REALTOKYO CINEMA

リアルトウキョウシネマです。映画に関するインタビュー、レポート、作品レビュー等をお届けします。

Report 003 『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』ティム・バートン監督会見と双子の秘密

f:id:realtokyocinema:20170203165410j:plain

日本版”奇妙な双子”のかわいらしさにティム・バートン監督もめろめろ

まさにおもちゃ箱をひっくり返したようなファンタジックな世界観を可視化する天才監督ティム・バートンが、最新作『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』の公開に向けて来日した。特異な能力を持つこどもたちが住む孤島を舞台にしたランサム・リグズの長編デビュー小説「ハヤブサが守る家」を原作にバートンの魔法をかけて、「みんな違っていていい」「ありのままの自分を受け入れる」というやさしいメッセージが流れるスリリングなワンダーワールドを作り上げた。宙に浮く少女、後頭部の口でワイルドに食事する少女、体の中に蜂を飼う少年、指先から火を放つ少女に怪力少女と、個性的なこどもたちの登場シーンは楽しくて仕方ないが、ひときわ筆者の目を引いたのは無口な双子。白いソフトな素材の上下服を着て白の仮面で顔を隠す、この双子から目が離せなくなった。双子は何やら凶暴そうな性質を持っているような持っていないような、何も能力を露わさないところも魅力的。双子のキャラクターの誕生秘話をぜひ監督に聞いてみたいところだったが残念ながら聞けず、うずうずしていた時にはこの会見場にまさかその双子がスタンバイしていたとは知らなかった。特に双子に関する記者からの質問もなく会見が過ぎ、最後にMCが「双子が怖かったですね」とさりげなくメンションしたのみ。すると監督は「双子はカワイイと同時に怖しい」と双子についての見解を語ってくれました。その直後に松井愛莉さんと一緒に登場したのは生(ナマ)の双子たち。仮面を脱ぐと最近人気急上昇の「りんか&あんな」ちゃんだった。しかしこの子たちの動きの「奇妙さ」はなんともこの映画にぴったり。カメラや多くの記者に囲まれても物怖じせずに、(まるで映画の双子のように)クマのぬいぐるみで遊びながらマイペースに楽しんでいる。クマで顔が隠れてしまうのでクマを下げてとカメラマンから指示が出て、松井さんに優しく促されてもクマは常に顔の前に。なんともキュートな双子に、ティム・バートン監督もすっかり目を細めパパの顔になっていました。(のちにTBS「王様のブランチ」ではおそらく古い写真コレクターのリグズの物と思われる双子の写真が紹介されていた。)双子の感想になってしまいましたが、記者会見の模様も以下掲載します。原作者のランサム・リグズのプロフィールを見ると映像制作出身の小説家ということで、フィルムメーカーでもある彼とバートンが協働で映画化したという話もうなずける。

Q:原作に書かれたキャラクターを視覚化する難しさは?

映画化する際にいくつかの変更を加えました。例えば、エマという女の子は原作では火を扱う超能力を持つ女の子だったのですが、僕は「宙に浮いている女の子」に詩的で美しいイメージがあって、それでエマを宙に浮くことができる女の子に変更しました。そうは言っても全体的には原作の精神をしっかり保つことを大事にしました。

Q:沈没船が浮上するシーンが美しかったです。またエマには原作にはない「空気を操る能力」を持たせたことで物語が大きく変化します。これは監督のアイディアですか?

もちろん本を読むという体験と映画を観るという視覚的な体験は違うものです。謎めいた部分、詩的な部分、美しさを表現することで、幸いにも原作者のリグズさんと協力して共同で映画を作ることができました。船のシーンは原作にあるものですが、リグズさんは古い写真に着想を得て作品作りをしている方です。静止画で捉えられていることを映像で伝えることは自分にとっては大きなチャレンジでしたが、もともと原作が持っている詩のような美しさを損なわずに表現することに力を尽くしました。

