REALTOKYO CINEMA

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Review 005 『After 10 Years』(ホンマタカシ ニュードキュメンタリー映画 特集上映)

『After 10 Years』について

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(C)Takashi Homma New Documentary

2004スマトラ島沖地震津波インドネシアに大きな被害を及ぼしたが、スリランカでも35,322人が亡くなった(Wikipedia)。写真家ホンマタカシによる初長編ドキュメンタリー『After 10 Years』は、津波の甚大な被害を受けたスリランカHeritance Ahungalla Hotel(ヘリタンス アフンガラ ホテルー建築家ジェフリー・パワの代表作)の、10周年追悼式典までの1週間のホテル内外の動きを追う。掃除に始まり掃除に終わるホテルの1日。掃いても掃いてもキリのない落ち葉の掃除や、従業員用の通路の従業員の行き来を飽きもせずに眺めていたりすると、そこに微妙な変化を見つけたりする。その変化は見る人それぞれに観点が違うだろう。ある人は葉っぱの散らばり具合だったり、ある人は従業員の箒の使い方が気になったり。千変万化の差異が映像のなかに潜在する。間違いなく10年前にも同じように日常があった。しかし一瞬にしてその日常が崩壊したという現実。しかしまた10年間の日常が積み重ねられその結果が「いま」として映像になりまた別の「いま」観ている。その時間を感じることもできる。恐らくカメラが何かを狙って撮っているからではなく、狙わないからこそ映るものが「何か」を訴えてくるのだ。「カメラが映してしまったものを、映像の自主性だと捉える」とホンマタカシが述べている。そこには自ずと「物語」が生まれている。因果関係のように何かがあって、何かが起こるということが写ってしまう。さらに現実は人間の作る「物語」を悠に超えていく。予測や期待が裏切られていく。それに気づくということは、「映像の自主性」は観客に少なからず「自主性」を促しているような気がする。「能動性」とも言えるかもしれない。「このように見て下さい」「これを感じて下さい」というメッセージ性のない映像のほうが、見る人の脳に能動性を求めるのかもしれない。おもしろい。

 ホンマタカシは「ニュードキュメンタリーとは」について作品資料で以下のように説明する。

「ここで僕がニュードキュメンタリー」と言っている、いくつかの映像は、いわゆるメッセージのはっきりしたドキュメンタリーではありません。ましてや物語のある映画とは全く異なります。

「映画の自主性」というものについてダイ・ヴォーン(映画編集・映像論者)という人がエッセイを書いています。彼が言うには、映画創成期リュミエールの短い映像の中には、物語性と、もうひとつ、撮り手の思いを超えてカメラが写し撮ってしまった映像の自主性があり、それはまたもうひとつの映像の可能性だと書かれています。(そしてその実現不可能性にも)僕はその映像の自主性を信じています。例えば固定カメラが偶然写してしまったもの、作者の思い通りに行かず、自然現象に人間が不可抗力的に飲み込まれてしまうといった状況に惹かれるのです。それは今までやってきた写真でも同じことだと思います。僕はその可能性を写真と映画の間の何処かに見出したいと思っています。

2015ダントツにおもしろかった『ハント・ザ・ワールド』(ハーバード大学感覚民族誌学ラボ制作)にはドキュメンタリーの新しいアプローチがたくさんあった。そのひとつの作品『リヴァイアサン』はその撮影法によって観客が「魚目線」になるような、つまり主体が逆転するような事態が起こるという衝撃があった。ワイズマンや想田和弘が試みる観察型の映画とはまたひと味違う、脳に新たな刺激が送られている感覚さえ味わうのだ。『After 10 Years』を含む『ホンマタカシのニュードキュメンタリー映画特集上映』(他に『最初にカケスがやってくる』、『あなたは、あたしといて幸せですか?』、『きわめてよいふうけい』)は、映画の創成期の感覚を想起させながら、またさらにドキュメンタリーの可能性を広げ、脳や身体になんらかの変化をもたらしてくるに違いない。

福嶋真砂代🌟🌟🌟🌟

2016年12月10日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

betweenthebooks.com

参考資料:

REALTOKYO | イベント情報 | ハント・ザ・ワールド

REALTOKYO | Column | Interview | 123:ルーシァン・キャステーヌ=テイラーさん(ハーバード大学感覚民族誌学ラボ(SEL)ディレクター、映画作家)&ヴェレナ・パラヴェルさん(SEL所属映画作家、人類学者)

 

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