REALTOKYO CINEMA

リアルトウキョウシネマです。映画に関するインタビュー、レポート、作品レビュー等をお届けします。

Review 34 『マイ・ブックショップ』

コイシェ監督が共感した「自分らしさ」貫く女性の生き方

f:id:realtokyocinema:20190225195235j:plain

© 2017 Green Films AIE, Diagonal Televisió SLU, A Contracorriente Films SL, Zephyr Films The Bookshop Ltd.

映画の原作、ペネロピ・フィッツジェラルドの小説「The Bookshop」を読んだイザベル・コイシェ監督は、主人公のフローレンス・グリーンと深いつながりを感じたという。コイシェ自身、真に作りたい映画のために奮闘してきたであろうひとりの女性映画監督として、およそ半世紀前の、書店が一軒もない小さな町に新しい息吹きをもたらすべく起こしたフローレンスの「小さな革命」と、「自分らしさ」を貫く姿勢はとても共感できる、また勇気を得られるものだったのだ。

f:id:realtokyocinema:20190308104500j:plain

© 2017 Green Films AIE, Diagonal Televisió SLU, A Contracorriente Films SL, Zephyr Films The Bookshop Ltd.

舞台は1959年イギリス東部サフォークの小さな海辺の町。戦争未亡人となったフローレンス(エミリー・モーティマー)が、夫との夢だった書店を開く決意をし、志高く、信じる道を静かに進む。まずは長く買い手のつかない“オールドハウス”を買い取り、書店オープンの準備に取り組む。着々と理想の書店に近づくが、保守的な町の考え方や理不尽な嫉妬に遭い、道のりは順風どころか、逆風が吹きあれる。何かといちゃもんをつける町の有力者のガマート夫人(パトリシア・クラークソン)、ガマート夫人のちゃらい甥っ子のマイロ・ノース(ジェームズ・ランス)、書店を手伝う聡明でおませな少女クリスティーン(オナー・ニーフシー)、そしてミステリアスな老紳士ブランディッシュ氏(ビル・ナイ)など個性的な人物が登場し、エッジの効いた本のセレクション*1に絡めて、賑やかにストーリーは進む。数々のいじわるにも健気に耐えるフローレンスだが、当時の問題作「ロリータ」の販売で勝負にでると、それがまたガマート夫人の闘争心に火をつけた。さすがのフローレンスも心が折れそうになったが、そこでナイト(騎士)のごとく現れたのはブランディッシュ氏。果たして彼がとった秘策は……?

f:id:realtokyocinema:20190308104237j:plain

© 2017 Green Films AIE, Diagonal Televisió SLU, A Contracorriente Films SL, Zephyr Films The Bookshop Ltd.

◇サラからエミリーへ、「女性の生命力」描くコイシェ監督

コイシェ作品の圧倒的な魅力は「女性の生命力」に宿るのではないだろうか。絶望的な喪失感の中から、決意とともに立ち上がるしなやかな強さ、奥深さ、美しさと、多様に変容する生命力。例えば『死ぬまでにしたい10のこと』(2003)では余命を宣告されたアンの、死よりも生に向かうエネルギー。また『あなたになら言える秘密のこと』(2005)のハンナの、心に深い傷を負い、底しれぬ絶望感と癒えようのない傷を乗り越えようとする静かな生命力を見た。いずれも「陰キャラ」が得意なサラ・ポーリーが演じ、コイシェ作品を強く印象付けた。今回のヒロイン、エミリー・モーティマーは陰陽あわせもちながら、『メリーポピンズ リターンズ』での百万ドルの笑顔、『ラースと、その彼女』や『マッチポイント』など、どちらかと言えば無垢な明るさ、おっとりと控えめだが内面から太陽の光を放つように感じるタイプだ。これまでのコイシェ作品と少し違ったトーンの生命力を感じるのは、監督とエミリーのコンビがもたらす化学変化のマジックだろう。

f:id:realtokyocinema:20190308104323j:plain

© 2017 Green Films AIE, Diagonal Televisió SLU, A Contracorriente Films SL, Zephyr Films The Bookshop Ltd.

f:id:realtokyocinema:20190308104127j:plain

© 2017 Green Films AIE, Diagonal Televisió SLU, A Contracorriente Films SL, Zephyr Films The Bookshop Ltd.