Q:ミス・ペレグリンは時間を操る能力のある女性でしたが、監督が時間を操れるとしたらどの時間に戻りたいですか。

僕自身は時間の管理がとても苦手な人間なんです。だから今日は何日かとか聞かないで下さい。そんな私がこのように時間を扱う映画を作ることは、僕をよく知る友人からも愉快に思われるくらい苦手なことなんですが、時を戻したり未来へ行くということより、いま現在を精一杯生きること、日々、目一杯いい形で過ごしたいと思っています。

Q:この映画はタイムリープをモチーフにしていますが、これまでのタイムトラベルやタイムリープの映画はたくさん作られていて、日本でも最近は時間をモチーフにした映画が注目されています。このような映画を監督はどのように分析していますか。

タイムリープ映画が作られていることは興味深く、意識はしてはいますが、僕は技術的な側面よりも感情面で作品を見ているので、たとえばこの作品では囚われたこどもたちを守るためにそういうモチーフを使っています。あまり技術的な解析とかに頼らずに描いています。

Q:奇妙でかわいらしいこどもたちが登場しますが、こどもたちと仕事をした感想は?

こどもたちの中には演技未経験者もいましたので、僕にとっては新しい経験になりました。実物の建物やセットで撮影したり、あまりCGIに頼らずに、環境を作ってこどもたちに演技をしてもらうことで、経験のなかで感じてもらうというという方法をとりました。またこどもたちは進んで自分たちでスタントをやりました。時には僕のこどもと同じであまり言うことを聞いてくれなかったりもしました。

Q:ベルギーやフロリダの印象的なロケ地について、こだわった点は?

フロリダでは『シザーハンズ』のロケ地の近くで撮影しました。そのあたりの木々がとても高くなっていて様相が変わっていてショックだったです。僕はカリフォルニアのバーバンクで育ちましたが、そこと似たような郊外の住宅地で撮影しました。素晴らしい家を見つけて撮影でき、役者にとってもスタッフにとっても本物の建物の中で仕事をすることはインスピレーションを得る点でもとても大切だと感じました。

Q:「ありのままの自分を受け入れる」というポジティブなメッセージが心に残りましたが、ご自身の体験と何かリンクしていますか?

自分自身が経験したことを元にしていることもあります、よく周りからちょっと変わっていると思われる多くの人は芸術性に富んでいたり、静かな人であったり、いい人たちなのです。この作品にあるようなちょっと他の人と違うと思われていてもそれはいいのだということです。ちょっと奇妙なことがあったとしても、基本的には普通のこどもたちであることは大切なことだと思いました。

Q:『ダーク・シャドウ』に続いて起用したエヴァ・グリーンについて、第2のジョニー・デップになる可能性は?

ワハハハ! ジョニーは男で、エヴァは女ですからね。いや、エヴァサイレント映画の時代の女優のような雰囲気を持っていて、言葉を語らなくても伝えることができる人です。ジョニーとはちょっと違うのですがいろいろな要素を演じることができ、エモーショナルだったり、謎めいていたりという表現ができる役者です。そして何より鳥に変身しそうな感じがありました。

Q:最後の方で日本のアイテムが出るシーンがありました。そこには監督の特別な思いがありますか?

そのシーンは僕が書いたところで、日本に来て撮影したかったのですが資金が足りなくて、結局はアメリカのサウンドステージで撮ることになりました。そういう想いがこもっています。

Q:小物や衣装がとても可愛らしいです。監督のアイディアが反映されていますか。今日も靴と靴下がとてもかわいいです。

(靴と靴下を見せながら)僕はアニメーション出身ということもあって、映画のビジュアルや衣装、メイクもキャラクターの一部であると考えています。場合によっては自分で絵を描いてスタッフに説明します。見た目だけでなく感覚や気持ちを伝えることが重要なので、僕にとっては衣装や小道具はとても重要なものです。

MC:双子ちゃんは怖かったですね。

双子というのはカワイイと同時に怖いです。

 取材・文・写真:福嶋真砂代

(※この会見は2017年1月31日に行われました)

f:id:realtokyocinema:20170203165524j:plain

(左横には本物の双子が描かれています)

仮面を脱ぐと⇩

f:id:realtokyocinema:20170203165624j:plain

 

f:id:realtokyocinema:20170203165312j:plain

(C)2016 Twentieth Century Fox Film Corporation.

