REALTOKYO CINEMA

リアルトウキョウシネマです。映画に関するインタビュー、レポート、作品レビュー等をお届けします。

Report 9「めぐりあい JAXA 2018 -かぐやとだいちとわたしたち-」の観望会@せんがわ劇場(調布映画祭)

衛星『だいち』が捉えた地表(東北地方)、何を語る?

文:福嶋真砂代

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2018年2月17日、せんがわ劇場にて「めぐりあいJAXA 2018 -かぐやとだいちとわたしたち」の観望会(調布映画祭)」が行われ、会場は宇宙ファンと地元のみなさんで満員になりました。昨年に続いて2回目となります。今回は、第1部「『かぐや』が捉えた月面(テクノロジーお月見:山あり谷あり穴あり!)」第2部「衛星『だいち』が捉えた地表(東北地方(だいち最後の仕事 311を観測する)」の2部構成でした。
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この「『めぐりあいJAXAの観望会」は、JAXA宇宙航空研究開発機構人工衛星から送られた膨大なデータから、テーマに沿ったセレクション画像を動画に変換、新たな「映像」という形にして、地球のみんなで”ただひたすら”眺めようというシンプル極まる趣旨のイベント。キュレーターの澤隆志さんを中心に集まった宇宙愛好有志でサポートしています。映像作家の五島一浩さんが映像を制作、ゲスト解説者には、JAXAの度會英教さん、RESTEC一般財団法人リモート・センシング技術センター)の向井田明さん&山本彩さんを迎えました。また今回初の試みの幕間サウンド、ゲストDJのJUN80KIDZ)さんが創るクールなせんがわ的宇宙空間演出も堪能しました。衛星映像には音も音楽もなく、まるで真空状態の宇宙空間を疑似体験するかのように、サイレントな空間に遊び、目の前の大スクリーンには地球や月の映像が流れていく。どこが映されているかという解説もなく、テロップもない。ただただ眺めることに集中する、そんな観望会です。

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第1部「『かぐや』が捉えた月面 [テクノロジーお月見:山あり谷あり穴あり!] では、まず度會さんナビゲートによる月周回衛星「かぐや」のあらましと仕事についてのわかりやすい解説に耳を傾けた後、鉱物研究のバックグラウンドを持つ山本さんから「かぐや」のミッションやトリビア、穴の話、また月の誕生について鉱物的なアプローチに心ときめかせるひととき。なんと月と地球は「恋人関係」に近いかもしれない説、「アポロ11号は本当に行ったの?」と挑発的な突っ込みを入れる澤さんにドキドキしながら(着陸エビデンスがあるのだそう)、月への思いが深まった頃、かぐやが捉えた月面の表裏まるごと、あの有名になった「地球の出」も、そしてかぐやの最期の瞬間まで、約30分間の完全なる静寂の中での「お月見」は荘厳でした。

-intermission-

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第2部「衛星『だいち』が捉えた地表(東北地方)[だいち最後の仕事 311を観測する]」では、2011311東日本大震災前後のデータにフォーカス。関係機関各方面からの要請に応じてデータの提供に東奔西走していた向井田さんが、リモートセンシングの緊迫の現場でどんな仕事をしていたのか、また震災の前と後の「だいち」から送られた画像の差異について、リモートセンシングプロ視点による画像の見方を明かしてくれました。地球にどんなことが起ころうとも、ひたすら地球観測を続け、データを送り続ける「だいち」とリモートセンシングの仕事の重要性をあらためて感じつつ、震災当時撮影された画像を含む約30分間の地球(東北)を見つめました。