◇コイシェファンにはたまらない凝ったディティー

さらにさらに、バルセロナ出身のコイシェが作る世界のディティールウォッチングも楽しみのひとつ。セットであったり、小物であったり、今作も隅々にまで神経が行き届く。50年代の英国の片田舎の風景を、アイルランドバルセロナロケによって再現したリュオレンス・ミケルの美術。常連カメラマンジャン・リロード・ラリューの撮影は海の表情、ヘイジーな雲り空、プンと薫る草の匂いまでも届ける。またフローレンス始めシーンによって変化する人物の心情を表現するメルセ・パロマの衣装も必見。ハイソなガマート夫人のキラキラした部屋にも目を惹かれ、またブランディッシュ氏の古い邸宅でのアフタヌーンティーのスイーツは質がよくておいしそう。さらにアラ・ニの音楽はジャジーな味付けをし、コイシェ組チームワークは完璧だ。蛇足ながら、筆者がバルセロナを旅して感じたのは、スペインでもとりわけアートフルでユニークな街だけど、人々のファッションは意外にも落ち着いた色調のクラシックコンサバだったこと。そんなシックなセンスもこの映画に生かされ、コイシェファンも、初めてコイシェに触れる人も、また本好きな人、書店好きな人にも、じっくり楽しめる充実の作品になっている。

f:id:realtokyocinema:20190308104023j:plain

© 2017 Green Films AIE, Diagonal Televisió SLU, A Contracorriente Films SL, Zephyr Films The Bookshop Ltd.

福嶋真砂代★★★★.5

------

39日(土)よりシネスイッチ銀座YEBISU GARDEN CINEMA他にて全国順次ロードショー

information:

監督&脚本:イザベル・コイシェ 
出演:エミリー・モーティマービル・ナイパトリシア・クラークソン 
原作:「ブックショップ」ペネロピ・フィッツジェラルド著(ハーパーコリンズ・ジャパン*3/1刊行)
2017|イギリス=スペイン=ドイツ|英語|カラー|5.1ch|DCP 原題:The Bookshop 
配給:ココロヲ・動かす・映画社○

mybookshop.jp

 

*1:

・「華氏 451」著:レイ・ブラッドベリ(1953)

・「ロリータ」著:ウラジミール・ナボコフ(1955)

・「ジャマイカの烈風」著:リチャード・ヒューズ(1929)

・「ドンビー父子」著:チャールズ・ディケンズ(1848)

・「火星年代記」著:レイ・ブラッドベリ(1950)

・「たんぽぽのお酒」著:レイ・ブラッドベリ(1957)

Review 33『バハールの涙』

f:id:realtokyocinema:20190203103629j:plain

©2018 – Maneki Films – Wild Bunch – Arches Films – Gapbusters – 20 Steps Productions – RTBF (Télévision belge)

RealTokyoに『バハールの涙』レビューを寄稿しました。

 「ヤズディの女性たちの恐怖と苦痛から目を背けてはならない」

実話に基づいて作られた。イラク北部のヤズディ教徒の女性たちに降りかかった恐怖と苦痛。2014年8月のIS(イスラミックステート)の侵攻により彼らに起きた悲劇は想像を絶する。2018年ノーベル平和賞共同受賞者のナディア・ムラドは自身の恐ろしい体験を語ることで、いまだ安否不明の多くの人々の救済を訴える。ナディアはまさにエヴァ・ウッソン監督が取材した女性たちの代表者であり、“バハール”と言えよう。

砲弾飛び交う紛争の最前線。ISと戦うクルド人部隊の女性兵士バハールと、片眼の戦争記者マチルドが出会うところから映画が始まる。『パターソン』での可憐な美しさが印象的なゴルシフテ・ファラハニが、一転して兵服に身を包む孤高の兵士バハールを演じる。夫と息子と幸せな家庭を築いていた弁護士バハールがクルド人自治区へ家族で里帰りした夜、ISの襲撃を受け、悲劇が始まった。村の成人男性はことごとく殺害され、女性と少女は拉致、あげく性的奴隷として売買され、少年たちはIS戦闘員養成学校へ送られた。バハールも何回も売られ、夫は殺され、息子は行方不明となった……。

続きはこちらへ

www.realtokyo.co.jp

 

2018年 わたしの10大イベント「CINEMA10」

REALTOKYO CINEMAはおかげさまで3年目を迎えました。今年もよろしくお願いいたします。そしてすっかり年頭の恒例行事になった「CINEMA10」の発表です。今回もさまざまなフィールドで活動する6人の旧RealTokyoメンバーが、2018年に観た映画から心に残る10本を厳選しました。激動の1年間を振り返りつつ、平成ラストのCINEMA10を、原稿到着順にお届けします。よい意味でバラバラ、だけど実に味わい深いセレクトではないかと思います。どうぞお楽しみ下さい。

2018 RT CINEMA 10

★澤 隆志の2018 CINEMA10

f:id:realtokyocinema:20190115232446j:plain

© E.x.N K.K.
  1. 『マウンテン・プレイン・マウンテン (恵比寿映像祭)』https://www.yebizo.com/jp/program/detail/2018-04-02
  2. 君の名前で僕を呼んでhttp://cmbyn-movie.jp/
  3. 『フロリダ・プロジェクト』 http://floridaproject.net/
  4. 『外国人よ、出て行け!』 (イメージフォーラム・フェスティバル2018) http://www.imageforumfestival.com/2018/program-s7
  5. 『この素晴らしいケーキ!』 (イメージフォーラム・フェスティバル2018) http://www.imageforumfestival.com/2018/program-k
  6. 『タクシー運転手』http://klockworx-asia.com/taxi-driver/
  7. きみの鳥はうたえるhttp://kiminotori.com/
  8. 僕の帰る場所https://passage-of-life.com/
  9. 『Long Day's Journey into Night ()』https://filmex.jp/2018/program/competition/fc08
  10. 『完璧なドーナツをつくる』https://www.kyunchome.com/donut