 

www.foxmovies-jp.com

 

2016年 わたしの10大イベント「CINEMA10」

REALTOKYOの年始恒例だった寄稿家による「私の10大イベント」行事。サイトは休刊しましたがひきつづきREALTOKYOゆかりのライターたちで「CINEMA10」を選びました。ブレグジット米大統領選と仰天出来事が続いた2016年。はて2017年はどんな世界を目撃し、どんな映画に戦慄くのでしょう? みなさんの「CINEMA10」は? 

★フジカワPAPA-Qの2016 CINEMA10 

f:id:realtokyocinema:20170128133855j:plain

 『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン(C)2015 Mr. Dynamite L.C.

  1. 『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウンhttp://uplink.co.jp/mrdynamite/
  2. JUNUNhttp://big-boots.com/JUNUN/
  3. ザ・ビートルズEIGHT DAYS A WEEK - The Touring Yearhttp://thebeatles-eightdaysaweek.jp
  4. 『ハート・オブ・ドッグ~犬が教えてくれた人生の練習~』http://dog-piano.jp
  5. MILES AHEADマイルス・デイヴィス 空白の5年間』http://www.miles-ahead.jp
  6. 『ボーダーライン』http://border-line.jp
  7. マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』http://sekai-shinryaku.jp
  8. ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリーhttp://starwars.disney.co.jp/home.html
  9. 『アルジェの戦い』http://algeri2016.com
  10. 『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』http://eyesky.jp

コメント:多かった音楽映画5本とポスト・トゥルース時代の戦争関連映画5本(公開順)。1公民権運動にも関わったJBの魅力を再発見。2レディオヘッドジョニー・グリーンウッドと印度ラジャスタンの音楽家の演奏をポール・トーマス・アンダーソンが撮影。3世界のアイドルが196465年の米国ツアー中に南部の人種差別に抗議する場面が重要。4ローリー・アンダーソン監督の人生の私的スケッチ。最後に流れるルー・リードの歌に泣く。5マイルス・デイヴィス生誕90&没後25年。監督主演のドン・チードルのジャズ愛。MAY THE MUSIC BE WITH US6歪んだ荒涼たる風景が圧巻。7ベルリンの壁も金槌で壊せるという歴史の教え。8普通の人間が希望を失わずに生きれば未来を開ける。9 1966年の名作復活。歴史から学べ!10現代ドローン戦争の醜悪な実態。人間社会がいかにShitであるかを知り、ではどうするかを考える為に映画に打たれよ。

 

★澤 隆志の2016 CINEMA10

f:id:realtokyocinema:20170125151259j:plain

 『ミシェル・ウェルベック誘拐事件』

  1. スティーブ・ジョブズhttps://www.uphe.com/movies/steve-jobs
  2. 『俳優、ヘルムート・バーガーhttp://imageforumfestival.com/2016/program_n
  3. 『ミシェル・ウェルベック誘拐事件』http://imageforumfestival.com/2016/archives/1687
  4. 『キャロル』http://carol-movie.com/
  5. シン・ゴジラhttp://shin-godzilla.jp/
  6. 『映画よ、さようなら』http://www.action-inc.co.jp/vida/
  7. 『チリの闘い』http://www.ivc-tokyo.co.jp/chile-tatakai/
  8. 『サファリ』at 東京国際映画祭2016http://2016.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=141
  9. この世界の片隅にhttp://konosekai.jp/
  10.  特別上映会『サスペリアhttp://www.iictokyo.esteri.it/iic_tokyo/ja/gli_eventi/calendario/2016/11/suspiria.html

コメント:イベントで一年中しゃべりっぱなしだった2016年。都知事選の日に上陸地の品川で見た5や秋祭りの喧騒を避けて見た7は大都市の真ん中でみるべき映画体験と言える。1は俳優が決して似ていなくても十分クズっぷりを堪能できるし、2は美の権化のような俳優がクズになった様がとてもイイ!3は自分の容姿や存在感が俳優レベルと気付いた作家の独壇場。4、6、9はタイプは違えど今後も語られるだろう宝のような体験。8は監督の悪意がエンタメになりうるという実験。10は吉本ばななA・アルジェントの意外なつながり(偉大でやっかいな父がいる故)のトークを聴けてよかった。映画ではないがTDWの事故は忘れてはいけないと強く思った。

 

★福嶋真砂代の2016 CINEMA10

f:id:realtokyocinema:20170125162940j:plain

リリーのすべて』(C)2015 Universal Studios. All Rights Reserved. 