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“めぐりあいJAXA”とめぐりあう

ところで唐突ですが、私とこのプロジェクトとの関わりを紹介するため、ちょっと時間をさかのぼります。JAXA(当時NASDA)のALOS(「だいち」陸域観測技術衛星 2006124日打ち上げ-2011422日ミッション終了)プロジェクトチームのウェブ担当者としてRESTECに在籍したのは打ち上げ前の短い期間でしたが、そこで、H-IIAロケットに乗って打ち上げられ、地球を周回してデータを送り続ける、3つの目(パンクロマチック立体視センサ(PRISM)、高性能可視近赤外放射計2型(AVNIR-2)、フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ(PALSAR))を持つ人工衛星「だいち」にめぐりあいました。人間の役割は、地球上でデータを受けとり、解析データを様々な研究(地震津波、台風などの災害状況の観測や防災分野のほか、森林監視や自然環境の保全、農業分野での活用、25千分1地形図の作成に利用されるなど、幅広い分野で「だいち」の観測データが活用されてきました。5年間で全世界を約650万シーンも撮影しました。2011年に発生した東日本大震災では、被災地を400シーンを撮影、各関係機関に情報を提供し続けました。ーだいちHPより)に活用することと知りました。率直な感想を言えば、観測活動そのものにはひとかけらの派手さもない、地味な仕事の繰り返しであること。しかしデータが一旦「画像」という形に変換されたとき、その美しさに圧倒されずにはいられない。それら膨大な素材が、もし一般の人の目に触れる機会が少なく、どこかに眠っているとしたら惜しい、そんな思いをふと持ちました。

その膨大なデータとともに、科学者たちの職人技とも言える解析と、たゆまぬ研究努力、とりわけ地球観測という現場において働く人々のことを書いてみたいと、以前コラム(『ご近所のOLさんは、先端に腰掛けていた。』)を連載していた『ほぼ日(ほぼ日刊イトイ新聞)』の糸井重里編集長に相談したところ、「それ、やりましょう。ぼくも宇宙は好きだし、ロケット打ち上げも見たいね」ということで『お隣が宇宙、同僚がロケット』というコラムをスタートさせてくれました。しかし仕事とコラムの両立は難航し、ささやかな情熱は宇宙の彼方のデブリになってしまったかのようでした。その後も向井田さんと共に企みと挫折を繰り返し、いろいろ諦めかけていた2016年の秋、突然、澤さんから「調布映画祭のイベントで「だいち」のコンテンツを観せることができないかな」と相談を受けました。(あれは東京フィルメックスの合間のカフェでしたね。)すぐに浮かんだのは、やっぱりRESTEC元同僚の向井田さんの顔。過密スケジュールの合間をぬって、澤さんと向井田さんの運命の「めぐりあい」が実現(偶然にもふたりとも自転車乗りで、何かがハマるカ”チャリ”という音が聴こえたような、聴こえないような......)、現在に至ります。

大盛況だった筑波宇宙センター特別公開日(2017年9月30日)の観望会を入れると3回目の上映会となった今回、向井田さんのリモセン魂と、度會さんの日本の宇宙事業を網羅するやわらかな解説、山本さんのエッジの効いた鉱物トークがぐっと彩りを添え、さらに澤さんの「突っ込みMC」はますますドライブがかかってきました。今後も、興味深いテーマを追いかけ、「だいち」と一緒にまわるめぐりあいの旅、 観望ツアーはまだまだ続きます。

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参考サイト

めぐりあいJAXA2018 - YouTube

www.jaxa.jp

www.jaxa.jp

www.restec.or.jp

KazuhiroGoshima_index

http://80kidz.net/home/ 

www.facebook.com

realtokyocinema.hatenadiary.com

 

衛星「かぐや」と「だいち」 ©JAXA - 調布経済新聞

Review 25『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』

お笑いでオブラートし重病の核心に迫る

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(C)2017 WHILE YOU WERE COMATOSE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

はたしてアメリカは目覚めることができるのか? はたまた重病のまま眠りについてしまうのか? そんなことを考えさせるタイトル「ビッグ・シック」とはなんとも意味深。何よりトランプ政権のいまのアメリカ、直球ど真ん中コースだ。映画の中では突如病に倒れ、治療のために昏睡状態となっているエミリーの病状のことでもあるが、描かれる周囲のドタバタ劇は実に現代アメリカの「シック=病気」状態。深刻さをお笑いで包み込みながら核心に迫るあたり、かなりインテリジェントだ。アメリカ5館から始まり、またたく間に上映館が増え、アカデミー賞候補に。共感のさざ波はすごい勢いで広まりビッグウェーブになっている。