コメント:難民ー移民ー国民の解釈と共生があいまいな日本に国内外の様々な「声」が突きつけられた印象が強かった。(4、5、8、10)男と女の間にヴァカンスという性があると言わんばかりの2、外国人と日本人の共同監督でコミュニティに切り込み字幕とセリフの差異まで料理するカタコト映画の1、飯を食うソン・ガンホに萌えつつ光州事件1980年というのも驚愕の6、A24フィーバーの中、子供達の圧倒的な演技と豊かなサントラが突出の3、染谷将太石橋静河、なにより柄本祐のいい声が際立つ7、ケレン味全開の前半、執念の1ショット3Dの後半と威勢のいい9は、中国本土でまさかのデートムービーとか。観客が一番エクスペリメンタル!

 

★前田圭蔵の2018 CINEMA10

f:id:realtokyocinema:20190117170727j:plain

(C)「雨にゆれる女」members
  1. 『雨にゆれる女』http://www.bitters.co.jp/ameyure/
  2. 『ラッキー』https://www.uplink.co.jp/lucky/
  3. 万引き家族https://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku/
  4. あなたはわたしじゃないhttp://keishichiri.com/jp/events/anatawatashi/
  5. 『Don't Blink ロバート・フランクの写した時代』http://robertfrank-movie.jp/
  6. 顔たち、ところどころhttps://www.uplink.co.jp/kaotachi/
  7. ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ アディオス』https://gaga.ne.jp/buenavista-adios/
  8. 『嘘をつく男』http://www.zaziefilms.com/arg2018/index.html
  9. 『生きてるだけで、愛』http://ikiai.jp/
  10. ボヘミアン・ラプソディhttp://www.foxmovies-jp.com/bohemianrhapsody/

コメント:映画を見るのが大好きなのに、こうして振り返ってみると、昨年は全然映画館に通えなかった。特に、アジア各国の監督の映画は、見逃した作品がたくさんある。月並みかも知れぬが、高校の先輩でもある是枝裕和監督のカンヌ受賞作は、監督の一貫した眼差しが結実したほんとうに良い作品だった。細野晴臣の音楽も出色だった。文科相祝意を「公権力とは距離を保ちたい」と辞退した是枝氏の姿も印象的だった。貧富の差の拡大や、#MeToo運動などに象徴される社会における様々な「不理解」と「分断」の構図。「世界」はひとつであるのに「社会」は決してひとつなんかではないという現実とどう向き合うか。そんな問い掛けを胸に秘めつつ、今年こそはもっと映画を見ようと誓うのである。

 

★松丸亜希子の2018 CINEMA10

f:id:realtokyocinema:20190121123503j:plain

©Laboratory X, Inc
  1. 『港町』http://minatomachi-film.com/
  2. 友罪https://gaga.ne.jp/yuzai/
  3. 万引き家族https://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku/
  4. ザ・スクエア 思いやりの聖域http://www.transformer.co.jp/m/thesquare/
  5. 『それから』http://crest-inter.co.jp/sorekara/
  6. 海を駆けるhttp://umikake.jp/
  7. 寝ても覚めてもhttp://netemosametemo.jp/
  8. 『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』http://child-film.com/jackson/
  9. 『生きてるだけで、愛。』http://ikiai.jp/
  10. 『ハード・コア』http://hardcore-movie.jp/

コメント:新潟県長岡市に移住して5年目に突入。かつて通い詰めていた試写や映画祭への未練も薄れつつあり、市内唯一のシネコンと県内2軒のミニシアターをはしごして、ちびちびと、じっくりと映画を味わっています。この10本は劇場で観た順で、観賞本数は少ないながらも2018年もたくさんの傑作と出会うことができました。想田監督との新潟での再会という僥倖にも感謝。動画配信で手軽に映画見放題の時代だからこそ、今年も劇場に足を運ぶことを諦めずにいたい。そう胸に刻み、毎年恒例のCINEMA10に参加できる喜びを噛み締めています。

 

★白坂由里の2018 CINEMA10

f:id:realtokyocinema:20190121124848j:plain

(C)2017 Florida Project 2016, LLC.
  1. 僕の帰る場所https://passage-of-life.com/
  2. 『フロリダ・プロジェクト』http://floridaproject.net/
  3. ワンダーストラックhttp://wonderstruck-movie.jp/
  4. 正しい日 間違えた日http://crest-inter.co.jp/tadashiihi/
  5. きみの鳥はうたえるhttp://kiminotori.com/
  6. デトロイトhttp://www.longride.jp/detroit/
  7. 『スリービルボードhttp://www.foxmovies-jp.com/threebillboards/
  8. 『マイ・フォークス・イン・ジェイド・シティ』/『リターン・トゥ・ビルマ』(恵比寿映像祭2018)https://www.yebizo.com/jp/program/detail/2018-04-04
  9. 『With Friction, As Friction』(イメージフォーラム・フェスティバル2018)http://sanaeyamada.com/WithFrictionAsFriction.html
  10. 『ZEN FOR NOTHING〜何でもない禅』http://silentvoice.or.jp/works/zenfornothing/

