ写真や映像作品の数々を、豪華な楽曲とエッジの効いた編集で魅せるドキュメンタリーは、「全ロバート・フランク」としての貴重な記録とも言える。真のアメリカを撮った写真集『The Americans(アメリカンズ)』(1958年)について、写真一枚一枚の撮影当時の記憶をたどるロバートの前に静かに微笑み座るローラさんの姿が印象的。ローラさんは多くのミュージシャンのPVを手がける敏腕編集者としてフランクに出会い、以来長年にわたり多くの作品を共に作ってきたフランクの強力な右腕であり理解者。お互いにポストカードをやりとりするチャーミングな習慣も教えてくれた。ロバートの「気難しい芸術家」というレッテルとは裏腹に、そんな彼女だからこそ撮れた、ローラさん曰く「意外と普通のひと」というフランクの素顔、さらに互いに助け合うニューヨークのアーティストコミュニティの関係の興味深い話もあり、盛り沢山語ってくれた。

聞き手&写真:福嶋真砂代

「過去は振り返らない(Never go back)!」とロバートが答えた

ーーニュー・オーダー の『Run』(1989年)のPVで初めてロバート・フランクと一緒に仕事されたと伺いました。

ニュー・オーダーが所属するファクトリー・レコードに知り合いがいて、ニュー・オーダーPVの編集を数多く手がけていました。編集の私といろんなアーティストを組ませてPVを作るという企画があって、次は写真家のロバート・フランクだよと言われ、すごく嬉しかったのを憶えています。なぜなら私は映像の前に写真を勉強していて当然ロバート・フランクのことは知っていたので、一緒に仕事ができるというので興奮しました。

ーーローラさんにとってはヒーローに出会ったような感じなのですか。

そうですね、ヒーローとの出会いでもあったし、でも会ってみるとロバートが飾り気のない、意外と「普通のひと」だったというのも逆に嬉しいことでした。ある時、ある程度映像を選んで編集していて、「いまこの映像を選んだけど、この先また戻って見直したりしますか」と聞くと、ロバートは「過去は振り返らない(Never go back)!」と答えて、そういうところは私とすごく感性が合うと思いました。

ーーそれからはずっと一緒に仕事を?

その後いい関係が続いて、ロバートは2年に1回くらいは映画やビデオインスタレーションなどを作っているので、その仕事を一緒にしています。まず彼は「僕のことを知ってほしい」と写真集、映像、映画など、自分の作品を私にすべて渡しました。ニュー・オーダーの時はいわゆる「仕事!」っていう感じでしたが、ロバートの仕事の仕方としては、まず人間関係を作り上げた上で仕事をしていくということを求める人だと思います。友達としてパーソナルなつきあいをして、奥さんとも仲良くなったり、そうやってロバートのグループの中の一員になっていった感じでした。もちろん私のことも知ろうとしてくれました。NYノバスコシアにあるロバートの家のどちらにも行きました。NYでは近所に住んでいるので道でばったり会うこともあるし、NYで作った映像を私が編集して、それをノバスコシアに持って行ってまた作るとか、常に進化していくような作品の作り方をしました。実は私はポストカードコレクターなので、彼の家にポストカードをドロップして「Say hello」してから仕事に行くとか、彼もポストカードが好きだと知っていろいろ集めて、すぐペンパルになりました。

ーーなるほど、ふたりは”ポストカードペンパル”なんですね

ちょうど2週間前にも、私が時間がなくて友人に頼んでポストカードドロップしてもらいました。ロバートはだいたい年の半分ずつNYノバスコシアに住んでます。以前は冬もノバスコシアは美しいので住んでいたようですが、映画でも映ってますが、冬は海も凍ってしまうし、水道も電気も止まりがちなので、最近は夏に行くようにしているようです。

ーー電話線を15人くらいで共有していて、「電話を聞かれてる」といたずらっぽく言ってるシーンがありますが、あれも大変ですね。

私もそこは好きなシーンです。おもしろいですよね、小さな村で他にすることないから他人の電話をずっとこっそり聞いていたりする、みたいな(笑)。

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Photo of Robert Frank by Lisa Rinzler, copyright Assemblage Films LLC

◆「ロバート・フランク・ルーム」にこもりきりの1年間

ーータイトル通り「瞬きできない」くらい、映画にはたくさんの情報がぎっしり詰まっていますが、編集のご苦労は?