シカゴに住むパキスタン系移民の芸人の卵、クメイルが主人公。演じるのは芸人で作家のクメイル・ナンジアニ。脚本は彼と妻のエミリーが共同脚本で名を連ねる。つまり、自分たちのラブ・ロマンスを自ら脚本を書き、クメイル本人が演じた実話ベースの話である。コメディライブを観にきた客のエミリー(ゾーイ・カザン)から野次を飛ばされ、言い返したことがきっかけでつきあい始めるふたり。しかしクメイルの家族は敬虔なイスラム教徒で、パキスタンの習慣をとても大切に守っている。逆に言えば、文化的に頑固なタイプの移民家族だ。若者クメイルのコメディはそんなパキスタン家族の”あるある”をいじるネタで構成されている(悪いけど全然ウケない)。芸人としても芽が出ず、弁護士になれという家族の期待には反発し、家を離れ、大学に在籍しながらウーバータクシーの運転手のアルバイトをしている。よくいるモラトリアム大学生の典型だし、見合いをおしつける厳格な母も少し前の日本の姿に似ている。そういえば『火花』では日本の芸人舞台裏が湿り気たっぷりに描かれていたが、アメリカの売れない芸人事情はドライな感じ。でもそこには異文化、人種、政治、宗教問題と複雑な要素が入り混ざる。

クメイルの家族にはベテランのインド人俳優アヌパム・カー、舞台女優で有名なゼノビア・シュロフなどボリウッドファンにもうれしい芸達者揃いで、白人のエミリーの両親との違いがよく映る。現代でもこれほど保守的で古風なのだろうか。きっとそうなのだろう。日本でもいまだにこの傾向はある。そしてクメイルの宗教への複雑な悩みに切り込むあたり、一方的な偏見への一石になるのかも。

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(C)2017 WHILE YOU WERE COMATOSE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

◇蘇るホリー・ハンターのマシンガントーク

実は私がいちばん興奮したのは、ホリー・ハンターのマシンガントークだ。『ピアノ・レッスン』の静的な凄みで知られる彼女は実は「動」の人で、彼女の個性的なしゃべり力(りょく)は強烈だ。本作のレイ・ロマノとのコンビネーションはまさに漫才コンビで、芸人としてこのままデビューしてくれてもいいよと思うくらい小気味好い。この夫婦とクメイルのガチなやりとりは、異文化間、世代間ギャップと向き合い、境界を超えようとする人々へのヒントになる。簡単に言えば、対話と行動なのだ。だがそこがうまくいかない。そんな中、ほっこりするのはクメイルの温和な性格。コメディアンを目指しながらガツガツしない育ちのよさ(は芸人として弱点だが)。しかし自分に正直に、自分の道は自分で拓く、やりたくないお祈りはやらないけど、家族には内緒にしておくとか、家族思いだからこその嘘もつく。そんな繊細に葛藤する様にも共感がわく。多民族、異文化を受け入れてきたアメリカの複雑な現代事情の一面を、重苦しくなくポップに描く。「ラブストーリーかと思って観たらなんだかいろいろ深かったね」なんて声が聞こえそう。いちばん大事なのは「自分たちはどうなのか」ということに思考が及ぶことかも。他者へ寛容について考える機会になればクメイル作戦成功だ。なんてことを踏まえた上で、アカデミー賞の行方も楽しみにしよう。

福嶋真砂代★★★★

 インフォメーション:

監督:マイケル・ショウォルター 
キャスト:クメイル・ナンジアニ ゾーイ・カザン レイ・ロマノ ホリー・ハンター アヌパム・カー
配給:ギャガ
上映時間:120分

gaga.ne.jp

2018年2月23日(金)よりTOHOシネマズ日本橋ほか全国順次ロードショー

Review 26『ぼくの名前はズッキーニ』

辛く苦しい思いをしている子どもたちに贈る優しいエール(もちろんおとなへも)

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(C)RITA PRODUCTIONS / BLUE SPIRIT PRODUCTIONS / GEBEKA FILMS / KNM / RTS SSR / FRANCE 3 CINEMA / RHONES-ALPES CINEMA / HELIUM FILMS / 2016

大きな目、赤い鼻、青い髪、主人公の男の子「ズッキーニ」のなんとも斬新で愛嬌のあるビジュアルはひときわ目を引く。個性的な登場人物すべての表情豊かでなめらかな動きは、パペットを操るストップモーションアニメーションで表現され、50人のスタッフで2年の歳月をかけて作られた。制作チームには白石翔子さんという日本人のスタッフも参加している(海外作品のエンドロールクレジットに日本人の名前を見つけるとなんだかうれしくなるものだ)。 

