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REALTOKYO CINEMA

リアルトウキョウシネマです。映画に関するインタビュー、レポート、作品レビュー等をお届けします。

Review 013『パリ、恋人たちの影』

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(C)2014 SBS PRODUCTIONS - SBS FILMS - CLOSE UP FILMS - ARTE FRANCE CINEMA

監督・脚本:フィリップ・ガレル
共同脚本:ジャン=クロード・カリエール
撮影:レナート・ベルタ
出演:クロティルド・クロー、スタニスラス・メラール、レナ・ポーガム
2015年/フランス/73分/配給:ビターズ・エンド
フィリップ・ガレル監督の軌跡をたどる、35㎜フィルムを含む特集上映同時開催

濃く深く、恋愛の陰影を映すモノクローム映像

フィリップ・ガレル監督最新作。即興を好むガレルが脚本にもとづいて撮ったというのだから、以前の作品よりもよりページ数の多い脚本が存在したのだろう。とはいえ、これまでのガレル作品に漂う自由かつ緊迫した空気は1ミリも削がれていないどころか、ますますの自由を感じることも事実。脚本は、ガレル曰く「映画が到達しうる最高の男女平等についての映画」ということで、女性2人+男性2人(ガレルを含む)の4人の脚本チーム編成で書かれている。そのひとり、ジャン=クロード・カリエール1945年生まれ(ジャン・リュック・ゴダール監督『勝手に逃げろ/人生』でガレルと出会った)、ガレル監督は1948年生まれ。他の女性脚本家アルレット・ラングマンは1946年生まれ、『灼熱の肌』『ジェラシー』の脚本も書いたカロリーヌ・ドゥリュアスの年齢は不明*1。ピアノ演奏が美しい音楽のジャン=ルイ・オベールは少し若く1954年生まれ。ちなみに撮影のレナート・ベルタ1945年生まれ。錚々たるメンバーで作られた作品である。今回はスクリーンに顔を出さない息子のルイ・ガレルはナレーションで淡々とクールな語りで出演している。脚本があるとはいえ、「根本的には現場で何が起きるか、カメラでしか描けないことが重要」とガレルが語っているように現場で瞬間瞬間の変化を捉え、人の変化の生々しさがレナート・ベルタ撮影の「コントラストの濃い、無煙炭のような」(ガレル談)モノクロ映像に焼き付けられている。

(以下、ネタバレがあるのでご注意下さい)

パリ。ドキュメンタリー作家の夫ピエール(スタニラス・メラール)を妻マノン(クロチルド・クロー)が給食係のパートをしながらサポートしている。夫はいつまでも稼ぎが少なく、暮らしはキツイが夢はある、といったところか。実際、アパートの大家から家賃滞納、部屋が汚いとクレームを浴びる。マノンは「東洋語学校」にも通っていたが現在はやめている。はて、何語を習っていたのだろう? 日本語か中国語か、はたまた韓国語か、いやタイ語か……。どうでもいいようなことが気になってしまった。ところでピエールは映画研修生(保存係)の”若い”エリザべットと出会い、いとも簡単に恋におちる。「カンタンに」見えた。ピエールから誘っているように見えたが、エリザベットもまんざらではない、いやむしろ積極的。あれは「魔が差した」以上の「愛を求めていた」的な積極性がある。ということはつまり、ピエールは妻とはもう距離ができていたと見るべきなのだろう。若く、ボリュームのある魅力的な体格のエリザベッド。さっそくピエールはエリザベットの狭いアパルトマンの部屋に上がり込み、「言っとくが、妻がいる」「だと思ってた」などと会話がなされる。双方合意のもとの共犯。つまり、恨みっこなしということか。こういうのを男女平等というのだろうか。いや違う。これは女性の「同意」をとりつける男性の「保険」のようなものでだろう。実際あとになって面倒臭くなると、「最初に言ったよ。結婚してれば用もある」とピエールがつきまとうエリザベットに言い渡す。つまり、「結婚してると言ったのだから、いまさらわがまま言うな」という完璧な男性の「わがまま」だ。今回男女4人で書いたという脚本にもとづき、このような恋愛における機微が実に繊細に描かれ、どんどん感情移入していく。女性の罪(浮気)も描かれるが、だからと言って男の身勝手さを見逃さない。ルイのナレーション「自分は浮気を続けながら、女たちに意地悪く接した」とピエールの状況の語りが憎らしい(笑)。妻も愛人も手放せない。それは妻も母も手放したくないのと同じなのだと。えええ? 「浮気は男だけのもの、女の浮気は深刻で有害だ」とのたまうピエール。あげく、妻の浮気に苦しみ、別れを切り出す。「男の浮気は肯定し、女の浮気は許せない」完全なる自己中の極みだ。しかし「これが男というものさと、男のモラルで正当化した」と言ってしまう。言い訳にもならない。もはや子供だ。しかしガレルが描くのは、浮気をする男女のどちらが良い、悪いではなく、どちらにも理由があり、理由がない。そんなことではないだろうか。理性ではどうしようもなく、かと言って本能に従うばかりでは夫婦は壊れてしまうし、社会はなりたたない。何年か経って再会したふたりがたどり着いたひとつの結論と将来。ただ恋に落ちるほど簡単にはたどり着かない。そうなるには何年もかかるということでもあるのか。いやはや、結婚とは、男女とは……。「恋人たちの影」はどこまでも深い恋愛(人生)の陰影を映す。実に愛しくなる作品が公開に。レトロスペクティブも同時開催。

福嶋真砂代★★★★

2017年1月21日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開