  1. リリーのすべてhttp://www.realtokyo.co.jp/events/view/43332
  2. 『99分, 世界美味めぐり』http://www.realtokyo.co.jp/events/view/43110
  3. 『牡蠣工場』http://www.realtokyo.co.jp/events/view/43203
  4. 『聖なる呼吸: ヨガのルーツに出会う旅』http://www.realtokyo.co.jp/events/view/44158
  5. 『ダゲレオタイプの女』http://www.realtokyo.co.jp/events/view/44326
  6. 永い言い訳http://www.realtokyo.co.jp/events/view/44345
  7. 『お父さんと伊藤さん』http://www.realtokyo.co.jp/events/view/44322
  8. 『光りの墓』http://www.realtokyo.co.jp/events/view/43374
  9. 裸足の季節http://www.realtokyo.co.jp/events/view/43763
  10. この世界の片隅にhttp://konosekai.jp/

(番外『木靴の樹http://www.realtokyo.co.jp/events/view/43228

コメント:エディ・レッドメインの怪力を見せつけた『博士と彼女のセオリー』に並ぶエディ的満点映画。『ファンタスティックビーストと魔法使いの旅』では怪力が魔力になるわけですが。2と4は不思議な身体感覚。あたかも自分が美味の旅をしたり、ヨガ行者になったり。3の想田”観察”映画、牛窓からの発信力の強さ。世界各地で上映され熱量は増幅中。邦画も豊作年だった。6、7、10は特に心震わし、『湯を沸かすほど熱い愛』も次点に。10はキャスティングも大当たり。邦画と呼ぶかどうか、5はインタビューが実現した黒沢清フランスでの監督デビュー作、今後ますますの海外進出を期待。番外は1978年作のリバイバル上映、生涯ベスト10入りに。 (順不同)

 

www.realtokyo.co.jp

 

Report 002『ホームレス ニューヨークと寝た男』公開記念プレミアム・トーク

f:id:realtokyocinema:20170127144845j:plain

「お金がなくても、いい人生を楽しみたい」をモットーに生きてきた

モデル出身のホームレスの男に3年間密着したドキュメンタリー、『ホームレス ニューヨークと寝た男』(トーマス・ヴィルテンゾーン監督)主役のマーク・レイさんが来日。公開直前イベント「公開記念プレミアム・トーク」が行われ、過去に車中生活の経験を持つ映画コメンテーターLiLiCOさんとお互いの”ホームレス生活”について語り合った。その模様をお届けします。

ブラウンのシックなスーツに身を包み、とても「ホームレス」には見えないダンディな出で立ち。マークさんはヨーロッパで活躍した元モデルで、現在の職業はストリートフォトグラファー、しかし住む家を持たず、ニューヨークのビルの屋上で寝泊まりし、ジムのロッカー4つに入る物しか所持しないミニマルな生活をしている(現在57歳)。家賃や物価の高いニューヨークで自由に暮らすためにマイウェイを貫くマークだが、実家の母に会いに行き、あまり成功しなかった息子としての不甲斐なさにうなだれる姿も赤裸々に映す。それにしても、屋上生活の危うさや、それを映画にしてしまってこの先彼がどうなるのか。いろいろ心配になるのだが、礼儀正しく、心優しい、またユーモアがあり、夢をあきらめない元気なマークさんを確認できた。この来日のために立ち上げたクラウドファンディングの特典には「マーク・レイが1日NYをガイド」まであるので、ぜひチェックしてみて。