9歳の少年、ズッキーニ(本名はイカール)の物語は象徴的な凧の場面からはじまる。パパは若い女と家を出て行き、ママはアルコール依存、少年はひとりぼっちの部屋で遊ぶ毎日。そんなママでも彼を「ズッキーニ」と呼び愛していた。しかしママは不慮の事故で亡くなり、それによって心に深い傷を抱えたズッキーニ。心優しい(でもわけありそうな)警察官のレイモンに連れられて孤児院「フォンテーヌ園」に預けられる。施設の古株の子どもたちからはさっそく新入りの洗礼を浴びるが、痛みを抱える子どもたちどうし、心を通わせ、力を合わせて日々を生きるようになる。ある日、ハスキーボイスの女の子カミーユが新しく入園し、ズッキーニはさびしそうな彼女にほのかな恋心を抱く。カミーユの養護手当欲しさに叔母は養子縁組を強行しようとするが、子どもたちはそれを阻止しようとある計画を立てるのだった……。

登場人物の声には、アマチュアの子役たちがキャスティングされ、のびのび活き活きと演じ、とりわけズッキーニ役のガスパール・シュラターの演技はなんとも愛らしい。「沈黙と間」、「視線の余白」、「言葉によらないコミュニケーション」という要素を大切にして、長回しショットによって表情と感情をしっかり表現しようとしたという、パラス監督の演出の工夫が活かされている。

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(C)RITA PRODUCTIONS / BLUE SPIRIT PRODUCTIONS / GEBEKA FILMS / KNM / RTS SSR / FRANCE 3 CINEMA / RHONES-ALPES CINEMA / HELIUM FILMS / 2016

本作はスイス出身のクロード・パラス監督の長編デビュー作になる。イラストレーション、コンピュータ・グラフィックスを学び、人類学、デジタル画像の学位を修めたパラスは、ジル・パリス原作の「Autobiographie d’une courgette」の映画化を発案、「育児放棄をされ、虐待されて傷を抱えながらも必死に生きる子どもたちへのオマージュ」という気持ちでこの作品を作った。小さい作品だが、ビジュアルに優れ、しっかりしたテーマと冷静で温かい視線に支えられ、繊細な問題への慎重な配慮もすばらしい。第89回アカデミー賞長編アニメーション賞ノミネート、第74回ゴールデンブローブ賞長編アニメーション賞ノミネートほか、数々の賞を受賞している。

子どもの虐待や育児放棄のニュースが出るたびに心が痛むが、事態は一向によくならないどころか悪化している。悲惨さを暗く描くより、現実を冷静に見つめながら、人間の温もりに光を見出し、こんな温かいソリューションもあるよという原作者パリスとパラス監督からの美しく力強い”プレゼント”がうれしい。

もうひとつ、タイトルにある”ズッキーニ”はフランス語で「クルジェット」だが、その発音の音感がとてもとてもかわいい。

福嶋真砂代★★★★

boku-zucchini.jp

監督: クロード・バラ

脚本: セリーヌ・シアマ

上映時間:66分

原題: Ma vie de Courgette/My Life as a Zucchini

配給: ビターズ・エンド、ミラクルヴォイス

2018210日より新宿ピカデリーYEBISU GARDEN CINEMAほか全国にて公開

 

 

2017年 わたしの10大イベント「CINEMA10」+

2016年10月11日にスタートしたREALTOKYO CINEMAは、おかげさまで2年目に突入しました。さて遅まきながら、2017年に観た映画の中で印象に残る10本を選ぶ第2回「CINEMA10」を発表いたします。今年もそれぞれの場所で活躍するREALTOKYOゆかりのライターたち(澤 隆志、松丸亜希子、フジカワPAPA-Q、白坂ゆり、福嶋真砂代)がいろいろあった2017年を振り返りつつ、10本(あるいは6本)を厳選してくれました。個性滲み出るバラエティに富んだチョイスをお楽しみ下さい。(「+」として澤隆志スペシャル「展覧会とかpickup10」も掲載しました。)2018年も相変わらずREALTOKYO CINEMAをよろしくお願いいたします。