コメント:1.2.3は移民や貧困、ままならぬ身体や現状を抱えた子どもたちが、友達と駆け出す姿に。どんな場所にもある笑いや遊び、悲しみで掠れた言葉。その対比を色彩や光と影で表す。3はミュージアムが“居場所”になる。4.5は“今”に率直で、または“今”を見送り、傷つき、修復する大人たちに。6は容赦なく理不尽だが、歌に救いあり。7は瀕死から寝返る“チキチータ”警官に希望が。8はミャンマーの労働者を描くミディ・ジーの視線が優しい。カラオケシーンがそのまま映画音楽になる。9は新潟県十日町市松之山の雪ほり(雪下ろし)を撮影した山田沙奈恵の映像。骨が折れるが、自然とともにある労働。雪の音。雪面に反射する光。10は「みちのおくの芸術祭」で旅ごと体感。

 

 ★フジカワPAPA-Qの2018 CINEMA10

f:id:realtokyocinema:20190121132713j:plain

(C)BUSHBRANCH FILMS LTD 2017
  1. 『ラスト・ワルツ』https://lastwaltz.net-broadway.com/
  2. 『ラジオ・コバニ』https://www.uplink.co.jp/kobani/
  3. ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオスhttps://gaga.ne.jp/buenavista-adios/
  4. オーケストラ・クラスhttp://www.orchestra-class.com/
  5. 『テル ミー ライズ』http://tellmelies.jp/
  6. ペギー・グッゲンハイム  アートに恋した大富豪』http://peggy.love/
  7. 『華氏119https://gaga.ne.jp/kashi119/
  8. エリック・クラプトン 12小節の人生』http://ericclaptonmovie.jp/
  9. ピアソラ 永遠のリベルタンゴhttps://piazzolla-movie.jp/
  10. 『私は、マリア・カラスhttps://gaga.ne.jp/maria-callas/

 コメント:1:公開40周年記念デジタルリマスター版。爆音で! 2:ラジオのスタジオでのウードの演奏は希望の音だ。 3:続編にして最終作。ベテランから若手へ音楽継承。 4:監督と同じパリの移民の少年少女が演奏会を目指してバイオリンを学ぶ。音楽への信頼が素敵。 5: 1967年制作のベトナム反戦映画。本邦初公開!?  6:ヒップな富豪女性が様々な美術家をNY、パリ等で援助する痛快譚。  7:米国や世界の状況を見て多彩な人々が発言し行動する。赤いバンダナはイカす! 8:幼少期~現在までの音楽人生を大胆に描く。 9:ピアソラの実の息子の視点で父親の生涯を描く。 10:マリアとカラスの相克を本人が深く語る。歌が切なくて涙。(リストは公開順)

 

 ★福嶋真砂代の2018 CINEMA10

f:id:realtokyocinema:20180410123435j:plain

(C)2017 MLD Films / NOBO LLC / SHELLAC SUD
  1. ライオンは今夜死ぬhttp://www.bitters.co.jp/lion/
  2. 『港町』/『ザ・ビッグハウス』http://minatomachi-film.com/> http://thebighouse-movie.com/
  3. 友罪https://gaga.ne.jp/yuzai/
  4. きみの鳥はうたえるhttp://kiminotori.com/
  5. ゲンボとタシの夢見るブータンhttps://www.gembototashi.com/
  6. 『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』http://child-film.com/jackson/
  7. 泳ぎすぎた夜http://oyogisugitayoru.com/
  8. ガザの美容室https://www.uplink.co.jp/gaza/
  9. ポルトの恋人たち 時の記憶』http://porto-koibitotachi.com
  10. 『オンネリとアンネリのふゆ』https://www.onnelianneli.com/

コメント:諏訪敦彦とジャン=ピエール・レオーの実験的南仏ランデブー(1)。神秘的なモノクロ映像で観察を超えた前者と後者のアメリカ社会システムの痛快観察の対比(2)。瑛太はどこまで怪演を極めるのか!(3)。三宅唱の作る佐藤泰志の新しい世界観(4)。“幸福な国”の現実を兄妹を通して見せてくれた若い才能たち(5)。ワイズマン、ワイズマン!(6)。雪景色と少年の完璧な構図(7)。ガザ日常のリアル体験(8)。ポルトガルギマランイスと柄本&中野との驚きの親和性(9)。フィンランド児童文学の最高の映像化(10)。(付録)TIFFとFILMeXは豊作。個人的グランプリはそれぞれ『三人の夫』、『自由行』でした。(リストは順不同)