マーク・レイ(以下、マーク):まずはみなさんに感謝を申し上げます。LiLiCoさん、配給会社ミモザフィルムズさん、この劇場ヒューマントラストシネマさん、そして会場にお越し下さったみなさん、ありがとうございます。空港に着いたときに20人ほどの女性が待ち構えていて写真やサインを求めて下さったのですが、実際はライアン・ゴズリングさんの到着を待っていたんですね(偶然ライアン・ゴズリング来日と重なっていた)。まあ、いいでしょう(笑)。

LiLiCo:自分も5年間車の中で生活していたので、この映画に共感するところがいっぱいありました。あまり話すといろいろ思い出して泣き出しそうです。マークさんの優しい心も映画にたくさん出てきます。ところで屋上生活をするにあたっての工夫は何かしましたか?

f:id:realtokyocinema:20170127152952j:plain

マーク:屋上生活で気をつけたのは、ひとつはアパートオーナーや住人にバレないようにしたことです。そのためにいろいろな工夫が必要でした。ふたつめは、自分自身の心の中の葛藤を乗り越えること、自分がビルの屋上で暮らしているという現実を受け入れることでした。

「ホームレス」というラベルで自分自身を表現するより”アーバンキャンパー”という言葉を使いたいのです。世の中には路上や屋根のない場所で寝泊まりしている人もいると思いますが、それぞれに複雑な事情があるものです。カテゴライズするとしたら私には”アーバンキャンパー”という名称が合うと思います。

LiLiCoさんも私もある意味「サバイバー」だと思います。苦難を生き延びることができたという点で。「お金がなくても、いい人生を楽しみたい」というのは自分のモットーでもあり、そのモットー通りに生きようとしてきました。

LiLiCo私が車で生活していた頃はもうこれ以下はないなという「どん底」でしたが、楽しく生きたいともちろん思っていました。「家がなくても夢がある」と、夢を持ち続けたことはマークさんと同じだなと思いました。「ニューヨークと寝た男」というサブタイトルがついてますが、それを私に置き換えると「日本と寝た女」になりますか......。私の場合、車をレッカー移動されると家を持っていかれることになるので、車を取り戻す1万5千円が払えなかったときはピンチだと思いました。そのほかはマークさんとまったく一緒で、公衆トイレで洗濯をしたりしました。20年前くらいの話ですが、今のようにハイテクトイレとは違うし、夏はいいですが、真冬では凍りつくような水で、叫びながら手や髪を洗ったりしてました。雪が散らつくシーンも映画にありますが、あの寒いところで何を考えて生き残れるんだろうと、少し嫌なことがあるだけでメゲる人も多いのに、マークさんはどうやってそれを乗り越えていたんでしょうか。

マーク:ひとつ言えるのは、ニューヨークのビルの屋上からの景色は、たぶんLiLiCoさんが見ていた景色よりきれいだと思いますよ(笑)。

f:id:realtokyocinema:20170127152849j:plain

© 2014 Schatzi Productions/Filmhaus Films. All rights reserved

LiLiCo:そのシーンはとてもうらやましいと思いました。

マーク:私の場合は「路上」ではなくて「屋上」で寝泊まりができたので、少なくとも夜、まわりから危険を感じることはなくて、自分の力を頼って生きることができました。

 LiLiCo:そこですよね。「工夫は?」と聞かれても、結局自分の脳をフル活用するしかない、「今日生きるためにどうしよう?」と。真夏の洗濯物はボンネットに伸ばして乾かすとか、そういうちょっとした工夫もありましたが、いろいろ考えるより目の前にあるもので生きるしかないので、私は「いつか成功するんだ」と自分をマインドコントロールすることがいちばんの「工夫」だっだのではないかと思います。

f:id:realtokyocinema:20170127153310j:plain

© 2014 Schatzi Productions/Filmhaus Films. All rights reserved

マーク:もうひとつ「工夫」を付け加えると、携帯電話をひとときも手放さないということです。

 LiLiCo:携帯電話からすべてのチャンスがきますからね。マークさんはモデルの名前をちゃんと覚えていたり、人との繋がりを大事にしているなと思うんです。私も、お金がなくても人との繋がりがいちばん大切な財産だと思っているので、そこも似てるなと思いました。

マーク:実はその逆の意味で、携帯電話は人と繋がらないほうがいい時に役立つんですよね。その辺は映画を見ていただけるとわかると思います。そうは言いましたが本当はいろんな人と繋がりたいと思っていて、フォトグラファーという職業柄、人に対して興味を持ったら遠慮なくその人に近づいていけますね。時にはズカズカとその人のスペースに入っていくこともあるかもしれませんが。

LiLiCo:今後日本でやりたいことはありますか?