 2017 RT CINEMA 10 

★澤 隆志の2017 CINEMA10

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©Román Yñan
  1. 『雲の伯爵――富士山と向き合う阿部正直』 http://www.intermediatheque.jp/ja/schedule/view/id/IMT0108 
  2. 『ドーソンシティ』 @イメージフォーラム・フェスティバル』http://www.imageforumfestival.com/2017/program_a
  3. 『メッセージ』http://www.bd-dvd.sonypictures.jp/arrival/
  4. あさがくるまえにhttps://www.reallylikefilms.com/asakuru
  5. 『ジャッキー』http://jackie-movie.jp/ 
  6. 『禅と骨』 http://www.transformer.co.jp/m/zenandbones/
  7. 『ELLE エル』http://gaga.ne.jp/elle
  8. 『グットランド』 @TIFF http://2017.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=11
  9. 『立ち去った女』 http://www.magichour.co.jp/thewoman/
  10. 『私の死の物語』@アルベルト・セラ監督特集 http://www.athenee.net/culturalcenter/program/se/serras.html

コメント:はコレオグラフィーとカリグラフィーの幸福な関係。他言語との出会いゆえ「バベルの塔」展と共に。東京は編集次第で勝手芸術祭ができるから!手元に「虫の本」あれば完璧。は金鉱跡を掘ったら記憶がARRIVALした話。不定形な雲の実態をつかむべくアニメや3Dで挑む数奇者。も映画に憑かれた者である。7、8、10は顔の映画。ユペールのキョトン顔は狂気の新しい引き出し。白塗りのカリギュラはもうバカ殿様でしかないが素晴らしい。暗殺された大統領の葬儀という史上最難関”段取り”映画の。親切と副業を武器にしたおかんノワール9。恋人の親密なベッドから冷たい手術台への臓器と記憶の旅は僕の退院直後でショック大!

(3の参考リンク

★松丸亜希子の2017 CINEMA10 

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(C)2016 Akson Studio Sp. z o.o, Telewizja Polska S.A, EC 1 – Lodz Miasto Kultury, Narodowy Instytut Audiowizualny, Festiwal Filmowy Camerimage- Fundacja Tumult All Rights Reserved.
  1. 『愚行録』http://gukoroku.jp/
  2. わたしは、ダニエル・ブレイクhttp://www.longride.jp/danielblake/
  3. 『T2 トレインスポッティングhttp://www.bd-dvd.sonypictures.jp/t2trainspotting/
  4. 『美しい星』http://gaga.ne.jp/hoshi/
  5. 『三度目の殺人』http://gaga.ne.jp/sandome/
  6. 散歩する侵略者http://sanpo-movie.jp
  7. 『残像』http://zanzou-movie.com
  8. 『パターソン』http://paterson-movie.com
  9. ビジランテhttps://vigilante-movie.com/
  10. 希望のかなたhttp://kibou-film.com

コメント:新潟県に移住し、観られる作品の本数は激減しましたが、縁があって出合えた1本1本が貴重でありがたく、丁寧に、じっくり観るようになりました。大好きな監督たちの新作が劇場で観られる喜びもひとしお。たとえ短期間でも、上映回数が少なくても、地方に巡る映画が増えますように!

★白坂ゆりの2017 CINEMA6

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Photo by MARY CYBULSKI (C)2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.
  1. 『パターソン』http://paterson-movie.com/
  2. リュミエール!』http://gaga.ne.jp/lumiere!/
  3. 希望のかなたhttp://kibou-film.com/
  4. ビジランテhttps://vigilante-movie.com/index.php
  5. 『残されし大地』https://www.facebook.com/nokosareshidaichi/
  6. 『Playbackhttp://www.playback-movie.com/

コメント:は日常のなかのささやかな発見力。それは生きる動力にもなる。は、けれどそのような視点を持てない人たちのほうが、わたしの住む地方都市では実感に近いので、三郎ちゃんにわずかな希望を見るのです。には、移民や権力の問題など「排他性」への問いがあり、どちらに転ぶか、コインの裏表のようにも見えた。福島第一原子力発電所から12キロ離れた福島県双葉郡富岡町のドキュメンタリー。荒涼とした環境のなか、それでも自然の息づかい、家族の談笑があることがリアル。それが抵抗だ。三宅唱監督の2012年作だが、水戸のCinema Voiceでのトークショー映像を見て、ユーロスペースでの再映で初鑑賞。国道など、絵にならないようで絵になる風景。再生と記憶。スケボーシーンの音が巻き直しの合図のようで耳に残る。