 

●選者プロフィール:

archive.realtokyo.co.jp

 過去の「CINEMA10」

realtokyocinema.hatenadiary.com

realtokyocinema.hatenadiary.com

 

TIFF Report :『三人の夫』(東京国際映画祭2018 コンペティション部門)レビュー&記者会見レポ

香港からひとりの女優の強烈すぎる誕生を目撃

取材・文:福嶋真砂代

f:id:realtokyocinema:20181224134737j:plain

©Nicetop Independent Limited

『ドリアン、ドリアン』(2000)、『ハリウッド★ホンコン』(2001)に続く、香港のフルーツ・チャン監督の「娼婦三部作(売春三部作とも)」を締めくくる『三人の夫』が第31回東京国際映画祭コンペティション部門にて上映された。性欲が止まらない女、シウムイと彼女をめぐる三人の男の話だ。小さな漁船の上で暮らす漁師は娘のシウムイを老夫に嫁がせ、二人の男は彼女に売春をさせる。これだけでもショッキングな話なのだがシウムイの止められない性欲は一種の病気なので(怪しい医者にもそう診断を受ける)、こうするしかないと思うことになる。すると売春の若い客が彼女に惚れ込み三人目の男となる。ああそれもよかったと思うと、さらに彼女は客をとる。かなりの分量がセックスシーンで占められている。肉感的なシウムイの官能の表情、障害のせいでトロンとした目付きはもう彼女はそういう人なんだと思わせてしまうくらい。正直、私にはそう見えた。半分以上信じ込んでしまった。彼女を演じる女優は普通の人ではないのではないかと......。

さてそんなわけはなく、記者会見に登場した素顔のクロエ・マーヤンの凛とした、モデルのような姿のかっこよさ。MCの笠井信輔さんも「あんなに劇中で太っていたのに目の前のあなたはとてもスリム!なぜ?(実際の言葉は英語)」とスタイルの違いに目を疑うほど。まるでアクターズスタジオの俳優ではないか。その上、わざとらしさがまったくない。スクリーンの彼女の肢体、表情に目は釘付けになってしまう。金魚と一緒に水の中で戯れるシーンの優美さ。クロエは映画祭のシンポジウムでその演技について「『世の中、美しいものは大抵真実ではない。』この言葉は、女性として、私を非常に柔らかくしました。監督は、この映画を通してある種の「美』を作り上げようとしていると思います。」と述べている。監督からは「心も意識も“空っぽ”にしてほしい」と要求があったという。

クロエのシウムイという人物についの見解が興味深い。「半分は人間、半分は魚。動物ですよね。したがって、私はこの演技をする時に一生懸命、この魚はどういう風に目を開けて見せているのか。私の演技の多くは非常に魚に似ているような感じで演じたわけなんです。なんとなくこのちょっと気が狂ったみたいな性をある種、「神獣」、つまり、想像上の、中国の伝説の中ではいろいろな想像上のこういった動物、キャラクターがあるわけですね、つまり、人間と動物が合体して、何かを表現すると。私のこの役柄が単に人間、あるいは単に動物のセックスを表現しているとなりますと、私にとってはこのセックスはつまらなく、高級な感じはしないと思います。そうするとむしろ、一般の人々が考えている人間、動物のセックスというよりも、この人間と動物が合体した、このような想像上のこのキャラクターがやっているセックスというようなものは、ある種の解脱になるわけですよね。彼女は結局、自分はこのセックスを通して、一生懸命生きていくために、自分は解放されたと、そういう部分を、私の表情、私の声を通して演じたわけです。もうひとつ付け加えておきたいことがありまして、イルカの鳴き声ですね。実は私が子供の時にイルカの鳴き声を真似するのが超得意でした。私がワーと鳴くと、建物全体の電気が点いてついてしまうぐらいに。つまり、一番得意な部分を監督の映画の中で活かされたわけです。」

また注目すべきは、香港という街の運命がこの映画に投影されていること。脚本のキートーはインタビューでこう語る。「人魚伝説は、香港を象徴した歴史的なものです。香港はもともと水上生活をメインにした漁港でした。それが経済発展とともに、みな陸に動きました。ただ低下層の人たちは、陸の生活に慣れない。結局、大澳の水上生活に移動し、最終的に船に戻っていった。歴史が流れても、香港はもとに戻っていくということです。」

受賞にはならなかったが、クロエ・マーヤンという強烈な女優の誕生を目の当たりにした迫力の作品だった。これからの彼女の活躍に注目したい。

f:id:realtokyocinema:20181224135649j:plain

@realtokyocinema2018

フルーツ・チャン監督、女優クロエ・マーヤン、脚本のラム・キートー

『三人の夫』記者会見 2018.10.28@TOHOシネマズ 六本木ヒルズ 

MC:笠井 信輔アナウンサー

ラム・キートー:僕は香港で50本以上作品を書いていて、これが最新作です。

ーーセックスシーンが満載の映画に衝撃を受けた方も多いと思うのですが、性欲が止まらない女性シウムイと、彼女を買うために並ぶ男たち。それが何を象徴しているのかわかりませんが、私から見ると日本で爆買いをする物欲が治らない中国人の姿と重なってくるのですが、監督はどうお考えでしょうか。