編集のアレックス・ビンガム、それからプロデューサーのメリンダ・ショプシンにも助けてもらいました。「ロバート・フランク・ルーム」と名付けた編集室に1年間こもりきりでしたが、そこでは彼の本や作品にぎっしり囲まれながら、常に編集している感じでした。例えばロバートがアリゾナに休暇に行くとそこで撮った写真をごっそりもって帰ってきたり、写真集も新たに出たり、編集中もそうやっていつも新しい素材が増えていきました。そして何か困った時は、常に彼の作品に立ち戻るという作業を繰り返しました。彼のワークが彼のライフであると言えますからね。

ーーまさに映画は「ロバート・フランク・エンサイクロペディア」という感じで、ロバートのことも、また真のアメリカを知る上でもここに戻ると何かが見つかるという起点になるような作品だと思いました。アレン・ギンズバーグジャック・ケルアックグレゴリー・コーソら、ビートジェネレーションのスター勢ぞろいの短編映画『プル・マイ・デイジー』(1959年)のことをこの映画で知って見てみたらその新しさにゾクゾクしました。

それは嬉しいですね。作品あってのロバート・フランクなので、この映画を観て彼の作品を再発見したり、見直したり、そういうモチベーションになってくれるといいなと思って作りました。また写真集などでは見せる機会のない彼の側面や素顔を観ていただけるといいなと願っています。

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Photo of Robert Frank by Lisa Rinzler, copyright Assemblage Films LLC

 

◆写真集『アメリカンズ』 の革新性、芸術性の高さ

ーーところで、写真集『アメリカンズ』は発表した当初は評価が低かったけれど、10年後にはとてつもない高評価を受けるという流れがあって、現在に至ってさらに再評価されています。ローラさんはどう感じていらっしゃいますか。

今回ドキュメンタリーを撮るにあたってロバートの作品をいろいろ見直して感じるのは、とてもタイムレスな、つまり時間にとらわれていない作品だということです。でもそれ以上に感じるのはアーティスティックに捉えていること。例えば構図的にも芸術的レベルが高いし、その写真があえて切り取ってないもの、あえて撮っていないものが重要であったり、当時もそうでしたが、いまも「革新性」があることが意義深いです。文字を使わずに写真だけで、社会に対するメッセージを伝え、それが決して説教じみてはいない。おもしろいと思ったのは、ひとつの作品に対して実は2、3枚しか撮ってない、意外と何枚も撮らない撮り方なんです。その中でこの1枚。そんな方法の一部を映画の中で(ベタ焼きから選ぶシーンで)見せることができてよかったと思います。『アメリカンズ』は、ロバートがすごく努力して大変な思いをして世の中に出した作品で、それが評価が低かったのは当時はショックがあったとは思いますけどね。編集部注:『The Americans』は1955年から9カ月かけて、10,000マイル、30州を旅し、767本のフィルムを費やして、27,000枚の写真を撮ったー『Don't Blink ロバート・フランクの写した時代』より)

 ーー『アメリカンズ』では2万7千枚から83枚を選んだということだけでもすごいけど、その1枚1枚すべてがものすごくフォーカスされているということですね。

そうなんです。編集者、つまり私のことだけど(笑)、から見ても、そのことを知るだけで感動しますね。確かに人間を映し出したものではあるのですが、アートとしても美しい写真ですね。

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Photo of Robert Frank by Lisa Rinzler, copyright Assemblage Films LLC

彼は映画の中で「写真家はハンターだ」と言ってましたが、そういう捉え方も私も好きです。「いい獲物を獲りに行く」という気概で、朝早くから現場を探して写真を撮り(獲り)に行き、夜帰ってきて、どこか暗室を探して現像するという、一連のことにすごくエネルギーをかけて作ったわけです。その後、ロバートがフィルム(映像)に移行していったのは、もっと人とのコミュニケーションを求めたという理由もあるのかなと私は思ってます。