マーク:この映画が完成したことはひとつの大きな達成感になりました。パーソナルなストーリーを多くの人とシェアすることができて、なんらかの形で世界に貢献できたのではと思います。映画を観た方々から、刺激になった、勇気をもらった、感動したというコメントをいただいて、アーティストとして少し貢献ができたかなと思うし、この映画は自分の宝だと思っています。

今後もしチャンスがあったら新しい形で作品として自分のストーリーを伝えたいと思います。もしかしたら新しい監督、新しい役者を使ったフィクションになるかもしれません。その際には日本の企業とコラボレーションもできたらいいなと。サントリーウィスキーのCMに出てみたりしたいですね。

監督のトーマス・ヴィルテンゾーンと私にとって、長編映画を作るのはまったく初めての体験でした。彼はそれまでに1分間の超短編映画を作ったきりで、その次の映画がこの83分の長編映画になり、1台のカメラ(キャノンEOS 5D MarkII)ですべてを撮影し、美しい映像はたくさんの方を魅了していると聞いています。ほとんどゼロ予算で作り、監督とは毎日1杯のコーヒーを分け合うような状況でした。まったくの初心者であるこんなふたりが映画を完成することができて、それを世界中の人が見てくれている、ここを感じてほしいなと思うのです。もしかしたらこの映画を観てマークをイケ好かない、かっこつけてるなどと思うかもしれません。私自身を嫌いになっても、作品自体は初心者が作った映画で、夢を届けることができたらいいなと思っていると伝えたいです。

LiLiCo:サンタさんの衣装を着ているシーンがありますが、それは仕事ではなくボランティアでやっているんですね。私はそのシーンで号泣しました。

マーク:それを言ってくださってありがとう。映画ではほんのワンシーンですが、自分にとっては大切なところです。ボランティアとして女性や子供のためのシェルターで手伝っていたのですが、自分自身は家がないのにそういうボランティアをしていることはちょっとアイロニックにも感じますけどね。もしみなさんが過去やいま辛い経験をしているとしたら、映画監督の友人に自分のストーリーを映画にしてもらう可能性があるということを忘れないで下さい。どんな人にもすばらしいライフストーリーがあると思うし、伝えるメディアがあるかないかの違いだと思います。

取材・文:福嶋真砂代

f:id:realtokyocinema:20170125201001j:plain

© 2014 Schatzi Productions/Filmhaus Films. All rights reserved

監督:トーマス・ヴィルテンゾーン
出演:マーク・レイ
音楽:カイル・イーストウッド/マット・マクガイア
2014年/オーストリア、アメリカ/英語/ドキュメンタリー/83分
原題:HOMME LESS 字幕:大西公子
配給・宣伝:ミモザフィルムズ 宣伝協力:プレイタイム/サニー映画宣伝事務所
後援:オーストリア大使館/オーストリア文化フォーラム 協力:BLUE NOTE TOKYO
© 2014 Schatzi Productions/Filmhaus Films. All rights reserved

2017年1月28日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー!

motion-gallery.net

 

Review 09『MILES AHEAD / マイルス・デイヴィス 空白の5年間』

f:id:realtokyocinema:20161221211818j:plain

監督:ドン・チードル
出演:ドン・チードルユアン・マクレガー、エマヤツィ・コーリナルディ
MILES AHEAD/2015/アメリカ/101分/配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公開日:2016年12月23日(金)

チードルが捧げるジャズとマイルスへの強い敬愛

2016年は、“ジャズの帝王” マイルス・デイヴィスの生誕90年、没後25年というメモリアル・イヤーであった。そんなマイルス・イヤーに、それを記念してマイルス本が何冊か出て、このマイルス映画が公開された。これが監督デビューとなるドン・チードルが、製作、共同脚本、そして主役のマイルス役という大任を果たしたことからも、チードルのジャズとマイルスへの強い敬愛が伝わる。