フルーツ・チャンまず本来この性欲というのは男性特有のものだと思うのですが、性欲をテーマにして女性を描いたのは私にとって初めてです。自分としてもこの性欲がどこまで、どのぐらいまで行くのかわからないので苦労したところです。医者に聞くと、女性の性欲も無尽蔵で満足いくまで止まらないものだと教えてくれました。

ーーこの強すぎるヒロインの性欲は何を象徴していると?

チャン:実はファーストシーンに答えがあるのですが、火にかけられたアワビが蠢く、あのシーンがある意味象徴しています。でも何か特別な意味を象徴しているということではないのです。

ーーマーヤンさんは映画の中でとてもふっくらした女性を演じていましたが、いまの姿はとてもスリムですね。なぜですか?(なぜ?という質問にはびっくりしたが)

クロエ・マーヤン:ひとつには、監督からの要望で体重を増やして肉感的になることもありました。私としては力強い女性を演じようとしました。つまりシウムイは単なる“被害者”ではないということです。いまは体重は戻りました。

ーー監督は彼女に何kg増やすように言ったのですか?

そういう指示ではしなくて、時間が短かったので、できるだけ増やしてくれとお願いして、だいたい13、4kg増やしてくれました。いま目の前にいるマーヤンさんはとてもスリムな女性です。

ーーマーヤンさんが初めて脚本を読んだ感想を聞かせて下さい。

マーヤン:脚本を初めて読んだのは、香港に到着してクランクインの初日でした。読んだときは、長年待っていた脚本で、こういう役がやりたかったと思いました。

ーー日本ではなかなか、主演女優が撮影初日に脚本を目にするというのはないと思うんですが、香港ではよくあるのですか?

マーヤン:もちろんあまりそういうことはないのですが、この映画は「娼婦三部作」の最後の1本で、このシリーズのフルーツ・チャン監督の撮り方というのは、まず文字脚本を起こし、次にキャスティングをして、その後リンさんが脚本をビジュアルに起こします。ある意味、実験的な作り方だと思います。

ーーマーヤンさんのお芝居は圧倒的で、さらに精神的な危うさを含めて見事だと思います。なぜ主演経験のないマーヤンさんを大抜擢したのでしょうか?

チャン:まず中国において、ある意味「冒険」という感じなのですが、女性のセックスの映画を撮るのは中国の女優さんの中ではまだまだタブーだと思います。ですので役者がなかなか決まらなかった。マーヤンとは別の映画のキャスティングで十何年か前に一度会っていて、そのときはイメージと違ったので外れたのですが、今回この映画を撮りたいと思ったときに、友人から彼女がいいんじゃないかと教えてもらって、会ってみるとシウマイにかなりイメージが近いと思い、決まりました。

ーーマーヤンさん、香港でもタブーを犯すような役柄に挑戦する決断はどうだったでしょうか。

マーヤン:私のなかではとても簡単な決断でした。自分との対話という意味で、過去の子供のころや未来の自分、いろいろ考えるなかで、いまいちばんこれを演じる時期だと感じ、私が成長していくなかで、パワフルで特別な役だと考えました。

ーーキートンさんはマーヤンさんの演技をどう思いましたか?

キートー:この作品の脚本はあて書きで書いたところが多かったです。そんななかで撮り終えたあとにクロエさんの芝居を見たら、完璧に伝えてくれたと思います。ただこれは脚本の力ではなくて、あくまで監督とクロエさんら演者の力だと思います。

Q&A:
ーー中国本土と香港での上映状況はどうでしょうか?

チャン:香港は問題なく上映できますが、中国国内では諦めています。これはある意味、社会の暗黒面だと思います。

ーー(シンガポールの記者)「脱ぐのは簡単だが、服を着るのは大変だ」などという言い方をされるかと思いますが、以前アン・リー監督作品でベッドシーンを演じた女優さんもそういう意味で苦労されたと聞いています。そこに対して心配はないのでょうか。

マーヤン:その女優さんはタン・ウェイさんですね。以前彼女と共演したことがあって、そういうご苦労された話を伺っていました。でも共演したときは彼女は心穏やかな状態でした。自分としても心配はしましたが、いちど海へ飛び込んだからには身を任せるしかないと思っています。いまみなさんの前で私も心穏やかにいます。

MC:私たちも凛とした女優さんの船出を目撃したように思います。

Information:

監督:フルーツ・チャン [陳果]

キャスト:クロエ・マーヤン、チャン・チャームマン

101分/カラー&モノクロ/2018年香港

2018.tiff-jp.net

参考サイト:

フルーツ・チャンが17年ぶりに発表した「売春三部作」に見る主演女優の圧倒的存在感|第31回東京国際映画祭

「一生懸命時間をかけてこの人物について議論した」10/28(日):シンポジウム『三人の夫』|第31回東京国際映画祭

Report: 『自由行』Q&A(東京フィルメックス2018、コンペティション)

f:id:realtokyocinema:20191010200507j:plain

この作品を作ることで変革を起こしたい

19東京フィルメックスにて上映された『自由行』は、中国から自主亡命しているイン・リャン監督が自身の経験をもとに描いた意欲作。物語は、香港に住む映画監督のヤンが、広告の職を辞したフリーの夫と幼い息子を伴って映画祭出席のために台湾を訪ねるというシンプルなものだが、ひとつ特異なことは、中国から団体旅行で来る母と旅行先の台湾で数年ぶりに再会する計画を実行に移すという、ある意味、サスペンスフィクションの様相を呈する。映画監督として、また妻、母として奮闘するヤンは、若い頃に撮った作品が原因で中国を出ることになったが、中国に住む母とはわだかまりを残したままだった。時を経て、母にどうしても会おうと思ったのには理由があり、母と娘の間の葛藤の真相がしだいに明らかになる......。

さて、特筆すべきは妻を献身的に支え、旅行の計画が乱れて妻が苛立つ時も、穏やかな空気を保とうと存在していた夫のピート・テオの渋い演技だ(追記:ピート・テオインタビュー)。意地を張り母に素直になれないでいる、娘であり、妻であり、母親でもある映画監督ヤンをゴン・チュウがリアルに演じる。また母役のナイ・アンの繊細な感情表現も素晴らしい。ほぼオールロケと思われる撮影は、母が乗るマイクロバスを追いかけて、スキマスキマの時間にうまく会えるように綿密に計画をたてた旅行の数日間をスリリングに映し出す。

前回果たされなかった来日を遂げてQ&Aに登壇したイン・リャン監督。作品を撮った動機を、「息子が将来成長して、なぜ自分があのときに台湾におばあちゃんに会いに行ったのかと考えた時、この映画から解きほどいていければ」と語った。実際には自分自身のことだが、そのポジションを妻=女性映画監督に置き換えて、「母と娘の関係性」を描く物語とした。イン・リャン監督の「これからもずっと映画を撮り続けたい」の言葉に会場から大きな拍手が送られた。中国の動静が注目されるいま、意義深いこの作品の公開が待たれる。

取材・文:福嶋真砂代

東京フィルメックス上映後のQ&A

11/22 『自由行』 Q&A
有楽町朝日ホール

イン・リャン(監督)

司会:市山 尚三(東京フィルメックス ディレクター)
樋口 裕子(通訳)

イン・リャン:こうやってここでみなさんにお会いすることができてとてもうれしいです。フィルメックスに来ることは簡単なことではなく、私にとっては素晴らしいチャンスなのです。と言いますのは、私の今回作った作品は、古い友達といろいろと語り合うような、そんな意図で作った作品なので、それを私の馴染みの観客のみなさんがいるこのフィルメックスで上映されるというのは、とてもふさわしいと思います。

この映画は私のここ6、7年来の変化、どのようにこの年月を送ってきたかを表現しています。映画を撮ることによって、またみなさんと交流して話しあうことによって、私の数年間に決着がつくというか、まとめとなるのではと思っています。

市山:イン・リャン監督は中国本土から出て、現在は香港に住んでいますが、しばらく中国に戻れないという生活を続けています。この映画にご自身の体験が反映されているのであろうと思います。まずこの作品を作ったきっかけ、ストーリーの発想の元を教えてください。

リャン:この映画の台湾旅行は事実に基づいた話です。唯一違うところは、台湾で会ったのは自分自身の親ではなくて、妻の親でした。私自身の親とは6、7年会っていません。

直接的な動機としては、私には5歳になる息子がいて、この脚本を書き始めた時は3歳でした。この子が将来成長して、なぜ自分があのときに台湾におばあちゃんに会いに行ったのかと考えた時、この映画から解きほどいていければと思ったんです。中国人というのは私の上の世代の人もずっと、何代にも渡っていろんな苦難に見舞われてきました。国に対する恐れがあり、苦難に見舞われても、それを直接的に表現することができないでいる。またいまの自分の生活に影響がでるのではないかという恐怖、そういうことがあるので、私は映画を撮ることでそれを変革したいと思ったことがこの作品を撮る大きな動機でした。

みなさんに私の妻のサンサンをご紹介します(会場を指して)。彼女はこの作品の脚本も担当していて、この映画の中の中国から来たガイド役も演じています。

 市山:息子さんもいらしていますね。では会場でご質問のある方どうぞ。

Q:監督の前作の『私には言いたいことがある』を観た時にすごく感動しました。しかしその映画の上映後にはリャン監督が中国へ帰れなくなり、やむなく香港に留まらざるを得なくなりました。劇中、映画の記者がヤン監督に次のような質問をします。「あなたは中国人ですか、それとも香港人ですか」と問われたヤン監督は「パッセンジャー(字幕は異邦人)です」と答えます。このシーンを作ったときの監督の心境を聞かせて下さい。