★フジカワPAPA-Qの2017 CINEMA10

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永遠のジャンゴ© 2017 ARCHES FILMS – CURIOSA FILMS – MOANA FILMS – PATHE PRODUCTION - FRANCE 2 CINEMA - AUVERGNE-RHONE-
  1. 『Don't Blink ロバート・フランクの写した時代 』http://robertfrank-movie.jp/
  2. 『めだまろん ザ・レジデンツ・ムービー』http://www.imageforum.co.jp/theresidentsmovie/
  3. 『約束の地、メンフィス テイク・ミー・トゥ・ザ・リバー』http://www.curiouscope.jp/Memphissoul/
  4. 『バレエ・リュス パリ・オペラ座https://www.culture-ville.jp/balletrussestheaterticket
  5. 『ドリーム』http://www.foxmovies-jp.com/dreammovie/
  6. 『永遠のジャンゴ』http://www.eien-django.com/
  7. 『わたしは、フェリシテ(幸福)』http://www.moviola.jp/felicite/
  8. 『私が殺したリー・モーガンhttp://icalledhimmorgan.jp/
  9. 『ダンシング・ベートーヴェンhttp://www.synca.jp/db/
  10. 『オール・アイズ・オン・ミー』http://alleyezonme.jp/

(公開順)

コメント:音楽関連映画公開順10本。1)著名な音楽プロデューサー、ハル・ウィルナーが音楽を担当し、ボブ・ディランヴェルヴェット・アンダーグラウンドパティ・スミス等の曲が流れる。その時代時代に流れ、フランクも聞いていただろう。2)1966年結成の謎のアヴァンギャルド・ロックバンド、ザ・レジデンツの歴史と活動を追う。トップハット&目玉マスク&タキシード姿で知られているが、昨春の32年ぶりの来日公演では全然違う新たな格好で謎が増えた? 3)原題「Take Me To The River」はトーキング・ヘッズもカバーした、メンフィス・ソウルの貴公子アル・グリーンの名曲。196070年代に最高の音楽を発信したテネシー州、メンフィスに伝説的な音楽家が集まり、ソウル、ブルースのセッションを収録。ブッカー・Tオーティス・クレイ、ボビー・ブランド等が若手とコラボする場面は感動的。サントラ盤必聴。4)バレエ・リュス誕生100周年の、2009年のパリ・オペラ座での公演を収録。主宰者ディアギレフ(18721929)の生誕145年の昨年、特別に公開。『牧神の午後』(初演1912年。音楽ドビュッシー、振付ニジンスキー)、『ペトルーシュカ』(初演1911年。音楽ストラヴィンスキー、振付フォーキン)等4作品。他の作品も見たい。5)原題は「Hidden Figures」で、1962年、NASAで働く黒人女性数学者達の知られざる存在を明らかにした痛快作。人気プロデューサー、ファレル・ウィリアムズ担当のサントラ盤にはレイラ・ハサウェイ、アリシア・キーズ等著名女性歌手が参加。主役の一人、ジャネル・モネイも歌う。6)1943年、ナチス占領下のパリ。マヌーシュ・スウィングのギター奏者、ジャンゴ・ラインハルト19101953)は音楽活動をしていたが、ナチスと仏当局の圧迫が激しくなりナチスが虐殺したのはユダヤ人だけでなく、ジプシー、身体障害者等も、という歴史を人類は忘れるな。ローゼンバーグ・トリオ演奏のサントラ盤は素晴らしい。7)中部アフリカ、コンゴ民主共和国の首都キンシャサ。「幸福」という名前のフェリシテは毎晩バーで歌っているが、一人息子の事故で彼女の運命が変わる。映画に出演の、電化親指ピアノをフィーチャーするバンド、カサイ・オールスターズによるサントラ盤も強烈。8)19722月深夜のマンハッタンのジャズクラブで、著名ジャズ・トランペット奏者リー・モーガン193872)射殺という悲劇が起きた(享年33)。犯人の内縁の妻ヘレンが残したインタビューを元に、同僚ミュージシャン(ウェイン・ショーター等)の証言を加えて事件に迫る。9)モーリス・ベジャール19272007)が振付けたベートーヴェン「第九」(初演1964年)の、2014年に行われたベジャール・バレエ団と東京バレエ団による公演を追う。演奏はズービン・メータ指揮、イスラエル・フィル。「第九」のテーマを巡るベジャールジャン・ジュネの会話の逸話が面白い。10)ラッパーの2パック(本名トゥパック・アマル・シャクール。19711996)は、ブラック・パンサー党員の両親のもとNYハーレムで生まれた。ラスベガスで何者かの銃撃で倒れる迄の音楽ビジネスでの活動を描く(享年25。犯人は未だ不明)。ケンドリック・ラマー、エミネム等多くに影響力大。