タイトルの「空白の5年間」とは1975年から1981年の、マイルスが体調悪化のためにライヴとレコーディングを休止したことを指す。アルバムでいうと、大阪でのライヴ盤『アガルタ』『パンゲア』の後から、復帰作『マン・ウィズ・ザ・ホーン』までで、深刻な健康問題で、本人も予期しない長い音楽シーンでの不在となった。物語は、その時代を中心に過去の時代の音楽活動や恋愛なども虚実入り乱れ縦横無尽に描かれる。その5年間は、自宅で次の作品の構想を練り、リハーサルを行い、ボクシング練習をしていたが、ドラッグ、アルコール、セックスにも入れ込んでいた。相棒的な存在となる「ローリング・ストーン」の記者、デイヴ(ユアン・マクレガー)が、取材対象のマイルスにドラッグを調達して親しくなるのだから。そして、怪しい音楽プロデューサーに盗まれた貴重な録音テープをデイヴを連れて奪還するために、拳銃片手にカーチェイスしたり、その泥棒にパンチを浴びせたりの痛快なアクションにもなっている。ジャズの世界を普通の映画ファンに理解させるという大変さを分かっているチードルの腕の見せ所だから、こんなエンターテインメントも悪くない。マイルスが、ギル・エヴァンス(偉大なる編曲家で、重要な音楽パートナー)と一緒のスタジオの中で、プロデューサーのテオ・マセロに「テープを回せ!」と言う場面には、ジャズ好きならグッと来る。

サントラ盤は、現在のジャズの最重要アーティストのロバート・グラスパー(ピアノ)が手がけている。マイルスの名曲群とマイルスの科白が入っているが、グラスパーの演奏によるオリジナル曲もイカす。マイルスの科白に「ジャズという言葉は好きじゃない」「オレのやってるのはソーシャル・ミュージックだ」というのがあるが、このソーシャル・ミュージックとは何か? 映画の最後に、いよいよ復活するマイルスがクラブで演奏する場面がある。メンバーが凄く、音楽監督的なグラスパーを始め、マイルスのメンバーだったウェイン・ショーター(サックス)とハービー・ハンコック(ピアノ)、アントニオ・サンチェス(ドラム)、エスペランサ・スポールディング(ベース)という面々。クールだ。そのマイルスのシャツの背中には「#ソーシャル・ミュージック」という文字がある。それは、音楽を通じて社会にメッセージを送り、コミュニケーションを図ったマイルスの思想だろう。その考えを、広くブラック・ミュージックを発信している現在のミュージシャンも共有する。マイルス、カッコいい!

フジカワPAPA-Q ★★★★1/2

www.miles-ahead.jp

Review 13『パリ、恋人たちの影』

f:id:realtokyocinema:20170115200223j:plain

(C)2014 SBS PRODUCTIONS - SBS FILMS - CLOSE UP FILMS - ARTE FRANCE CINEMA

監督・脚本:フィリップ・ガレル
共同脚本:ジャン=クロード・カリエール
撮影:レナート・ベルタ
出演:クロティルド・クロー、スタニスラス・メラール、レナ・ポーガム
2015年/フランス/73分/配給:ビターズ・エンド
フィリップ・ガレル監督の軌跡をたどる、35㎜フィルムを含む特集上映同時開催

