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Review 003 『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』

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絶世のオンチのアマチュア歌手の歌にお金を払う? カーネギーホールコンサートのチケットが2時間で完売? そんな世にも不思議な現象が1940年代のニューヨークで起こっていたのだ。フローレンス・フォスター・ジェンキンスの歌声をYoutubeで聴いた脚本家のニコラス・マーティンはその歌声の不思議な魅力に惹きつけられ、彼女の「カーネギーへの道」ストーリーを映画にしたいと思った。さらにフローレンスの最後ののシンクレア・ベイフィールドとのユニークな関係にも着目。実際、ヒュー・グラント演じるシンクレアとフローレンスの関係がこの映画の肝になっている。メリル・ストリープは本当に恐るべき探求心で工夫と訓練を重ね、いわゆる「オンチ」だが、そこにはそこはかとない魅力というか魔力を秘める「絶世のオンチ」の歌声を再現する。この類い稀なオンチは大資産家のマダムであり、その財力に人々が群がる。そうすると単にバカにしながら物見遊山でオンチな歌を聴きに来る輩もたくさんいる。新聞記者なんてもってのほか。シンクレアは敏腕マネージャーでもあり、お金の管理から観客、マスコミ操作まで隅々怠りない。もっとも凄いのは朝食から夜眠るまで、フローレンスに対する極上のお世話ぶり。すべてにわたってフローレンスを守る。なんてすごい夫だろうと思いきや、シンクレアには別の生活が。え、浮気者? いやそうとは言えない。ではフローレンスはビジネス? いやそうとも言えない。絶妙なバランスで二重生活をしているシンクレアも侮れない。しかし冷徹な男ではなく、どちらにも愛情を注ぐのだ。そのへんの「曖昧さ」をやらせたらヒュー・グラントの右に出る者はいない。今回も本領発揮で記念すべきメリルとの初共演。(狐とタヌキの化かし合いというなかれ)

またフローレンスの人を疑わない天真爛漫な性格は生まれついてのお金持ちだからだろうと高を括るが、そうでもない。確かに生まれついてのお金持ちだが、17歳でかけおち(ここが運命の分かれ道だったか)した夫から病気をうつされ一生患うことになる、とか、父から援助がなくなり極貧生活に陥るとか、そんなに甘くはなかった。だからこそ人に優しいのかもしれないが疑りぶかくもなった。側近しか心を許せない。だからこそ伴奏のピアニストのコズメ(サイモン・ヘルバーグ)の選考は慎重だったし、正しい選択だった。コズメの存在は「カーネギー」が成功した大きな理由のひとつだろう。人はいつもいつも何かを選択しながら生きるが、その瞬間はそんなことわからない。善かれ悪しかれ何かを選び道が決まる。そんな人生の奇遇についても考えさせられる良作。もうひとつこの映画の良さは「音の優しさ」かもしれない。最初に聴く音から全編にかけて、音楽も生活音もセリフのボリュームも、とにかく耳に心地よい。すなわち心に優しく響いているということになる。監督はイギリスのドラマの名手スティーヴン・フリアーズ(『クィーン』『ヘンダーソン夫人の贈り物』)。

福嶋真砂代★★★★

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 2016年12月1日(木)より全国ロードショー

 

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