ーーロバートの仕事仲間の”現像マン”のシド・キャプランをインタビューしてましたね。

ええ、最も長い時間をかけたインタビューのひとつです。ひじょうにおもしろい人で、写真とのつきあいが長くてマグナム・フォト(Magnum Photos)やウィジー(Weegee)と一緒に仕事してました。アレン・ギンズバーグも近所に住んでいたのでシドがギンズバーグの現像を手伝ったりしてました。NYのエルトレイン(El Train)という地下鉄が一部地上に出る区間があったんですが、当時の風景をシドが撮った写真展(*1)をやってます。ある意味、彼はニューヨークの歴史家ですよね。ひとつおもしろいエピソードがあるんですが、ジャック・ケルアックの『地下街の人びと(The Subterraneans)』という作品の舞台はサンフランシスコになっているんですが、実はNYのシドが住んでた界隈がモデルになっているんです。ロバートやアレン・ギンズバーグにとっては「すごく懐かしい」という感覚のある作品なんですよね。実はこれは今回の映画には収録しきれなかった部分なんです。

ーーそうすると、今回の未公開の素材もたくさんあるのですか。

そうですね。多くの素材から泣く泣く決断をして選んだ結果、この映画ができました。時系列に編集してもよかったのですが、ロバートはわりに「テーマ別」に物事をやっていくタイプなので、この映画も「テーマ別」にしようと思いました。時々寄り道(detour)をするんですが、脱線しすぎるとどんどんおもしろい話が出てきてしまうので、本線にどう戻ってくるかを気をつけながら編集しました。ロバートの人生もおもしろい脱線が多い人なのですが、作品としては戻すようにしてました。彼の人生はモノがフルにあるので、作品としてそこをどうコントロールするか腐心しました。

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Photo of Robert Frank by Lisa Rinzler, copyright Assemblage Films LLC

ーー編集者であったローラさんにとって、今回は監督として「ロバートを撮る」という、ある意味立場の逆転みたいなことだったと思うのですが、映画からはロバートもそれを楽しんでいるように感じられました。この映画を作るに際して何か意見をもらったのでしょうか、それともずっと黙っていて出来上がりを観て感想を言ってくれたのでしょうか。

最初にロバートは私に小さな「笛」をくれたんですよ(笑)。何かあったらこれで呼んでね、みたいなサインだと思うんですが。ヘンゼルとグレーテルみたいに、パンくず、つまりヒントを落としていってくれたので、それを拾っていくとたどり着ける、そういう感じの手助けをしてくれました。どうしてもドキュメンタリーなので撮っているときはグチャグチャというか、彼方此方に散らばってる感じで、それをどうまとめるかが難しいところではあるのですが、そんな中でちょっと行き詰った時にロバートに相談してみようかなと訪ねると、すかさず「映画はどう?」なんて声かけてくれて、私の顔には「タイヘン」の文字が浮かんでいたと思うんですけど、その時にロバートは「信頼しているから(I trust you)」という言葉をかけてくれました。それで安心したし、自由になれたのと同時に責任重大だとは思いましたけど、次に進む力になりました。ロバートは「最終的責任はとらないけど、何かあったら手助けするよ」というスタンスでいてくれました。撮影始めの頃のインタビューの後、私は2分くらいのトレイラーを作ったのですが、ロバートはそれを見て安心してくれました。実はそのトレイラーは映画のオープニングに使っています。

さらに付け加えると、「Don’t Blink」というタイトルは、ある時、ジャーナリストに「いま写真を勉強している若い人に何か言葉はありますか」と聞かれたロバートが「Keep your eyes open! Don’t blink!」と言って、ああこれぴったり、いただこうと思いました。

 ◆ロバート・フランクとアンソロジー・フィルム・アーカイヴズ

ーー最後に、これは友人からの質問ですが、ジョナス・メカスとロバートはどういう関係でしたか。ロバートは「アンソロジー・フィルム・アーカイブズ」に所属してた時期とかあるのでしょうか。