濃く深く、恋愛の陰影を映すモノクローム映像

フィリップ・ガレル監督最新作。即興を好むガレルが、今回は脚本にもとづいて撮ったというのだから、以前の作品よりもよりページ数の多い脚本が存在したのだろうか。とはいえ、これまでのガレル作品に漂う自由かつ緊迫した空気は1ミリも削がれていないどころか、ますますの自由を感じることも事実。脚本は、ガレル曰く「映画が到達しうる最高の男女平等についての映画」ということで、女性2人+男性2人(ガレルを含む)の4人の脚本チーム編成で書かれている。そのひとり、ジャン=クロード・カリエール1945年生まれ(ジャン・リュック・ゴダール監督『勝手に逃げろ/人生』でガレルと出会った)、ガレル監督は1948年生まれ。他の女性脚本家アルレット・ラングマンは1946年生まれ、『灼熱の肌』『ジェラシー』の脚本も書いたカロリーヌ・ドゥリュアスの年齢は不明*1。ピアノ演奏が美しい音楽のジャン=ルイ・オベールは少し若く1954年生まれ。ちなみに撮影のレナート・ベルタ1945年生まれ。錚々たるメンバーで作られた作品である。今回はスクリーンに顔を出さない息子のルイ・ガレルはナレーションで淡々とクールな語りで出演している。脚本があるとはいえ、「根本的には現場で何が起きるか、カメラでしか描けないことが重要」とガレルが語っているように現場で瞬間瞬間の変化を捉え、人の変化の生々しさがレナート・ベルタ撮影の「コントラストの濃い、無煙炭のような」(ガレル談)モノクロ映像に焼き付けられている。

(以下、ネタバレがあるのでご注意下さい)

パリ。ドキュメンタリー作家の夫ピエール(スタニラス・メラール)を妻マノン(クロチルド・クロー)が給食係のパートをしながらサポートしている。夫はいつまでも稼ぎが少なく、暮らしはキツイが夢はある、といったところか。実際、アパートの大家から家賃滞納、部屋が汚いとクレームを浴びる。マノンは「東洋語学校」にも通っていたが現在はやめている。はて、何語を習っていたのだろう? 日本語か中国語か、はたまた韓国語か、いやタイ語か……。どうでもいいようなことが気になってしまった。ところでピエールは映画研修生(保存係)の”若い”エリザべットと出会い、いとも簡単に恋におちる。「カンタンに」見えた。ピエールから誘っているように見えたが、エリザベットもまんざらではない、いやむしろ積極的。あれは「魔が差した」以上の「愛を求めていた」的な積極性がある。ということはつまり、ピエールは妻とはもう距離ができていたと見るべきなのだろう。若く、ボリュームのある魅力的な体格のエリザベッド。さっそくピエールはエリザベットの狭いアパルトマンの部屋に上がり込み、「言っとくが、妻がいる」「だと思ってた」などと会話がなされる。双方合意のもとの共犯。つまり、恨みっこなしということか。こういうのを男女平等というのだろうか。いや違う。これは女性の「同意」をとりつける男性の「保険」のようなものでだろう。実際あとになって面倒臭くなると、「最初に言ったよ。結婚してれば用もある」とピエールがつきまとうエリザベットに言い渡す。つまり、「結婚してると言ったのだから、いまさらわがまま言うな」という完璧な男性の「わがまま」だ。今回男女4人で書いたという脚本にもとづき、このような恋愛における機微が実に繊細に描かれ、どんどん感情移入していく。女性の罪(浮気)も描かれるが、だからと言って男の身勝手さを見逃さない。ルイのナレーション「自分は浮気を続けながら、女たちに意地悪く接した」とピエールの状況の語りが憎らしい(笑)。妻も愛人も手放せない。それは妻も母も手放したくないのと同じなのだと。えええ? 「浮気は男だけのもの、女の浮気は深刻で有害だ」とのたまうピエール。あげく、妻の浮気に苦しみ、別れを切り出す。「男の浮気は肯定し、女の浮気は許せない」完全なる自己中の極みだ。しかし「これが男というものさと、男のモラルで正当化した」と言ってしまう。言い訳にもならない。もはや子供だ。しかしガレルが描くのは、浮気をする男女のどちらが良い、悪いではなく、どちらにも理由があり、理由がない。そんなことではないだろうか。理性ではどうしようもなく、かと言って本能に従うばかりでは夫婦は壊れてしまうし、社会はなりたたない。何年か経って再会したふたりがたどり着いたひとつの結論と将来。ただ恋に落ちるほど簡単にはたどり着かない。そうなるには何年もかかるということでもあるのか。いやはや、結婚とは、男女とは……。「恋人たちの影」はどこまでも深い恋愛(人生)の陰影を映す。実に愛しくなる作品が公開に。レトロスペクティブも同時開催。

福嶋真砂代★★★★

2017年1月21日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開