★福嶋真砂代の2017 CINEMA10

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(C)P.C. GUERIN & ORFEO FILMS
  1. 『息の跡』http://ikinoato.com/
  2. マンチェスター・バイ・ザ・シーhttp://www.bitters.co.jp/manchesterbythesea/aboutthemovie.html
  3. 『午後8時の訪問者』http://www.bitters.co.jp/pm8/
  4. 『残像』http://robertfrank-movie.jp/
  5. 『Don't Blink ロバート・フランクの写した時代 』http://robertfrank-movie.jp/
  6. 『三度目の殺人』http://gaga.ne.jp/sandome/
  7. 散歩する侵略者http://sanpo-movie.jp/
  8. 『婚約者の恋人』http://frantz-movie.com/
  9. 『ミューズ・アカデミー』http://mermaidfilms.co.jp/muse/
  10. 勝手にふるえてろ!』http://furuetero-movie.com

コメント:は小森監督の鋭くも素朴で温かい視線と根性。たね屋さんはお元気かな。ストーリーテリングが秀逸。ダルデンヌ兄弟がとうとう先進機器に親和性を示した記念すべき1本。はクールな編集、インタビューしたNYのイスラエル監督もクールだった。ロバート・フランク最高! 6、7は大好きな二人の期待を裏切らないおもしろさ。はオゾンの深みを見直した(←何様)。はすべてが文句なくダントツ好み。TIFF10に出会い、引力の強さに”勝手にふるえ”ました。他にも『海辺の生と死』、『ドリーム』、『リュミエール!』、『禅と骨』、東京フィルメックスの『天使は白をまとう』と『ジョニーは行方不明』に揺り動かされた。見逃して悔しい作品も多々。心癒す作品に惹かれた1年だった。

 

●澤隆志スペシャル:

★澤 隆志 2017 展覧会とかpickup10

  1. 山崎博https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-2574.html
  2. アピチャッポン・ウィーラセタクン フィーバー・ルーム https://www.tpam.or.jp/2017/?program=fever-room
  3. street matters Everyday Holiday Squad http://blockhouse.jp/index.php?itemid=165
  4. 片岡純也 / 岩竹 理恵 http://the-container.com
  5. 須藤由希子 / 一戸建て展 http://www.takeninagawa.com/
  6. 千葉正也 思い出をどうするかについて、ライトボックス⾵間接照明、⼋つ裂き光輪、キスしたい気持ち、 家族の物語、相模川ストーンバーガー、わすれてメデューサ50m先の要素などを⽤いて http://shugoarts.com/news/2951/
  7. コンサベーション_ピース ここからむこうへ part A 青野文昭展 http://www.musashino-culture.or.jp/a_museum/exhibitioninfo/2017/06/-part-a.html
  8. 単色のリズム 韓国の抽象 http://www.operacity.jp/ag/exh202/
  9. 杉戸洋 とんぼとのりしろ http://www.tobikan.jp/exhibition/2017_hiroshisugito.html
  10. 吉開菜央個展  呼吸する部屋 http://aikowadagallery.com/ja/aikowadagallery/exhibition/2017/YOSHIGAI/