リャン:人生の中で「自由」ということに価値があるとするならば、それがなければ失望します。それも故国で自由がないとすれば孤独を感じます。故国が自分からますます自分から遠くなるように思うのです。すると外でさすらう異邦人ということになります。いくつかの選択肢があるわけですが、ひとつは自由を得るという価値を手放してしまうこと。もうひとつは自由が得られないということを認めず、そこから離れようとすることです。そうすると自分の身分はその時点で国籍を手放すわけです。それは中国でも、台湾でも、アメリカでも、香港にいてもです。そういう意味でそのシーンを作りました。

Q:実際とは違い、奥さんを主人公の「映画監督」として描こうとしたシナリオは、サンサンさんかあるいはリャン監督か、どちらのアイデアですか? またそれについて議論しましたか。

リャン:この映画の脚本は3人で書きました、私のほかの2人は女性です。私の妻のサンサンともうひとりは小説家でもあるチャン・ウァイさん。ウァイさんは私たちより少し年上で、彼女の背景は私たちとはまた全然違います。3人で書いたことの利点は、自分たちのことというのはあまりにも近すぎて見えないのですが、(外の人である)ウァイさんには逆に見えるということです。監督を男性として描いたとすると100%自分自身のことでしょと言われますから。私と同じような境遇で亡命している多くの人たちの経験を、この役に組み込んであります。また母と娘の関係性を描いたということで、私にはやりやすかったと言えます。さらにこの話は単に私の経験を語っているだけではなく、私とよく似た経験をした人たちの集大成ととも言えます。ウァイさんは母と娘を題材にした小説をたくさん書いていて、母と娘の関係性を描くのが上手な方です。そういうこともあって主人公を女性にしました。

Q:監督がようやく香港の永住権を取得できたことは映画制作に何か影響はありますか?

リャン:実にこの6、7年の間に、私たち家族はいろいろな苦難に見舞われました。香港に移った当時は居住権がなく、臨時の居住証をもらわなければならなかったので、多くの友人たちの助けを借りました。7年経って永住権を得ることができたのですが、それは今年の9月28日、まさに「雨傘運動」が起きたのと同じ日(運動の4年後)だったのです。これは特別な意味合いがあると思っています。もちろん香港での永住権があるということは、生活のための大きな助けとなります。前回はビザが切れてしまったのでフィルメックスに来日することができませんでした。そういう点では自由を得たと思っています。ただ香港にはまた別の問題があり、多くの映画監督たちが作品を作っても映画館で上映できなかったり、大陸の目が怖くてなかなか発表できないということが大きな問題があります。ただ私自身はインディペンデントでやってきたので、状況がどうあれ、語りたいことがあり、撮りたいことがあれば、また見てくれる観客の方がいるならば、ずっと映画を撮り続けていくと思います。(会場から大きな拍手)

市山:この映画は香港や台湾で公開されましたか?

リャン:先日、台湾の高雄の映画祭で上映されました。また香港のアジア映画祭でも上映されます。台湾では今後定期的に上映される予定があります。

(※このQ&Aは2018年11月22日に行われました)

 

第19回東京フィルメックスパンフレットに掲載されたイン・リャン監督のメッセージを以下に全文引用します。

サルトルが言っているように、自由であることは一つの罰だ。この5年間、私はめまぐるしい出来事の渦の中にいた。本作『自由行』は、押し付けられたものにせよ、自分で招いたものであるにせよ、私が感じた人生の不条理な本質についての要約であり、表現である。それは、誰にも選択肢を持ちようのない類のものであるように思う。それでも、亡命していることが、自分が責任を回避するための言い訳になってはいないだろうか? 自由は独裁政権の内でも外でも、秩序の内でも外でも、あるいは国家の内でも外でも、どこでも行使し得る。国家システムの形をとった「敵」との対面を避けるために、あの国から離れたことが、私の創作から意味を失わせただろうか? もしそうであるなら、私の人生や創作には、最初からあまり意味はなかったことになる。自立とは何か? 自由とは何か? この5年間、私は厳格に、真剣に、自覚を持ってこれらの問いについて考え続けてこられただろうか?

Information:

『自由行』

台湾、香港、シンガポール、マレーシア / 2018 / 107分
監督:イン・リャン(YING Liang)

A Family Tour
Taiwan, Hong Kong/ 2018 / 107 min.
Director: YING Liang

中国から香港に移住して活動を続けるイン・リャンが自己の境遇を投影した作品。創作の自由のために自主亡命せざるを得なかった映画作家の葛藤が見る者の胸に突き刺さる。ロカルノ映画祭で上映された。

 

realtokyocinema.hatenadiary.com

 

『自由行』 A Family Tour | 第19回「東京フィルメックス」