「アンソロジー・フィルム・アーカイブズ(以下、アンソロジー)」は、簡単に言うとこの映画のスポンサーのひとつとして協力してくれてます。ブリーカーストリートのロバートのアトリエの近くに「アンソロジー」のオフィスがあったので昔からつながりがあります。同じNYに住むアーティスト同士、何かあったらお互いサポートするよという関係です。最近もハリー・スミス(Harry Smith)というアーティストのビデオテープがロバートのアパートからたくさん発見されて、それをアンソロジーが使えるようにダビングしておいてあげたということもありました。またロバートの映画『Sin of Jesus』にメカスが役者として出演してますね。この映画に使ったアーカイブ映像についても「アンソロジー」のアンドリュー・ランパート(Andrew Lampert)が協力してくれましたし、実はランパートはこの映画のプロデューサーのメリンダ・ショップシンのご主人でもあるというつながりもあるんです。私たちはこういうフレンズコミュニティでお互い助け合っていると言えます。

◆おまけ◆

ーーロバート・フランクローリング・ストーンズを撮ったドキュメンタリー映画『コックサッカー・ブルース』は未公開なのですね。

ローラ:はい、未公開です。ローリング・ストーンズ側とロバート・フランク側との取り決めで、年に3、4回までという制限つきで上映はしています。『Don’t Blink』関連のフィルムフォーラムでも上映しました。私も観たことがありますけど、クールでいい映画です。撮影した当時のロックカルチャーの中でドラックとか違法的なことも撮られているので、これをアメリカで上映するとローリング・ストーンズが法的にアメリカに入国できなくなるんじゃないかという危惧もあって、公には上映されてないわけです。そういう背景があるんですが、最近は少しずつ緩やかになってきてますけどね。

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ロバート・フランクがカバーデザインを手がけたローリング・ストーンズ『メインストリートのならず者』のジャケットを見るイスラエル監督 (C)marsha2017

プロフィール:

Laura Israel/米国ニュージャージー州で生まれ、10代の頃からNYのロウアーイースト地区へ写真を撮りに行っていた。ニューヨーク大学在学中からコマーシャルやミュージックビデオの編集で数々の賞を受賞し、大学卒業と同時に自らの会社 Assemblage を設立。制作した主なミュージシャンは、ジョン・ルーリールー・リードパティ・スミスキース・リチャーズソニック・ユースニュー・オーダージギー・マーリーデヴィッド・バーン、アーティストではウィリアム・ウェグマン、ローリー・シモンズ、そしてロバート・フランク。2010年に初の長編ドキュメンタリー映画『Windfall』を監督し、トロント国際映画祭でプレミア上映、Docs NYCでトッププライズを受賞。毎年「フィルムメーカー」誌が選ぶ「インディペンデント映画の注目すべき25人」の一人に選ばれている。

インフォメーション:

監督:ローラ・イスラエル
撮影:リサ・リンズラー、エド・ラックマン
編集:アレックス・ビンガム
音楽:プロデューサーハル・ウィルナー
参加アーティスト:ヴェルヴェット・アンダーグラウンドローリング・ストーンズトム・ウェイツパティ・スミス、ヨ・ラ・テンゴ、ミィコンズ、ニュー・オーダーチャールズ・ミンガスボブ・ディラン、ザ・キルズ、ナタリー・マクマスター、ジョセフ・アーサー、ジョニー・サンダース、ザ・ホワイト・ストライプス
2015年/アメリカ・フランス/82分

配給テレビマンユニオン/配給協力・宣伝:プレイタイム

robertfrank-movie.jp

4月29日(土)より、Bunkamuraル・シネマほか、全国ロードショー

 

 

Run (2015 Remastered Version)

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アメリカンズ―ロバート・フランク写真集

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地下街の人びと (新潮文庫)

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*1:New York Transit Museumにて開催中:

New York Transit Museum写真展の紹介記事(Timeout)