●選者プロフィール:

archive.realtokyo.co.jp


www.realtokyo.co.jp

Review 25『サファリ』

後味の悪さが癖になる、ザイドルのアフリカドキュメンタリー

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WDR Copyright © Vienna 2016

▪️トロフィ・ハンターたちを粛々と狙う、ある意味ハンターなザイドル

オーストリアのウルリヒ・ザイドル監督。フィクション『パラダイス3部作 愛/神/希望』でもユニークな視点で度肝を抜いてくれたが、最新ドキュメンタリーもかなり刺激的だ。「私はアフリカのトロフィー・ハンティングがどのように運営されていて、どのような人々が携わっていて、どのような感情でトロフィー・ハンティングをしているかを見せたかった」とインタビューでザイドルが語っている。まさにその通りの映画である。まるでフィクションかと錯覚を起こすくらい美しく計算された映像が印象的だ。静寂のなか、超クールにシンメトリックな構図を多用した映像で狙った人間たちとその行為を提示する。その意味ではザイドルもアーティスティックなハンターだ。彼は人間たちを狙う。

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▪️どのように被写体を選ぶのか

「先入観を持たず、中立的な立場で、なぜ人々は”殺戮の休日”に衝き動かされるのかを見たかった。そのため私は、ハンティングに対して信念を持ち、自らの行為を正当化できて、映画で全てをさらけ出せるハンターたちを見つけなければならなかった」とまたインタビューで語り、そんな最適なハンターたちを見つけたのだ。彼らはアフリカに生息する野生動物(という体裁で)に狙いを定めて仕留める。そこに美学を求める。銃を撃つ時の高揚感、命中させるスリルとエクスタシー、仕留め方の美しさについてハンターたちは嬉々として語る。そんな彼らの会話がこの映画の肝でもある。いかにうれしそうで楽しそうか。苦痛を与える側の快感。彼らが正当性を訴えれば訴えるほど、滑稽に聞こえる。そんな倫理に反することを普通の人間なら隠すかもしれない。でもそこをザイドルならではの撮影術(コミュニケーション)で丸裸にする。人間の強欲の正体がみえる。

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ザイドルが狙う獲物=人間は、とりわけ特異な人々ではない。近代文明人としては「普通」レベルの人間だ。いや少しお金持ちで、少し生活レベルが高くて、少しスノッブで、少し休暇が多く、少しお金持ち。つまりお金持ちだ。使用人を使い慣れているヨーロッパ中流クラスの人々。どんな職業かわからないが、アフリカ、ナミビアのハンティングロッジに長く滞在して、優雅なハンティングに興じる。ふと昔愛読していた大貫妙子著の「神さまの目覚し時計」(角川書店1986年)を思い出した。大貫さんの書くケニアサファリ体験に憧れた。トゥリートップロッジに泊まり、気球に乗って保護区の動物をサファリカーから眺めた後はシャンペンブレックファストと洒落こむ。現代の「サファリ」と呼ばれる可愛らしい遊びに「狩猟」が含まれていることはもう予想しないだろう。しかし......。

▪️自分の欲望を満たすことを「愉しむ」裏側の世界

だがザイドル映画はいまなお「観光」の一環として普通に行われているトロフィー・ハンティングについて赤裸々に紹介するだけでなく、白人の快楽の裏で仕事をする現地民(主に黒人)の仕事についても一部始終を理路整然と撮る。現地民たちは旅行者がハントした動物を、旅行者には見えない部屋で解体し、血を抜き、美しい形(剥製)となるように淡々と仕事をする(その肉を食べるシーンもある)。これで彼らは生計を立てている。それが現実だ。その仕事現場はものすごい臭気が充満しているだろう。だがそれこそがとても自然なアフリカ大地の匂いだ。それを嗅がないとこの映画の本質はもしかしたらすべて伝わらないのかもしれない。それをトロフィー・ハンターたちも嗅がないのか、嗅いでいるのか。ザイドルが表に見えないものを可視化することの意味は大きい。人間の本質をみること、それは自分の姿かもしれない。なんともいえない後味がする。そしてザイドルは癖になる。

福嶋真砂代★★★★

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インフォメーション:
監督 ウルリヒ・ザイドル 
脚本 ウルリヒ・ザイドル、ヴェロニカ・フランツ
2016
年/オーストリア90分/16:9/カラー/5.1ch/ドイツ語、オーストリア語/日本語版字幕 佐藤惠子/後援 オーストリア大使館/オーストリア文化フォーラム/配給 サニーフィルム

20181月27日((土)よりシアター・イメージフォーラム2月よりシネ・リーブル梅田ほか全国劇場ロードショー!!

www.movie-safari.com