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Review 018『息の跡』

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(C) 2016 KASAMA FILM+KOMORI HARUKA

監督・撮影・編集:小森はるか
出演:佐藤貞一
2016年/93分/HD/16:9/日本/ドキュメンタリー

ポレポレ東中野、2週間の上映期間延長が決定

弱冠23歳、「豆粒」と呼ばれた監督の骨太な劇場長編デビュー作

これは「たね屋」の物語、いや、種や苗を売る佐藤貞一さんを2年間追いかけたドキュメンタリーである。でもふつうのたね屋と違うのは、陸前高田の沿岸に建ち、2011年3月11日、津波によって一度はすべてがなくなり、佐藤さんがいちから手作りで、元の店の場所に再建したたね屋だということだ。缶詰の缶で井戸を掘り、プレハブを建て、壁に絵を描き、ほかにもお菓子の箱をリサイクルして苗のプランターをちゃちゃっと作ったり、見回すとそこここに佐藤さんのDIY作品を発見する。もうひとつ、ふつうのたね屋と違うのは、佐藤さんの副業ともいうべき津波体験の手記執筆活動。しかも外国語で書いている。「書いてる」というのはいまも(おそらく)更新中ではないかと。少なくとも小森監督が撮影していた期間は、毎日のように更新されていたそうだ。そしてその手記こそ小森さんが佐藤さんに出会ったきっかけだった。記録事業のスタッフとして仕事をしていた頃、「英語で手記を書いている人がいるよ」と教えてもらい、訪ねたのだそうだ。その初日、あるお客さんが「これまで辛かったけど、そろそろ何か育てようかと思って」と店に来て、佐藤さんがとても優しく対応しているのを見て、「こういう人たちのために種をつくっているんだな」とお店の事情が一瞬にして見えた気がして、もっと知りたいと佐藤さんとたね屋を撮影したいと思ったのだ。

インタビューで小森さんにお会いしてみると、小柄で愛らしいルックスは儚げでもあり、こんな小さな小森さんが映画を、しかも現地に移住までして、その町で仕事を探し(そば屋でアルバイト)生計を立て、地元の人たちと交流し、撮影をするという、スーパーな根性の持ち主であることに驚く。映画の中で、佐藤さんと小森さんが交わす会話がまた微笑ましくて、「歳なんぼだっけ。27、8か?」「23」「まだそんなもんか!まるで豆粒だな」「豆粒っ」というところ何度も見たくなる。他のシーンの会話を聞いても、佐藤さんと小森さんの関係がとても自然で、被災者を取材する撮影者などというものではなく、素敵な関係性がうかがえる。そういう関係を築いたのも、小森さんのさりげなくも、繊細な繊細な心遣いの積み重ねがあったのは間違いないだろう。コミュニケーション力の高さとも言える。そんな小森さんは柔らかくて優しいだけじゃなく、記録者であることと表現者としての欲求との間で悩むクリエイターであり、やり通す芯の強さを備えている。

映画は佐藤さん(たね屋)だけを追いかけていながら、陸前高田の変化する姿、移ろう四季の表情、人々の息遣いをしっかり捉えて伝えている。そしてその伝え方はドキッとするほどアートだ。ドキュメンタリーなのだが、描かれるストーリーはスリリングで、映像の美しさに導かれ、音づかいにもハッとする。佐藤さんの声もよく響く。さらにひとつ、ふつうのたね屋との決定的な違いがある。それはこのたね屋が、かさ上げ工事によって解体される運命にあるということだ。その終わり方もまた見事だ。「最後の最後まで佐藤さんの手作りで終わらせた」と小森さんが語る、その解体作業を小森さんはしっかりカメラにおさめ、「佐藤さんらしい」と思っていたと言う。もうこのラストは、佐藤さんと小森さんの、過激な言い方かもしれないが、共犯的作業になっている。佐藤さんの神聖な儀式を小森さんは阿吽の呼吸で撮っているようだ。佐藤さんの手記『The Seed of Hope in the Heart』が、変わりゆく陸前高田の町の風景と一緒に文字で流れる映画の終わり方もかっこいい。6年目の3.11がくる。たね屋さんが育てて撒いた「希望のたね」が、過去から未来へと息の跡をつなげていくことを祈りつつ。

福嶋真砂代★★★★

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(C) 2016 KASAMA FILM+KOMORI HARUKA 

映画『息の跡』公式サイト

www.lets-talk.or.jp